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友だちに会いに
日差しがだんだん春めいてきて、
ああ、このまま春になるのかな?
なんて錯覚してしまう今日この頃。
さて今年はどこに行こう?
旅の計画を練るのも今の時期です。
京都はあの人、
パリに行くならあの人に会っておかないと。
そろそろあの人に会いに金沢に行きたいなぁ。
私の場合、
旅とは「そこに住む友人に会いに行くこと」。
各地に、
会いたい人がいるって、
うれしいし、ありがたいことです。
大分の日田という町は、
今までなぜだか縁があって、
何度か訪ねているけれど、
「来ましたよ」というより、
「ただいま」と言いたくなる。
そうしょっちゅう来ているわけではないのに、
この「ただいま感」はなんなのだろう? と思うと、
やっぱり「人」なのでした。
今週のweeksdaysは、
台所で、お風呂で、
日田に行かずとも日田を感じられる、
なんともいいかおりのする、
日田杉を使ったまな板と、お風呂のあれこれ。
愉快な仲間「ヤブクグリ」が登場するコンテンツも
どうぞおたのしみに。
奇跡のようなもの
- 伊藤
- 2つのパールがくっついた
「ふたご」の形が生まれるのは、
どういう仕組みなんですか。
- 山本
- これ、偶然なんです。
生産効率を上げるための方法として、
1つの貝に真珠の核を2つ入れて、
2粒、同時に養殖するやり方があるんですが、
それがたまたま貝の中でくっついてしまったのが、
「ふたご」の形です。
- 伊藤
- つくろうと思ってできるものじゃないんですね。
その核を入れる職人さんが
いらっしゃるということですね。
- 山本
- はい。
核入れの時に、
ふわっと開いた状態の貝の体内にメスを入れ、
淡水二枚貝の貝殻を加工した丸い核と、
真珠の素になる細胞を添えます。
その細胞が核をつつみこみ出来るのが真珠です。
- 伊藤
- なるほど。
まん丸になったり、
バロックになったりするのは、
どういう違いがあるんでしょう。
- 山本
- メスを入れて空間をつくるのですが、
入れた核が移動すると空間が出来るんです。
その空間の形状や、メスの後が塞がらないと
その跡に沿って真珠のカタチが
形成されるんですよ。
- 伊藤
- そういうことなんですね。
でもやっぱり、真珠屋さんとしては、
まん丸に出来上がるのが理想なんでしょうか。
- 山本
- そうですね。
うちの従伯父の場合は、
生産効率を落としてでも丁寧に育てるような
養殖の仕方をしているので、
いびつな形は出にくいんですけれども、
それでもやっぱりバロックはできます。
- 伊藤
- そうですよね、
生きものですものね。
- 山本
- ええ。
昔は真珠全体の生産量も多かったので、
バロックパールはあまり使われていなかったんです。
今はその面白さをデザインとして
気に入ってくださったりしています。
またよほどカタチやテリの悪い、
業界用語で「裾玉」と呼ばれるものは真珠層を削って、
もう一度再生核として使ったりもします。
- 伊藤
- 再利用できるんですね。
- 山本
- はい。
貝自体も、貝柱は食べることができますし、
食べられない部分は肥料化をして畑に撒いたり、
海にまんべんなく撒けば、
海がいい状態になると漁業関係者に聞きました。
- 伊藤
- 天然のものだから、
自然にもかえりやすいんですね。
- 山本
- 土や海にかえしても、環境を汚しません。
ですから、パールも含めて、
貝に無駄な部分はひとつもないんです。 - 伊藤
- 真珠って、すごい。
- 伊藤
- 今回はキャッチもつくっていただきました。
いろんなピアスを持ってらっしゃる方も、
キャッチをこのパールに変えるだけで印象が変わって、
新鮮につけられるかなと思って。
- 山本
- パールのキャッチ、いいですよね。
これはまん丸なので、
前にもってきてもかわいいと思いますよ。
- 伊藤
- あ、ほんとうだ!
ピアスとしてもつけられますね。
- 伊藤
- ピアスのほうは
6種類の大きさでつくっていただいたんですが、
パールの大きさというのは、
何によって違ってくるんでしょう。
- 山本
- 核の大きさの違いです。
7ミリをつくりたかったら6ミリの核、
5ミリのパールをつくりたかったら4ミリの核を入れます。
表面積が狭い小さい方は比較的つくりやすいんですが、
大きくつくるのって、難しいんですよ。
- 伊藤
- なるほど。
どのくらいの時間をかけて育つんですか。
- 山本
- 通常、約10カ月くらいです。
春先、2~3月に核を入れはじめて、
12月~1月が採取シーズンです。
核を入れる作業を丁寧にしないと、
最悪の場合には貝が核を吐き出してしまって、
真珠が出ないこともあるんです。
- 伊藤
- えっ。
吐き出すこともあるんですね。
- 山本
- はい。
10カ月の間は、貝の中は見えないので、
1週間ごとに掃除をしたり、
外から様子を見ながら世話をします。
- 伊藤
- お掃除も!
核を入れて海に帰せば、
あとは待つだけというわけではないんですね。
- 山本
- そうなんです。
基本的に穏やかで栄養豊かな漁場がいいのですが、
波や海水温など海の目まぐるしい変化を正しく読み、
その時々の貝の健康状態を理解して、
最善の作業をしなきゃいけないんです。
- 伊藤
- わぁ、なかなか大変ですね。
以前お伺いしたときにお目にかかった従伯父さまが、
「パールづくりは漁業と一緒」
とおっしゃっていましたね。
- 山本
- まさにそうなんです。
貝自体が生きものですし、
台風や赤潮(海水中のプランクトンの異常増殖)のような
自然環境にも左右されます。
なので、真珠の養殖という仕事は
自然の大変さと楽しさがありますね。
- 伊藤
- こんなふうに伺うと、
ここにあるひと粒が、
もう、奇跡のようなものに思えてきます。
- 山本
- そうなんです。
僕たちも貝がつくってくれた真珠を大切に引き受けて、
丁寧にお客さまにお渡しするようにしたいと
いつも思っています。
- 伊藤
- 生きものなんだなと思うと、
とくべつに輝いて見えますね。
大切にしなくちゃ。
どうもありがとうございました。
- 山本
- ありがとうございます。
また伊勢にも遊びにいらしてくださいね。
採れたままの形
- 伊藤
- 山本さん、今日はよろしくお願いいたします。
- 山本
- こちらこそよろしくお願いします。
- 伊藤
- 今回、weeksdaysでパールのピアスとキャッチを
扱わせていただくことになりました。
ありがとうございます。
- 山本
- こちらこそありがとうございます。
- 伊藤
- あらためて、ヤシマ真珠さんの歴史から伺えますか。
- 山本
- はい。
ブランドがうまれたきっかけは、
76年前に、高祖父、
つまり僕の祖父のそのまた祖父ですね、が
伊勢の英虞湾(あごわん)で
真珠の養殖をはじめたことでした。
祖父の代になってから、
養殖・卸・小売に分業しようとなり、
小売を担当したのが僕の祖母。
「弥志磨真珠養殖場」という場所の名前からとって、
「ヤシマ真珠」という販売会社をつくりました。
まだ代替わりはしていないんですが、
高祖父から数えて、真珠の仕事は
僕で5代目ということになります。
- 伊藤
- お祖母さまが小売を始められたのは、
何年くらい前のことなんでしょう。
- 山本
- 54年前ですね。
養殖の方は、今は従伯父が担当しています。
70歳近いんですけれども、
現役で働いています。
従伯父もそうですが、後継者不足なんですよ。
この伊勢の真珠養殖って、
全体的に若手が不足している状況なんです。
- 伊藤
- このまま後継者が見つからないと、
どうなるんでしょう‥‥?
- 山本
- 続けていくのは厳しくなるでしょうね。
でも、最近僕と同じ年代で、
「おじいちゃんが真珠の養殖をしてました」という
孫世代の方たちがUターンしてきているんです。
色々な職種の人たちなんですが、
もし今後、そういう方たちが
副業として養殖に携わってくれるといいな、
というのが僕の希望です。
IT系だったり、デザイナーだったり、
それぞれ本業を持ちながら、
副業として真珠の養殖に取り組んでいます。
そういう方たち3~4人でグループをつくって、
養殖を専業にした場合なら2~3人でできるだろう
生産量を確保できたら、というのが、
新しい養殖の形として、今、僕が考えていることです。
- 伊藤
- それはすごくいいですね。
山本さんも、以前は販売員だったと伺いました。
- 山本
- はい。
僕が新卒で就職したのはジュエリーの会社で、
最初の仕事が東京の百貨店の接客でした。
ちょうどリーマンショックの直後で、
就職状況も厳しいときだったので、
こちら(伊勢)へ帰って来たときのため、
真珠の仕事に役に立つ仕事を、と考えて。
- 伊藤
- ジュエリーの会社ということは、
真珠の専門店ではなかったんですね。
- 山本
- ええ。でも、それがよかったんです、
いろいろな種類のジュエリーを扱っていたので、
広い知識が身につきましたし、
接客も勉強させていただきました。
でも、やはり真珠がいちばんおもしろかったです。
- 伊藤
- わぁ! それは、どんなところが?
- 山本
- 真珠って、
百貨店でお客さまにおすすめしやすいんです。
まずお客さまがよくご存知ですから、
たとえばネックレスなら、
丸くてきれいな玉が揃っているものが質がいいと
すぐにわかっていただけます。
鑑別書(真珠の種類、色、輝きなどの検査結果を
記載した書類)を添えることで、
クオリティが高いことを数字でもお伝えできますし。
- 伊藤
- それはわかりやすいですね。
とくに百貨店に買いに来られる方は、
品質、安心感を求められる方が
多そうな気がします。
- 山本
- そうですね。
けれど、こちらに帰って来て思ったことは、
もっといいご紹介の方法があるんじゃないか、
ということでした。
真珠を、決まったデザインで、
数値化されたクオリティをもとにおすすめすると、
「数字がいいから、いいものだ」
という先入観が生まれてしまうことがあるんです。
ほんとうは、お客さま自身がきれいだと感じるものを
選んでいただくほうがいいと思うんですよ。
もちろん品質には自信がありますが、
最初にお客さまが感じたことを大切にしたい、って。
- 伊藤
- 伊勢に戻られて、
おすすめの仕方を変えられたんですね。
- 山本
- はい。ファーストインプレッションで
「あっ、きれい」と感じたものを選んでいただくのが
一番いいと思いました。
真珠についての数値的な情報は、
その次にお伝えしています。
鑑別書をご希望されるお客さまには、
ご購入いただいた後に、
鑑別機関に発行依頼をするようにしています。
- 伊藤
- 第一印象って、すごく大切ですよね。
じっさいのお客さまは、
やっぱり丸くてきれいな形のパールを
お求めになる方が多いですか。
- 山本
- 冠婚葬祭用としては、
きれいな丸いものがやはり人気ですね。
でも最近だと、
普段からつけられるアイテムとして、
バロックパール(不定形の真珠)が注目されてきていて、
「丸くない真珠も素敵」
と感じる方が増えてきたきたように思います。
- 伊藤
- それは、時代の変化でしょうか。
- 山本
- そうですね。
5~6年前からメンズパールが流行りはじめたのが
大きなきっかけだったと思います。
そこでバロックパールが注目されたんですよ。
まん丸だと女性らしい印象になるけれど、
ちょっといびつな形で、
ゴツゴツしたバロックパールなら、と、
男性に受け入れられたんです。
それが女性のお客さまにも浸透し、
今、うちでバロックパールを買われる方の7割は
女性のお客さまなんです。
- 伊藤
- うんうん。
わたしが「泛白(uhaku)」のイベントで
これをつくりたいなと思ったきっかけも、
丸いパールはすでにお持ちの方が多いから、
バロックの方が新鮮じゃないかなと思ったんです。
自由な感じがしますし、
新しくて、かわいいなって。
無理にデザインしようというのではなくて、
自然な形をそのままピアスにしたいなと思ったんです。
- 山本
- まさに「この自然な形が気に入ったから」
と買ってくだったり、
「丸型のパールは
母から受け継いで持っているから、
毎日気軽につけられるものがほしい」
とお求めになる方もおられます。
- 伊藤
- イベントのときも、お客さまがみなさん、
「自分だけの形」みたいな感覚で選ばれていて、
それがすごく楽しそうでした。
- 山本
- バロックパールには、
同じ形がありませんからね。
他の宝石は、採掘してきて、
それをカットしてつくるんですけど、
真珠は貝自体がつくったものがほぼ完成形ですから。
海からのおくりもの
去年は何度か三重を訪ねる機会がありました。
この土地の案内人は、
古くからの友人で陶芸家の内田鋼一さん。
彼の目を通しての、
三重がねぇ、
もうほんとうにいいんですよ。
場所や人、
おいしいもの、
それからやっぱり「もの」。
魅力的な出会いがたくさんで、
回を重ねるごとに、
この土地が好きになっていったのでした。
中でもぐっときたのは、
間崎島のアコヤ貝から採れる真珠。
養殖場に行き、
貝から真珠を取り出す作業をさせていただいたのですが、
それはなんともいえない
尊い(けして大げさではなく)経験でした。
ふだん何気なく身につけている真珠は、
海から作られているんだ。
わかっていたはずでしたが、
やっぱりじっさいに見るって、
すごいのです。
今週のweeksdaysは、
パールのピアス。
自然にできた形がなんとも愛おしい。
ふぞろいのパールをどうぞ。
20年のあいだに
- 伊藤
- 今も、「Fatima Morocco」の工房には
同じ職人さんがいらっしゃるんですか。
- 大原
- 変わってないです。
当時15歳だった子が、もう35歳になりました。
▲こちらがその職人さん。名前を「ミロドさん」といいます。
- 伊藤
- ずうっと付き合いがあるんですね。
20年経って、さらに腕が良くなったことでしょうね。
- 大原
- はい、生産のスピードも上がりましたよ。
- 伊藤
- いい関係ができてるんですね。
- 大原
- そうですね、お互いに年を取りましたけど!
- 伊藤
- バブーシュを作る職人さんと
カゴを作る職人さんは、
違う方なんですか。
- 大原
- まったく別の方なんです。
カゴはカゴで、バブーシュはバブーシュ、
それぞれ、家業なんですよ。
若い職人さんは、
お父さんの仕事を手伝って、一人前になるんです。
最初は型紙しか取らせてもらえなかった15歳の彼も、
今やほんとうに立派な職人になりました。
- 伊藤
- 20年ってそういう歳月ですものね。
その20年の間に、ちょっとずつ
アイテムを増やしたりも?
- 大原
- そうですね。バブーシュもデザインを増やしたり、
カゴは、その年の流行を取り入れたりしています。
絨毯や食器は、
ずっと同じようなものを買い付けていますけれど、
バブーシュとカゴは変化がありますね。
- 伊藤
- コロナ禍で、需要は変わりました?
- 大原
- 大きく変わりました。
それまでのトップセールスはカゴだったんですが、
コロナ禍になって、バブーシュが逆転しました。
外に行かないからでしょうね、カゴ需要が減り、
リモートワークでおうち時間が増えたことで、
バブーシュの人気が高くなりました。
いまはまた、カゴを求める方も
増えてきましたけれど。
- 伊藤
- そういえばパリの荒物屋で売られている
マルシェカゴはモロッコ製ですよね。
パリでは日常的に
ふつうのおじさんが持ってたりして、
可愛いなあと思うんです。
- 大原
- はい、全部、モロッコ製ですよ。
可愛いですよね、パリのおじさんたち!
- 伊藤
- みんな、無造作に、床や地面に置いたりして。
- 大原
- 現地でもそんな使い方をしてるんですよ。
ロバに乗っけて荷物を運んだりとか、
八百屋さんが野菜を売るとき、
ニンジンやタマネギを入れたり。
もう生活の必需品なんです。
- 伊藤
- 高温多湿のベトナムだと、湿気でカビちゃうから、
プラスチックテープのカゴが普及したといいますが、
モロッコは乾燥しているから
天然の素材が使えるんですね。
- 大原
- そうです。もう、本当に乾燥しています。
湿度が10%以下なんです。
そうだ、それでお伝えしなくちゃいけないんですが、
バブーシュに使っている羊の革、
モロッコは古いなめし方なので、
においがちょっと残るんです。
それでも、羊なので、山羊よりはずっと軽く、
そもそも乾燥したモロッコではいっさいにおわないんです。
ただ、日本の梅雨時など湿気が多い時に、
ちょっとだけ気になる場合があります。
その時は、必ず陰干しをしてくださいと伝えています。
そうすればにおいはなくなっていきますから。
- 伊藤
- そうなんですね。
バブーシュのお手入れですが、
拭いたりしてもいいんでしょうか。
- 大原
- 汚れたら、から拭きでお願いします。
洗ったり濡れぶきんで拭いたりなど、
水に濡らすことはしないでくださいね。
白は汚れやすいという印象があるかもしれませんが、
じつは、そんなに汚れないんですよ。
- 伊藤
- そうですよね、わたしも経験的に
汚れにくい素材だなと思っています。
このバブーシュ、初めてという方にも
ぜひ使っていただきたいですね。
- 大原
- はい、ぜひ。
バブーシュを1回履くと、
普通のスリッパには戻れないって、
皆さん、おっしゃいます。
- 伊藤
- そうかもしれないです。
大原さん、今日はありがとうございました。
- 大原
- こちらこそありがとうございました。
ちゃんとするんだったら、ちゃんとしなきゃ
- 伊藤
- 大原さんがモロッコに自社工房を持とうと思った、
ということは、
きっとその1年で、つくったバブーシュが
日本の市場で手応えがあったということですよね。
- 大原
- いえ、ぜんぜん売れていませんでしたよ。
- 伊藤
- えっ?!
- 大原
- それでも自社工房を持とうと踏み切ったのは、
「ちゃんとするんだったら、ちゃんとしなきゃダメ」
と思ったからなんです。
「こんなにたくさんオーダーがあるから工房を作ろうよ」
じゃなくて、
「ちゃんとしなかったら、
ちゃんとしたオーダーも来ないよ」と。
- 伊藤
- すごい!
それでも、日本できっと売れるという
確信があったわけですよね。
- 大原
- ありました。
バブーシュが受け入れられるはずだと思ったのは、
ライフスタイルっていうか、
家の中のことを整えるっていうことを、
まだ多くの人がやっていない時代だったから、
これから家の中で使うものに
伸びしろがあるはずだと思ったんです。
今から20年前のことですね。
- 伊藤
- 20年前というのは、世の中の流れとしても、
家の中に目が向いていった頃ですね。
そんなテーマの雑誌が創刊されたり。
- 大原
- はい。そして自分でも何となく
「家の中をちゃんとしたいな」って思ったんです。
好きでファッションという仕事をやって来たけれども、
「外に行くときは着飾ってるのに、
家に帰るとけっこうどうでもいい格好をしているよな、私」
という自覚もあり、
部屋着ひとつにしてもきちんとしよう、
スリッパもちゃんと履きたいなって思ったんですよ。
でもデパートの売り場へ行っても、
可愛いスリッパはない。
- 伊藤
- そうですよね。
- 大原
- でもセレクトショップに置かれている
素敵なカゴや洋服の横に、
こういう可愛いバブーシュがあったら、
そこに集まる感度の高い人が
買ってくれるんじゃないかな、
って考えたんです。
- 伊藤
- そういう卸し先も、ご自身で開拓を?
- 大原
- はい、営業の電話をしました。
ずっとアパレルにいたので、
先輩や同僚に紹介してもらったりもしましたが、
飛び込み営業もたくさんしました。
「持って行くので見てくれませんか」って。
- 伊藤
- 反応はいかがでしたか。
- 大原
- 最初は「ぜんぜんわかりません」と
断わられることのほうが多かったです。
- 伊藤
- でも、めげずに。
- 大原
- そうですね。
多店舗展開をしている
人気セレクトショップのバイヤーの方も、
最初は「良さはわかるけど、売れるのかなあ‥‥」
っていう反応でしたが、それでも
「ひとまず10足ずつ」というような発注をいただいて。
それが20足になって、50足になって、100足になって、
本当に1000足まで行くぐらい、徐々に、徐々に。
- 伊藤
- お客様の反応が良かったんですね。
家族やお客さま用に買い足される方もいそうです。
- 大原
- 1回履いてみると、履き心地がいいから、
そんなふうに思ってくださる方もいらっしゃると思います。
1年ぐらい履いたら買い換えの需要もありますし。
- 伊藤
- 確かに当時、いいスリッパは少なくて、
わたしもすごく探しましたよ。
バブーシュも、まだめずらしくって、
それこそ20年ぐらい前に出した本で紹介したら、
読者のみなさんから「こんなのがあるんですね!」
「初めて知りました」という反応をいただきました。
- 大原
- スリッパは廊下やトイレ、キッチンなど、
床が冷たい場所だけで履くもの、
という印象がありましたよね。
絨緞や畳の部屋ではスリッパを履きませんし、
ルームシューズという文化もなかった。
でも、こんなに可愛いのがあったら、
家に帰ったとき、ちょっと気持ちが上がる。
そういうものって、いいんじゃない? と思って。
- 伊藤
- バブーシュが出迎えてくれるわけですものね。
玄関でいちばん最初に目にするものですから。
- 大原
- そうなんです。
- 伊藤
- その当時、わたしが使っていたバブーシュは、
もうちょっと平べったくて、
底がふかふかしていなかったです。
でも「Fatima Morocco」のバブーシュは、
見た目もスリムでデザインが洗練されていますし、
クッションがきいていますよね。
- 大原
- うちのは、完全にオリジナルなんです。
おそらく伊藤さんが当時お求めになったのは、
モロッコの市場で売られていたものだと思います。
あれは確かに可愛いんですけど、ちょっと革が硬い。
なぜかというと、一般的なものは、
硬い山羊の革を使っていることが多いんですよ。
うちは、肌理こまやかで軟らかい羊の革を使っています。
底の厚みも、2.5倍ぐらいあるんですよ。
- 伊藤
- 2.5倍!
たしかに、一般的なバブーシュって、
歩くとペタペタと足音がしますよね。
底を厚くしたっていうのは、具体的にはどんなふうに?
- 大原
- クッションになるスポンジの量を増やしたんです。
そうすることでペタペタしなくなるだけじゃなく、
足をピタッと包んでくれます。
- 伊藤
- そっか、暖かさのひみつは、そこに。
- 大原
- はい、冬、暖かいんですよね。
けれども夏は涼しいんです。
内側も羊革で、呼吸してくれるから、
蒸れるっていうことが少ないんです。
- 伊藤
- 私、夏に、山の家でずっと履いていましたが、
「ぜんぜん暑くないし、気持ちいいな」って。
素足で履いてもいいですよね。
- 大原
- はい、革のバブーシュを素足で履くのって、
気持ちいいですよね。
一年中、履けますよ。
これ、右も左もないんですけど、
履いているうちに自分の足の形に沿って、
左右が決まっていくんです。
- 伊藤
- そういえば、そう。何となく決まりますね。
モロッコに惹かれて
- 伊藤
- 「weeksdays」のコンテンツ、
そしてテレビ(「世界はほしいモノにあふれてる」)や
書籍で大原さんをご存知のかたも
多いと思うんですけれど、
「はじめまして」の方もいらっしゃると思いますので、
あらためてお話を伺わせていただけたらと思います。
どうぞよろしくお願いします。
- 大原
- こちらこそどうぞよろしくお願いします。
- 伊藤
- 大原さんはモロッコの「雑貨」に魅せられ、
それをお仕事になさっているわけですが、
いまに至る経緯を教えていただけますか。
- 大原
- 20代のとき、
アダム・エ・ロペ(ADAM ET ROPÉ)という
アパレルのお店で働いていたんです。
そこでモロッコの製品に触れて、
「モロッコってどこなのかな?」と、
そんなところから気になったのが始まりです。
当時はまだインターネットも無い時代で、
モロッコの旅行ガイドブックにしても
そんなに厚くない本が出版されているくらい。
ほかに頼りになるのは地球儀か地図くらいでした。
それでも少しずつ知識ができるうちに
どんどん好きになっていったんです。
はじめてモロッコに行ったのは2000年、
36歳の時のことでしたから、
モロッコを好きになって約10年後にやっと行けました。
そこからもう夢中になって、
3年ぐらいは日本とモロッコを往復する日々でした。
そして40歳の時にバックパックを背負って
1か月かけてひとり旅をした時、
「モロッコのことを仕事にしよう」と思ったんです。
- 伊藤
- その時になさっていたお仕事は?
- 大原
- 会社を辞めてスタイリストをしていました。
その頃から「物を買って売ったりする仕事をしたいな」と、
漠然と思ってはいたんですが、
どうしたらいいのか、よくわかっておらず、
それが突然のように「あ、モロッコだ!」と繋がって、
41歳の時に「本格的に買い付けをしよう」と
あらためてモロッコに行ったんです。
- 伊藤
- スタイリストのお仕事は何歳から何歳ぐらいまで
なさっていたんですか。
- 大原
- 32歳から41歳ぐらいまでですね。
アパレルのお店を辞める時、
お客さまに芸能関係の方がいらして、
「辞めるなら手伝ってくれませんか」という感じで
お声がけをしてくださったんです。
それで軽い気持ちでスタイリングの手伝いを始め、
いつの間にか10年近く経ってしまって。
- 伊藤
- そうだったんですね。
「モロッコのことを仕事にしよう」ということは、
何度も訪ねるうちに、現地に頼れるお知り合いが
できていた、ということでしょうか。
- 大原
- いえ、それが、そんな仕事で組めるような知人は、
誰もいなかったんです。
それで、知り合いの知り合い、
というふうに伝手をたどって、
雑貨に詳しい方を紹介してもらい、
工房や産地に連れて行ってもらったんですが、
その人が紹介するものが、どうもピンと来なくて。
やっぱり自分の目で見て「いい!」と思ったものがいい。
なので、原点に戻って、市場などで見つけて
「これ、いいな」と思ったものを、
「これはどういうふうに作るんだろう」
「いったい誰が作っているんだろう」と
掘り下げていくことにしたんです。
1年間ぐらい、そんな試行錯誤に費やしました。
最初はスタイリストと兼業していたんですが、
それも辞めて、モロッコの雑貨に集中して。
- 伊藤
- 最初に買い付けたもの、覚えてらっしゃいますか。
- 大原
- いちばん最初はバブーシュ、そしてカゴでした。
- 伊藤
- 最初が、バブーシュ!
- 大原
- そうなんです。
けれども最初にいいと思ったバブ-シュは、
すごく可愛いんですけれど、
素材も品質も良くなかったんです。
「このままじゃ、日本では絶対売れない」と思いました。
それであらためて、高品質な物作りのできる
職人探しを始めたんですよ。
モロッコのメディナ(旧市街)の中には、
バブーシュのエリア、カゴのエリアとか、
つくるものでエリアが固まっているんですね。
そしてバブーシュのエリアの工房で、
まだ15歳ぐらいだけれど腕のいい、
お父さんと一緒にやっている若い職人さんを見つけ、
彼のいる工房に別注をしたんです。
- 伊藤
- そこで、オリジナルの物作りが始まったんですね。
- 大原
- はい。けれども、スムーズにいかないんですよ。
腕はいい。けれども、価値感や習慣、時間感覚の違いで、
約束の期日が過ぎてしまうんです。
たまに日本から行って
「できましたか」と言ってもだめなんですよ。
まめにやりとりをしないと進まない。
それで、現地に住んでいる日本の女性を探して、
手伝ってもらうことにしたんです。
- 伊藤
- 時々、様子を見に行ってもらったり、
急かしたり?
