友岡

続くコレクションギャラリー４は、
基本的に「紙もの」の作品を展示するために
設えています。

今回は手前が版画、奥が写真という構成です。

コレクション展 鳥取県の写真と版画01 会場風景

──

つまり、鳥取県ゆかりの版画と写真、ですか。
さっきの辻晉堂さんの版画もある。
あ、これも《寒山拾得》がテーマなんですね。
（※2025年６月現在は第２期の展示を公開中）

左：辻晉堂　《長い長い行列》 1966 鳥取県立美術館蔵　右：辻晉堂　《寒山拾得》 1967 鳥取県立美術館蔵

友岡

はい。辻は一時期版画も制作しており、
《ミロのヴィーナス》が
日本で特別公開された時の様子をテーマにした
作品なども。

鳥取の版画というくくりになってはいますが、
作品を通じて、地域の風土や特徴が
見えてくるというより、
作風の多彩さを感じていただけると思います。

──

ちなみに鳥取県立博物館の時代は、
常設展示室って、どんな感じだったんですか。

友岡

美術部門の常設展示室としては、
ひと部屋だけだったんです。
それに加えて、
３室あるうちの特別展示室のひと部屋で、
「テーマ展」というかたちで、
コレクションを中心とした小企画を
年に何本か開催していました。

そういうわけで、なかなかみなさんに
「常設」というかたちで
多くの作品を見ていただくことが難しかった。
美術館では
コレクションギャラリーが５つに増え、
ジャンルごとにご紹介し続けることが
叶うようになったので
展示期間の制限がシビアな
版画や写真、近世絵画など紙の作品についても
計画的に展示して、
いつ来館しても、主要な作家を
ご覧いただけるようにしていけたらと
思っていますね。

──

それは、とってもいいことですね。
作品にとっても、地域のみなさんにとっても、
ぼくみたいに外からの人にとっても。

こちらの塩谷定好さんという写真家の作品は、
まるで絵のようです。

塩谷定好《村の鳥瞰》1925 鳥取県立美術館

友岡

1899年生まれで、本展示では、
もっとも古い世代の写真家です。

絵のように見えるのは
「芸術写真」と呼ばれるジャンルの作風で、
戦前に盛んだったんです。
生まれ育った赤碕という町を拠点にして、
独特のソフトフォーカスを用いたり、
撮影した写真に絵具や鉛筆で修正を施したり、
引き伸ばしたときに
わざと印画を歪めたりして仕上げているんです。

──

すごい、そんないろんな工夫を。
そして、植田正治さんの師匠にあたるんだ。
《台所道具を配せる主婦像》も、いいなあ。

友岡

植田は塩谷のことを「神様」と呼んで
尊敬していました。
当時の写真雑誌などにも頻繁に掲載されたり、
自身で寄稿を重ねたりと、
注目されていた作家です。

中期には
さまざまなスタイルを展開していきますが、
なかでも人物を正面から捉えた
一連のポートレートは、
一種の「演出写真」と言えるものです。
その系譜の中に、
植田正治作品も位置づけられると思います。

──

砂丘で撮ったセットアップ写真、みたいな。

植田さんの作品も、
構図のおもしろい作品って多いですもんね。

友岡

植田についても、
美術館では30点ほど作品を所蔵してます。

伯耆町の植田正治写真美術館には、
行かれましたか。

──

はい、昨年。よく晴れた日で大山が望めて、
平日だったのであまり人がいなくて、
ぼくもひとりで、
畑の真ん中で、ものすごい静かで‥‥
なんだか夢の中にいたような思い出ですね。

友岡

素晴らしいところですよね。

──

岩宮武二さんという方のこの作品タイトル、
《切通し》ですけど、
「切通し」という場所を描く画家の人って、
昔はけっこういたじゃないですか。

なかでも有名なのは、
東京国立近代美術館の岸田劉生ですけれど。

友岡

ええ。

──

それって、何でなんでしょうね。

内と外を分ける境界線‥‥みたいなことで、
ある種の神秘性を見出していたのかなあ。

岩宮武二《切通し（元小木‐琴浦間） （『佐渡』より）》1954-61 鳥取県立美術館

友岡

切通しを描いたり撮影したりした作家って、
たしかに何人か思い当たりますよね。
当時の作家にとって、
絵に描いたり、写真に撮ったりしたくなる、
そんな場所だったのかもしれません。

こちらの池本喜巳さんは、
現在も鳥取で活動されている写真家です。
「近世店屋考」というシリーズで、
山陰地方の個人商店に取材して撮影したもので、
池本さんのライフワークにもなっています。

──

わあ、いいなあ。床屋さんとか洗濯店とか、
洋品店とか‥‥昭和な町並み。

池本喜巳《石山理容院　（島根県仁多郡奥出雲町横田） （『近世店屋考』より）》1986 鳥取県立美術館

友岡

いまではもう見られなくなった
お店のつくりだったり、
社会学的な記録としても価値があります。

写真作品でありながら、
町そのもののアーカイブにもなっています。
近年、新たに収蔵しました。

──

1970年代の東京の下町を
シノゴ（４✕５）のカメラで撮った
高梨豊さんの『町』という写真集が憧れで、
古本で高いんですけど
いつか手に入れたいと思っていたんです。

池本さんの写真も本当に素晴らしいですね。

友岡

通ずるものがあるかもしれませんね。

──

では最後の展示室、ギャラリー５ですね。

友岡

こちらは日本美術の部屋で、
２面をガラスケースとしています。
現在展示しているのは
「因伯の画家たち・近世編」。
（※2025年６月現在は第２期の展示を公開中）

コレクション展 因伯の画家たちー 近世絵画編 会場風景

──

今回の訪問で何度か出会った藩絵師、
土方稲嶺（とうれい）の作品も見えますね。

友岡

彼は鳥取画壇の祖とされる絵師です。
鳥取藩お抱えの絵師であり、
近世絵画の中でも
非常に重要な位置を占めています。

──

片山楊谷（ようこく）の虎の絵もいいなあ。
ちょっと見ない感じの虎だと思う。

友岡

剛毛のような毛並みの描写が特徴的ですが、
実際の虎を見て描いてはいないので‥‥。

つまり、
中国や朝鮮半島の絵画をお手本にしたり、
実際に国内で手に入った動物の毛皮を
観察したり、
あるいは猫など
他の動物をモデルに描いたようです。

片山楊谷《花王獣王図》天明３年（1783） 鳥取県立博物館

──

そうか‥‥この独特さは、そういうことか。

沖探容《四季富士図》。
これまた、何というか、雰囲気のある絵です。

友岡

この美術館１階の「スタジオ」に常設している
「アートを通じた学び」をサポートする
「アート・ラーニング・ラボ」では、
この作品のなかに入って鑑賞できるような
プログラムをご紹介しているんですが、
そこでも体験していただける作品なんですよ。

──

おお、イマーシブ的な。没入感的な？
楽しそう。あとでやってみたいと思います。

沖探容《四季富士図》江戸時代（18～19世紀） 鳥取県立博物館

友岡

すでにお気づきかもしれませんが、
このコレクションギャラリーには
当館所蔵品に加えて、
鳥取県立博物館所蔵の作品も展示しているんです。
絣の展示では
倉吉博物館の作品もご紹介していました。

つまり、当館所蔵作品に加えて、
他の館や個人蔵からも作品をお借りして
「コレクション展PLUS」と銘打った見せ方でも
展開していこうとしているんです。
あくまで当館のコレクションを軸としながらも、
博物館時代に開催してきた
「テーマ展」のようなかたちで、
より幅のある展示を
お楽しみいただけるようにしたいなあと。

──

おなじみの作品が並ぶ常設展示室、
コレクションを見せるギャラリーだけど、
動きや変化があるというか、
瑞々しい、
いきいきした場所になるってことですね。

そりゃあもう、楽しみにしちゃいますね。

友岡

今回は開館記念展ということで
ギャラリー１と２も企画展の一会場として
使っていますが、
本来はコレクションギャラリーなんです。

つまり、コレクションの展示室じたいも、
面積的にかなり広い空間になっています。

──

これまで、なかなか展示できてなかった、
そういう所蔵作品も、じゃあ。

友岡

はい、ごらんになっていただける機会も、
今後はたくさんあると思います。

──

オープンから１ヶ月くらい経ちますけど、
いかがでしたか？

友岡

想像以上に
たくさんのお客さまがご来館くださって、
おどろきつつも、うれしい限りです。

平日でもバスで
団体のお客さまが来てくださったりとか。

──

地元の方の利用も多そうですよね。
なんか、見てると。

無料開放されているエリアもありますし、
明るくて清潔で、居心地いいし。

友岡

ふらっと来てテラスで本を読んだり、
オープンスペースで開催されている
ワークショップをのぞいたり、
家庭・職場・学校以外の
いわゆる「サードプレイス」として
親しんでほしいなと思います。

──

そういうあり方って、
美術館として理想的なかたちですよね。

地元ゆかりの作家だとか作品に触れて、
自然と詳しくなれそう。

友岡

学校帰りの小中高生のみなさんも、
「よし、作品鑑賞に行くぞ」みたいな
感じじゃなくても、美術のある空間に
身を置くところからはじめて、
徐々に
地域のアートリテラシーが高まっていったら
素晴らしいなあって思います。

──

じつは１年前、
建物が完成したタイミングでおじゃまして、
まだ作品が何にも入ってない状態で、
この美術館の中を拝見していたんですけど。

友岡

そうでしたか。

──

そのときも
素晴らしい美術館だなあと思ったんですが、
作品と人が入ることで、
美術館というものは、ぐんと息づきますね。

友岡

本当に。

こうして、作品を展示することができて、
みなさんが来てくださることで、
美術館は完成していくんだと実感しています。