弱い僕。 元気のない松尾スズキさんが、すごいエネルギーで弱々しく。
その8 一人な僕。
糸井 僕、東京オリンピックやる場合には、
松尾スズキとみうらじゅんに任せろって
言ってるんですけど。
一同 (笑)

松尾 なんでまた。
糸井 つまり、いちばんいいものを探したら、
日本にはいないんです。
でも、松尾スズキはいるし、
別勘定でみうらじゅんがいるんで、
この二人が別々にやって、
土俵にかければいいんじゃないのっていうのが、
僕のアイディアなんですけど。
松尾 僕はまだ分かるけど、
みうらさん、何やるんですか。
糸井 なんとかしますよ。
松尾 なんとかしますか(笑)。
糸井 仕事だと思えば。
頼まれたからやるっていうことは
あり得ると思うんで。
松尾さん、やってくれますか。
松尾 やりますよ。

一同 (笑)
糸井 俺が頼んじゃった(笑)。



いや、何だろう、
小さいサイズでやってた人たちが、
ドカンと大きいものを任されて
平気だっていうことについて、
ものすごい最近興味があって。
ハリウッドって、みんな
アングラ出身の人ばっかりに
なっちゃったじゃないですか。
メメント』を作ってた人が
ダークナイト』を作り、
ビートルジュース』のティム・バートンだって、
あんなになっちゃったって、
そんなことばっかりじゃないですか。
だから、そう考えると、
なんかジャンプって、恐る恐るやるんじゃなくて、
思いきっりみんなで、
もう胴上げしちゃうみたいにやれば
出来るんだなあと思ったんで。
但し、それに耐えられる人と、耐えられない人が
きっといるんだろうなとは思うんですよね。
だから、自前で作ってきた人に
限られるなっていう印象があるんですよ。
後に大きい映画に行って平気だった人って、
みんな自前で作ってきた人で、
誰々の弟子とかじゃないんですよね。
だから、そこがなんかね、
ちょっとキーポイントのような気がするの。
松尾 『ダークナイト』みたいなやつとか、
ティム・バートンが作ってるやつとかを
メジャーで作ると、
やっぱりすごい難しいとは思いますけどね。
糸井 日本ではね。
でも、やれたっていうことを、やっぱり自信に、
──人のやったことですけど、
自分たちの自信にしちゃっていいんじゃないかな
と思うんですよね。
実際東京オリンピックがあるかどうかも知らないけど。
チャン・イーモウ(張芸謀)が、
ああいう大げさなことをやった後で、
「松尾君、頼むよ」って言われた時の
面白さみたいな(笑)。
何だろう。サイズの問題って、
本当はたいしたことじゃないんじゃないかなって、
最近思うんですよ。
松尾 あとは、お金出してくれたり、
それを支えるプロの人たちが
しっかりしてるかどうかですよね。

糸井 多分ね。それから、
出来るって信じることじゃないか。
その時に、さっきの
演技をちゃんとやった人の
話みたいなものが知りたいとか、
そういう人を助監督に付けてくれとか、
どんどんそこのところで、
今までのに頼るようになっちゃうと、
きっと苦しくなる。
だけど、頼る役は誰か別の、
こう片腕になる人がやってくれて、
「内緒でやっときますから」みたいにしてくれて、
おおもとで指揮を取る人は
もっとでたらめなことを言い続けるみたいな。
その仕組みなんじゃないかなと思うんですよね。
ジャンル関係ないけど、
本田宗一郎っていう人が、
最期まで変な人として
生きてたらしいじゃないですか。
僕は、教育テレビで、
本田宗一郎のインタビュー観たんですけど、
画面からインタビューで見切れるんですよ。
すごく左右に動くの。
そんなインタビューは初めて観たんですけど、
この人は死ぬまでこうだったんだなと。
それを許してたNHKのほうも、
なかなかいいんですけどね。
ホンダがあんなふうになっていったっていうのは、
本田さんがああしたことばっかりじゃなくて、
誰かが代わりにやっといたんじゃないか。
「F1出るぞ」とか、芸者さん上げて、
どこかの崖から落っこったみたいな話とか、
そういうのって、結局誰かが
勝手にやっといたんだと思うんですよね。
で、その意味で、あの人が真面目なことを
全部1個ずつやってたら、
ホンダにならなかったと思うんですよ。
大人計画の成長の仕方ってね、
僕は妙に楽しみなんです。
映画の時とかは、手伝いが当然必要で、
松尾さんはプロデュース的なことは
しなくて済んだんですか。
監督だけやればいいよっていう?