- 大原
- そうです、そうです、まさしく「急かしたり」です。
私が2カ月に1回、モロッコに通っていたので、
その時「こういうのを作って」とお願いして、
私が日本にいる間は、モロッコに住む彼女が
生産管理をするというスタイルにしました。
それを1年ぐらいやってから
「自分たちの工房を作ればいいんじゃない?」
って思ったんです。
それで、その職人さんたちに来てもらって
立ち上げたのが、今も続いている
「Fatima Morocco」の工房です。
春に向けて
いつだったか、
近所の友人宅に、
おかずを届けに行った時のこと。
ピンポーン。
チャイムを鳴らすと、
「はーい」と玄関のすぐ向こうからの声。
引き戸をがらりと開けると、
せっせとバブーシュの裏側を拭いている友人がいました。
「さっきまでお客さんが来ていたからね」
4足かそれとも5足分だったか。
そうか、すぐにしまわずに、
さっと乾拭きをして、
ちょっと置いてから元に戻すんだ。
いつもこざっぱりときれいな理由は、
そんなところにあったんだ。
古い一軒家に住む友人は、
バブーシュのみならず、
台所も洗面所もお風呂場も、
彼女ならではの暮らしの工夫が散りばめられていて、
行くたびに、なるほど、とか、
こうすればいいんだ!なんて発見があったのでした。
今週のweeksdaysは、
ファティマ モロッコのバブーシュ。
春に向けて、
すてきな色をそろえましたよ。
杉工場のベッドフレーム わたしの使い方 02 おさだゆかり
おさだゆかりさんのプロフィール
北欧雑貨店「SPOONFUL」店主。
2005年に「SPOONFUL」を立ち上げ、
現在はオンラインショップと予約制の実店舗を運営しつつ、
全国各地でイベント販売を行う。
毎年6月には「北欧雑貨をめぐる旅」と題した
北欧ツアーを開催し、現地を案内している。
著書に『北欧雑貨をめぐる旅』(産業編集センター)、
『北欧スウェーデンの旅手帖―雑貨がつなぐ街めぐり』
『北欧雑貨手帖』(アノニマ・スタジオ)、
『わたしの住まいのつくりかた
北欧風リノベーションとインテリア』(主婦と生活社)、
『わたしの北欧案内 ストックホルムとヘルシンキ』
『北欧 ヴィンテージ雑貨を探す旅』
(産業編集センター)などがある。
昨年の5月に自宅を改装しました。
今の集合住宅に住み始めてから14年経ち、
一時は引っ越しも考えましたが、
ここに住み続けると決め、
仕事場兼住居のこの空間を
もっと快適にするために、
14年ぶりに2回目の改装をすることにしました。
改装のテーマはいくつかありました。
ワークルームとリビングの収納スペースの見直しや
ユニットバスの入れ替え、
そしてベッドルームを改装することも
テーマのひとつでした。
それまでずっとシングルベッドで、
セミダブルに変えたかったのですが、
クローゼットの扉との兼ね合いで
セミダブルは置けなかったのです。
そこでリビングに大きなクローゼットを
新たに設けることにして、
ベッドルームはベッドと
本棚だけの空間にすることにしました。
ベッドの買い替えは
人生の内でそう何度もあることではなく、
今回は一生使えるものにしようと決めました。
一生ものを手に入れるタイミングはなかなか難しいですが、
年齢との兼ね合いが一番大きくなると思います。
人生の1/3は眠りという言葉をよく耳にしますが、
ベッドこそ妥協しないで選びたいですし、
本当にいいものと出会いたいものです。
平均寿命まで生きると仮定するとあと30年、
意外とあっという間に過ぎる年月かもしれません。
しかも若い内の30年ではなく、終わりに向かう30年は、
年を追うごとに身体の不調が出てくることは想像できます。
だからと言って年齢を重ねることを
マイナスにばかり捉えず、
そうなった時のために快適に過ごせるように
備えておくのがいいのではと最近は考えています。
軽井沢のお家の改装をしていた
伊藤まさこさんと食事をしている時に、
寝室を作り変えていて、
きちんとした作りのベッドを探していると話しました。
するといいベッドフレームがあるのよ、
と教えてくれたのが杉工場のベッドフレームでした。
低めのつくりは空間が広く感じ
(でも掃除機はちゃんと入るのも
うれしいポイントでした)、
ヘッドボードがないため、
ベッドとして主張しないところがとてもよいのです。
ベッドのフレームはナラ、
スノコにはヒノキが使われていて、
わが家のヘリンボンの床ときっと合うだろうな、
と想像していましたが、
実際に置かれてみるとその相性は抜群でした。
14年前に一回目の改装で一番のポイントだったのは、
床を無垢のヘリンボンにすることでした。
長い年月をかけて経年変化が楽しめるのは
無垢の木の最大の魅力です。
マットレスが納品されるまでの間、
ベッドフレームとヘリンボンの床の
美しい組み合わせを毎日眺めてはうっとりしていました。
同時に探していたマットレスと敷きパッドは
京都の寝具メーカーのものにして、
ベッドリネンはデンマークのTEKLAのストライプや
marimekkoのロッキという柄を使っています。
今まで寝具は白無地でしたが、
目先を変えて、シンプルな柄や色使いのベッドリネンで
変化をつけています。
ベッドルームを心地よい空間にしながら、
よりよい睡眠の時間を心がけています。
杉工場のベッドフレーム わたしの使い方 01 伊藤まさこ
家で使っているベッドフレームは、
ヘッドなしのもの。
何年か前に杉工場の杉さんに、
「ヘッドなしで、
自動掃除機がぎりぎり通れるくらいを目安に、
高さはなるべく低く、
できるかぎりシンプルなものを」
とお願いして作っていただきました。
「なるべく低く」の理由は、
低い方が部屋が広く感じるから。
今回、販売するベッドフレームは、
その時のものがベースになっています。
とはいえ、販売にたどり着くために、
いろんな「ああでもない、こうでもない」があったんです。
一番は配送のこと。
もともと私のベッドフレームは、
組み立て式ではなかったのですが、
それだともしかしたら、
マンションのエレベーターや、
住宅の玄関に「入らない」なんてこともあるのかも。
そこで、考え出されたのが、
組み立て式。
山荘用にと2台お願いしましたが、
届いた姿はかなりコンパクトになったなぁという印象。
ひとりでの組み合てもなんとかこなせました。
山荘のベッドルームは
ちょっと変わった配置になっています。
横から見るとこんな感じ。
背中合わせにすることで、
同じ部屋でもちょっとだけ
パーソナルなスペースに(姿が見えない)なるんです。
ヘッドがない分、本を読む時はこの壁が背もたれに。
クッションをいくつか並べて過ごします。
ベッドルームを作る時に、
一番考えたのは、
「何もない白い空間」がいいということ。
ここに、ヘッドがあるとないのとでは
印象がずいぶん違うと思いませんか?
ベッドカバーをかければ、
木の脚もちらりとしか見えない。
でもその「ちらり」と見える部分がとても重要。
この脚、
すっとしているけれど、
角ばっておらず、
手でさわるとやさしいんです。
あんまり見えないけれど、
美しくデザインされた木のベッドフレームが、
私の体をささえてくれるという安心感。
まさに縁の下の力持ち、という感じではありませんか。
(ちなみにベッドマットは、
マニフレックスのこちらを使っています。
ご参考までに)
ベッド脇には、スツールやライトを置いて、
ベッドまわりのスタイリングを楽しめるのも、
シンプルだからこそ。
こういうベッドフレーム、
ありそうでじつはなかなかないんです。
美しいベッドフレーム
冬は毎日食べてもいい。
そう思うほど、
よく作るのが鍋です。
軽めの前菜を2、3品出したら、
鍋の出番。
芹と鶏だんご、
発酵白菜と豚肉、
キムチ鍋‥‥
あとはおいしいお酒があれば、
いうことありません。
土鍋はいろいろ持っているけれど、
4、5人分の大きいのと、
ふたり分の小さいの。
出番が多いのはこのふたつ。
このふたつの土鍋の共通点は、
「持ち手がない」っていうところ。
でもね、
持ち手はないけれど、
「持つところ」はある。
鍋の淵に手が引っかかりやすいようにと、
ちゃーんと考えられているのです。
我が家で、この持ち手なしの土鍋を見た人は、
最初驚くのだけれど、
使っている様子を見ると、
「そうか、必ずしも持ち手って必要ないのかもね」
なんて納得したりもする。
見た目にすっきり、
とか、
取っ手がない分、収納がスムーズ、
なんて利点もあるものですから。
今週のweeksdaysは、
杉工場のベッドフレーム。
かねてから、
ベッドヘッドはいらないのでは? と思っていた私。
すっきり、美しいベッドフレームができましたよ。
マガジンラックわたしの使い方 伊藤まさこ
雑誌も本もどんどんペーパーレス化されて、
画面上で読むことも多くなった昨今。
私も仕事の資料などは、
電子書籍を利用しますが、
でも、やっぱり、紙で読む本っていいんだよなぁ。
ページを開く音、
手触り、紙の匂い。
そこにあるのは「情報」だけではない何か。
なので我が家の「本のある風景」は、
あんまり前と変わらないのです。
買ったり、またはいただいたり。
増え続ける本は、
定期的に見直して、一定量にしていますが、
「まずはここ」の定位置として、
うってつけの場所が、
マガジンラックの中。
幅41センチ(奥行き16センチ、高さ27センチ)と
スマートなので、
場所を取らない。
にもかかわらず、今読みかけ、
あるいはこれから読む本が、
ちょうどいい量、入るところがいい。
「マガジンラック」本来の使い方です。
こちら、リビングダイニングの一角。
スペースの都合もあって、
「書斎や仕事部屋を持たない」という方も、
多いと思いますが、
私もそのひとり。
原稿書きは、
パソコンとちょっとした資料があればできるので、
ダイニングテーブルが一時、
仕事机に変わるというわけ。
さあ、仕事しようかな。
とか、
お昼にしようっと。
原稿書きに疲れたら、
お茶とお菓子で一服。
パソコンと資料、
ペンケースや充電器。
そんな仕事まわりのものを、
出したりしまったり。
それを一日に何度か繰り返して、
気分も入れ替えます。
テーブルの上のものを、
真ん中からはじっこへ。
という人も多いと思うけれど、
いったんマガジンラックにしまって、
視界から消す。
これ、かなりの気分転換になりますよ。
ホリデーシーズン、
プレゼントのラッピングに使う麻紐を、
マガジンラックに入れて使っていました。
そのままだと、ごろごろ転がってしまい。
なかなかにストレスだったのですが、
おかげでその悩みはすっきり解決。
この場合、
「マガジンラック」ならぬ
「ストリングラック」かな?
あんまり「マガジンラック」という名称に振り回されず、
自分なりの自由な使い方を探っては、と思います。
テレビのリモコンって、
必要だし、近くに置いておかないと
いざ使いたいとなった時に不便。
でもデザイン的に見えているとちょっと‥‥
そう思うこと、ありませんか?
「だからテレビは置かない」
そんな友人も多数ですが、
映画を観ることの多い私は、
テレビのある風景はよし!
と、割り切っています。
でもリモコン、どうにかならないものかしら?
そこで、
壁と同じホワイトのマガジンラックの中に入れてみたら、
すっきり。
(見えていないのですが、
この中に、ダチョウの羽の埃取りも入っています。)
このラック、足のつき方がかわいらしいのですが、
そのかわいさを十分引き出す見え方が、
真横からのこの位置。
ホワイトもいいけれど、もしかしたらグレーもよさそう。
いやいや思い切ってテラコッタにしてみても
よかったかもしれない。
壁や床に馴染む色にしてもよし、
まったくちがう色にしてもよし。
あなたの部屋にしっくりくる色をどうぞ。
マガジンラック あの人の使い方 02 瀬谷志歩さん
瀬谷志歩さんのプロフィール
せや・しほ
テキスタイルデザイナー。
各地の布や建造物のモチーフなどからヒントを得て
布を設計、工場での勤務経験を活かし、
多彩な織りの技法でかたちにしている。
織るのは国内の工場で、
「手織りと機械織りのあいだにあるような布づくり」
がコンセプト。
美大卒業後、東京・八王子の織物工場に就職。
アパレルメーカーの服地やストールなどの
企画、開発、生産、営業等に携わる。
工場の廃業に伴い、独立。
屋号の「COOVAコーバ」は
「工場(コウバ)」に由来する。
息抜きは、時間ができた隙にさっと行く旅行。
木陰が好きなので森林限界までの低山登山をする。
起きた瞬間から眠るまで、ほぼ終日ラジオをかける。
東洋・西洋を問わず。歴史劇の鑑賞も。
「weeksdays」では
「nooyのレターニット、
あの人に着てもらいました」に登場。
瀬谷さんの新しいアトリエは、
窓の外には街路樹が見え、
日差しがさし込む、
とても気持ちの良い場所。
以前のアトリエも素敵でしたけれど、
ここもとっても居心地がよさそうです。
物件探しにあたって、
広さ、明るさ(2面は窓)などの
譲れないポイントがあったそう。
「あたらしいアトリエは、
ショールームや撮影ができる場所としても
使いたかったので、
自然光の明るさは必須でした。
探し始めて2年、やっとここに決まったのは
前のアトリエにしていた建物が
取り壊される直前のことで、
ギリギリ間に合った感じです」
このアトリエにあるものは、
素敵なものばかり。
私たちがあんまり見たことのないような
古いものも、たくさんありました。


「道具や布も古いものが好きなので、
いろんな場所にちりばめて置いているんですよ。
家具は、すぐに移動できると便利ですよね。
ほとんどの物を、
キャスターを付けた自作の台の上に載せています」
そんな瀬谷さんの好きなものや工夫がつまった
アトリエに、サイトーウッドのマガジンラックは、
いかがでしょう?
