弱い僕。 元気のない松尾スズキさんが、すごいエネルギーで弱々しく。
その9 埋める僕。
糸井 ボーっとしてる時間が出来ましたって言って、
その後のこともまた知りたいですけどね。
松尾 ボーっとし始めてから、
悪夢ばっかり見るんですよね。
複雑な夢を。
2時間毎に目が覚めたりして。
だから、なんかやっぱりボーっとしてる間に
何かがこう、水掻きが動いてるんでしょうね、
きっとね。

糸井 ボーっとしてない、
つまり、いわば時間の空間神経症みたいな、
空間埋めないとやっていけないみたいな
感覚があったわけですよね、ずっとね?
松尾 そうなんですよね。
僕ね、マヤ文明が好きなんです。
糸井 ああ、埋めてますね。
松尾 そう、そう、そう。ギッチギチな感じが。
糸井 埋めてますねぇ。不安なんですかね、マヤは?
松尾 マヤは不安だったと思いますよ(笑)。
あのなんか、ギッチギチさっていうのは、
やっぱり水墨画とか、ああいうのって、
余裕を感じるじゃないですか。
マヤの人たちっていうのは、
余裕なかったんだと思うんですね。
学生の頃、ずっとそういうのの
スケッチをしてたんですよ。
美大だったんで。
糸井 マヤ系のものを?
松尾 マヤと、日本の文様。
浴衣の文様とか、
そういうのを組み合わせて絵を作ったりとか。
あと、横尾忠則さん好きだったんで。

糸井 埋めてましたね(笑)。
松尾 昔の横尾さん、そうですよね。
でも、今でもそうか。
糸井 埋めてます、埋めてます。
松尾 ちょうどそうだ、
世田谷美術館の「冒険王」で、
横尾さんとばったり会ってお話したんですけど、
あの分量と密度は半端じゃない。
糸井 半端じゃないですね。
汲めども尽きせぬものがありますよね。
で、それはやっぱり、
体質なのかなとしか思えないくらい。
そうですね、横尾さんも、
やっぱり松尾さんと同じで、
自分のことは整理しないですね。
松尾 ああ~。
糸井 「こういう法則があるみたいね」って人が言うと、
「そういえば、そうかな?」って言って、
忘れちゃいますね、
またね。で、自分で整理してるのは、
せいぜい滝が好きだとか、
そういうことばっかりですね。
松尾 Y字路とかね。
横尾さんのを観て、
自分が何に共感してるのかなと思ってたんですけど、
全体回して観て、風情がない(笑)。
ゆとりがない。
その分、何かが何かにびっくりしてるっていう。
びっくりしてる人が描かれてないと、
それを観てる人がびっくりするみたいな。
糸井 脅かしですね。
松尾 脅かしの、力っていうかな。
だから、きっと横尾さんって、
すごい臆病な人なんだと思うんですよ。
一番横尾さんの話聞いて笑ったのが、
映画を8年間観てなかったっていうやつでね。
8年前観たのは何だったって言ったら、
寅さんだって言うんですよ。
で、8年後に観たのは何だって言ったら、
ハルク』だって言うんですね。
で、怖くてしょうがなかったって言うんです。
で、「何が怖いですか」って言ったら、
音がでかいって(笑)。
それで、映画ってこうなってたのかって思って、
普通の日本映画を観たら、
日本映画も普通の映画なのに、音がでか過ぎて、
「もう僕にとってはホラーだ」って言うわけです。
だから、それぐらいやっぱり、
日常の中に怖さを見つけていけるんだな
っていうのが絵に出てるのかなって、
ちょっと思ったんですけど。
糸井 作り手の都合って、
横尾さん、一切考えないですよね。
音がでかいのは、
あれは作り手の都合ですから。
まあ、本当にその意味では
子どものまんまっていうね。
それは、すごいですね。

松尾 僕、でも、あれだけイメージが氾濫して。
で、最終的に今、小さな絵で
ルソーの模写ってやってるじゃないですか。
糸井 ありますね。
松尾 あれだけ自分の中にあるものがあって、
今模写に行ってるのかっていうのが
また驚いちゃうんですよね。
糸井 一番欲しいのは技術だって言ってますよね。
いや、埋めたい人のとっては、
もっと埋めるのには技術がいるんじゃないですか。
千手観音になりたいんですよね、きっとね。
手の数増やしたいんだと思うんですよね。
だから、それは、松尾さんとの共感は、
お互いにあるんじゃないですか(笑)。
松尾 うーん・・・・。
糸井 横尾さん、もともと好きだったんですよね?

