[番外編]本を書きました。その2
飲食店の全国チェーン化はどう考えても無理?

外食産業のコンサルタントである
「榊真一郎」ではなく、
飲食店の楽しみ方を考える人としての
「サカキシンイチロウ」。
ココではカタカナの
「サカキシンイチロウ」として
ずっとお付き合いいただきました。

職業柄。
いや、それ以上に食べることが好きで
しょうがない性分から、
いろんなお店で、いろんな経験をしてきたそれを
みなさんに披露する。
それでレストランで食事をするって
こんなにたのしいことなんですよ‥‥、
ってことを一人でも多くの人に伝えたかった。

飲食店の人たちを多く、教育してきた経験から、
こういう風にすれば飲食店で得するよ‥‥、
なんて話もココでは多くした。
得したいって思うお客様が増えればそれに合わせて、
お店の人のサービスも良くなるだろうと思って
いろんな話をしてきたのです。

でも外食産業は一向にかわらない。
かわらないばかりか、
チェーンストアはどんどんお店を増やしていく。
お店を増やしやすいシステムを
考えることができた人や、
お店を増やすための資金を調達する人が
シアワセになることができ、
人と人とのつながりを大切にする人が
苦労するのが外食産業。
そういう風に、転がり落ちていきそうで、
漢字の「榊真一郎」をやめたくなったりしたこともある。



けれど5年ほど前からでしょうか。
全国にチェーンを作った
会社の業績が悪くなってきはじめる。
外食産業全体に対して厳しい経済環境。
でもすべての飲食店の営業内容が悪いかというと
決してそんなことはなく、
けれど大手チェーンだけはなかなかお客様を集めることが
出来なくなりはじめてきたのです。

そうなることはわかっていました。
飲食店というのは人が働き、
人と人とがふれあうことで
初めて売上を作ることができる産業。
人が働くということは、
どんなにシステムを作っても
そこに誤差が生まれるということ。
誤差のない調理を目指せば、
冷凍食品や調理済みの食品を電子レンジで温め、
提供することが一番簡単。
でもそれはコンビニエンスストアが得意とすることで、
飲食店のすることじゃない。
誤差をなるべく出さぬようにするには、
組織のトップが丁寧に営業現場を訪ねてチェック。
チェックするだけじゃなく、
現場の人に語りかけたり、
働きかけたりしなくちゃいけない。
だから大きなチェーンになるのがむつかしい。

この弱点をなんとか克服しようと生まれたのが
フランチャイズというシステム。
商売のやり方や料理の作り方を教えて上げる。
代わりに現場に行って、働いている人の面倒を見て‥‥、
というのがフランチャイズというシステムで、
全国チェーンのほとんどがそのやり方で、
誤差をひたすら小さくするよう努力した。

ただそれも、ハンバーガーとかドーナツだとか、
日本にもともとなかった料理であれば機能する工夫。
けれど料理というのは
そもそも地域の文化に根ざしたものなのですネ。
小さい国土とはいわれるけれど、
ずっと長らく日本は異なる独自の文化を持った
地域の集合体だった。
だから料理の味付けや、
好みが地域でまるで違って当然なのです。
だとしても、チェーン店である以上、
味は全国共通でなくてはやっぱり具合が悪い。

飲食店の全国チェーン化は
どう考えてもどこかに無理のある話。
飲食店は地域のビジネス。
全国チェーンを目指すのでなく、
「地域一番企業」を目指すコトがいいんですよ‥‥、
と、経営方針を変更するよう勧めるコトで、
外食産業がちょっとでも健全な方向に向かっていくよう、
お手伝いをしたこともある。

けれど、この「地域」という言葉が厄介なのです。
街が地域という単位なのか。
一つの県が地域なのか。
人によっては関東地方。九州全部が地域という。
中には日本全国がひとつの地域という人までいて、
結局、これだという飲食店を成功させる
新たなプログラムを考えだすには至らなかった。

ボクの頭のなかにはこういう図式がありました。
日本全国、場所を選ばずできる商売=チェーン。
経営者の個性と努力で、
お客様から愛される商売=個店。
ボクは後者が大好きで、
けれど後者は数店単位でしかお店を出せない、
まさに生業。
企業になるのがむつかしいんだ‥‥、と、
ずっとそういうふうに思っていたのです。

そんなところに博多うどんの本を書いてみませんか‥‥、
と、話があって、それで博多に何度も行った。
ボクはすぐに書けると思った。
博多うどんを経営する人の個性と努力。
そしてそれを愛する地域のお客様。
個性的だからこそ、他の地域にでていけない、
生業的なお店ばかりの話を書こう‥‥、
と思ってそれで現地に行った。



ところがそこで出会ったのです。
日本全国を狙うようなチェーン店じゃない。
かと言って、誰か一人の個性で
出来上がっている生業店でもない会社。
なのに個性的で、
しかも地域の人たちに熱烈に愛されている
「牧のうどん」という
不思議なお店の本質を知ることになってビックリしました。

そこにはひとつの仕組みがあった。
けれど全国を狙える仕組みではまるでなく、
個性的であり続けるための自然な仕組み。
しかも自然にお店が増える、
無理せず、持続的な成功を可能なものにできるシステム。
生まれてはじめて「榊真一郎」としてでなく、
「サカキシンイチロウ」として経営の話をしてみたい。
これからのビジネスモデルの本を書いてみたい‥‥、
それが博多うどんを説明することになるんだと思って、
そして今度の本となったのです。
(つづきます)



サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
 半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
Amazon

「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2015-12-31-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN