昨年、一昨年とたいへん好評いただいたので、
ことしもやります、年末年始の恒例企画、
「私のほぼ日プレイリスト」。
ほぼ日刊イトイ新聞の膨大なアーカイブの中から、
「音楽のプレイリスト」をつくるみたいに、
おすすめコンテンツを選んでしまうこの企画、
今回の選者は、ほぼ日刊イトイ新聞の読みものを
編集している、10人の書き手の乗組員です。
ということで、3年目のテーマは「自薦」!!
24年のほぼ日ヒストリーの中から、自ら担当した、
とっておきのコンテンツをたっぷりご紹介します。
12/26(月)から1/5(木)まで11日間の毎日更新。
この年末年始に、どうぞおたのしみください。

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11 山下哲のプレイリスト 2023-01-05-THU

ふにゃっとしたよみものを。

こんにちは。
あけましておめでとうございます。

せんえつながら、
「よみものチームが自薦するコンテンツ」の
大トリ‥‥というか、
「しんがり」をつとめます、
ほぼ日刊イトイ新聞の山下と申します。

とはいうものの、山下は現在、
「よみものチーム」に所属しておりません。
44歳のとき、人生の初就職で「ほぼ日」に入社して、
そこから約8年間、
「よみものチーム」のぼくはメンバーでした。
(いまは「TOBICHI」や「ほぼ日曜日」など、
リアルな場所でのコンテンツを企画しています)

ですので今回のおすすめは、
自分が「よみものチーム」に属していた時代のものです。
つまり、何年も前のコンテンツばっかりです。
そこのところをご了承のうえ、
おすすめされていただけますとさいわいです。

自薦を行うために、
所属期間8年のあいだに担当した記事を
思い出すかぎり紙に書きならべてみたのですが‥‥
いやはや、なんとも、大から小まで、
いろいろなテーマに取り組んだものです。
ありがたいことです。

客観的にそれらを眺めていましたら、
うっすらと、自分のコンテンツの傾向が見えました。
なんといいましょうか‥‥
「ふにゃっ」としたのが多い。
「やわらかい感じ」というのは優等生な言い方で、
正直な言い方としては、
「かたくるしいことからなるべく離れて居たい感じ」
です。
「それは笑えるか? かわいいか? あたたかいか?」
そんなことをたしかめながら、
企画を組み立て、書いていた気がします。

「ふにゃっ」としたのを10個、
よろしければお読みください。

 

なんとまぁ、足かけ20年前にはじまったコンテンツです。
これを連載しているとき、
ぼくはまだほぼ日の乗組員ではありませんでした。
外部のフリーとして、
ほぼ日で連載してもらっていたんです。
この連載からあれこれあって乗組員になるのですが、
それはまた別のお話。
「カワイイもの好きな人々。(ただし、おじさんの部)」は
世の中のふつうのおじさんたちに、
かわいいものについてのお話を聞いていくコンテンツです。
「おじさんの顔写真を載せない」
「ふたりきりで取材をする(写真も自分で撮る)」
「相手の話につっこみをいれない」
というようなことを自分ルールにして続けていました。
ふにゃふにゃと、約4年にわたって61回も。
途中で書籍にもなったんですよ。あれはうれしかった。
タイトルとヨドガワ(冒頭のリード文)は、
糸井さんに書いてもらいました。
それもしびれるほどうれしかった。
最後の更新、「チェブラーシカはカワイイ。」を
お読みください。
ほかに60個も「おじさんのカワイイ」があるので、
気が向いたらそちらもどうぞ。
‥‥これ、「最終回」と言ってないんです。
急につづきをはじめてもおもしろいかもしれない?
そんなことができるのかな?
できたらおもしろいかもしれません。
なにせ、「もっとおじさん」になっているわけですから。

 

上のコンテンツ、
「カワイイもの好きな人々。(ただし、おじさんの部)」で
出会ったイラストレーター、福田利之さんとはじめた
コーヒーのコンテンツです。
「第11回 コーヒーに賭ける男の闘い(栓抜き編)」を
ぜひお読みください。
偶然にばかばかしいことが起こったので、
それをそのままよみものにしました。
大笑いしながら書いたのをよく覚えています。
ただただ、「栓が抜けない」んです。
ええ、ほんとにそれだけなんです。