「サイトーウッドさんとは、
展示会でご一緒したことがありますし、
人気もあるし、
いろんな場所でお取り扱いがあるので
身近に感じていたんですが、
自分ではアイテムを持っていなくて。
だからこれが“初めてのサイトーウッド”です」
マガジンラックを手にした瀬谷さんは、
まずひとこと‥‥。
「思ったより軽い! この軽さがいいですね」
そうなんです。
軽くて移動しやすくて、
気軽に使える感じがすごくいいんです。
「マガジンラックだから、
まずはスタンダードに、
ベッドサイドで本を入れるのに良さそう。
このアトリエのベッドにも合うかも?」
じつは瀬谷さんのアトリエには、
ベッドがひとつあります。
宿泊用ではなく、
テキスタイルデザインの仕事で
全体の柄を見たり、
ブランケットなどの製品を使用している風景を
撮影するために、
大きな布を拡げる場所として必須なんですって。
でもきょうは、プライベート空間のイメージで
マガジンラックを置いてみることになりました。
さっそく、瀬谷さんがアトリエの本棚から
資料として使っている古書を何冊かセレクト、
マガジンラックに置いてみると、
あたたかみのあるベッドカバーの横に、
グレーのマガジンラックがぴったりです。
本のカラーとも合っていてすごく素敵です。
次は、お仕事のときに使うイメージ。
瀬谷さんの扱う布はカラフルですが、
インテリアの収納やファイルなどは、
ホワイトや木などの
ベーシックカラーのものが多い印象。
そんななかに、ホワイトのマガジンラックがよく合います。
「わたしの仕事だと、進行中のものだけを
集めて入れるのにも良さそうです」
と、小さく試し織りした生地や、
糸見本、そして書類などを入れて、机の上に。
マガジンラックは床に置いて使うもの、
と思っていましたが、
こんなふうに机上でも圧迫感がありません。
なるほど、こんなふうに、
書類だけじゃなく、ひっかけて使ったりもでき、
ちょっとした、立体的なドキュメントケース的な
使い方もアリですね。
アトリエを見わたすと、
設計図のようなものが‥‥。
これはなんでしょう?
「これは工場で織るときに使う
紋紙(もんがみ)です。
織物設計した図を元にして、
経糸が上がる箇所に穴が開けられています。
工場で使うものなので、
実際わたしがここで使うことはないんですが、
工場からいただいた使わなくなったものを、
オブジェ的にできたら、と思って」
紋紙は、紙やプラスチックなど
いろんな素材があるんですね。
それらをサッとマガジンラックに。
「マガジンラックだけど、書類はもちろん
こういうくるくる巻いたものを
一時的に置いておくのもの良さそうです」
置いてみると意外と安定していて、
しっくりきています。
瀬谷さんの使い方、
いろいろな発見がありました。
「ここで撮影した写真を、
インスタグラムに載せているんですが、
俯瞰で柄のきれいさをどう撮るかなど、
カメラも勉強中なんです」
という瀬谷さん。
じつはこのアトリエ、イベント的に
お客さまにも公開しているのだそう。
「たまになんですが、
アトリエショップとして、
日を決めてオープンしたりもしています」
あたらしい場所での瀬谷さんの
これからのチャレンジと展開もたのしみです。
ご協力ありがとうございました!
マガジンラック あの人の使い方 01 松﨑彬人さん
松﨑彬人さんのプロフィール
まつざき・あきと
1993年熊本県生まれ。
「ほぼ日」でのインターンを経て、
2017年にマガジンハウス入社。
以来『&Premium』(アンドプレミアム)編集部で
住まい、旅、カルチャーの特集を担当。
最新の担当号は2025年1月号「カフェと音楽」特集。
鎌倉の山の傾斜地に建つ、
松﨑さんの家。
リビングの窓からはおだやかな光が差し込んで、
置いてあるものすべてが気持ちよさそうにのびのびしてる。
大学生の頃からインテリアが好きだったという、
松﨑さん。
「イームズの家の写真集を眺めては、
かっこいいな、なんて思ってました。
大きな本棚に世界中から集めたものが
ずらっーと並んでいたりして」
では家作りはその頃からの夢? とたずねると、
「そんなに強く思っていたわけではなかったんです」
との答えが。
東京のマンション住まいも
気に入っていたという松﨑さんでしたが、
奥さんの「家を建てよう!」という一言がきっかけで、
一念発起。
そこから土地探しが始まり、
家や家具作りのパートナーを見つけ‥‥
5年がかりでできたのがこの家。


家の雰囲気の土台となるのは、
モールディングと巾木の「白」。
そこに色を足していくのが松崎さんのスタイル。
「赤や黄色、ブルーなど、色の強いものが好き」
なんですって。
なるほど‥‥と家を見渡してみると、
白と木の空間に、
パッチワークのクッションや布張りのソファ、
気に入りの作家の陶器やガラスのモビール、
本にレコード‥‥
と色も、ものももりだくさんで楽しげです。


「サイトーウッドのマガジンラックを使ってみてください」
というこのコンテンツ。
お願いした理由は、
きっと好きに違いない‥‥という理由から。
取材の日、たずねてみると、
掛け時計やコースター、
傘立てなど、サイトーウッドのものが、
部屋のそこかしこに。
どれも、買った店はいろいろなんですって。
「プライウッドは前から好きな素材。
自由がきくし、形がおもしろい。
アメリカや北欧の家具などにも
使われることが多い素材ですが、
日本でプライウッドといえばサイトーウッド、
そんなイメージがあります」
また、買いやすい価格帯も魅力、というその言葉に納得。
ホワイト、グレー、テラコッタ。
3色あるうちの松﨑さんがえらんだのは、
テラコッタ。
「赤、青、きいろ」がならぶ、リビングの一角にぴったり。
「単体で見ると意外に難しそうな色だけれど、
組み合わせていくのがおもしろい」
という言葉に、なるほど。
ソファの幅ともそれとなく合っていて、
読みかけの本を置くのにぴったりです。
「レコードラックにしてもいいなと思いました。
棚の中から探すのが大変なので、
よく聴くもの、
または、買ったけれどまだ聴いていないレコードの
置き場所として」
「次を待つ」そんな感じなのかな。
書斎や仕事部屋を持たない。
そんな人も多くなっているようですが(わたしも)、
松﨑さんもそのひとり。
仕事をするテーブルと食事をするテーブルが
一緒なのだそう。


「パソコンや資料を広げていても、
このマガジンラックに、
ささっと入れれば片づけは完了です」
取材に訪れたこの日、
リビング以外にも、
キッチンやお風呂場まで(!)、
快く見学させてくれた松﨑さん。
ルームツアーの最中に、
上の階から、
生まれたばかりの木一くんが
お母さんに抱っこされて、
のぞきにくる場面も。
木一くんの成長とともに、
変わっていく家の様子もまた見せてほしいなぁ。
2割の余裕を
コートやジャケットをかけるハンガーラック、
食器棚に台所の収納、
本棚、
それから仕事の資料を置いている棚‥‥
すべての収納に共通するルールがあります。
それは、
「20%の余裕を持たせること」。
これは暮らすうちに身につけた、
私なりのルール。
その20%の空きスペースには、
「何も置かない」のがベスト。
ただ、
忙しいとそうも言っていられない時もある。
20%が10%、やがて0%に近くなってきたら、
えいやっと片づけることにしています。
このちょっとした「空き」、
つまり一時的にものを置くスペースって、
すっきり暮らすためにすごく重要。
ことに私の場合、
すぐに増えるのが本。
棚以外に、ちょっと置ける場所が欲しいなぁ。
ずっとそう思っていたのでした。
今週のweeksdaysは、
サイトーウッドのマガジンラック。
「マガジン」だけでなく、
じつはいろいろな使い道があるんですよ。
weeksdaysでいつものごはん 伊藤まさこ 08 春雨サラダ
08 春雨サラダ
時々、無性に食べたくなる春雨サラダ。
薄焼きの卵ではなく、
大きめの炒り卵で食感を足します。
■材料
春雨‥‥40グラム
ハム‥‥5枚
卵‥‥2個
きゅうり‥‥1本
ごま油‥‥大さじ2
酢‥‥大さじ2
しょうゆ‥‥大さじ1
白ごま‥‥大さじ2
■つくりかた
①春雨は熱湯に5~6分つけて、
ざるに上げ、冷まします。
②きゅうりとハムを細切りにする。
卵に塩とこしょうで味をつけ、
フライパンに油(分量外)をひいて
大きめの炒り卵を作ります。
③
①と②をボウルに入れ、
ごま油、酢、しょうゆ、白ごまを入れ、
ほぐしながらよく混ぜます。

スプーン(大)/Lue

わたしのおはし 黒檀/吉岡木工
weeksdaysでいつものごはん 伊藤まさこ 07 茄子の煮浸し
07 茄子の煮浸し
油を吸った茄子がおいしい一皿。
あたたかくても、また冷蔵庫で冷たくしても。
茄子のおいしい季節にどうぞ。
■材料
茄子
油(植物油)
麺つゆ(*)
おろししょうが
(*)
麺つゆは、水1カップ、しょうゆ、みりん、
それぞれ1/2カップ、
鰹ぶしひとつかみを入れて煮立たせ、
濾したものを好みの濃度に薄めて使います。
市販の、好みの麺つゆでも。
■つくりかた
①
茄子はヘタを切り落とし、縦半分に切り、
下まで切りすぎないように注意しながら、
斜めに切り込みを入れます。
②
フライパンに油を多めに入れ、
①の両面にじっくり火を通します。
③
鍋に少し濃いめの麺つゆを入れてあたため、
②を入れて弱火でやわらかくなるまで煮ます。
④
椀に盛り、おろししょうがを添えます。

そば椀 溜/田代淳
weeksdaysでいつものごはん 伊藤まさこ 06 蒸し野菜
06 蒸し野菜
野菜をたっぷり食べたい。
そんな時に作るのが蒸し野菜です。
オーバル皿に蒸し立て熱々の野菜を並べたら
それだけでごちそうに。
■材料
さやいんげん
スナップえんどう
芽キャベツ
ブロッコリー
(ほかお好みの野菜でも)
塩
オリーブオイル
■つくりかた
①
さやいんげんとスナップえんどうは筋を取り、
芽キャベツとブロッコリーは食べやすい大きさに切ります。
②
さっと水で濡らした蒸籠に①を並べ、
強めの中火で5分ほど蒸します。
③
少しおいて②を皿に並べ、
塩とオリーブオイルを回しかけます。

磁器のオーバル皿(石灰釉・大)/東屋
weeksdaysでいつものごはん 伊藤まさこ 05 いわしのオーブン焼き
05 いわしのオーブン焼き
新鮮ないわしが手に入ったらぜひ。
手軽に作れて見た目にも華やか。
お客さまがいらした時にも。
■材料
いわし(生の3枚おろし)
塩
プチトマト
オリーブオイル
紫玉ねぎ
香菜
こしょう(白、黒、お好みで)
■つくりかた
①
3枚におろした(魚屋さんにたのんでも)いわしに塩をし、
半日から一晩冷蔵庫におきます。
②
プチトマトを半分に切ります。
③
耐熱皿に汁気を軽く拭き取った①を並べ、
その上に②を置き、オリーブオイルを回しかけ、
200度のオーブンで15分ほど焼きます。
オーブンによって火力が違うので様子を見ながらどうぞ。
④
③に刻んだ紫玉ねぎと香菜をのせます。
好みでこしょうを振っても。

オーバル耐熱皿 大/鋼正堂
weeksdaysでいつものごはん 伊藤まさこ 04 にんじんのスープ煮
04 にんじんのスープ煮
小さくて味の濃いにんじんが手に入ったらぜひ。
シンプルですが滋味深いスープです。
■材料
にんじん
コンソメキューブ(あるいは塩)
ローリエ
黒こしょう(粒)
粒マスタード
パン(好みのものを)
■つくりかた
①
にんじんは硬いところだけ皮を剥きます
(好みで剥かなくても)。
②
厚手の鍋に①を入れ、
ひたひたより少し多めに水を入れ、
蓋をしてコンソメキューブとローリエ、
黒こしょうの粒を入れ、
弱火で1時間ほど煮ます。
にんじんがおいしかったら、
コンソメキューブを入れずに塩だけでも。
③
皿に盛り、粒マスタードとパンを添えます。

スープスプーン/LUCKYWOOD
weeksdaysでいつものごはん 伊藤まさこ 03 鮭チャーハン
03 鮭チャーハン
材料も少なく、作り方も、これだけ? と思うほどに簡単。
子どもの頃、母がよく作ってくれた懐かしの味です。
鮭は焼いて骨を外してほぐし、フレークにしたものを
瓶に入れておくとなにかと重宝します。
■材料
バター
ごはん
焼き鮭(ほぐし身)
黒こしょう(粉末)
■つくりかた
①
フライパンにバターを入れて火をつけ、
溶けたらごはんと、
ほぐした焼き鮭を入れてふんわりと炒めます。
②
器に盛り、黒こしょうをかけます。

スプーン(大)/Lue

磁器のオーバル皿(土灰釉・小)/東屋
weeksdaysでいつものごはん 伊藤まさこ 02 切り干し大根のあえもの
02 切り干し大根のあえもの
冷蔵庫に入っていると安心なおかずのひとつ。
冷めても状態が変わりにくいので
お弁当にもよく入れていました。
■材料
切り干し大根‥‥40グラム
ちりめんじゃこ‥‥20グラム
ごま油‥‥大さじ1
酢‥‥大さじ1
しょうゆ‥‥小さじ1
塩‥‥ひとつまみ
白ごま‥‥大さじ1
■つくりかた
①
切り干し大根をさっと洗い、
ひたひたの水で(水分をすべて
切り干し大根に入れるような感覚で)戻し、
食べやすい大きさに切ります。
②
ちりめんじゃこをフライパンで軽く炒ります。
③
①を入れたボウルに、
②と、ごま油、塩、しょうゆ、酢、
白ごまを入れ、手でよくあえる。

わたしのおはし 黒檀/吉岡木工
weeksdaysでいつものごはん 伊藤まさこ 01 ベトナム風煮麺
01 ベトナム風煮麺
簡単にできてお腹もあたたまる。
冬の朝ごはんの定番です。
香菜のほか、長ネギを入れても。
■材料
鶏のささみ
ヌックマムあるいはナンプラー
白こしょう(粉末)
香菜
好みの麺(フォー、そうめんなど)
■つくりかた
①
鍋に湯を沸かし、
食べやすい大きさに切った鶏のささみを入れ、
10分ほど煮て、ヌックマム(ナンプラーでも)と
白こしょうで味を整えます。
②
好みの麺をすこしかために茹で、
ざるでお湯を切ったら、
①に入れ少し煮て、麺に味をしみ込ませます。
③
器に盛り、香菜をそえます。

ReIRABO Redonburi(大)/yumiko iihoshi porcelain
アーティストのすべき仕事
- 伊藤
- この家をつくったことで、
住まいの関係の
新しい仕事をいただいたんです。
- 糸井
- アーティストの仕事って、
そういうことなのかと思うんですよ。
ポストペットを作った八谷和彦さんと話して
それを感じたんです。
八谷さん、やっぱりアーティストなんですよね。
だからぼくも「それは作品の話だな」と思いながら
聞いてるんだけど、
それを薄めたものが実用化されて、
人々のところに行くんですよね。
表現行為や作品というのは、
「こうできない?」っていう
疑問の投げかけみたいなところがあって。
だから、まさこさんのその新しい仕事も、
世の中に出るときにはすごく役に立つものに
なっていくんじゃないかな。
暮らしのことをさ、
そのままアーティストにやらせちゃうと、
実は居心地の悪い場所ができる。
これがこのまま集合住宅の部屋で、
「あなたも住めますよ」と言っても、
きっとみんなが文句を言うと思うんです。
- 伊藤
- 便利ではないから。
- 糸井
- うん、便利ではない。
仕事をしようと思ってパソコンを持ってったら、
それをする机はなくって、
「そういう場所じゃないですから」みたいな。
それを、どうするのがちょうどいいんだろう、
と考えるのが、これからのまさこさんの仕事だよね。
誰々が作った誰の部屋、って、
それは泊まる人と衝突しますよ。
- 伊藤
- 最初はもしかしたら
喜んで使ってくれるかもしれないけど、
「ん?」って思っちゃうでしょうね。
- 糸井
- それはしょうがないですよね。
提案と現実だからね。
でも、日本建築はそこを経てきてる。
多分、和の家だったら、
誰かが気に入ったのを作っても、
他の人がわりと過ごしやすいんだと思うよ。
日本だったらね。
- 伊藤
- そういう意味では、
わたしがやってみたいことが詰まっているから、
「ここに来てください」って言える家ができたのは
すごくよかったなと思います。
- 糸井
- そうだよ。作品ですよね、やっぱりね。
まさこさんの作品というのは、
デザイナーじゃなくて、
スタイリストのままというか、
使う側のほうにちょっとずらしてるんじゃないのかな。
だから、これからつくるという庭が気になる。
階段も気になるし。
- 伊藤
- そこ、勉強が全然足りてなくて。
この春からですね、始動するのは。
- 糸井
- 何かはするわけだものね。
- 伊藤
- はい。
内装と外壁、屋根が仕上がって、
さあできた! と思っていたら、
「外階段、どうしましょうか?」と言われて、
「え‥‥ 外階段?」となった。
「今はまだそこまで考える余裕がないので、冬はこのままで越します。」と伝えて。
そうしたら大工さんが見かねて、
「とりあえずですけど、
きれいに見えるようにしときました」と。
それがいまの仮の階段なんです。
鉄砲階段といって、まっすぐなので、
うっかり踏み外したらまっすぐ落ちちゃうんです。
そこをなんとかしなくちゃって。
雪が降るから、木じゃダメらしいし。
- 糸井
- あと、老人になるからね。
膝が痛いとかね。
- 伊藤
- そうなんですよ。
でもまあ、その年齢までには
新しい人に譲っているんじゃないかな。
- 糸井
- 若い人用なんだよね。
- 伊藤
- そうなんですよね。
母にも見てもらいたいけれど、
やっぱりここは危ないなあと。
わたし、いま元気だからこの家が作れたんだなと。
- 糸井
- そうですね。
ただ、歳をとったときのことを見越す必要はない。
なぜかというと、家って古くなり、
壊さなきゃならなくなるから。
20年ぐらいとかが、せいぜいなんでしょうね。
お母さんって、まさこさんみたいな人なの?
