その1 マンガな僕。
糸井 いやいやいや。
お呼びだてをしたかのようで、どうも。

松尾 いやいやいや。よろしくお願いします。
お久しぶりです。
わりとヒマになりました。

糸井 たまにブログ見てたんですけど、
本当にヒマなんですか。
松尾 はい。全然人と会ってないんで、
今日も口がうまく滑るかどうか。
糸井 もう引きこもってるのかなとか。
松尾 引きこもってますねぇ。
糸井 そうですか(笑)。
山ほど、本、出しましたね。
松尾 出し過ぎですよね。
全然売れないですよ、ハハハ‥‥。
糸井 出し過ぎるからかなぁ。
松尾 出し過ぎだと思いますね。
ちょっと、出す時期間違えましたよね。
糸井 松尾さんっていくつになってるんですか。
松尾 僕、45歳です。
糸井 もう。
僕は、45の時は、釣りばっかりしてました。
もういいや、みたいな感じだったんです。
厄も明けてね。
松尾 釣り。いいですね。
僕は厄の時が嵐だったんで。
糸井 厄ってあるでしょ?
松尾 なんだかわけ分からないくらい、
ひどいことになってましたね。
糸井 ああ~。ありますよね、厄って。
明らかにね。
病気になる人とかもいるし。
松尾 病気にもなりました。
糸井 厄払いはしたんですか。
松尾 何にもしてないです。
糸井 気休めにしたほうがよかったですね。
松尾 ああ~。
糸井 僕はしましたよ。
松尾 あ、本当に?
糸井 うん。
松尾 神仏に頼るというのが
自分のやってることと反するようでね。
楽屋のところに神棚があるんですよ。
で、それにパンパンってやる人と、
そうでない人と、分かれるなと思って。
糸井 絶対やるまいって決めてるんですか。

松尾 決めてるわけじゃないんですけど、
やりたいっていう日と、
やらない日があるんだったら、
もし神様がいるんだったら、
ムラがあるやつだなと思われたくないんで(笑)。
それはフェアじゃないんで。
糸井 わりと一貫したルールを求めるほうなんですか。
松尾 そうでもないですけどね。
神仏はちょっとなんか、ありそうなんで。
糸井 神仏は、もしあるとすれば、
全部を見てるわけですからね。
いや、すいません、
せっかくゆっくりしてる時期に
お出でくださいまして。
松尾 いえいえ、とんでもないです。
糸井 改めて何の話っていうんじゃないんですけども、
「好きなものは何ですか」の話をしましょうか、
‥‥と思いつつ、いろいろ違う話をしましょうか。
僕はね、芝居観ない人だったんです。
なのに、このごろは、
映画より芝居のほうを観てるんですよ。
松尾 最近?
糸井 この何年も。
何なんだろうなって。
その中に大人計画があったりしてるんです。
松尾さんって、芝居を観る人でしたか。

松尾 昔は観てましたね。
小劇場でやってるようなのとか、まめに観て。
糸井 何でそういうことになっちゃうんですかね。
観る人と観ない人とはっきり分かれてますよね?
松尾 女の人のほうが多いですよね、
圧倒的に、観る人は。
糸井 松尾さんは、
なんで観るようになったんですか。
松尾 僕は芝居始めてから観るようになったクチです。
どうやって作ってるんだろうっていうことに
興味があるから。
だから、芝居観る楽しみっていうのが、
本来のようにあるのかどうか、
自分の中で分からないところがあるんです。
確かに最初に観た唐十郎さんの芝居とか、
野田秀樹さんとか、東京乾電池とかは、
やっぱり衝撃を受けましたけどね。
糸井 その衝撃は、僕もそれぞれに覚えてます。
何だったんですかね、
その芝居を観る衝撃っていうのは。
なんとも言いがたいものがあるじゃないですか。
松尾 何ですかね、
僕は漫画がもともと好きだったんです。
漫画って極端な動きするじゃないですか。
で、映画ってね、
まあ基本ナチュラルな演技を
要求されるものだから、
人間が極端な動きできるのって、
芝居なんだなって。
そういう意味でも僕は、
アングラから入ってるんですよね。
糸井 動き?
松尾 そう、そうです。動きと見た目です。
柄本明さんの芝居を観た時に、
すごい強烈なものがあって。
走りながら、叫びながら、
首振りながら、台詞を言ってるっていう、
そういう面白さです。
もともと、吉本新喜劇を
子どもの頃から観てたんですね。
淀川五郎っていう人がいて、
ずーっと首振りながらしゃべってるんです。
アタマからケツまで。
そういう人を観て育ってきたんで、
柄本さんの動きとか、野田さんの動きは、
すごくナチュラルに入ってきたんですよね。
糸井 もともと、そのおかしいのを
好きで観てたわけだね?
松尾 そうですね。原点はやっぱり赤塚不二夫さんの
「タリラリラ~ン」ですから。
糸井 はい、はい、はい。
松尾 (両手をひらひらさせながら)
こうやって歩いてるわけじゃないですか。

