HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ひと粒の麦から。
        皆川明(ミナ ペルホネン)✕糸井重里

        オリジナルのテキスタイルをつかった、ていねいな服作りで
        たくさんの人に愛されるブランド「ミナ ペルホネン」が
        今年で20周年をむかえました。
        ほぼ日手帳とのコラボも、5年目となります。
        
        20周年を記念して
        東京・青山のスパイラルホールで開催された
        展覧会「1∞ミナカケル」展では
        デザイナーの皆川明さんと糸井重里との
        トークイベントが開かれました。
        
        ほぼ日手帳が始まった「きっかけ」や
        服をつくる仕事でずっと大切にしてきた考え方など
        じっくり、自由に語り合ったふたりのトークを
        全5回でお届けします。

		第4回
		オーソドックスをひっくり返す
糸井
ファッションの仕事って、
大量のアイディアを出し続けなければならないし
複製のようで複製じゃない仕事ですよね。
同じように「量産する」ということで思い出すのが、
作詞家っていう仕事なんです。
売れっ子になると、ひっきりなしに注文が来るから
ものすごく、歌詞を量産するんですね。
皆川
はい。
糸井
で、たいてい何年かでピークは終わってしまうんです。
たとえば「風」だとか「愛」だとか、
つい使っちゃう言葉っていうのが
出尽くすんですよね。
歌詞の情景やシチュエーションもあるけど、
この作詞家はこういう傾向だっていうのが
ある程度いくと、見えてきちゃうから。
それで、頼む側が
「もうこの作詞家は無理かな」って思うか、
作る側が「もう疲れちゃったな」ってなるのか、
とにかく、量産したら危ないんだなっていう例を
僕はいくつも見てきたんです。
皆川
なるほど。
糸井
ファッションはもっと長い年月、
たえず、量産してますよね。
それはなぜできるんだろう‥‥。
皆川
なんでしょうね。
糸井
途中からチームプレーになってくのかしら。
皆川
それはあるかもしれないですね。
図案は自分で描いているんだけど
アトリエ内のデザイナーたちが話していることから
無意識に何かを感じて描いている、とか。
糸井
土台とかモチーフになる、かけらみたいなものを
出してもらったことで、
「そんなんじゃ駄目だよ、こうだよ」って言って
何かが生まれるみたいなことは?
皆川
ありますね。
糸井
ありますよね。
たとえば、アトリエでとなりの席の人が
窓のデザインを描いてるところを見たりして
「それが窓なの?
 窓だったらこうなんじゃない?」って
新しいデザインが生まれていくみたいな。
皆川
はい。
前からなんとなく心のなかで思ってたことを、
なにかのきっかけで、
瞬間的に思い出すこともありますね。
糸井
その時に、水準の高い人が周りにいっぱいいたら、
ものすごくたのしいラインができますよね。
皆川
そうですね。
自分の頭のなかの
いろんなアイディアがくっつき合うだけじゃなくて、
アトリエ内に浮かんでることとも
つながるっていうのは、よくあります。
糸井
アイディアが湧かなくて
「古典に逃げる」みたいなことは、ないんですか。
たとえば演奏家で言ったら、
クラシックを急にやり始めるとか。
アイディアが湧かない感じを
オーソドキシーで覆い隠してしまう。
「やっぱり、こういう普通のがいいよね」、
「オーソドックスなのがいちばんだよ」なんて言って、
クリエイティブの疲れをごまかすというか。
皆川
逆に、古典をどうやって
自分なりにこなすかっていうのは
ハードルが高いですよね。
僕、少しあまのじゃくなのか
去年、ヒョウ柄を発表したんです。
ヒョウ柄って、すごくポピュラーなもので、
みんなが思い浮かべられるけど、
「ミナが」っていうと、
そこはおもしろさがあるなって。
糸井
おお、ミナのヒョウ柄。
皆川
自分が作ると
「あれ? こうなったぞ」っていう驚きがある。