福田さんとはこのあとにも
数々のコンテンツでごいっしょしました。
どれもこれもふにゃっとした読みごたえで、
すべての根底にあるのは「ペーソス」です。
思えばぼくはペーソスというものが大好物で、
福田さんという人は「歩くペーソス」なんですね。
だから、ずっと仲良しなのだと思います。

福田さんとのコンテンツでは、
コーヒーをテーマにしたものも数多いのですが、
誇らしく思うのは
「ずっと初心者」であるということ。
いつまでたってもコーヒー通(つう)にならない。
なりたくないのだと思います。
入門者のままうろうろしているたのしさが好き、
というのはあらゆるコンテンツで共通しています。

 

ああ、ばかばかしいのがつづきます。
とびぬけてばかばかしいです。
「バフンウニって、そんな名前をつけられた本人は
たまったもんじゃないよね」
という永田さんとの雑談からはじまったコンテンツでした。
毎週登場する気の毒な名前の生物や無生物が、
自分につけられた名前を嘆くのです。
‥‥って、これ53回もやったのか?!
われながら呆れます。

永田さんと山下、ときどき武井さんで、
順番に書いていく連載でした。
毎回のふにゃふにゃのイラストは
文章を書いた人が描いていて、
それもさりげないおたのしみ(自分たちの)でした。

「嘆きその28 踊り場」をお読みください。
書き終えたとき、
「書けた!」とガッツポーズをした一編です。
なにが「書けた!」やねんと思いますけれど(笑)、
文中の歌詞も含めて個人的には
おおきな手ごたえを感じた回だったのです。
アクセス数はぱっとしませんでしたが、
それはもう、どうでもいいことでした。

 

星野源さん、浜野謙太さん、
ボーズさん、タナカカツキさんという、
豪華キャスティングでの座談会です。
収録がとにかく盛り上がりました。
現場の和室の窓ガラスが熱気で曇るほどに。

ただ、盛り上がっている話題の90%が、
いわゆるその、「シモ」のことなんです。
「おなかがよわい男たち」の座談会ですからね。
話してることは、
「う」ではじまる3文字の話ばっかり!

お腹を抱えて笑い続け、
「お疲れさまでしたー」となって、
はたと気づくわけです。
「これ、ほぼ日に載せられるのか?」

うんうんうなって考えて、
思いついたのが真逆の発想、
「きれいな言葉に置き換えればいいのでは?」
いま思えば頭の悪い単純な発想ですが、
おかげさまでほぼノーカットで書けました。
アクセス数ものびたみたいです。
いまだに「読んだ」という声を聞くくらいです。
ある乗組員は、
「はらよわ男を読んで、
ほぼ日に入社したいと思いました!」
と面接で言って入社したそうですが、
それはどうかと思います。

 

ふにゃっとしすぎて、もう寝ちゃってるよ!
というコンテンツです。
これも「あれは笑った」と仲間や読者さんから
よく言われるコンテンツのひとつです。
光栄なことです。
寝てただけなのに。

ぜんぶで5回の連載なのですが、
1回めを読むだけで十分かもしれません。
「その1 おやすみアニメ?」
をお読みください。

このころって、こんなにひどかったのか‥‥
いや、あのですね、
言い訳のように書いておきますと、
現在はこんなことはありません。
ぜんぜん寝てません‥‥というのは嘘ですが、
あんまりやらかしていません。
フリーアドレスで自分の席が固定されなくなったり、
ぼくが「ほぼ日曜日」や「TOBICHI」を
うろうろ歩いていることが多くなったからでしょう。
ゆーないとさんは、いまや母となり、
会社に要られる時間をフルに使っているため、
やらかしている姿を最近はまったく見ていません。
ほんとうですよ?