- 伊藤
- うちの母はもうちょっと柔軟です。
- 糸井
- そうだよね、お父さんの部下が
ご飯食べに来たりとか、
めんどくさいことを。
- 伊藤
- 全然、ウェルカムでしたよ。
- 糸井
- そこで育っているんだよね。
- 伊藤
- それは楽しかったです。
- 糸井
- それは楽しかったんだ?
そっか、女主人がお母さんで、
まさこさんはゲストのところにいたんだ。
- 伊藤
- いまも、わたしが台所を手伝ったりすると、
ちょっと嫌そうにします。
「ここは一人でいい」って感じで。
- 糸井
- へぇ~。お母さんは、
部屋の片づけとか飾りとか、
そういうことは?
- 伊藤
- 片づけは、わたしよりすごいと思う。
- 糸井
- じゃんじゃんお客が来るような家で、
それをやってたってことだよね。
- 伊藤
- はい。それに、わたし、
母がパジャマ姿で家の中を歩くのを見たことないです。
寝床を出たらすぐにきちっとしている。
それはすごいですよ、今でも。
育った環境ってすごく影響すると思います。
- 糸井
- そこに、作家の誕生の秘密が。
- 伊藤
- 母がいたからです。
しかも自由に育ててくれて。
- 糸井
- 母と娘っていうのは、
本当にほぼ一緒ですね。
- 伊藤
- おもしろいですよね。
- 糸井
- 誰の話を聞いていても、
“それは、お母さんから”って。
- 伊藤
- 娘も、まったく料理をしなかったのに、
一人暮らしの今はちゃんとしてるんですよ。
昨日も「餃子焼いた」って、
あんがいマメにしているみたい。
- 糸井
- 見てるんですねえ。
いやぁ。‥‥ほんとに、かっこいいな。
まさこさん、ここにのんびりしに来ているようでいて、
じつは仕事をしているでしょう。
仕事がなかったら逆につまらないんでしょうね。
本当にここで一人で本を読んでるだけだったら、
すぐに帰っちゃうかもね。
- 伊藤
- そうですよね。“のんびり”って、
できているようで、できていないのかも。
- 糸井
- できてないよね。
そういう自分って
いつか変わるんだろうかと思うけど、
自分のことを考えたら、
全然変わらないんだよ。
- 伊藤
- わたし、たまに
「もう仕事を辞めてもいいかも」
っていうときが訪れるんですが、
翌日にはその気持ちがなくなる。
「やっぱり働いてた方が楽しい!」って。
- 糸井
- そうだよね、きっとね。
- 糸井
- 人それぞれですよね。
ところでキッチンのペンダントライト、
赤いガラスなんだ!
ひとつだけ色があって、へぇ~、と思った。
- 伊藤
- そう。黒いガラスなんですけど、
電気が点くと赤く光るんです。
- 糸井
- 他に色がないなかに、
切り替わる色があるのはいいね。
冬は外の雪がきれいでしょうね。
- 伊藤
- 住んでいる人はみんな、
「雪の季節がいいよ」って。
- 糸井
- そうですか。
でも、この雨の音もいいじゃない?
- 伊藤
- そう、あと、森の中を歩くと、
森の匂いがするのもいいんです。
- 糸井
- まさこさんの状況、よくわかりました。
こういう絵の中でたのしんでいるんだね。
- 伊藤
- そうです、絵の中で。
- 糸井
- ‥‥いやぁ、きょうの話で、
いろんなことがわかりました。
世の中の御婦人のこととか、
うちの幼児のこととか、
作品について、とか。
- 伊藤
- わたしもたくさん発見がありました。
糸井さん、ありがとうございました。
- 糸井
- こちらこそ。また会いましょう。
- 伊藤
- ハイ!
- [翌日に、伊藤さんに届いた糸井重里のメール]
あの場では、ちょっとほめたりなかったと思いますが、
アウェイの地で、大作に挑戦したこと、
まずはそれだけで大したことだと思います。つくづく、家は「作品」だということを感じました。
まさこさんが思い描いて、スケッチして、
コミュケーションして、「表現」に至る。
しかも「作品」が展覧会場で、
さらに新しい「作品」を生み出す「工房」にもなる。「まさこランド」という作品は、
どっちに向かっても、
なにかしらの影響を与えることになりますね。
糸井重里
女王様、それはちょっと
- 糸井
- まさこさんも、家や居住空間っていうのは、
お茶碗を選んでるときとは異なるものだったんだけど、
自分の見立てで「こういうのがいいんだ」とか、
「これは要らない」とか、
この大きなものが自分の世界になってきたから、
どんどんおもしろくなってるんだよ。
- 伊藤
- そうなんですね。
- 糸井
- そこにずっと住みたいかといったら、それは別なの。
- 伊藤
- スタイリングの仕事をしてきたから、
そんなに住むということを意識しない家が
できたということでしょうか。
- 糸井
- みんなは、まず住むことを考えるよね。
ここに冷蔵庫を置きましょう的なことが、
多分普通の家だったらものすごく早い段階で決まり、
しょうがなくやる。それを先に全部考えるんだ。
- 伊藤
- マンションの間取りを見ても、
「はい、ここ冷蔵庫ね」と、
そういう感じじゃないですか。
なんかそれって‥‥。
- 糸井
- イヤですよね。
- 伊藤
- かねがね、家に合わせる必要ある? って。
自分の暮らしに合った家が欲しい。
- 糸井
- まさこさんってそういう仕事をなさってきたんですよね。
まさこさん以前って、
料理やテーブルコーディネートの世界は、
料理のほかにりんごがごろんと置いてあって、
ワインの瓶が転がってて、
なぜかお花も散らばってて、
別珍のクロスもくしゃってなってて、
誌面いっぱいに表現されるのが当たり前だったところを、
「要らないでしょ」って言った。
- 伊藤
- 仕事をするまで、ずっと、不思議だなぁ、
これって雑誌の中でしか見たことない景色だなぁって
思っていたんです。
そういうところから始まったのかも。
- 糸井
- うん。実はセザンヌの絵画が
アバンギャルドとしてスタートしたのと似てる。
肖像画や宗教画など
依頼されたものを描くのが画家の仕事だった時代に、
絵を描くことはもっと自由でいいんだと、
習作だと思われていたようなリンゴを描いて、
「これはぼくの作品です」と出すって、
ものすごいことだったんですよね。
まさこさんは、だから、それなんだと思うんですよ。
具象に見せた抽象画。それを見てぼくらは
「わぁー!」「すごいなー」って言っているわけ。
だから今のまさこさんは、
「ついに背景を描いたイラストレーター」
だと思うんです。
「じゃあ、おまえはなんなんだ」と言われると
困るんだけど。
- 伊藤
- 以前、京都におうちをお持ちでしたよね。
あそこを作ったときは
どういう感じだったんですか?
- 糸井
- あれはおもしろかったですよ。
ぼくの意見を、入れてないようで入れている。
たとえば、西側に窓を開けると神棚ができるとか。
五山送り火の時、鳥居形松明送り火が
西側の正面に見えるから、
その鳥居を借景にすれば、神棚になるじゃない?
って言ったの。
あと、過剰に縁側を広くしたのもぼく。
- 伊藤
- そうなんですね。
- 糸井
- 京都のお寺は、
外だか中だかわからない場所っていうのを
とても大事にしているでしょう。
お寺の境内って、誰でも入っていいんですよね。
それが不思議で。
で、縁側に庇(ひさし)が長く出てるから、
雨戸なしで障子の戸があるんです。
それで「外だか中だかわからない場所を作りましょう」
って言ったんです。
あとは‥‥物干し台をかっこよくしたいなって。
そしたら物干し台が一部屋になっちゃった。
- 伊藤
- ええっ?
- 糸井
- 物干し台の場所を2階に作ったら、
ひょいと飛び出してるその場所が
すごく立派なものになって、
“物干し部屋”になっちゃったの。
家作りに興味がないような顔をしながら、
そんなふうに参加をしてたから、
自分としてはおもしろかったな。
あと、家の周囲を、
犬がグルグル回れるようにしたとかね。
でも、和の建築って、
何が住みやすいかについて、
すでに蓄積があるんです。
でも洋の建築は、その人の作品になりやすいと思う。
建築家の中村好文さんの「小さな家」も作品で、
それをもうちょっと大きくしたのがここじゃないかな。
作ってるときがやっぱり一番おもしろいと思う。
- 伊藤
- やっぱり糸井さんと話すと発見があります。
自分って、自分だから、よくわからないんですよ。
こうして話すとすごくいろんなことがわかります。
- 糸井
- そうだよね。
ここの場所を教えてくれたのは誰?
- 伊藤
- 友人です。物件友だちの。
「伊藤さん、ここ、おもしろくない?」って、
食事の席でスマホの画面を見せてくれてピンと来て。
- 糸井
- そうなんだ。もう一人の、
相談に乗ってくれた設計の人や大工さんは、
どうやって決めたの。
- 伊藤
- このスツールを作ってくれた
須長さんの家を建てたのが、
建築士の相崎さんと大工の今泉さんで、
須長さんたちが「こうしたい」って言ったのを、
ちゃんと形にしているのを知ったんです。
施主の意見と、デザイン、技術の
バランスがすごく良くて、
紹介していただきました。
- 糸井
- それはよかったね。
- 伊藤
- やっぱりおもしろがってくれた、
っていうのがいちばんですね。
「普通はこうだよ?」と言わないんですよ。
- 糸井
- 何かしら、ここだけは建築の人のわがままを、
しょうがないから許した、みたいなことって、
家作りではよくあるものね。
いろいろおもしろいなぁ。ふふふ。
あそこに、玄関にほうきをぶら下げてるのは‥‥。
- 伊藤
- あれは、まだ途中なんです。
これから壁一面に
道具をオブジェ的に飾ろうかなと思って。
家の中の壁は飾らないんですが、
玄関の壁は「外」だとみなして。
- 糸井
- 靴箱もないね。
- 伊藤
- そうそう。車で来るので、
履き替えが必要な靴は持ってくればいい。
- 糸井
- 車は臨時の物置なんだね。
- 伊藤
- 臨時と言いながら
ずっと物置にするのはイヤですけどねぇ。
- 糸井
- そうだ、そうですね。
- 伊藤
- 友だちが来ると、
「ここ、何にも置いてないのね~」って言うんです。
- 糸井
- それはさ、ディズニーランドのラプンツェルの森で
ラプンツェルに会って
「髪が長い!」って言うのと同じだよね。
- 伊藤
- そっか、ここは「ランド」ですものね。
- 糸井
- うん、まさこランド。
「薪ストーブで沸かしたお湯で足湯」
っていうのも、ランドで言ったら
トムソーヤ島なの。
- 伊藤
- RPGで、この道具を手に入れたら、
次はこれ、みたいなところがありますね。
薪が手に入り、たらいが手に入ったから、
次に進むぞ、よっしゃー、みたいな。そっか。
- 糸井
- でね、「ランド」にないものって、
時間の継続なんです。
つまり薪って手に入れて使ったらなくなるじゃない。
また手に入れて、灰が出て、灰を捨てて、
また薪を割らなきゃとか、
時間が流れていくにしたがって、
薪が自然にこっち側に変化をもたらす。
でもランドは変化をもたらさないんですよ。
薪は飾り物だから。
- 伊藤
- え、でも、わたし、あの灰を釉薬にした器を
誰かに作ってもらおうかなと。
- 糸井
- それは“誰か”でしょ?