松尾 そうですね。学生の頃。
その頃は横尾さんがファインアートを
始めてたぐらいかな。
どちらかと言うと、ポスターから入ってるんです。
糸井 僕が横尾さんを観た時、
もう最初にとにかく気持ちが悪いって言って、
もう観るものじゃないと思って、
一旦寝て、また観に行ったっていうのが、
横尾さんとの出会いなんです。ポスターで。
松尾 ポスターを?
糸井 学生会館にたまたまコーラか何か買いに行ったら、
そのポスターが貼ってあって。
もうあんまり嫌なんで、ずうっと観ちゃって。
で、みんなが固まって寝てる場所があって、
デモの前の日で。
で、早く寝なきゃいけないんだけど、
なんか嫌で、こっそりともう1回起きだして、
また観に行ったっていうのが
横尾さんとの出会いなんですよ。
で、松尾さんの中の「何?」っていう、
その要素はやっぱり共通するものがありますよね。
ただでは帰さないぞ、みたいな。
松尾 戦略がないんですよ。
糸井 戦略がない(笑)。
はあ~、それは横尾さんもそうですよね。
思えばね。あと、好きっていうもの、
何ですか。もうあえて「好き」に話を持っていって、
終わりにしようと思ってるんですけど。
松尾 そうですね。横尾さんの絵、好きですね。
ファレリー兄弟も好きですしね。
あと何だろうな。
細かいことを考えてるのが好きですね(笑)。
最近もなんか、缶コーヒーが
どんどんショート缶になっていくのは
なぜなんだろうっていうのを、ずっと考えてて。
ロング缶ないなあって(笑)。
ショート缶だとね、仕事するのに不便なんですよね。
すぐ飲みきっちゃうから。
ロング缶がいいんですよ。



だから、ロング缶で、ショート缶の
クオリティのあるものを出してくれればいいのに、
ロング缶が今、どんどんなくなって。
で、それ以上になると、
今度ボトル缶とかいうのになっちゃうんですよね。
で、ボトル缶買うと、
やっぱりショート缶よりも高いんですよね。
そこにいったい誰の思惑が入っているのか
っていうのがね、気になってしょうがない。
糸井 その辺はものすごく答えが
つまんないところにありそうだな。
松尾 そうですか(笑)。
糸井 多分、多分こう思われたらいいなっていうのと、
こうやって儲けようっていうのはもう掛け算で、
順列組み合わせで出来ちゃうような話でしょうね。
コマーシャルで、多分ご推察なさってると思いますが、
缶コーヒーって、基本的には
肉体労働者のものなんですよ。
で、ホワイトカラーは、
あんまり缶コーヒー飲まないんですよ。
だから、松尾さんは、
ジャンル的に肉体労働者の会に混ぜて、
「糖分取りてぇ」っていう気持ちと、
「刺激をくれ、出来たら、コーヒーの香りな」
っていうところにある人たちの中にいて。
松尾 僕はでも、無糖派なんですけどね。
糸井 無糖派で。あ、糖分要らない?
松尾 糖分要らない。
糸井 それは、だいぶソフィストケイトされた。
あと、小さくすると、高級に見えるんですよね。

松尾 そうですよね。
糸井 それで売ってるんだろうな。
それから、飲み残しがあると、
まずく感じるんですよ。
その残したっていう事実が、
まずかったってサインを残しちゃうんで、
多分その辺があるんだろうな。
原料費は本当に変わらないと思いますけどね。
松尾 そうですよね。だから、その辺の
エクスキューズなしに、
ショート缶の時代ということに
気が付かないままになってるのは
なぜだっていうことを、
糸井さんに聞きたかったんですよね。
糸井 僕は、なんて言うんだろう、
そういうことをやってる人たちに対して、
「そういうことばっかりやって」
って思ってる立場なんだけど。
いや、松尾さんが缶コーヒー好きだっていうのは、
多分終わると思いますね、ボーっとし始めると。
松尾 あ、そうですか(笑)。
糸井 これは予言ね。
なんとなくね、あれね、急いでる人の飲み物ですよ。
永瀬正敏君っているじゃないですか。役者の。
あの人はものすごい缶コーヒファンで。
あの人の影響で僕、
一時缶コーヒー飲んでたんですよ。
「ええ?」と思ったら、なるほどなと思って。
癖になるんですよね。
急いてる時に飲みますね、あれは。
松尾さんは無糖派だけど、
全部無糖で済ましてないでしょ、きっと?
無糖を選びきりますか。
松尾 やっぱりしょっぱいもの食べた後とかは、
微糖に行くんですけど。

一同 (笑)

松尾 ちょっと甘さが欲しいなって思いまして。
で、仕事中はもう無糖で十分です。
糸井 そうですか。
無糖で通すの結構難しいですよね、多分。
売ってる場所とかの問題でね。
松尾 そうですね。
糸井 通すのが難しいって、タバコの銘柄もそうで。
「俺はハイライトだ」とかって言い張ってても、
売ってなければセブンスターになり、
マイルドセブンになりっていう
流れがあるじゃないですか。
それと同じで、結構なんかね、
条件に左右されるんですよね、人ってね。
缶コーヒーでしたか。
今はじゃあ、どこの何を、
「望むところはこれです」っていうのがあるんですか。
松尾 今、だから、ロング缶がなくなってきたんで、
迷ってるんです。
糸井 (笑)
松尾 ストローが付いてるのあるじゃないですか。
今、あっちに走ってます。
一同 (笑)
糸井 ああ~。飲みやすいですけどね。
それも走り終わりそうな予感もあるな。
松尾 そうですね。それは一過性です。
  つづきます。
2008-10-20-MON