「白眉」の箇所は、
ゆーないとさんの「メールの文面」です。
あらためて、念をおしますが、
彼女はこれらを本当に書いて送信しました。
ノンフィクションです。
そこをたしかめるためにも、ご一読を。

 

「茶番」「楽屋落ち」の極みといえるでしょう。
そもそもはほぼ日の新年の名物おやつ、
「ザッハトルテ」を紹介するための企画でした。
応援なんかしなくても、
おいしいから人気があって、
まいとし発売してすぐ完売になるんです。
アピールするためのよみものなんてまったく不要な、
優秀なチョコレートケーキなのです。
なのに、まいとし長いのを書いていました。
最初はふつうに「乗組員の試食会」でしたが、
回を重ねるごとにエスカレートして、
いつのまにか「家族コント」になっていました。

そんな「家族コント」は、
「よみものチーム」をぼくが卒業するのに合わせて、
2016年に最終回をむかえました。
(ザッハトルテの販売はその後もつづいています)

たくさんありますが、
バランスのいい「ザッハトルテ家族2014」を
おすすめしておきましょう。
よっぽど時間がおありでしたら、
順番に読み、エスカレートのさまを
体験していただくのも一興かもしれません。
ただし、茶番です。ゆるいです。ふにゃふにゃです。

くだらなさしかない内容ですが、
毎回、全身全霊で書きました。
そっとおすすめします。

 

東日本大震災が起きて、
ほぼ日のよみものは大きく変わりました。
「できるだけふざけていたい」ぼくでさえ、
ふざけることはいったんしまって、
震災に関わるコンテンツをいくつか担当しました。

そんななかでも、
すこしでもやわらかく震災のことを話すコンテンツが
できたように思えたのがこのインタビューでした。
お話をうかがったのは、
水中写真家の鍵井靖章さんです。
震災直後から東北の海に潜り、
ダンゴウオというキュートな魚を撮り続けることで
再生していく海の物語を伝えてくれた方のお話を、
江の島水族館でゆっくりと聞きました。

できあがった原稿は、
「カワイイもの好きな人々。(ただし、おじさんの部)」の
特別編のような雰囲気になりました。
ほんとうに伝えたいことは、
自分にできるいちばんの方法を使うのかもしれません。

ダンゴウオは、カワイイ。

 

これも、震災に関わるコンテンツです。
「東北の気仙沼に編みものの会社をつくる」
というプロジェクトの歩みを
レポート形式で記事にするのがぼくの役割でした。

ほんものの、一流のセーターをつくるために、
プロジェクトの一行は、
ヨーロッパの西の端、アラン諸島に行きました。

一行のメンバーは、発起人の糸井重里、
プロジェクトリーダーの御手洗瑞子さん、
地元・気仙沼の斉藤和枝さん、
そしてニットのデザインを担当する
三國万里子さんです。
こうした主要メンバーに、
ほぼ日からはレポートを書く山下と
ページデザインをする山川路子が同行しました。

たのしい道中でしたがぼくには
(きっと山川みっちゃんにも)、
けっこう大きなプレッシャーがありました。
しっかり届くコンテンツに仕上げなければ、
ただのヨーロッパ旅行になってしまうわけですから。

結果的には、
多くの人に伝わるよみものができたと思います。
それはもちろん、
主要登場人物たちのおかげです。
そして、取材先で出会った奇跡のような事実と。

ご存知のように、
「気仙沼ニッティング」は独立して
人気の会社となり、気仙沼から世界中に、
かわいくてうれしいニットをいまも届けています。
気仙沼に住居を移した
御手洗瑞子社長はますますお元気そうです。

「斉吉商店」の斉藤和枝さんとは、
親密でたのしい関係がずっと続いています。
和枝さんは、永遠にぼくらの先生だと思っています。

三國万里子さんとは‥‥
言うまでもないかもしれません。
様々なほぼ日コンテンツへのご登場、
編みもののお店「Miknits」
何冊かの書籍もほぼ日から出版しました。
『うれしいセーター』という一冊は、
ぼくが編集を担当しました。
2年をかけて三國さんといっしょにつくった、
たからもののような書籍です。
そして三國さんは2022年、
初のエッセイ集を新潮社から出版
それはそれはすばらしい一冊です。
これについては
書きはじめたらとまらないのでこのあたりで。

