原宿の近くにありながらも、
インテリアやライフスタイルのお店が多く、
おちついた大人の町として人気の千駄ヶ谷三丁目。
この町に居を構える「TITLES」(タイトルズ)は、
世界各地で買い付けてきた
ヴィンテージの雑貨や家具を扱うお店です。
もともと、撮影やディスプレイのための
リース(貸し出し)が本業だったため、
「知るひとぞ知る」存在でしたが、
近年、販売も行なうようになったことで、
「あそこに行けば、おもしろいものが見つかるよ」
と評判になっているんです。
このお店を立ち上げ、いまも年に数回、
自ら海外での買い付けを行なっている
オーナーでありバイヤーの鵜飼健仁さんに
お話を聞きました。

鵜飼健仁さんのプロフィール

鵜飼健仁 うがい・たけひと

1951年東京生まれ。
高校卒業後、漫画家を目指しニューヨークへ。
帰国後、グラフィックデザイナーに。
世界中から集めたヴィンテージ家具や雑貨を
撮影用小道具として提供するリースショップ
AWABEES(アワビーズ)」「UTUWA(ウツワ)」、
そして販売も行なうインテリアショップ
TITLES(タイトルズ)」を運営。

その3
買い付けの極意。

──
いまも営業をしているということは、
お店の状況は、徐々によくなっていったと
いうことですよね。
鵜飼
知られるまでの3年ぐらいは大変でしたよ。
お店だけだったら、とっくに消えてました。
デザイン部門の収入をつぎ込んで補填して
なんとか回していました。
最初の1ヶ月なんて、売り上げゼロの日が何日もあった。
でも徐々に知られて行くにつれ、商品も増やし、
他にはない物を、ということを念頭に置いて
拡げていきました。
──
鵜飼さんが買い付けてくるものって、
自分の好きなものですか? 
それともトレンドを考えて?
鵜飼
後者は一切考えません。
自分が「好き」か「嫌い」かって、
一瞬で分かるじゃないですか。
ぼくが好きなものってね、
10段階の10のものではないんです。
そりゃ流石だな、カッコいいなとは思うけれど、
本当に好きなものはそのちょっと下あたり。
そこを中心に、だんだん幅を拡げていった感じです。
──
じゃあ、ピンと来るものをパッと買う?
鵜飼
そう。早いですよ。
たとえば、3年前かな、
ポートランドとロサンゼルス、縦に移動してね、
実質8日間で1200点買ったことがあるんです。
1200点っていうのは、吟味してたら買えない量です。
そのスピードは最初からあったような気がする。
ひとつ、亡くなった先輩から教わったことがあって、
「アメリカで買うときは、棚買いをしろ」。
棚買いすると、駄目なものもあるけど、
いいものが混じっていれば、それでいいんだから、
吟味して見過ごすよりも全部買えと。
あるいは、この棚、全部要らないみたいに判断しろと。
──
この棚の中からいいものを選ぼう、
とすると、時間がかかってしまうんでしょうね。
鵜飼
ただ、当時のアメリカの話ですけれど。
今は価格が高くなったからそんなことできないですけどね。
──
じゃあ、ヨーロッパはヨーロッパ、
アメリカはアメリカで、いい人に巡りあった。
幸運ですよね。
鵜飼
はい。その人が俺に与えてくれた一番のラッキーは、
仕入れ先を教えてくれたことなんです。
ふつう教えないですよね。
自分が苦労して何十年もかけて見つけた仕入れ先って。
──
企業秘密ですものね。
鵜飼
多分そのときに、「辞める」って決めてたんでしょう。
実際、2、3年してから廃業したんですよ。
──
「いい後輩ができた」と思ったのかもしれませんね。
鵜飼
そうかもしれません。
最初にアメリカへ買い付けに行ったときは、
その人が手配してくれたバンに、運転手がいて、
安く泊まれていいホテルも紹介してくれて。
「何でこんなに親切なんだろうか」と思うくらい。
そんなわけで、アメリカでもいいスタートを切れました。
それから、3、4年前は年に8回ぐらい行きましたが、
今は年に4、5回くらいですね。
──
いまはどこを回るんですか。
鵜飼
まずイギリス。田舎とロンドンですね。
それから、フランスは、
古いものが少なくなっているので、
新しい物を買いに、たとえば、
メゾン・エ・オブジェ(MAISON & OBJET)
みたいな展示会に行ったりします。
アメリカはロサンゼルスがメインで、
ポートランドも行きます。
東は行ってないんですよ。
それから、年に1回ぐらいは北欧。
デンマークやフィンランドです。
一度、伊藤さんに同行してもらって、
「伊藤まさこが選ぶ」っていう企画で、
北欧の古い食器を集めました。
面白かった。彼女のスピード感、さすがだなと。
──
買い付けの早い鵜飼さんをしても?
鵜飼
違うスピード感なんですよ。
彼女が買い付けする姿って、見たことなかったわけ。
で、お店に行って「ここだよ」って言ったら、
「へぇ‥‥、すごいねぇ」なんて、
最初はのんびりしてるんです。