- 伊藤
- そう。ふふふ。誰か。
- 糸井
- きっと女王様って
そういうこと考えてるんだと思うよ。
- 伊藤
- え~っ?! 女王様。
- 糸井
- 「女王様、その灰ではダメです」って
言ってくれる人がいなくちゃ。
「わたしが作るその器は、
あなたが持ってきたような灰では作れないんです。
あなたが求めている灰はこういう家にあります」って、
教えてくれる人がいないと、
女王様は灰がこっそり捨てられているのを知らないで、
また灰を作るの。「持っていっていいわよ」って。
- 伊藤
- やっぱりランドなんだ。
- 糸井
- じゃあ「男はなあに?」って言われたら、
男は違うランドをやってるんでしょうけどね。
なにか大きなものをめぐっての争いとかね。
ここは「まさこハウス」
- 伊藤
- 実はもうちょっと落ち着いたら、
本の収納小屋を作ろうという夢があるんです。
小屋を作る簡単なキットがあるみたいで。
- 糸井
- 小屋っていうのは
ぼくもコンセプトで考えたことがあって。
つまり、自分は「ものすごくいい物置」が
ほしいんじゃないかって思ったの。
さっきのバスタブは極端だけど、
冷蔵庫であろうが、ストーブであろうが、
不要の時はそれを入れられるブラックボックスを。
ちょうど今、
建築の三浦史朗さんとそういう話をしていてね、
正倉院とかってさ、あれ、蔵なんだよ。
- 伊藤
- たしかに。
- 糸井
- その蔵をいまもみんなが
文化財として見てるわけでしょ。
それが歴史そのものなんですよね。
だから物置プラス狭い家、っていうのに、
今、ちょっと興味があるんです。
上手に回廊を通った先に物置がある、みたいなね。
- 伊藤
- わたしはそんな家が本当に持てるとしたら、
床面積は小さくていいので、
天井がうんと高いちっちゃい家がいいです。
- 糸井
- おっ、それでどうするんですか。
- 伊藤
- 上におっきい棚を作り付けて、
自分の好きなものを飾るんです。
そこがたとえば、
本ばっかりになっても素敵ですよね。
- 糸井
- うん。でもそれはできちゃったら
本棚としては使わないかもねぇ。
- 伊藤
- そうなんですよね、
できちゃったらまた次に行きたくなる。
- 糸井
- だからやっぱりまさこさんは
そういうイラストレーションを描きたいんだ。
- 伊藤
- 願望ですよね。
「普通、やらないよね」っていう。
ただ、夢をそのままで終わらせたくないっていう
気持ちがすごく強くて、
「そんなの誰もやらないよ」みたいなことをやって、
「ほんとにやったんだ?!」って思われたい!
収納場所がそんなにないとか、
バスタブがないとかも、
「そんなの普通はやらないよ」みたいなことだけど、
「やっちゃいました!」って言いたい。
- 糸井
- やっぱり作品なんだよ。
「まさこちゃんハウス」だ。
- 伊藤
- そっか。そうなんですね。
- 糸井
- 人が、好きで一所懸命やってることって、
頼まれたことじゃなければ作品ですよ。
- 伊藤
- そうですよね。
- 糸井
- 自分のことだから言いにくいけど、
前橋ブックフェスだって作品だと思いませんか。
ああいう賑わいやら流れやらコンセプトやらが、
ある種の現代芸術だと思えば。
身近なことで言うと「引っ越し」だって作品だよ。
- 伊藤
- 引っ越し、大好き!
でもそっか、作品だったんだ。
でも結果としてここがわたしが本を読むという
居場所になりました。
- 糸井
- そうですね。でももし、その機会が3回しかなくても、
作品としては万全です。
コルビュジエの奥さんは、
夫の建築の仕事にまったく興味がなかったらしい、
っていう話があるじゃない?
「カップ・マルタンの休暇小屋」とか、
ちっちゃすぎて、機能しなかったみたいだよ。
つまり、この家においては、
コルビュジエがまさこさんなんだ。
- 伊藤
- 小屋の近くにあった、
アイリーン・グレイっていう
女性の建築家が作った家が居心地がよくて、
コルビュジエが入り浸っていたという話を
聞いたことがあります。
きっと彼自身も、実は
アイリーン・グレイの家のほうが
居心地がよかったんじゃないかな? なんて思ったり。
コルビュジエのその小屋、すごく簡素なつくりですよね。
- 糸井
- うんうん。そんな小屋、奥さんはたぶん嫌いだよねえ。
昔さ、橋本治さんが、
「家っていうのは、奥さんが女主人のペンションだ」
って言ってた。
「だからそこでは旦那っていうのは、
基本的に邪魔なの。
手伝いをしてくれたり、
重いものをもってくれたりする、
という意味では必要だけど」って言ってて、
「そうか!」と思った。
- 伊藤
- そうなのかもしれないです。
- 糸井
- 橋本治的に言うと「女主人のペンション」だけど、
つまりは「リカちゃんハウス」なんだろうね。
- 伊藤
- うん、うん、そうです!
それが自分の力で作れたのはよかったなぁと思うんですよ。
- 糸井
- こんなに大きいんだものね。
おっきいリカちゃんハウス。
- 伊藤
- あるいは「どうぶつの森」かも。
- 糸井
- 「どうぶつの森」はお客さんがもっと多くて、
いろんな人がいる村が舞台じゃない?
まさこさんのタイプじゃない住人がいるし、
まさこさんのこの考え方を
あそこで村にするのは大変だと思うんだ。
だから、現実でも、村にはしないんだよ、まさこさんは。
作品を単独で置いてほしいの。
もう一個つくるなら、自分がやる。
- 伊藤
- うん、うん!
- 糸井
- 女の子たちはずっと、
5歳ぐらいのときからずっと、
そういうことをしてるのかもね。
- 伊藤
- シルバニア・ファミリーに夢中の娘さんを
もっている友だち、いますもの。
男子はそういう願望はないんですか?
- 糸井
- 男子でそういうことしたい人は、
お城に行くんじゃないかな。
「男子一生の夢は一国一城の主」って。
それは権力なんだ。
現代ではそれが「御殿」なのかな。
- 伊藤
- そういうことなんだ!
その御殿願望は糸井さんにはないんですか。
- 糸井
- そうなの。御殿もなければ、
リカちゃんハウスもないんだ。
まさこさんの娘さんはなにか言ってますか。
- 伊藤
- 「なにかやってるなぁ」みたいな感じ。
- 糸井
- やっぱり作品として見てる。
- 伊藤
- しばらくはこれに夢中だから、
自分に比重がかからなくていい、
とか思ってるんじゃないかな。
「しめしめ」みたいな。
訊いてはいないけれど、そんな感じがします。
- 糸井
- あり得るよね。
でも母子ってすごいつながりだよね、
これだけほうきで掃き出す人でも、
娘は掃き出されなかった。
おんぶしてたわけでしょ、言ってみれば。
- 伊藤
- でも、家の中では、
「パブリック・スペースに私物の置きっ放しは禁止」
って言ってました。
その代わり自分の部屋に入れば
全く何も干渉しないんです。
- 糸井
- 「あなたが得た自由よ」と。
- 伊藤
- そう。独立した今は
家の中すべてが彼女の好きなもので、
しあわせそうです。
- 糸井
- まさこさんの家に、生ものは、置いてある?
- 伊藤
- 生ものはないですねぇ。
- 糸井
- 「静物としての柿がある」みたいなことは?
セザンヌの絵みたいに、果物が飾ってある風景は?
- 伊藤
- それはあるんです。
枯れた葉っぱがついてる洋梨2個、とか。
でもたとえば野の花を活けることは
あんまりしないなぁ。
- 糸井
- ぎりぎり果物があってよかった。
- 伊藤
- このことって、とっても説明がしづらいんです。
わたしだけの世界なんだと思う。
- 糸井
- ぼく、最近、幼児を見ているので、
その人と話をしてる感じがするんです。
すでに彼女は自分の世界っていうのを
ある程度持っている。
その中でお姫様であったり、
先生であったり、
リーダーであったりしてるわけですよ。
それが壊れちゃうような状況になったときに不安になって、
ちょっと機嫌が悪いぎりぎりのところに行くの。
- 伊藤
- うん、うん。わたしもなります。
- 糸井
- なりますよね。
だから彼女としゃべってるのと
そっくりだなと思って。
で、なにかをきっかけに、
“わたしの知らない世界だと思ってたものが、
実はこう見えると、
わたしの知らない世界じゃなくなる”
って気づいた途端に、
パーンって元気になるんです。
それは“わたしのもの”になるから。
- 伊藤
- へぇ~!
- 糸井
- 夏に阿寒湖の原生林を一緒に歩いたの。
ものすごく景色がよくて、
ぼくら大人はウワーッと喜んで。
でも彼女にとってみれば、
“いつもわたしが知ってる世界”と全然違うから、
「なんでそんなとこ行くの」と、
ちっとも楽しくないんですね。
だから渋々歩いてるの。
みんなが「おーっ!」とか言ってるのも
彼女は全然おもしろくないわけ。
そんな中、苔であっちこっちがモコモコしてて、
ぼくが「あ、この苔、犬みたいだ」って言ったら、
「どれ? ほんとだ」って、急に犬が見えたんだね。
そうしたら、あっちこっちに、
さらにいろんなものが見え始めて、
急にいきいきして前を歩くようになった。
- 伊藤
- 最初に見た自分が置かれた景色が
大きすぎたんでしょうか。
- 糸井
- うん、全部が見知らぬものだった。
それが見立てで苔が犬になったおかげで、
“わたしのもの”になったわけ。
それで、全然変わっちゃって。
イラストレーションを描く
- 糸井
- ちょっと日が暮れてきたんだね。
何時になったら光がどうなる、
みたいなことはだいたいわかっているの?
- 伊藤
- そうですね。
もうちょっとしたら、
夏の間は日が入ってきてました。
今日は雨ですけれど。
- 糸井
- でも、こういう日もいいよね、緑がきれいだ。
- 伊藤
- この家、ゴロゴロする場所がいっぱいあるので。
窓からの明かりを追って椅子を移動させて、
本を読むんです。
「こっちの方が、今は明るいな」って。
- 糸井
- 自分が動けばいいんだね。
- 伊藤
- はい。照明を点けるのではなく、自分が動く。
寝室にしたこちらの部屋、
階段を4段上がっての
スキップフロアになっているんですが、
以前はそこに和室が二間続いていたんです。
- 糸井
- それを一部屋にしたんだ。
- 伊藤
- 突き当たりの壁には窓がありましたが
隣のおうちが見えるので、壁にしたんです。
- 糸井
- ベッドが縦にふたつ、その間に細い目隠しの壁。
- 伊藤
- シングルベッド+20センチほどの幅で
天井までの壁を作りました。
最初はふつうにベッドを
並びで置くつもりだったんですが、
この壁を境にして縦にベッドを置けば、
同じ空間の中でも、
個人のスペースができるかなって。
- 糸井
- これはいい考えだったね。
この空間にベッドが2つあることは全然構わないけど、
2段ベッドにする必要もないしね。
- 伊藤
- さあ寝ようというとき、
姿が見えないだけで‥‥
- 糸井
- それぞれが自由でいられる。
- 伊藤
- はい。夜起きちゃったら照明を点けて
本を読んでもいいですし。
- 糸井
- これはいい考え。
- 伊藤
- ここで目覚めて、朝一番に見る景色が美しいことが、
こんなに自分にとってストレスがない、
素晴らしい一日の始まりなんだってことを、
ここへ来て思います。泊まるたびに。
- 糸井
- よかった! よかったよ。
冷暖房は、ややこしいことはしてないんですか。
- 伊藤
- ややこしいことはしてないです。
このあたりは、以前は夏でも
冷房が要らない地域だったんですけれど、
近年やっぱり必要だってことになって、
これからもっと暑くなるかもしれないから、
最初からエアコンはつけようっていうことになり、
目立たないように埋め込み型にしました。
それからこの壁の奥は、
クローゼットがわりの小さな部屋です。
- 糸井
- あ、ここ。
- 伊藤
- 着てきた服をここに掛けて、
かごに着替えを入れて、
おもに、宿泊する間のものを
置いておくためのスペースです。
- 糸井
- はいはい。
- 伊藤
- これは、わたしが初めて
両親に買ってもらった椅子で、
ちょっと思い出のあるものなんです。
多分1970年ぐらいのもので、
この家が建てられたのも1970年、
つまりわたしと同い年なんです。
- 糸井
- へぇ~、なるほど、なるほど。
「椅子が入った途端に、何もない家が楽になる」って、
家人が申しておりました。
とにかく椅子をポンと入れると、変わるんだって。
それはわかる気がしました。
- 伊藤
- あと、居室にはダウンライトがないんです。
- 糸井
- あ、ほんとだ、ないですね。夜の灯りは?
- 伊藤
- 夜の灯りは、寝室には壁掛けの照明、
ハーフラウンドテーブルにキャンドル、
キッチンには小さなガラスのペンダントライト、
リビングにはソファのところにフロアランプ、
そして床置きでキャンドルを使っています。
- 糸井
- それなら不便はないですね。
- 伊藤
- はい、わたしは夜型じゃないので、
暗くなったら寝ればいいって思っちゃうから、
全然大丈夫なんです。
- 糸井
- ハーフラウンドテーブルの上のいろんなものは、
まさこさんの「あってもいいもの」?
- 伊藤
- これはあってもいいものです。
お気に入りのものなんですよ。
こういうのはまめに変えるんですが、
わたしじゃない誰かが置くのは、
違和感があるんです。
- 糸井
- ここにぼくがこっそり
アーモンドチョコレートなんか置いたら‥‥。
- 伊藤
- 無言で外しちゃう!
- 糸井
- そっか、じゃあこの器も、
用途としてあるんじゃないんだ。
- 伊藤
- そうなんですよ。形としてここにある。
- 糸井
- そうですよね。
やっぱりイラストレーションを描いてるんだね。
- 伊藤
- そうですね。しかも描くと決めて描いていますね。
ぜんぶ「わたしの目」で構成をしている。
だから、誰かが写真を撮って、
それがいつもの「わたしの目」ではないアングルだと、
こういう見方があるんだ、って、新鮮に思います。
- 糸井
- うん、全体にそのコンセプトだよね。
ここには畳める椅子がある。
- 伊藤
- ニーチェアっていうんです。
これは昔、実家にあったものと同じものを
あたらしく入れました。
「weeksdays」でも紹介したんですよ。
座ってみてください。
足をのせるオットマンもありますよ。
- 糸井
- (座って)おお、
背中のどこにも負担が掛からないな。
ちょうどいいね。
この角度はソファーでは作れないね。
- 伊藤
- これも1970年からある製品なんですよ。
それから、このヘッドボードなしのベッドも
「weeksdays」で開発中のものなんです。
- 糸井
- へぇ~!
- 伊藤
- なぜかというと、わたしが、
ベッドのヘッドボードのデザインが
あまり好きじゃなくて、
なくてもいいんじゃないかなって。
- 糸井
- ぼくも「なんであるんだろうな」って、
昔からよく思ってたんだ。
あそこに彫刻をしたり、
逆に何もないふりをしたり、
つくる人が苦労してますよね。
家具としての価値が必要なのかな。
- 伊藤
- そうかも。
格式のあるホテルなんかだと、
ベッドは家具としての要素が必要になってくるので、
ヘッドボードはマストらしいです。
あとは目印。
壁にそれらしき板がついているだけで、
「頭はこっちですよ」的な。
- 糸井
- でもどっちを頭にして寝ても自由じゃない? ほんとは。
でも、目印をなくしちゃうと、
ぼくは不安定な気持ちになるかも。
こんなふうに仕切り壁がその役割をしていれば、
壁を頭にして寝ようかなって考える。
- 伊藤
- そうなんですよね、
だからわたしはいつも
マットレスの頭のほうを
壁につけちゃうんです。
- 糸井
- うん、マットレスだけの人は、
たいてい、そうしてるだろうね。
- 伊藤
- わたしはこのベッド、
よく、クッションを持ち込んで、
ゴロゴロしてます。
- 糸井
- いいね!
- 伊藤
- ここだけじゃなく、ここでゴロゴロ、
あっちでゴロゴロ、
一日の中でいろんなところでゴロゴロして、
本を読んだり、ときに原稿を書いたり。
- 糸井
- まさこさんがここでの時間を語るとき、
「本を読んだり」がすごく多いんだね。
「ここで本が読める」ってキーワード、
すごく出てきてたもの。
- 伊藤
- そうですね。
ここに来ると、本がやっと読めるんです。
- 糸井
- 東京にいるときに本を読むのは、
違うこともしなきゃいけない生活の中で、だけど、
ここだったら本を読むことに集中できるよね。
- 伊藤
- たしかに。だからいつも
「どの本を持って行こうかな」って
たのしみに考えるんです。
- 糸井
- 俺が、気仙沼に部屋がほしいなって考えたとき、
実現したら漫画を山ほど送ろうと思ったの。
行ったらそればっかりしてようと思って。
- 伊藤
- いいですねぇ。
憧れです。
- 糸井
- つまり「別世界」ってことでしょ、本って。
でも普段の暮らしの中に別世界を作っても、
呼び出しを喰らうじゃないですか、生活の側から。
- 伊藤
- そうですね。長編小説だったりしたら、
それで物語を忘れちゃったりして、
「何だっけ」って10ページ遡ったりする。
ここなら、それがないことに気付きました、いま。
- 糸井
- だから、ここは本小屋?
- 伊藤
- 本小屋だ!
- 糸井
- 本棚はないから、読み小屋?
別荘に本は置いておく必要はないし、
持って帰ればいいからね。
入れ替えればいいんだ。
近景・中景・遠景
- 糸井
- まさこさんの家って、
アニメーションの絵コンテなんです。
だから生き物がやってきて
変化があるのはイヤなの。
- 伊藤
- あ! それなのかな!
わたしは、家の中の生きてるものは
娘だけでせいいっぱい。
- 糸井
- 娘は娘で変化していったよね。
「うわー、変化する」って、
見ていて思ったでしょ。
- 伊藤
- はい。でもたしかに家に関しては
「こうだといいな」という
絵コンテみたいなものがあったかもしれない。
- 糸井
- アニメーターって、自然を描くにしても、
「こうでありたい木の立ち方」を描く。
頭の中に描いたものを形にするんです。
いまの時代は、すごくそういう人たちが多い。
自然の中を歩く子供たちが、
けだものといっしょにゴロゴロしてても、
それは頭の中にあったものを描いてるわけで。
- 伊藤
- それを考えると、「weeksdays」で
「毎日使うお皿が欲しい」
「これにキャンドルをのせたい」
「こんなものがあったらきれいだろうな」って、
1個ずつ作ってきたものを、
そろそろ「背景が必要だった」となった。
それが、ここ。
小物のデッサンだけをしていたのが、
場所が欲しくなってきた。それですね!
- 糸井
- それだ! それが大きくなったんだよ。
- 伊藤
- この家をつくりながら、
「なぜわたし、こんなことをしてるんだろうな」
っていう疑問が、ずっとあったんです。
- 糸井
- よくぼくは最近いろんなことを
アニメーションに例えて言うんだけど、
アニメーションって3枚の絵でできてるんですよ。
- 伊藤
- 3枚の絵?
- 糸井
- 近景、中景、遠景。
向こう側まで続く遠景を描き、
中間に電信柱や隣の家、窓枠を描いたりして、
手前に主人公がいるの。
まさこさんはずっと「近い景色」を作ってきたけれど、
真ん中の景色と背景の景色が欲しくなったんだ。
- 伊藤
- アニメーターは最初にどこを描くんですか。
- 糸井
- それは近景。
アニメーターがいちばん描きたいのは、
人間だと思う。
- 伊藤
- ああ!
わたしもそれだったんだ。
- 糸井
- 自分が生きてる世界はそこだから、
まずは「わたしとあなたがここにいる」を描く。
それが近景ですよね。
で、中景があって、遠景があって。
でも、遠景を例えば富士山にしたら、
もうそれが主役になるじゃない?
もしここから富士山が見えたら、
それは多分、まさこさんは好まないと思う。
- 伊藤
- そんな遠くのことまで考えられないけど。
- 糸井
- きっと邪魔になると思うんだよね。
「いっつも富士山じゃない?」って。
- 伊藤
- なるほど!
- 糸井
- 置いてあるキャンドルとかは全部近景だからね。
「どこに置くの?」っていうのが、
まさしく、まさこさんの仕事だったじゃないですか。
それでここをつくりはじめた。
家を建てちゃったほうが、舞台になる。
- 伊藤
- 内装ができたら、
「あ、外壁も直さなきゃいけないんだ。屋根も」
ってなって、それもできたと思ったら、
次は外階段をどうするの? となって、
「家ってこんなに考えることがあったんだ」。
おもしろいなと思いました。
で、それが出来上がったら、
ランドスケープに行くんだと思うんです。
- 糸井
- それでね、ぜんぶができちゃったら、
ちょっと飽きますよね。
- 伊藤
- そうなんです。そうしたらこんどは
ゼロから建ててみたいなって思っているんです。
- 糸井
- そうだね。多分、まさこさん、
ずっとここにいる必要は、ないんじゃない?
- 伊藤
- そうなんです。
ここを作ったことで取材依頼が来るんですが、
テーマが「二拠点の生活」と言われると、
ポカーンとしちゃう。
そういう意図があって作った場所ではないし、
どちらかというと衝動的に
「いいな!」って思ってのことで‥‥。
もちろん東京の夏の暑さから逃れて
ここで仕事をするのは快適だろうなとは思いますけれど、
「二拠点」「暮らす」とは違うんですよね。
- 糸井
- そういうつもりじゃないんですよね。
「温泉があるからバスタブは要らないじゃない」
と考えるところは、いかにも生活のようだけれど。
本当にそれをし続けるつもりはないでしょう。
- 伊藤
- そうなんですよね。
実際、狭くてもバスタブは
あったほうがよかったのかな、
とも思ってます。
‥‥こうして糸井さんとお話ししていると、
すごくおもしろいです。
わたしの周りの人たちは、
「ああ、伊藤さんがなんかやってる」みたいな感じで、
そこまでの分析をしないから。
- 糸井
- ぼくも、ものすごく、
こういうやりとりをしたいんだ。
まさこさんにはいくらでも
分解して言えるし、訊ける。
それでね、前庭にあたるところだって、
「あれ、どうするつもりなんだろう」って思うわけ。
もし映画だったら、
どういう向きに車を置くとか決めるんですよ。
映画製作の人たちは
そうしたほうが物語の展開がわかるから。
でもまさこさんの家は、まだ、
車を置く場所は特に定めてなくて、
自由に停めてください、って感じですよね。
それはまだ考えてないってことですよね。
- 伊藤
- 内側だけで精いっぱいでした。
- 糸井
- そうですよね。
作品だから。
- 伊藤
- ここ軽井沢町では夏は静かに過ごす時期なので
工事をしちゃいけないんです。
そして冬は雪が多いと工事車両が入れない。
そんなふうに時間がかかったのが、
逆にわたしはよかったです。
急いで全部決めなきゃいけなかったら、
けっこう辛かったと思います。
建築士の相崎さんも大工の今泉さんも、
「ゆっくり考えましょう」みたいな感じだったので、
それもよかったなあと。
- 糸井
- そうかもね。
ここは「まさこランド」なんだよね。
そして不思議の国のアリスの部屋みたいに
この家があるんだよ。
- 伊藤
- え、でも、気持ち悪くないですか?
「まさこランド」って。
- 糸井
- いい、いい。
だって女の子はそういう遊びをするんじゃない?
- 伊藤
- 「リカちゃんハウス」的な。
- 糸井
- 男の子だったら、
家を作る的なことって、なんなんだろう。
理に適うかみたいなことをものすごく考えると思う。
たとえば丸太小屋の人は、
丸太小屋である理由が物語だから、
そこのところが好きなんじゃないかな。
- 伊藤
- 秘密基地とか、ツリーハウス。
- 糸井
- ツリーハウスは典型的にそうだよね。
まさこさんのまわりの男子たちは
何か言っているの?
- 伊藤
- 「よかったね、おもちゃができて」って言いますね。
- 糸井
- そうだと思う!
でも、男の場合はさ‥‥、
たとえばぼくが今やたらにご飯炊くんだけど、
水がどうだとか、鍋がどうだとか言ってるわけ。
それ、もっと簡単にできることだったんだよ、
って言われても、趣味だからやってんだ! って思うの。
鉄砲のおもちゃでバーンと撃ってるみたいなことと
同じようなもんなんだよ、きっと。
要る・要らないリスト
- 糸井
- この家をどう改修しようか考えるなかで
「ここ、要らないよね」ということを
相談する相手はいたの?
- 伊藤
- 建築士の相崎さんですね。
相崎さんは
「自分の作品を!」っていう方じゃなくて、
ストーブの方とおなじで、
わたしの言うことをおもしろがってくれたんです。
「この掃き出し窓、要らなくない?」とか、
30項目くらいある
「要る・要らないリスト」を見てもらって。
- 糸井
- うん、うん。たとえばそれでこの窓ができたんだね。
ここの借景、特に今の季節はいいですね。
- 伊藤
- はい。でも、夏もよかったですよ。
- 糸井
- そういえば電信柱が窓から見える位置にあるけど、
見えないように心で調節してるの?
- 伊藤
- そうなんですよ。特殊な目で。
ベッドから見える窓は、
朝起きたときに森の風景だけが見えるように、
電信柱が見えないような位置にしましたけれど。
- 糸井
- 客として来たぼくらにも、
電信柱、見えないですよ。
無意識で消そうとしてる。
電信柱ってありがたいものですけどね、
あれのおかげで電気が通っているわけで。
- 伊藤
- そうですよね。そればかりは避けられなかった。
この窓枠もいろいろ見に行ったんですけど、
気に入ったものがなくて、
作ってもらいました。
レールも、レールを押さえている釘も真鍮なんですが、
これはわたしのアイデアではなく、
建築士の相崎さんと大工の今泉さんが
「せっかくだから美しいものを!!」と
骨をおって作ってくださいました。
今泉さんもこの家をつくることを
おもしろがってくださって。
- 糸井
- そうなんだ。
- 伊藤
- キッチンの天板ですが、
最初は黒の人造大理石にする予定でしたが、
予算をかなりオーバーしてしまったんです。「モールテックス(樹脂を加えて防水性と
強度を高めた左官仕上げ材)にしようか」という案も出たんですが、
食卓にもなる場所だから、
モールテックスだと
冷たい感じになりすぎてしまわないかなと思って。そこで提案してくれたのが、
木に錆を塗って化学変化で黒くする加工。
結果、木でよかったなと思います。
あたたかみが出て。
こういうことも途中立ち止まって考えたり、
相談しながら進めました。
- 糸井
- 床は?