糸井 (笑)そうですね。
松尾 『ニャロメ2008』という
赤塚さんのアニメを作ることになって、
『もーれつア太郎』の昔のアニメを
観てみたんですけど、
ココロのボスがやっぱりね、
(求愛するように大げさに手を拡げて)
こうやって出てくるんです。
すっごい余計なことしながら出る。
糸井 赤塚さんって、
わりとフレッド・アステアだとか、
ああいうの観てるから、
自分なりに、昇華してる気持ちは
あるのかもしれないですね。
もしかしたらね。
松尾 (手をひらひらさせながら)
これがですか(笑)。
糸井 杉浦茂×フレッド・アステア、
ともいえるじゃないですか。
松尾 杉浦茂さんもシュールですもんね。

糸井 杉浦さん、僕はお会いしたことがあるんですけど、
あの人は、ものすごく真面目なひとなんです。
松尾 あ、そうなんですか。
糸井 真面目な画家が、子どもが喜ぶって
こういうことだろう、と次々考えたものが、
ああなんですよ。
ルール守るほうですかっていう話で言うと、
杉浦さんって、すごく守るほうの人で。
例えば、「何月何日何時にお伺いします」って言うと、
「何名ですか」って訊くんですね。
それが4人って言ったのに、
当日、仮に5人になるとしますね。
明らかにものすごく怖い顔するんですよ。
松尾 (笑)。
糸井 その、5人になるのも失礼なんですけどね。
どういうことかって言うと、
4つお菓子が買ってあり、
座布団も4枚用意してあるのに、
5人になっちゃうと、わやになっちゃうんです。
で、「4名とおっしゃいましたよね?」って。
松尾 怖いですねぇ。
糸井 そこから始まって。
で、ほかの打ち合わせしてる時に、
「この間に私がいろいろ考えたアイディア」
っていうんで、全部広告の裏の紙に、
いろんな絵が描いてあって。
もうそれこそ、松尾さんが
書いてるようなものですよ。
「どういうこと?」
みたいなやつが描いてあって。
松尾 グニャグニャって?
糸井 そう、そう。グニャグニャしてるやつがあって。
「今はこんなのを研究しています」って。
松尾 その時点で、もう既に
かなりお年寄りだったでしょ?
糸井 かなりお年寄りでしたね。
1985年ぐらいですからね
(杉浦茂さんは1908年生まれ)。
こういうところから、
あれが生まれてたんだなと思って、
読み返すと、決して杉浦さんの漫画って、
ふざけてなかったですね。
笑わせてやろうとかっていうよりも、
子どもの相手をしてるお爺さんみたいな、
そんな感じで。
「レロレロベー」みたいなことですよね。
松尾さん、漫画から踊りにも行かなかった?
松尾 踊りというよりは、動きなんですよねぇ。

  つづきます。
   
その1  マンガな僕。
その2  アングラな僕。
その3  無な僕。
その4  ダークな僕。
その5  バンドな僕。
その6  嫌な僕。
その7  研究する僕。
その8  一人な僕。
その9  埋める僕。
その10 妄想な僕。
その11 予定のない僕。

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ブログ『ドブロクの唄』

43歳から始めた松尾さんのブログ。
この対談のこともちょこっと書かれてます。

大人計画オフィシャルホームページ

松尾さんの主宰する大人計画の公式ページです。

2008-10-08-WED
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