弱い僕。 元気のない松尾スズキさんが、すごいエネルギーで弱々しく。
その10 妄想な僕。
松尾 あとはね、人が何かに変わろうという瞬間に、
もしかしたら立ち会ってるんじゃないかなって
思うことが好きなんですよね。
それは知り合いじゃなくて、
町で牛丼とか食べてる時に、
隣にいる人が、今ブレイクしてるんじゃないかとか。

一同 (笑)
糸井 それ、いい。それ、いい。
ヒットですね、それ。
松尾 知らず知らずのうちに、
この人の価値が上がっているんじゃないかとか
考えるんで。そうしたら、
「なんか只者じゃないぞ」とか思い始めたりとか。
糸井 それ、いいですねぇ。それ、貸してくれる?

一同 (笑)
松尾 それを思い始めたのが、
乳母車を押して、
向こうから来るお母さんがいたんですけど、
その乗ってる子どもの目に知性が見えたんですよ。
パッと僕と目が合った時に、
「今僕は乳母車に乗ってるけど、今日立つから」
みたいな。

一同 (笑)

松尾 変わり目。
乳母車から立つことへの変わり目を
見た気がしたんですよね。
糸井 ああ~、いいですなぁ。
松尾 そうか、乳母車から、
必ず人は立つ瞬間っていうのがある時期ある。
その瞬間に俺はもしかしたら、
立ち会えたんじゃないかなっていうか、
今、乳母車に押されてる自分は
違うっていう感じで見られたんですよね。
糸井 脱皮ね?
松尾 そう、そう、そう。だから、その日、
押されてる彼は、町中の人に向かって、
これは仮の姿だとね。
「その日のうちに立つから」って
言ってるような目に見えてしょうがなかった。
糸井 まあ、関係の問題ですからね。
それがもう牛丼にまで行ったんですか。はあ~。
松尾 だから、本気の牛丼なのか、
仮の牛丼なのかが気になるんです、
そこにいる牛丼食べてる人の。

糸井 つまり、生活の中に馴染んで、
牛丼が当たり前になってる人の牛丼と、
ここから出て行く瞬間の?
松尾 そう、そう、そう。
牛丼屋から出る瞬間の人ですよね。
糸井 それはきっとスポーツ選手なんかには、
頻繁にあることでしょうね。
「ある日」っていうのがね。
町の中にもあると。
貸してください、その目、1日やってみます。
松尾 そう、今日牛丼を卒業しようと思ってる人が
いるかもしれないって思うんですよね。
糸井 いや、いますよ、きっと。
一昨日、隣でもんじゃ焼き焼いてるカップルが、
男が財布出してっていう状態の時に、
女の子が、「あ、私、ここ払うよ。
大変な時だもんね」って言ったんです。
で、男が「ありがとう」って言う、
その会話を聞いて、本当によかったなと思った。
すごいことじゃないですか。
松尾 すごい、想像力を刺激しますよね。
糸井 何だろうね、大変な時。
松尾 大変な時ってね、想像しますよね。
糸井 言ってもいない台詞とか考える時ありますよ。
男女が、なんか言ってから
別々のほうに歩いていく時って
あるじゃないですか。
あの時に言ってもいないのに、
「お湯沸かして待ってるね」
って言ってるんじゃないかって、
僕、考えて。すっごい好きで。
なんでお湯沸かすんだろうって(笑)。
でも、それは俺が考えたことなの。
松尾 (笑)なんか不毛なんだか、なんだか。
本当の自分だと思っているのか、
仮の自分だと思っているのかが気になるんですよね。
僕は一応、牛丼屋にいる時は、
仮の自分だと思ってるんですよ。
本当はこんなもんじゃないぞと。

糸井 こんなもんじゃない。牛丼を食べてるが。
松尾 牛丼でも食べてやろうかぐらいの気持ちでいる。
一同 (爆笑)

松尾 手加減してるっていう気持ちで言ってるんですけど。
糸井 すっごい武者ですね。すげえなぁ。
松尾 大好きですけどね。
糸井 そういうこと考えてる限りは、
永遠にネタはありますね。
松尾 そうですかね。
糸井 だって、ファーブルが
昆虫見てるのと同じじゃないですか。
松尾 ああ、そうか。
糸井 必ずやらかしてくれますからね、人ってね。
何かね。まあ、そろそろお時間もあれなんですけど。
このボーっとの先が、仕事は詰まってるんですか、
やっぱり?
松尾 うーん・・・・、そんなには詰まってないです。
糸井 詰めなきゃ詰まらない。
セーブする時期を
迎えようとしてるんですか、じゃあ。
松尾 そうですね。私生活でゴタゴタもあったりしたんで。
なんか立て直したいなっていうか。
糸井 大事業ですからね。大変ですよ。
松尾 そうですよね。
糸井 大変だと思いますよ。
やっぱりやり直しは大変ですよ。
昔、いろんな人がそのことについて
語ってましたけど、
二度と出来ないくらい大変なことだっていう。
松尾 そうですね(笑)。
糸井さん、一度ですか。
糸井 一度。でも、すごいですよ、やっぱり。
大変なことですよ。
体力ですよ。
松尾 そうですよね。
身に染みました。
染み続けてますね。
糸井 染み続けてるんですか。
何にもヒントはないですね。
松尾 (笑)がっかりだな。
  つづきます。
2008-10-21-TUE