それは、じつはゼロから創造するよりも難しくて。
ヒョウ柄も、ずっと何年も取り組んでいたんです。
糸井
そうですか。
皆川
今年発表したチェックもそうですね。
縦と横の線を引くのではなく、
マスをどんどん集積して、
チェックに見えるようにしていったんです。
いわゆるオーソドックスというものを
どういうふうにやるかは、
自分の方法論が見つかるまで時間がかかってしまって、
毎回のように挑んではいるけど、
なかなか出せないものなんですね。
糸井
つまり、何回も考えながら
続いていっていることなんですね。
皆川
そうなんです。
糸井
そして、完成するまでは発表しないんですね。
皆川
はい。
たとえばアーガイルチェックとか、ペイズリー柄とか、
「みんなが知ってるよ」っていう柄を、
「これは知らなかったよ」っていうところに
辿り着かせるのに、たいがい何年もかかりますね。
糸井
はあー、すごい。
皆川
でも、ある日、ポーンってできるんです。
あるとき、遠くから見た木の実が、ヒョウ柄に見えた。
寄っていくと、ただの葉っぱに包まれた木の実だった。
‥‥みたいなことがきっかけになって。
糸井
ああ。
皆川
ようやく、
あ、これは自分が出すヒョウ柄になったなと。
表面を追ってるうちは、なかなか辿り着かない。
でも、そのオーソドックスをひっくり返せたら、
すごくうれしいんですよね。
糸井
つまり、クラシックに逃げるんじゃなくて、
格闘してる。
で、勝ち負けがあると。
そういうことか。
心がすごく丈夫じゃないとできないですね。
皆川
そういう点では、
ミナはあまりトレンドとか関係ないですから、
その時は解決してなくても、次回に繰り越せたり、
自分の命には限りがあっても、
次の世代に繰り越したり、
っていうこともできるんです。
だから、考え続けるっていうことは、
自分のなかですごく大事にしていますね。
糸井
考え続けること。
皆川
アイディアって、ほんとうに「一瞬」で
パッと浮かぶものなんですよね。
でも、それをかたちにすることは、
「永遠」になるかもしれない。
いろんなハードルや条件があったりしながらも、
たった一瞬の偶然のようなひらめきから始めて、
永遠に向かっていくっていうことが、
ものを作るっていうことの
いちばんの醍醐味だなと思って。
糸井
そうですね。
皆川
だから、さっき糸井さんは
「なぜ手帳だったかは、定かではない」と
おっしゃっていましたけど、
そんななかで糸井さんが手帳を作り始めて
それが継続していってることと、
ずっとこれからも、糸井さんの時間を超えて
続いていく可能性があるっていうことは
すごいことだなって。
糸井
うん、うん。
皆川
それから、糸井さんがやっている
TOBICHIもありますよね。
ほぼ日のインターネットで販売しているものを
リアルに体験できる場ですよね。
糸井
はい。人に会える場所を作りたかったんです。
僕ら、よくメールをいただいたり
イベントがあったりする時にお客さんにお会いすると、
会ってよかったなあ、と思うことが多いんですよ。
皆川
ええ。
糸井
最初は、ものを売ったりして
お客さんによろこんでもらいたいと思ったんだけど、
売る以外によろこばれることも勘定に入れたほうが、
アイディアが出しやすいなと思ったんです。
たとえば、「ミナ ペルホネン」のお店は
いろんなところにあるけど、
「TOBICHIを使って、一緒に何かを」って
ご提案をしたら、
ひょっとしたら皆川さんが、
「あ、それだったらやりたい」って
言ってくれるかもしれない。
皆川
うん。いま、もう、頭のなかで‥‥(笑)。
糸井
ほんとですか(笑)。
以前、「気仙沼のほぼ日」でワークショップ
していただいたんですよね。
場所があるだけで人が集まってもらえるんだっていう
あのよろこびが、TOBICHIのヒントになっていますね。
皆川
体験する、体験できるということに
どれだけのよろこびがあるかは、
いまの時代だからこそ、強く感じますよね。

(続きます)
2015-09-07-MON

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