三國万里子さんという
稀有で美しい才能との出会いは、
ほぼ日のよみものを手がけていくなかで
もっともうれしかったことのひとつです

 

糸井重里は、ゲストと会話をする
「対談」というかたちで
ほぼ日のよみものコンテンツに登場するケースが
いちばん多いと思います。

その対談とはまったく違う方法、
観客に向けてひとりで一方的に話す、
いわゆる「講演」というスタイルで
糸井さんがほぼ日に登場することはまずありません。
おそらく本人も、
一方的な話が好きではないのだと思います。

その意味で、これは、
たいへんめずらしく貴重なコンテンツと言えます。

あの日、記憶では約2時間ほど、
糸井さんはぼくら乗組員たちに向けて
たっぷりと語り続けてくれました。
ときに熱く、ふいにしみじみと。
一度もふざけることなく、あくまでも真面目に。

ただ、そのテーマが「あんこ」なのです。

語り手が厳粛に話せば話すほど、
会場にふしぎな「おもしろみ」が膨らみました。

真顔で、あんこの話。

観客たちはどうしても吹き出してしまいます。
語り手は怒ることなく、
「なぜ君たちが笑うのか意味がわからない」
という本気の表情を見せます。
それがまた次なる笑いのうねりを呼んで‥‥
ほぼ日・田口くんのデザインと写真が
また絶妙でナイスです。

お読みください。
タイミングもちょうどよく、
10年前の)お正月コンテンツです。

 

よみものチームに居るあいだには、
糸井さんの対談コンテンツも何度か担当しました。
現場に同席して、対談を聞き、原稿にまとめる。
それぞれが、編集者冥利に尽きるお仕事でした。

そのなかから、ひとつをおすすめします。
よみものチームでぼくが最後に編集した、
宮沢りえさんと糸井さんの対談です。

リードの一部を引用します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「わたし、試練はごほうびだと思ってるんです」
笑顔でつぶやいたこの言葉が、
その場にずっとふりそそいでいるような、
なごやかで、親愛に満ちた、明るい対談でした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ほんとうに、そんなあたたかい空気が
現場ぜんたいにやわらかく満ちている時間でした。

ふたりのあいだに、
40歳」というテーマをぽんと置いて、
対談は進んでいきます。

悲しい出来事も、厳しかった思い出も、
りえさんは微笑みながら話してくださいました。
それを受け取った糸井重里は、
互いに信頼があるからこその言葉を
ゆっくりと、りえさんに返していきます。
ときどきユーモアをまじえながら。

そんなやりとりが続くこの対談には、
なんだかマッサージとか温泉のような
効能があるように感じています。
やさしくほぐされるだけではありません。
ほぐされたあとには、
ぐいっと立ち上がる活力が満ち、
さあ、たのしく生きるぞと思えるような。

どんな時代の、どんな年代の人にも、
読んでほしいコンテンツです。
なにかの節目ごとに、
読み返すのもいいと思います。
ぼくはそうしています。
シンプルな言い方ですが、勇気がわくのです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

最後のさいごに、
「しんがり」として、ひとことごあいさつを。

年末年始の読み直し企画、
「私のほぼ日プレイリスト」、
20222023年版はこれにて終了です。

これからも、ほぼ日の「よみもの」を
どうぞよろしくお願いいたします。

身内をほめるのはどうかとも思いますが、
ぼくはやっぱり、ほぼ日のよみものが好きです。
身内なのに、こういういいかたは妙ですが、
2023年もぼくは、ほぼ日のよみものに期待しています。

「ほぼ日のよみものが読めるのはほぼ日だけ!」

あたりまえの言葉を置いて、
締めのごあいさつを終わらせていただきます。
ここまでお読みくださり、
こころより、ありがとうございました。

(おわります)

2023-01-05-THU

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