
2025年3月、鳥取県倉吉市に
鳥取県立美術館がオープンしました!
ただいま開館記念展を開催しているんですけど、
出品作品のリストを見たら、
日本全国から錚々たる作家の作品が大集合で。
勇んで取材をさせていただきました。
70年代開館の鳥取県立博物館の美術部門が
分離独立して誕生したこの美術館では、
所蔵作品を展示するコレクションギャラリーも
充実しているとのことで、
「常設展へ行こう!」特別編としてお届けです。
開館記念展のパートは尾﨑信一郎館長に、
コレクションギャラリーのパートは、
学芸員の友岡真秀さんにご案内いただきました。
担当は、ほぼ日奥野です。
なお、開館記念展もコレクションギャラリーも、
取材時(2025年4月)とは
展示変えをしている箇所もありますので、
鳥取県立美術館の公式サイトでご確認ください。
右:ギュスターヴ・クールベ《波》1870頃 国立西洋美術館(松方コレクション) ※編集部撮影
- ──
- こちらクールベの海の絵には、エピソードが。
作品名は《波》。
- 尾﨑
- はい。というのも、この作品のとなりに、
前田寛治最大級の大きさで、
彼の海景画の最高峰ともいうべき
《海》という絵を並べたいと思っていました。 - 明らかに、我が師と仰いだ
クールベからの影響が見て取れる作品なので。
- ──
- なるほど。
- 尾﨑
- 作品は、銚子の醤油醸造業の浜口家が購入し、
品川に建てた洋風の豪邸に飾られていました。 - その後、その豪邸は、
他のコレクションやインテリアともども
タイ王国の日本大使によって購入されまして、
現在では、
タイ王国大使館公邸に飾られているんです。
- ──
- おお。美術品がたどる「数奇な運命」っぽい。
ドキドキします。
- 尾﨑
- 今回、このクールベと並べるべく、
ぜひ、お借りしたいと大使館に足を運んで
お願いしたんですが、
結果的に、その願いは叶いませんでした。 - なにせ作品のサイズが大きかったことと、
借りるための手続き、
大使の交代など、
さまざまな要因が重なった結果なんですが。
- ──
- タイ公邸のみなさんに
大事にされている証拠でもある気がします。
- 尾﨑
- そうかもしれません。
- 実際クールベの横に並べることができたら、
影響関係が、より明確に見えたと思います。
- ──
- ちなみに、こちらのクールベは、
上野の国立西洋美術館所蔵の作品ですよね。
- 尾﨑
- はい、そうですね。そのあとに続くのが
埼玉県立近代美術館のモネ、
大阪の国立国際美術館のピカソ、
そして、京都国立近代美術館のマティス。
写真正面の壁には右からクールベ、モネ、ピカソ、マティスが並ぶ。開館記念展 アート・オブ・ザ・リアル 第1章 会場風景
- ──
- すごい。オールスターです。
- モネは《ジヴェルニーの積みわら、夕日》、
ピカソは《道化役者と子供》、
マティスは《鏡の前の青いドレス》。
- 尾﨑
- わたしは以前、
国立国際美術館や京都国立近代美術館に
勤めていたことがあって、
お願いしやすかったということもあり。
- ──
- 館長の人脈で! すばらしいです。
- 尾﨑
- そして、モランディ。国際の所蔵品です。
- ──
- こういう静物ばかり描いてる人ですよね。
作品名も《静物》。 - 日本の美術館では、
なかなか見かけないような気もしますが。
ジョルジュ・モランディ《静物》1952 国立国際美術館
- 尾﨑
- そうですね。数点は入ってきていますが、
たしかに、それほど多くはないです。 - 県立博物館に勤務しているとき、
モランディの展覧会を企画していたんです。
でも、東日本大震災の影響で
中止になってしまったことがあって。
だから、今回の開館記念展では
ぜひモランディをご紹介したいなと。
- ──
- お次が有名な《鮭図》。高橋由一。
- いくつかバリエーションあるんですよね。
ぼく自身は、たしか
鴨居玲さんの作品を見に行ったとき、
笠間日動美術館で見たことあるんですが。
- 尾﨑
- はい、その笠間日動さんから借りてます。
なかでも秀作ですね。
高橋由一《鮭図》1879-80 笠間日動美術館
- ──
- ああ、あのときの鮭が、いまここに。
ある美術館で見た作品に
別の美術館で出会うと、