「戸惑ってんのかな?」なんて思って、
ぼくは出されたお茶とお茶菓子をいただいていたら、
テーブルの上にズン、ズンって、
あっという間に食器が積み上がっていました。
「こんな感じでいいかなぁ?」みたいな(笑)。
やっぱり、あの人の目っていうか感覚、
素晴らしいなと思いました。
もっと驚いたのは、次のお店に行っても、
さらに次のお店に行っても、目が疲れないんですね。
買い付けで一番困るのが、10日ぐらいの買い付けだと、
5日目ぐらいから目が飽きてくる。
良い物を見ても感じなくなっちゃうんです。
そして買い付けの量が減ってっちゃう。
それが自分の心配事で、滞在先で毎朝思うのは、
「心を、スポンジを絞った状態にして行きたい」
ってこと。
昨日までのことを一切忘れて、全部吸い込みたい。
そうじゃないとね、飽きちゃって、
元々買い物っていう行為が好きじゃないんですよ。
──
えっ。
鵜飼
東京にいてもね。ショッピングという名の行為が、
もう面倒臭くて面倒臭くて。
──
意外です。
鵜飼
そういう自分を知っているので、
初日に一番買えそうなディーラーとか、
買えそうなお店を充てがうんです。
なだらかな出発ではなく、
最初に飛ばそうぜ、って。
あとは「迷ったら買う」。
「これどうしようかな、取っといて、また後で考えよう」
っていうと、広いイギリスの郊外の
アンティークマーケットなんて、
だだっ広い原っぱに、ディーラーが10トントラックで、
外に物を置いて行くようなところなんですよ。
そんなところ、1日かけても回り切れないぐらいなのに、
1回見て「後でね」なんて、無理なんです。
場所も分かんない、誰か買っちゃう。
だからもう、行ったその場から「これ買う!」。
──
鵜飼さんが行かずに、
スタッフが行くことはあるんですか?
鵜飼
それはまだ1回もないんです。
育てたいですよ。
この膝の痛さを考えたらね(笑)。
──
鵜飼さんの買い付けてきた家具は、
ずっとリース用だったものを、
いまは、販売もするようになったんですよね。
鵜飼
そうなんです。
「AWABEES」っていうリースのお店を
15年ぐらいやって、何となく形がついて来て。
その間に「UTUWA」っていう、
食器とか料理本とか、料理のためのお店を開き、
2、3年経ったところで、次は
「売る」ということを、やってみたいなと
「TITLES」をつくりました。
それは、これまでリース用に買い付けた家具や雑貨が
たくさんあるからという以前に、
こんなことを思ったんです。
昔はね、スタイリストがリースで手軽にまかなうことを
よしとしない大御所のかたもいたんですよ。
「手軽にリースショップ行っちゃ駄目よ」と。
「自分の足で、ショップに行って、
コミュニケーションして、物を借りてらっしゃい」と。
当時は「撮影のために物貸して」って言うと、
ダメだったんです。いちど使ったら新品じゃなくなるから。
だからこそスタイリストの腕の見せ所だったわけで、
「リースのお店では手軽に借りられるから、
スタイリストとしての技量が伸びない」って言うわけ。
ぼくはその意見、なるほどって思ったんです。
ところが時代が変わり、一流の家具店でも
インテリアスタイリストの方を歓迎するようになった。
クレジットが入ると宣伝効果があるから、
むしろ簡単に貸してくれる。
彼らは、商用として売る物を仕入れているわけだから、
そこには下代があり、輸入可能な物だけが入って来てる。
うちは貸すわけだから、1点あればいい。
下代とか関係なく、他のいいお店が輸入できないような
いい物をきちんと販売すればいいんじゃないかな、
って思ったんです。
だから新品でも、「日本には出してないよ」
っていうところから、あえて1点だけ買ったりする。
そうすると先端のインテリアショップにないようなものが
ここにはあるよ、っていうふうになる。
「ちょっと新しい面白い物はこっち行ってみよう」って。
──
鵜飼さんが選んだもの、
「欲しい」っていう人はきっと多いでしょうね。
でも、長くリースをやってこられたから、
そうとう在庫もあるんじゃないでしょうか。
鵜飼
たしかに倉庫問題っていうのがあってね。
4回、倉庫の引っ越しをしてるんだけど、
だんだん大きくなっているんです。
いまの倉庫も満杯に近い状況で、
やっぱり本格的に「売る」ことに取り組まないと、
ということもあります。
と同時に、前から「欲しい」っていう声もありましたし。
ただ、売ることについては、すごく素人です。
これからですよね、どうやっていくのか。
──
ありがとうございました。
鵜飼さんの仕事、ようやく理解できました。
そんなタイミングで、「weeksdays」と
組んでくださったのも、なにかのご縁だと思います。
今回、鵜飼さんが長年買い付けたなかから
伊藤さんが選んだ家具、
欲しい人のところに届くといいなって思います。
鵜飼
どうもありがとうございました。
(おわります)
2020-02-24-MON