[番外編]本を書きました。その1
なぜ東京には、これがないんだろう?

本を書きました。
『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか』
という名前の本。

書こうと思ったきっかけはとても単純なものでした。
なぜ、博多うどんを東京で
食べることができないんだろう‥‥、という
単純な疑問を解決してやろうと思ったからです。

東京という街には世界中のおいしいモノが集まっている。
イタリア料理だって、中国料理だって、
現地で食べると確かにおいしい。
でも、「今、本場にいるんだ」という
特別な付加価値を取っ払ってしまってまでも、
なお、おいしく感じるか‥‥、っていうと、
決してそんなことはないと思うのです。
日本人の舌に合わせた、
日本人にとっておいしいイタリア料理や中国料理。
それはやっぱり日本にある。
だから、忙しくて最近、海外旅行に行けなくっても、
すくなくともお腹は寂しがってない。

世界の料理がそうなんだから、
例えば日本の地方の料理も、次々、東京に集まってくる。
日本のいろんな街や地域の料理を紹介する番組があって、
そこで話題になった料理は
東京を目指していつかはやってくる。
地方でちょっと有名になると、
東京を目指して一層努力する。
だから東京にいるということは、
おいしいものに困らぬ生活ができるということ‥‥、
のはずなのです。

なのに悔しいかな。
おいしい博多うどんを食べさせてくれるお店がない。



博多うどんとは不思議なうどんで、
その特徴を一言で言うなら「やわらかい」のです。
タモリさんがときにテレビで言い放ちます。
「うどんにコシはいらないんだ」と。
それはまさに博多のうどんの特徴で、
でもそんなうどんはおいしくないでしょう‥‥、
と博多のうどんを知らない人から聞かれます。
どう説明してもその美味しさが伝わらない。
伝わらないから、誰も東京に呼ばないんだろう。
だから関門海峡を越えることができなかったに
違いない‥‥、と、そんな仮説をもって
博多に飛んでうどんを食べました。

朝一番の飛行機に乗り、うどん屋さんを6軒はしご。
そんな旅を何度かやっているうちに、
仮説は新たな仮説を生んで、
博多うどんを取り巻く疑問のベールが
一枚、そしてまた一枚と剥がれていった。

そして博多うどんが関門海峡を越えぬ
「本当の理由」にボクはぶち当たった。

「ビジネスモデル」という壁でした。

「博多うどん」の本を書こうとと思って、
結局ボクは「博多うどんのビジネスモデル」の本を
書いていた。
それで副題を
「半径1時間半のビジネスモデル」としたのです。

外食産業のコンサルタントを30年もやっていて、
その30年間、ずっと感じていた違和感が、
そのビジネスモデルを発見した瞬間、
あっさり解消したような気持ちになった。



コンサルタントとしてのボク。
飲食店を経営する人たちを
シアワセにすることを仕事の目的にしていました。
飲食店が今のようには多くなく、
産業としての外食産業はまだまだ未熟。
大きなチャンスがありました。
どういうチャンスかといえば、
店をいくらでも増やせるチャンス。
ただ条件がありました。

その地域の人が食べ慣れていない料理を
提供してあげること。
だからハンバーガーのようなファストフード。
ハンバーグをメインとした
洋食のファミリーレストランが適していました。
車に乗って家族同士で、
気軽に行ける場所を探していた人たちで、
それはそれは人気が出ました。
次々、できる。
次々作るためには、どこでも同じ。
誰でも同じように料理を作り、
お客様をもてなさなくちゃいけなくなる。
仕組みどおりにお店を作り、マニュアルを整備して
そのマニュアル通りに働く人を次々育てて、
お店のスタッフとして配置した。
どんなにコンセプトがよくても、働く人がいなければ
飲食店を増やすことはできないのですね。

アマチュアをアマチュアのまま使って
それでもお客様が不満を言わない。
そのため驚くほどに高度な仕組みとシステムと、
そして食品メーカーの力をかりて創りだしたのが
外食産業という仕組み。
それをボクは飲食店の経営者たちに売っていた。

一方、いつ行っても同じお店に行くお客様は、
想像力を発揮するコトなく、
お店が提案することを、ただただ受け入れればそれでいい。
お店の人との人間関係で、得することがあるかというと
決してそんなこともなく、お店とつながる唯一の手段が
ポイントカードやメルマガ程度。
そんな環境では、お客様もずっとアマチュアのままでいる。

アマチュアがアマチュアをもてなす。
それがボクが作り出してしまった外食産業という環境で、
それはあまりにつまらないと思ったのです。
かと言って、ボクにはそうではない外食産業の環境を
手に入れるための考え方やイメージを
なかなか思い描くことができなかった。
なにより、外食産業の人たちは、
今のままがいいんだと頑なに思う人が多くって、
それならまず、お客様の側から外食産業を
変えることができないかしら‥‥。
そう思って、ここで原稿を書かせてもらうことにした。
それが「おいしい店とのつきあいかた。」だったのです。
(つづきます)



サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
 半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
Amazon

「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2015-12-24-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN