開館記念展 アート・オブ・ザ・リアル 第１章 会場風景

──

このあたりから、鳥取藩の藩絵師の作品。

尾﨑

鳥取藩の藩絵師というのは、
中国絵画の影響を強く受けているんです。
まず、沈南蘋（しんなんぴん）という
中国の画家から紹介しましょう。
長崎へやってきたんですが、
彼から学んだ日本人の画家は非常に多い。

──

鳥取藩の絵のひとつの源流は、中国。
なるほど。

尾﨑

中国由来の画風が、広がっていくんです。
簡素で写実的、迫真的な描写が特徴。

で、ここからが鳥取藩の藩絵師の絵です。
谷文晁（たにぶんちょう）、
となりが島田元旦（しまだげんたん）。
島田は幕府の命により、
蝦夷地いまの北海道を描いていたことで
知られていますが、
じつは、谷文晁とは兄弟の間柄なんです。

──

おおー、絵のうまい兄弟というと
尾形光琳＆尾形乾山、
ファン・エイク兄弟を思い出しますけど、
鳥取には谷さんと島田さんが。

谷さんの作品は、中国の風景でしょうか。
《青緑山水図》とあります。

尾﨑

想像上の中国の風景でしょう。当時、
おいそれとは行けなかったでしょうから。
東京富士美術館からお借りしました。

──

鯉の絵も目を引きますね。

谷文晁《青緑山水図》1822 東京富士美術館

黒田稲皐《群鯉図》1827 鳥取県立美術館

尾﨑

黒田稲皐（とうこう）の《群鯉図》です。
鯉が得意な画家で、非常にリアル。

そして安田靫彦（ゆきひこ）の作品です。
額田王（ぬかたのおおきみ）ですね。
奈良時代を描く、かなり大きな作品です。

──

《飛鳥の春の額田王》。

安田靫彦《飛鳥の春の額田王》1964 滋賀県立美術館

尾﨑

そして次が山元春挙（しゅんきょ）の
《山上楽園》ですね。
京都市京セラ美術館の所蔵作品です。

──

そして！　応挙と若冲が並んでる。

尾﨑

そう、ともに「淀川くだり」がテーマで、
同じ情景を描いているんですよ。
同じ橋など共通した要素も描かれてます。

応挙の作品は当館の所蔵品、
若冲の作品は
原美術館ARCからお借りした版画です。

──

応挙が《淀川両岸図巻》で1765年、
若冲が《乗興舟》で1767年。

描かれた年代もほぼ同じなんですね。
おもしろーい。
応挙は原六郎コレクションですか。
そう言われてみれば、
原美術館ARCの観海庵で見たような。

尾﨑

こう見ると、応挙のほうが写実的で、
若冲のほうは、やはりどこか奇想的。

照らしあわせて楽しんでいただけたらと。

円山応挙《淀川両岸図巻》（部分）1765 財団法人アルカンシエール美術財団／原六郎コレクション　※編集部撮影

伊藤若冲《乗興舟》（部分）1767 鳥取県立美術館　※編集部撮影

──

同じような場所でも、
描く人がちがうと、こうもちがうのかあ。

絵画って、本当におもしろいですね。
ちなみに応挙って、
かわいらしい犬を描いているイメージが
けっこう強かったんですが、
こういう遠景の風景の絵もあるんですね。

尾﨑

めずらしいなと思いました。

──

次からはまた、ガラッと変わります。

尾﨑

ここからは写実から少し離れて、
まずは、ピカソのキュビスム初期の作品。

──

おお。《裸婦》、ポーラ美術館。
これぞキュビスム‥‥といった感じです。

尾﨑

その向かいには、
日本におけるキュビスムの受容をしめす、
いくつかの作品を並べました。

前田寛治の《街の風景》、
坂田一男の《キュビスム的人物像》など。
辻晉堂の彫刻は、
別の方向を向く顔がふたつついています。
キュビスム的構成を感じさせますね。

正面の壁、左から前田寛治《街の風景》、坂田一男《キュビスム的人物像》、辻晉堂《顔（寒拾》。開館記念展 アート・オブ・ザ・リアル 第２章 会場風景

──

ほんとだ。口がふたつあるように見える。

作品名は《顔（寒拾）》‥‥
えーっと、つまり「寒山拾得」ですか。

辻晉堂《顔（寒拾）》1956 鳥取県立美術館 　※編集部撮影

尾﨑

そうなんです。前田や坂田などは
1920年代のパリにいて、
当時、勃興してきたキュビスムの動きに、
リアルタイムに触れていました。

その影響のもとに、
自らも、このような作品を描いたんです。