- 伊藤
- 床は東京の家でできないことをしたくて、
黒いタイルにしました。
この貼り方も、大工さんの提案で、
ほんのすこし隙間をあけているんです。
タイル張りの熟練の職人さんが、
ひとりで張ってくださいました。
そうすることによって立体感が出ますよって。
そんな、普通だったらできないことを、
スペシャルな人たちが周りにいて、
おもしろがってくれたから、
形になったっていう感じです。
- 糸井
- すごいことだよ。信じられないよね。
この椅子だってオリジナルでしょう。
- 伊藤
- はい、これは、須長檀(すなが・だん)さんっていう
軽井沢にお住まいの家具デザイナーの方に
作ってもらいました。
スツールの座面は
最初、黒にしようかって言ってたんです。
でも、床もキッチンも黒なので
かっこよくなりすぎるかなと、
楢にしてもらいました。
脚は金属なんですが、
床をこすってキィキィ言わないよう、先端を木に。
足をかける部分も金属のままだと冷たいので、
革を巻いてくれたんです。
- 糸井
- あ、柔らかい。
いい触感ですね。
- 伊藤
- スツールは座面の裏側の始末もきれいなんです。
それはソファに座って本を読んだりしていて、
ふと顔をあげたときに座面の裏側に目がいく。
だからその部分を
きれいにしてほしいってお願いして。
- 糸井
- これ、きれいだね。
- 伊藤
- 椅子やスツールの座面の裏って、
意外と気を遣っていないことが多いんです。
- 糸井
- そういうの、多いよね、うん。へーえ。
‥‥今日さ、ぼく、
どこかに批判めいたというか、
受け答えに「ああ、そう?」みたいな
冷たさがあるでしょ。
- 伊藤
- ええ、ある程度の距離があるなぁ、って、
ちょっとだけ思ってました。ふふふ。
- 糸井
- ぼくは、いつもなら
対談の相手と寄り添うように
一緒に歩くんだけど。
今日はもう、何十年に一遍ですよ、
「そうですか?」のトーン。
ものすごく珍しいケースです。
- 伊藤
- ちょっとさみしい感じがする!
- 糸井
- でもね、寄り添っちゃったらもう、
おしまいだなぁと思って。
自分はどうやら
ここから掃き出される側の立場だから。
- 伊藤
- それで先ほどあえて
「自分をまさこさん側に置いた」って。
- 糸井
- そうなんです。
掃き出される側として話を聞いてるの。
だから、道路に面した庭っぽいスペースが、
まだ手付かずでいるのを見ると、
すごく安心するんだよ。
まだ完璧にできてはいないんだなって。
あそこは、これから考えるんでしょ?
- 伊藤
- はい、これからです。
ちょっと先になりますけれど。
いろんなことを計画していて。
- 糸井
- そうでしょうね。それは楽しみです。
だって、外に繋がる庭って、
エッジが立てられない世界だから、
そこをまさこさんがどうするんだろうというのは、
ものすごく興味があるんです。
まさこさんは園芸とかするんですか。
- 伊藤
- いや、全然しないんですよね。
- 糸井
- そっか。
今日、よくわかったよ、
家人とまさこさんが話が合う理由が。
- 伊藤
- えっ、そうなんですか。
- 糸井
- ふたりとも“近代の人”なんだ。
だいたいのことに理屈が通ってるんだよ。
- 伊藤
- そうかなぁ。
それは糸井さんが
プリミティブな人っていうこと?
- 糸井
- 多分そうだね。
- 伊藤
- でもこの家自体は
すごいプリミティブじゃないですか?
ここに薪の火があり‥‥。
- 糸井
- ううん、全然ちがうよ。
その「火があり」というのはね、
まさこさんが入れたんだよ、造花のように。
- 伊藤
- はっ。
ほんと、そうなんですよ! そうだ。
- 糸井
- “はじめに火があり”っていうプリミティブとは
違うと思うな。いや、おもしろいなぁ。
来てよかった!
- 伊藤
- ああ、よかったです。
- 糸井
- 最初に、まさこさんは、
薪がオブジェになると言ったじゃない?
それ、かつてのぼくのような(広告の)仕事の人が
アイデアとして出す話なんです。
「薪、そこに置いたほうがアクセサリーになるよね。
それはそれでいいんじゃない?
自然を取り入れた感じで」って。
それをまさこさんはほんとにやってる。
- 伊藤
- そうなんです。ここに薪があるとないとで、全然違う。
ないと、ちょっと冷たい印象になる。
- 糸井
- もうぜんぜん違うよね。
そういうところが「いま」で、
まさこさんのおもしろさなの。
- 伊藤
- そっかぁ、プリミティブとは違うんですね‥‥。
わたし昨日、薪ストーブで
ほうろうの洗面器にお湯を沸かして、
足湯をしてたんですよ。
「すっごいなんかわたしって、自然派?
ふんふん♪」とか言って。
- 糸井
- ぜーんぜん! あはは。
それ、サプリみたいなものだよ。
- 伊藤
- そうかなぁ。でも自然なサプリですよ~。
- 糸井
- この話はね、勝ち負けじゃなくって、
それが交じり合ってのいま、ってことなんです。
- 伊藤
- そうですよね、わかりあえなくてもいいんですよ。
「わたしはあなたじゃないし、
あなたはわたしじゃない」ってことですから。
それが理解できなかったから、
今まで友だちと喧嘩になったりしたんだ、
って、ようやく、最近、わかってきたんです。
- 糸井
- おもしろいよね。
ぼくもべつにいいんだ、わかりあえなくても。
だってここはまさこさんの家だから。
でも、どっかでそれは自分に影響があるわけで。
たとえばの話、“中に鳥が出入りするような家”を、
ビジョンとして考えたとするじゃない。
「窓を開けておくと、鳥が入ってくる。
チュンチュンって言って帰るんだよ」って言ったら、
このオブジェの薪みたいにかわいいじゃない?
でも絶対に鳥はフンをするよね、
‥‥みたいなことがとても興味深いの。
- 伊藤
- 鳥かぁ。わたし、
生きているものは家のなかにはちょっと‥‥。
- 糸井
- うん。きっと、興味がないですよね。
- 伊藤
- 嫌いってことじゃないんですよ。
でも、家の中には、って思う。
だから花を飾るのもあんまり好きじゃないんです
- 糸井
- あ、花、そうだね。
生きている花は飾らないけど、
何も言わない枯れ枝はあってもいい?
- 伊藤
- そうなんですよ。それは大丈夫。
薪ストーブをつくる
- 伊藤
- 全室、壁の巾木(はばき。飾り縁とも。
壁と床の境につける部材)も省いたんです。
普通は境に隙間が出来るのを隠したり、
掃除機が当たったりするから傷つかないようにと
つけるものなんですけれど、
巾木の上ってうっすら埃が溜まるんですよ。
- 糸井
- まさこさんは、埃がつくのはイヤだと言うけれど、
掃除するのは全然イヤじゃないんですよね。
- 伊藤
- はい。汚れているのがイヤなので、
掃除は苦にならないです。
でもそもそも埃がたまらないほうがいいんです。
- 糸井
- だからかな、全部エッジがきれいなんだよね。
バリ島のリゾートに
インフィニティプールってあるじゃない。
プールの縁から水があふれて、泳いでいると、
空や海とプールが一体になったみたいに見える仕掛け。
あれもエッジがきれいなんだけど、
この家は、そんな印象だよ。
- 伊藤
- この家にそんなまっすぐな印象があるとしたら、
改修を担当してくださった
大工の今泉さんのおかげなんです。
斜面に建っている古い家なので、
積年の歪みがあったんですが、
それをきっちり直してくださった。
- 糸井
- 俺がこの家を買うならば、
その最初の歪んでいるような状態でも
「これでいいんじゃない?」と言いそうだよ。
売るときは掃除もしてあるだろうし、いいかなって。
その状態から、改修でこれをつくるって
大変なことだと思うよ。
よく「こうなる」って想像できたよね。
- 伊藤
- わたし、場所や人を薄目で見て、
「こうすればこうなる」って、
本質とポテンシャルを探るのが好きなんです。
- 糸井
- うん、うん。
それで「手を加えたら、こうなる」って
わかったんだ。
- 伊藤
- そうなんです。
人も骨格を見たりしますよ。
家もそれと一緒だなと思って。
そういう目で見ても、
この家はいいなって思ったんですよ。
- 糸井
- 「化粧ではごまかせないぞ」ってね。
この家も、まさこさんには、
最初から今の姿が見えたんだろうね。
そういう気配があったわけだ。
- 伊藤
- はい。景色も含めて。
天井が低いのは気になりましたが、
天井板を外したら空間が拡がったので、
梁だけ残して、天井に勾配をつけたんです。
これって集合住宅では実現できないことだなあと。
- 糸井
- 窓にカーテンはつけないの?
- 伊藤
- カーテンも要らないなって。
山の斜面に建っているので、
目の前を人や車が通ることはありませんし。
- 糸井
- でもよく見たらフックがある。
格納できる網戸もあるね。
- 伊藤
- 夏の日差しで、西日だけは遮りたいので、
フックをつけて、そこに布をかけるんです。
本当はブラインドをつければいいんでしょうけれど、
すっきりと窓枠だけにしたかった。
- 糸井
- 問題は、お向かいさんちとの関係だけだね。
外から見えるとしたら。
- 伊藤
- お向かいさん、ほとんどいらっしゃらないんです。
それに、見られることを心配するより、
美しいほうを選ぼう、って。
そういうことを、かなり考えたんですよ、
「要る」「要らない」を書き出してリストにして。
ちなみに、この薪ストーブも、
自分でデザインしました。
- 糸井
- えっ、これをデザインしたの。
こんなのは世の中になかったんですか。
- 伊藤
- なかったんです。
それを作家さんに作ってもらって。
- 糸井
- すごいことしてるね!
デザインって、どこまで指示をしたの。
半円がコンセプトですよね。
- 伊藤
- はい。まず、理想の形を絵に描いて、
それをもとに娘が紙で模型をつくってくれて。
- 糸井
- ええっ?
- 伊藤
- これなんです。
あっちにいったりこっちに持っていったりしているうちに、
煙突や脚が曲がっちゃったけれど、
最初はもっときちんとしていたんですよ。
- 糸井
- はい、はい。
これがあれば「こういうのが欲しい」ってわかるね。
でもさ、薪ストーブって、
ストーブ屋さんの歴史がすごくあって、
「前の型よりもこっちがいい」と、
自動車みたいに改良してるわけ。
だから新しくオリジナルで作るっていう
発想をしただけですごいなと思って。
- 伊藤
- weeksdaysでもの作りをするうちに、
「思いついたことは、
まず相手に投げかけてみる」というのが、
身についたからかも。
ダメなら断られればいいんですから。
- 糸井
- それをストーブ屋さんでやったんだ。
- 伊藤
- はい。ストーブや家具を作る
金澤図工の金澤知之さんという方に、
お願いすることができたんです。
「半円」というのを
金澤さんがおもしろがってくださって、
ノリノリで作ってくれたんですよ。
図面は建築士の相崎さんに描いてもらって。
- 糸井
- 実績があってのことなんだ。
薪ストーブっていろんな理屈があって、
それを知ってる人でないと、
「こういうデザインを思いついたから」
っていうリクエストをそうそう受けるわけには、
なかなか、いかないと思ったんです。
- 伊藤
- なにしろ火を扱うから。
- 糸井
- 危ないんですよね。
- 伊藤
- 実はこの元になる半円のテーブルがあって、
寝室の奥に置いています。
「weeksdays」で作ったものなんですけれど。
- 糸井
- あれと対応してるんだ!
- 伊藤
- 半円って、四角より、
動線が邪魔にならないんですよね。
黒い家具は空間が引き締まるので、
玄関の脇の壁と、
そこを背にしていちばん奥の壁に
それぞれ黒い半円のものを置いたら
いいんじゃないかなと思って。
- 糸井
- 「weeksdays」でつくったテーブルが
ヒントになったんだ。
- 伊藤
- そうなんです。これまで7年ほど、
「weeksdays」でものを作ってきましたが、
それを置く土台が欲しくなってきたんです。
それがこの家をつくるきっかけのひとつでした。
そして“イヤだな”と思うものがない家が欲しいなって。
- 糸井
- なるほどなぁ。
‥‥でも、それってさ、
絶対、男たちは追い出されるよなぁ!
- 伊藤
- あはは! そうですか?
- 糸井
- 男たちは自然の造物だからさ、
すぐ散らかすし、ものを増やすし、
まさこさんの引き算のスタイリングからは、
じわじわと、こう、なんていうの、
‥‥ほうきで掃き出されちゃうの。
- 伊藤
- そうですよねぇ。
イヤですねぇ、散らかされるのは。
- 糸井
- 女友達だってさ、ここに呼んでも、
おおぜいは泊めないでしょ。
- 伊藤
- そう! 「近くでお布団借りられるよ、
だから4~5人で泊まろう! 雑魚寝!」
って言う友達がいるんですけど、
毅然と断りました。
- 糸井
- それはダメだよね。
でもきちんと線さえ引いておけば
お客さまもお迎えできるわけだよね、
- 伊藤
- はい、それができる友達もいますよ。
- 糸井
- うん。でも、親しさを表わすために、
「行こうかしら、寝袋持って」
って言うのは違いますよね、
‥‥ぼくたちって、そういうタイプじゃない?
- 伊藤
- そうですよね、‥‥ん? ふふふ。
- 糸井
- 今「ぼく」を、ちょっとさりげなく
まさこさん側に入れてみた。あはは。
- 伊藤
- 「親しい人だけ」っていう線引きも、
いいんじゃないかなと思って。
自分の家なんだし。
- 糸井
- いいと思います。
- 伊藤
- お客さんが来ることで疲れちゃうのは、違うなって。
- 糸井
- ここは「わたし」という犬の犬小屋だからね。
- 伊藤
- ああ、わたしだけの小屋。最低限の。
ほんと、そうです。
- 糸井
- おもしろいね。
家を見ると、やっぱりわかるよね、その人が。