いつも何だか不思議な気持ちになります。 - お正月の贈答品のようなモチーフを
西洋の油絵の技法で描いたということが
当時としては
めずらしかったということですよね。
- 尾﨑
- はい、そういうこともありますし、
この縦長の画面構成も非常に特徴的です。 - 今回の展示では同じく岸田劉生の油彩と、
速水御舟の日本画もあわせて、
静物画のコーナーに並べているんですよ。
- ──
- そして、岸田劉生。
《静物(赤き林檎2個とビンと茶碗と湯呑)》。 - 作品名も写実的っていうか。
- 尾﨑
- 林檎の、少し傷んでいるようなようすまで
そのまま描いています。
- ──
- セザンヌに影響を受けていたんですよね。
岸田劉生って、たしか。 - そのことがわかるような作品です。
《静物(赤き林檎2個とビンと茶碗と湯呑)》岸田劉生 1917年 ふくやま美術館 ※編集部撮影
- 尾﨑
- そして、安岡信義。
- 作品名は《男の像》、
おそらく安岡の友人の像と思われますが、
モデルは不明です。
彼は鳥取出身の画家で、東京藝大を出て。
- ──
- なるほどー。ちなみに藝大といえば、
自画像のコレクションが有名だと思うんですが、
藝大所蔵の青木繁の自画像が、
知り合いに似ていて驚いたことがあるんですよ。 - ことしのフジロックに出演する
レ・ロマネスクというポップ・デュオの
TOBIさん、という方なんですけど。
- 尾﨑
- あ、そうなんですね。
- ──
- まったく関係ない話でした、すみません!
でも、本当に似てるんです!
藤田嗣治の写真にも
なんか似てるのがあったんだよなあ‥‥。 - ちなみに安岡信義という画家については、
不勉強で存じ上げませんでした。
- 尾﨑
- 東京美術学校つまりいまの東京藝大の
図画師範科の第一期生で、
日本における近代洋画の黎明期の画家。 - 手堅く正統的な描写力を持つ作家です。
2年前には、
鳥取県立博物館で回顧展を開きました。
- ──
- フランスで学んだ黒田清輝さんたちが
白馬会を結成し、
外光派と呼ばれていたような時代の人。 - そのとなりもまた、印象的な作品ですね。
木下晋さんの《休息》。鉛筆ですか?
- 尾﨑
- はい。非常に緻密な鉛筆画を描かれる方。
この作品では、
瞽女(ごぜ)の小林ハルさんを描いています。
正面の壁、左から3番目が木下晋さんの《休息》、その右隣はチャック・クロース《ジョージア / フィンガーペーンティング》。開館記念展 アート・オブ・ザ・リアル 第1章 会場風景
- ──
- 信じられないほどリアルですね‥‥!
お顔に刻まれたシワの感じとか。 - 作品名は《休息》、平塚市美術館の所蔵。
息を呑むようです。
- 尾﨑
- この方の作品を見て驚く人は多いですね。
- そのとなりにはチャック・クロースの絵。
彼もスーパーリアリズムを代表する
作家のひとりですが、
今回は、広島市現代美術館から
指を押しつけて描く‥‥という、
フィンガーペインティングによる作品を
お借りして、展示しています。
- ──
- 作品名は
《ジョージア / フィンガーペーンティング》。 - さらにはリヒター。《ドゥインガーの肖像》。
ゲルハルト・リヒター《ドゥインガーの肖像》1965 大阪中之島美術館 © Gerhard Richter 2024 (03122024)
- 尾﨑
- はい。リヒターは
写真をもとに描く作品で知られています。 - ブレた写真だとかボケた肖像など、
一見写真のようなんだけど、描いてます。
「描く」ことの意味を
あえて問い返しているような作品ですね。
- ──
- このシリーズは
箱根のポーラ美術館で見たことあります。 - たしか道ばたの建物をボンヤリと描いた
《グレイ・ハウス》という作品で、
リヒターといえば真っ先に思いつく
《ビルケナウ》なんかとは、
まったくちがうイメージの作品でしたが。
- 尾﨑
- そうなんです。リヒター初期の作品です。
- そしてこちらは鳥取の作家、
平久弥(たいら・ひさや)さんの作品。
無人の都市風景を描く作家です。
平久弥《Escalator#33》2022 Yoshiaki Inoue Gallery
- ──
- 作品名は《Escalator#33》、
たしかに、誰も乗ってない。 - そしてお次は‥‥うわっ、っていうか!