辻晉堂の作品は50年代なんですが‥‥。

──

ええ。

尾﨑

じつは、1951年に
日本でピカソ展が開催されているんです。

そのときの影響力たるや非常に大きくて、
洋画だけでなく、日本画や工芸、
辻のような彫刻家にも、
強い影響を与えていることがわかります。

──

なるほど。すごいインパクトだった、と。

当時ってことは、つまり、
開催場所は東京だったら東博とか、
地方では大原美術館とか、ですか。
日本初の公立の近代美術館、
神奈川県立近代美術館の開館が1951年、
竹橋の東京国立近代美術館と
現アーティゾン美術館・
以前のブリヂストン美術館の開館は
翌1952年ですし‥‥
つまり、日本に「美術館」というものが、
ほぼ存在しなかった時代なので。

尾﨑

読売新聞の主催だったんですが、
東京の会場は、「日本橋高島屋」ですね。

──

わー、なるほど。そうか、
デパートで展覧会をやっていたんですね。

しかも「ピカソの展覧会」を。すごい。

尾﨑

そしてミホミュージアムからお借りした
若冲の《達磨図》と
当館所蔵の曾我蕭白《囲碁図屏風》です。

開館記念展 アート・オブ・ザ・リアル 第２章 会場風景

──

奇想なふたり。

若冲の《達磨図》をまじまじと観たのは
はじめてなんですけど、
目尻にめっちゃ毛が生えてる‥‥って、
眉毛なのかコレ！

尾﨑

異形ですよね。

──

碁を打つ絵も、異様な迫力がありますね。
いかにも曾我蕭白らしいです。

尾﨑

独特ですよね。

ご存知かもしれませんが、
若冲や蕭白は
比較的近年になって再評価が進んだ画家。
有名な美術評論家の辻惟雄先生が
著書などで紹介してから、
一気に注目が集まっていった作家です。

伊藤若冲《達磨図》江戸時代（18世紀） MIHO MUSEUM

──

もちろん存命当時は有名な人だったけど、
ずっと忘れられてたって感じですよね。
国宝《松林図屏風》を描いた
長谷川等伯なんかも、
そういうところがあると聞きましたけど、
不思議だなあと思います。

あ、あちらに見えるは、
東京国立近代美術館の古賀春江の作品だ。

左：古賀春江《海》1929 東京国立近代美術館　開館記念展 アート・オブ・ザ・リアル 第２章 会場風景

尾﨑

はい。《海》です。

ここから先のゾーンでは
シュルレアリスムに寄った作品を
ご紹介しています。
古賀春江に続いてはキリコ、マグリット。

──

なんと豪華な‥‥！

あれ、
マグリットの山高帽の紳士の背中にいる
花柄の洋服を来た女性って、
ボッティチェリによる
名画《春（プリマヴェーラ）》の中の人、
ですかね？

尾﨑

そう、花の女神フローラです。
大阪中之島美術館からお借りしています。

作品名は《レディ・メイドの花束》。

左：ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》　※編集部撮影

──

ジョルジュ・デ・キリコの作品名は、
《ヘクトールとアンドロマケー》。

いやあ、本当に見ごたえがあります。
その正面には、裸婦の作品が４点。

尾﨑

いわゆるリクライニングヌードの作品を
並べてみました。

ここにも
前田寛治の《仰臥裸婦》がありますが、
彼は横たわる裸婦を多く描いている。
そこで
クールベ、藤田嗣治、小出楢重による
それぞれの裸婦像と
見くらべられるように展示しています。

──

藤田の裸婦は乳白色に溶けている感じ。
《横たわる裸婦》、京都国立博物館。

前田寛治以外で言うと、
鳥取県立美術館の所蔵はどれですか。

尾﨑

クールベの《まどろむ女（習作）》も
当館の所蔵です。

──

おお。いつごろ収蔵したんですか。

尾﨑

もう30年近く前に購入されたものです。
当時の学芸員が、
前田寛治とクールベの関係性を踏まえて
選んだものです。

──

森村泰昌さんにもありますよね。
マネ《オランピア》をもとにした作品。

尾﨑

そう、《肖像（双子）》という作品で、
じつはお借りしたかったのですが、
サイズが大きすぎて、断念したんです。

でもスペースが許すなら
ぜひとも、ここに飾りたい作品でした。

左：前田寛治《仰臥裸婦》　右：藤田嗣治《横たわる裸婦》　※編集部撮影