おいしい店とのつきあい方。

086 お店の情報とのつきあい方。 その12
領事館、ホテル、客船。

さて、日本を代表するイタリア料理のカリスマシェフ。
今のお店を開業する前、働いていたのは
こじんまりした高級イタリアンレストラン。
けれどそのお店に勤める前にいたところ。
とても意外な場所でした。

厳密にいうとレストランじゃない。
フランス料理の学校を出た後、
フランス料理店で修行をし
イタリア料理と出会ったきっかけが
なんとイタリアの日本領事館の領事づきの
シェフとしてイタリアに赴いたコト。

ただ、イタリアにいたとはいえ、
作る料理のほとんどは領事のための日本料理。
あるいはオムライスやカレーのような日常洋食。
場合とあらば刺身をひいたり、
寿司や天ぷらを作るようなコトもあったという厨房。

お客様が領事館にやってくるときの、
メインの料理はフランス料理。
だからフランス料理の知識や経験が思う存分役立つ職場。
とは言え、厨房に出入りする人たちはイタリアの人。
厨房で下働きする人たちもイタリア人が当然まじる。
領事館の表に出れば、そこにはおいしいイタリア料理の
レストランがたくさんあって、
学ぶ場所や機会には事欠かない。

ときおりイタリアの領事館にやってくる
日本からのお客様や、
どうしてもイタリア料理以外は食べたくはないという
イタリアの頑固な紳士を喜ばせるために、
領事館でイタリアを料理を作る機会も数知れず。
それで自然とイタリア料理を
習熟するようになったというのです。

日本に帰ってきて、当時、
有名で名を馳せたイタリアンレストランでしばらく修行。
そして独立するにあたって、
シェフが心のよりどころにしたのが
領事館時代での経験でした。

自分の作りたい料理を作っていては仕事にならず、
何料理であれ食べ手が食べたいというモノを作って
喜ばせることがシェフの仕事。
そのためにフランス料理の知識が
とても役に立つというコトが、
オーナーシェフになってからも自分の店を特徴づける
スペシャリテや、時代に合わせたコンセプトを考えるのに
とても役に立ったという。

食べ手の要望に合わせて、
なんでも作らなくちゃいけない環境。
実は領事館や大使館以外にもあるのですネ。

それが客船。

何十日間も船の中という閉ざされた環境の中に
閉じ込められて、
旅する人たちの最大の関心事といえば食事。

洋食も作れば和食も作る。
中国料理も作らなくちゃいけないし、と、
多彩な知識や経験が要求されるのが
豪華客船のシェフなのです。

とは言えココでも料理の基本はフランス料理。
船長が主催する晩餐会の料理は
フランス料理のフルコースと決まっていて、
つまりフランス料理は「社交の場における公式料理」。

オリンピックの開会式や表彰式のような
公式行事のアナウンスが
必ずフランス語であるというのと同じくらいに
変わらぬ世界の常識だったりするのです。

西洋料理が今のように一般的ではなかった時代。
日本の洋食店は「ホテル系」と「船舶系」のお店に
分けるコトができると言われていたことがありました。

ホテルを辞めた人が開業する店。
船で調理人をやっていた人が陸にあがってはじめる店。
考えてみれば確かに、ホテルと船はとても似ている。
どちらも不特定多数の人たちが集まる場所。
その人たちが食べたいモノは雑多で多様。
和食や中国料理のようなモノも
提供しなくちゃいけない環境で、
けれど料理の基本はフランス料理。

とても似ていて、けれどどちらの方が成功しやすく、
生き残りやすいかというと、短期的な成功はホテル出身。
けれど、長続きするのは船を降りた人たちだ‥‥、
とも言われる不思議。

陸に上がった船乗りはかっぱのごとく枯れてしまうけど、
船を降りたシェフは成功しやすいなんて、一体どうして?

また来週といたします。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2016-11-17-THU