- 尾﨑
- 工芸作品、自在置物の展示です。
- ──
- つまり、金属でつくられているんですね。
しかも自在ってことは、関節とかが動く。 - で、昆虫‥‥と言うより、つまり。
- 尾﨑
- はい、今回はズバリ「ゴキブリ」です。
- 作家の満田晴穂さんは、
虫をテーマに制作している作家なんです。
今回の展覧会では唯一の工芸作品。
- ──
- いやあ‥‥この精巧さに驚かされますね。
- 以前、上野の東京国立博物館で、
明治期につくられた
立派な龍とか蛇とか伊勢海老とか鷲の
自在置物をたくさん見ましたが、
この方向性は、またおもしろいですね。
- 尾﨑
- すごいでしょう。
- ──
- つまみかたも、なんか、いいです。
感じが出ていて‥‥。 - ともあれ、金属製の「Gさん」は
はじめて見ました(笑)。
この黒光り、
見た目の質感は本物と近いのかも。
- 尾﨑
- 作家のユーモアを感じられる作品です。
- ──
- その他にも、松方コレクションから
ロダンの《美しかりしオーミエール》、
いつも
東京国立近代美術館でお見かけしてる
朝倉文夫の《墓守》のおじさん、
さらに舟越桂《冬の本》、
須田悦弘さんの作品群‥‥と、
本当に素晴らしいラインナップです。
- 尾﨑
- ありがとうございます。
満田晴穂《識〈八識〉》2023 作家蔵
(つづきます)
2025-06-03-TUE
-


この連載をつうじて詳しくお伝えしていますが、
鳥取県立美術館の開館記念展
「アート・オブ・ザ・リアル 時代を超える美術」
は、2025年6月15日(日)まで。
日本各地の美術館から、
名作・大作・話題作が鳥取に大集合しています。
若冲、応挙、ウォーホル、リヒター、ピカソ、
モネ、クールベ、リキテンスタイン‥‥。
ふだんは東京国立近代美術館で見ている大作
藤田嗣治《アッツ島玉砕》も、現在は鳥取に。
見といたほうがいいと思います!
また、辻晉堂の彫刻や植田正治の写真、
鳥取ゆかりの版画作品など、
コレクションギャラリーの展示も充実してます。
テーマによって会期がそれぞれなので、
いまコレクション展示では何が見れるのかなと、
ホームページでチェックしていくと吉。
また、ミュージアムカフェ
「GARDEN By SEVENDAYS CAFE」では
開館展限定コラボのタルトをいただきました!
展覧会タイトルの頭に「T」をつけた
「TART OF THE REAL(本物のタルト)」。
本物の‥‥という名前にふさわしい、
とろっとチーズがおいしいタルトでした。
さらにミュージアムショップでは
ウォーホル《ブリロ・ボックス》の缶に入った
キャンディも売ってました(買いました)。
会期やチケット、イベント情報など、
詳しくは鳥取県立美術館のサイトでご確認を。

本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
第12回「国立西洋美術館篇」までの
12館ぶんの内容を一冊にまとめた
書籍版『常設展へ行こう!』が、
左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
紹介されているのは、
東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
横浜美術館、アーティゾン美術館、
東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
大原美術館、DIC川村記念美術館、
青森県立美術館、富山県美術館、
ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
本という形になったとき読みやすいよう、
大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
常設展が、ますます楽しくなると思います!
Amazonでのおもとめは、こちらです。

















