コレクション展 鳥取県の工芸 ─ 絣織の美 会場風景

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さあ、ここからのコレクションルームでは、
友岡真秀さんにご案内いただきます。

よろしくお願いいたします！

友岡

こちらこそ、よろしくお願いいたします。

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鳥取県立美術館のオープンにともなって、
前身となる
鳥取県立博物館にあった美術作品の多くが
こちらへ移ってきたと、
先ほど尾﨑館長にも教えていただきまして。

友岡

ええ、そうなんです。

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友岡さんも、もともと博物館でお勤めに？

友岡

はい。

わたしも博物館の美術部門で活動しており、
分離独立にあたって、
こちらの新しい美術館に移ってきました。

──

たくさんのコレクションとともに。

友岡

はい、分量でいうと、
博物館の美術部門のコレクションのうちの
約９割が、
鳥取県立美術館へ移管されました。

一部の鳥取市ゆかりの近現代の工芸作品や、
より古く、
鳥取藩ゆかりの主要絵師による作品などは、
博物館の所蔵として残しています。

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でも、もともとは
同じところにあった作品なわけだから。

友岡

そうですね。可能な限り、
相互に展示の機会を
多く設けたいと思っています。

同じ鳥取県が所蔵する作品として、
どちらの館でも、
より簡便に展示できるようにしていこうと。

──

それは、すごくいいですね。協力体制。

友岡

当館には１室から５室まで
コレクションギャラリーがあるんですが、
必ずしも、
所蔵作品だけを展示しているわけでなく、
たとえば、いまギャラリー３では
倉吉博物館からお借りした作品も展示していますし、
ギャラリー５では
博物館所蔵の作品もご紹介しているんですね。

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コレクションギャラリーといっても、
「鳥取県」という地域にある美術作品を
広く柔軟に展示しているんですね。

それは、表現の幅も広がりそうです。

友岡

コレクションを軸としながら、
作品に対する理解を深めたり、
広がりを持たせたりできるような美術館に
できたらいいなと思っています。

──

今回、ギャラリー１と２は
開館記念展の会場とされているので、
まずギャラリー３から、お願いします。

友岡

こちらの展示室は
工芸と彫刻を展示するために設えていて、
とくに７メートルの天井高のあるスペースと、
自然光を採り入れる窓を設けていることが特徴です。
今回、入口側の
壁面ガラスケースを備えたスペースでは
「絣織（かすりおり）の美」と題して、
鳥取の染織文化を代表する
「絣織」にスポットを当てています。

コレクション展 鳥取県の工芸 ─ 絣織の美 会場風景

──

絣って、鳥取県の名産だったんですか。
知りませんでした。

友岡

山陰でも人気を集めていたようで、
県内ではとくにここ倉吉と、
西部の弓浜が有名ですね。

同じ絣でも、倉吉絣は工場制手工業、
弓浜絣は家内制手工業で
多くつくられたという経緯があるので、
地域によって織り方や模様に個性がある。
当館が所蔵している絣は弓浜のものが中心なので、
今回は地域の文化として
倉吉絣も紹介するために、
倉吉博物館から作品をお借りしています。

──

もともとは
あくまで工芸品、実用品なんでしょうけど、
こうして額装されていたりすると、
愛でたり鑑賞する対象として、純粋に素敵。

友岡

そうですね。現存する反物の一部だったり、
切れ端だったりすることもあって、
こうして額装しているものもあります。

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つまり、古いものなのですか？

友岡

起源としては江戸時代、
文政年間にさかのぼるようですが、
今回展示しているのは
明治から大正、昭和にかけてのものが中心。

もちろん、いまでも
制作されている職人さんはいらっしゃって、
ご自身で織った絣を
身にまとっておられる方もいます。

蚊絣着物　明治期　倉吉博物館蔵

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模様にユニークな名前がついてるんですね。

鶴亀、獅子と牡丹、吉祥‥‥あたりは
わかるとしても、
虫の巣、蚊、豆腐‥‥って、けっこう意外。

友岡

おもしろいですよね（笑）。

四角の模様だから「豆腐みたい」って感覚、
日本人らしくて愛らしいなと思います。
今回の展示では英訳もつけているのですが、
これらの名前のニュアンスを
どんなふうに訳すかは悩みどころでしたね。

豆腐つなぎ文絣着物　明治・大正期　村穂久美雄氏蔵

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お味噌汁のなかに入ってる、
ちょっとちっちゃめの豆腐みたいですよね。

