おいしい店とのつきあい方。

085 お店の情報とのつきあい方。 その11
西洋料理人の経歴書。

コンサルタントの経験を積み、
ボクが本格的に開業したいという人たちの
手伝いをするようになったのが
1980年の後半くらいから。
イタリア料理がブームの時代。
イタリア料理店を開業したいという人が沢山いました。

その当時。
西洋料理と言えば、
フランス料理を食べるというコトを意味していました。
ホテルのレストランはほぼ確実にフランス料理。
有名なオーナーシェフも
フランス料理のお店を経営している人たちという時代。
独立するにあたって、なるべくならば競合を避けたい。
そう思うのは当然のコト。
フランス料理の次に市場が大きいと思われていた、
イタリア料理を選ぶシェフが多かった。

本格的なイタリア料理店はまだまだ少なく、
フランス料理を食べ慣れた、
グルメと呼ばれる人たちにとっても
新鮮な料理でもあったのですね。

業界のスタンダードのない料理。
だから一所懸命がんばれば、
日本のイタリア料理の標準として
認められるようになるかもしれないという夢も持てた。

しかもフランス料理に比べて、
使う食材は比較的安価ですむ。
安く売れるというコトは、
マーケットの裾野が大きくなることでもある。
なによりスパゲティーという麺類がある。
世界的にも麺が大好きな日本人には、
とてもうれしい特徴で、
フランス料理のようなわかりにくい西洋料理に
抵抗のある人たちにもウェルカムされた。

飲食店の世界のブームとは、
メディアやコンセプトメーカーのような人たちが
作ろうとしてできるわけじゃない。
お店の都合とお客様の都合がマッチすること。
それがブームのエネルギー。
イタリア料理ブームはおそらく、
その両方のエネルギーが最大規模でぶつかりあった
いまだかつてないものだった。

今、日本のイタリア料理の世界で重鎮と呼ばれる人たちも、
ほとんどこの時期に独立してお店を開業した人たち。
それぞれのイタリア料理のスタイルを確立することに
成功した人たちなのですネ。
そしてオモシロイことに、
彼らのほとんどがフランス料理出身のシェフだったという
共通点をもっている。
そもそも当時、有名なイタリア料理店は
ほんのひとにぎりしかなかったから、
そこで修行できる人たちの数に限りは当然あった。
調理師学校も西洋料理といえばフランス料理。
イタリア料理のクラスは
フランス料理のコースを終えたそのついで。
希望者だけが学ぶたぐいのモノでもあって、
だからプロになるということは
まずフランス料理を学ぶというコトだった。

なぜならフランス料理を形づくっている体系は、
西洋料理を学ぶうえで基本の基本とされています。
それにくらべてイタリア料理は
歴史的にみればルネサンス期に
「フランス料理に大きな影響を与えた」
ものであるにもかかわらず、
その後のフランス料理の隆盛のなかで、
イタリア料理はまるでフランス料理から派生した
一地方の方言のごとく扱われてきました。

けれども、学ぶ上ではメリットもありました。
調理人同士、フランス料理の基本を学んでさえいれば、
それがイタリア料理であろうがスペイン料理であろうが、
互いのコミュニケーションができるのですね。
コミュニケーションができるということは、
学べるということでもあり、
教えられるということでもある。
新しい料理をつくるための設計図を書くのも
フランス料理の言葉を使えば、
どんな人がみてもわかるように表現できる。
何しろ、フランス料理のレシピの数の多さたるや、
おどろくべきもので、
それは新しい料理を作り出すインスピレーションを
かきたてるヒントにもなる。

今ではイタリア料理のお店が沢山ある。
だから料理の世界に入って、
いきなりイタリア料理のお店に入って、
一所懸命修行して、そろそろ独立開業をという人が
相談に来ることがあるのですね。
そんな人には
「フランス料理の経験はありますか?」
と聞くことにしています。
大抵、こうお答えになる。
「いえ、自分がやりたいのはイタリア料理だから、
フランス料理の経験はなくてもいいと思うんですが」と。

最初はいいんです。
修行した店のやり方を守っていれば、
なんとか形にはなるし目新しさもあって繁盛する。
けれど徐々に個性を出したり、
あるいは新しい商品を
作ったりしなくちゃいけなくなってくる。
そんなときに必要になる知識のほとんどが、
フランス料理の調理体系。
繁盛店に行って売れてる料理を見たり、
あるいはイタリアに行って料理を食べたり努力をしても、
その努力の結果が「パクリ」になるか
「クリエーション」になるかを決める要素が、
基本的料理の知識。

繁盛が長続きするお店を見極める一つが
「シェフのバックグラウンド」。
ちなみにイタリア料理の巨匠のひとり、
テレビ番組にも頻繁にでる有名シェフが
イタリア料理の世界に入る前に働いていた場所が
意外で、けれど、なるほどなぁ‥‥、と思う場所。
来週、お話いたします。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2016-11-10-THU