松尾 そうですね。
映画はやっぱり複雑怪奇ですから。
ちょっとやっぱりそこまでは手が足りないですね。
糸井 劇団だったら考えてなきゃならないことは、
映画の時にはもう考えないよ、みたいな?
松尾 劇団でも、あんまり最近考えてないですね、
正直言うと。
糸井 そうですか。初期の頃は考えたですか。
松尾 初期はもう自分でやってましたから。
糸井 金勘定まで出来てました?
松尾 いや、出来ないですね。
糸井 それは出来なかったですか。
困ったな、ぐらいのことは分かってました?
松尾 (笑)分かりますね。
そんな困ったことないですけど。
糸井 それはないんですか。
松尾 僕ら、本当に道具に
金を掛けない劇団だったんで。
道具と場所、美術に、かな?
美術と衣装とか、何にもなしにして、
黒い幕一枚で、じぶんちから
衣装着てきてましたから。
場所も安いところでやってたし。
糸井 その頃は、じゃあ、困らないけども、
何が一番課題でした?
松尾 何だろうな・・・・。



とにかくとりあえず笑わせること。
笑わせないと意味がないと思ってたので。
あと、やっぱり毎回毎回ちょっと
新しいことを混ぜていくっていうのを
やりたいなと思ってて。
日本の演劇って、やっぱりなんかちょっと
不自由なところがあるなと思うのは、
静かな演劇だけとか、
騒がしい演劇だけとか、
劇団によってカラーは一つじゃないですか。
まあ僕も言われてみればカラー一つなんですけど、
でも、ミュージカルもやりたいし、
ストレートプレイもやりたいし、
ホラーになってもいいしっていう、
そういうなんか、毎回ちょっと違う
エッセンスを入れていきたいなと思ってます。
映画館とかだったら、もっと自由じゃないですか。
ねぇ、深作さんなんて、ヤクザ映画から、
『宇宙からのメッセージ』とかやったり。
糸井 とんでもないですからね(笑)。
松尾 『四谷怪談』とかね。
そんな興味が持てて当然なのに、
なんでお芝居の人って、
ああいうふうに、
一つの路線になっちゃうのかなと。
糸井 ああ、そうか、そうか。なんでですかね?
松尾 うーん・・・・。
糸井 お客も要求するんですかね?
松尾 まあ、それもあるかもしれないですけどね。
糸井 いっくらでも出るかに見えるじゃないですか。
松尾さんの、特にこのところのひどい活躍ぶりは、
「何?」って変だけど、「何?」。
松尾 そんな活躍してないです。
糸井 分量ってすごい僕は好きなんですよ。
出し過ぎですねっていう本もそうでしょう。
芝居でも、台詞だけじゃなくて、
やっぱりアイディアの分量が多いっていうのは、
僕はもうそれだけで大拍手で。
で、いっぱいてんこ盛りに出てこないものって、
自分で認めないみたいなところがあって。
大人計画もみんなそうで。
これだけ出すっていうのは、もうそれだけで、
「何?」って思っちゃうんですよね。
あんまり普段、ディスカッションで
出てきてる書き方じゃないですよね?

松尾 そうですね。一人で書いてますね。
糸井 ボーっとしてない時間っていうのは、
そうやって使われてたんですか。
松尾 うーん・・・・、一つのことをやってる時に、
必ず次の仕事が始まってるんで、
深く考える時間がないというか(笑)。
次の仕事に追い立てられて、追い立てられて、
前の仕事が出来てくるみたいな感じだから。
で、まあそれはやめようと、
今回、ボーっとしようっていう。
糸井 そう。だけどさ、種がない限りさ、
蒔けないわけだから。
種どんだけ仕入れて来たのって。
松尾 いや、ないんですよね。
そんな本読まないし。
糸井 だから、かなぁ。
松尾 でも、今回の芝居でも、
ギリギリですけどね。
演劇界のこと書いてあるから、
何の資料も要らないし。
糸井 ああ、そうか。それは、そうですね。
調べてやるようなことっていうのは、
松尾さん、したがらないですよね?
松尾 嫌ですね。
糸井 嫌いですよね?
松尾 そうですね。「ギャッ」って(笑)。
糸井 その分だけ自分の中から
出なきゃならないっていうところがあって、
考えの分量が多いっていうのは、
やっぱりすごいですよね。
松尾 でも、夢とかから貰ったりしますよ。
糸井 多分、一人で頑張ってる時間が
多い人なんだろうなとしか、
僕は思えないんだけど。
でも、人といる時間も長いでしょ、結構?
松尾 まあ、仕事始まったら、そうなりますね。
糸井 すごいですよ。
松尾 いやいやいやいや(笑)。いやいやいや。
糸井 すごいですよ。
量が多いんですよ、思いの。
松尾 うーん・・・・。何ですかねぇ。
それを考える暇がなかったっていうのが、
すごい弱点というか(笑)。

  つづきます。
2008-10-17-FRI