絣の模様からも、倉吉という土地の文化が
感じられるってことなのかな。

友岡

鳥取にはいくつかのミュージアムがあって、
それぞれに土地ゆかりの特徴的な作品を
収集しているんですが、
今回のグランドオープンにあたっては
この美術館が建っている倉吉という場所を
少なからず意識したい、という思いがありました。

ですから、このまたとない機会に、作品を通じて、
地元への思いを伝えられるのはうれしいですね。

──

絣織のおとなりのスペースでは、
うってかわって彫刻作品が展示されてます。

開館記念展でも拝見した、辻晉堂さんだ。

友岡

はい。辻は鳥取県西部の伯耆町の出身。
戦後はいまの京都市立芸大で教鞭を執っています。

現在は「辻晉堂の世界」と銘打った展示の
第１期で、
初期から晩年に至る制作の全貌を紹介しています。
（※2025年６月現在は第２期の展示を公開中）

コレクション展 鳥取県の彫刻 ─ 辻晉堂の世界01 会場風景

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たくさんありますね。
おっきな作品から、ちっちゃな作品まで。

友岡

辻は、じつは画家志望だったそうですが、
上京すぐ彫刻に転向して、独学で学んだとされます。

はじめは木彫で、
再現的な人物像をつくっていた。
でも、しだいに
「目の前のモデルを写すだけでいいのだろうか」
と疑問を持つようになり、
素材研究を進めていくなかで、
様式を次々に変えていったんです。

──

なるほど。

友岡

セメント、石、鉄などを使う時期を経て、
戦後は京都の陶芸文化に触れ、
また職場の同僚となった
陶芸家の八木一夫との出会いにより、
陶土による彫刻（陶彫）に移行していきました。

ごらんのように登り窯で
非常に大型の作品をつくるようになる。
ただ、大きな作品を窯に入れると、
他の人のちいさな作品に
うまく火がまわらないこともあったりで、
何でしょう、
やや「煙たがられた」ようなことも‥‥。

──

なるほど、「窯」だけに（笑）。

こちらの作品は‥‥
同じようなものを企画展で見ましたけど。

友岡

はい、あちらは《寒山》ですね。

──

ということは、こちらは《拾得》ですか。

友岡

たぶん《寒山》は、
もっと白く見えたかと思います。

──

あ、そうだったかも。

こちらの《拾得》は、
たしかに《寒山》より茶色いような。

後方右：辻晉堂《拾得》1958 鳥取県立美術館　中央：辻晉堂《沈黙》1957 鳥取県立美術館

友岡

同時期の作品でも色が異なっているのは、
焼成の都合によるところが大きいようです。

辻は《寒山拾得》というテーマに
幾度となく取り組んでおり、
いろいろなかたちで作品を残しています。
こちらは自刻像。辻本人ですね。

──

へええ‥‥味わい深い！　これいいなあ。

このちっちゃいお部屋っていうか‥‥
家っていうか、庵っていうか、
それごとつくっているのがいいですねえ。

友岡

辻の晩年の作品になるのですが、
1960年代後半には、
京都では、環境汚染の関係で
登り窯が焚けなくなっていたようです。

ですので、自宅に設置した
電気釜での制作に移行したんです。
それ以降、作品は小ぶりになり、
粘土細工のようなものが多くなっていきました。
よく見ると、
座っている辻の背後に徳利があります。
辻のお酒好きが垣間見えます（笑）。

辻晉堂《泥古庵》1979年 鳥取県立美術館蔵

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こちらの大きな作品は、《沈黙》。

友岡

これ、どちらが作品の「正面」なのかが
明示されていないんですけど、
現状の展示では「裏」に見える側が表で、
布袋を掲げた僧侶が施しを受け、
一瞬の沈黙が生まれる瞬間を表している、
という説もあるんです。

──

なるほど。彫刻の「正面」って、
あんまり意識をしてこなかったかもです。

人物像の場合であれば、
顔の見えるほうが
当然「正面」なんだろうなと思いますし、
抽象的な作品だったら、
展示の向きで、
何となく「こっちが正面かな」くらいで。

友岡

彫刻作品の場合、
全方位から見てもいいよ‥‥というより、
どっちが表なのか、裏なのか、
作品の正面性が問われるケースもあって。

とくに辻の作品は正面性が強いものが多いので、
この作品についても、
調査を進めていきたいなと思っています。