弱い僕。 元気のない松尾スズキさんが、すごいエネルギーで弱々しく。
その7 研究する僕。
糸井 「女教師は二度抱かれた」を観ながら
僕は勝手に太宰治のことを考えてたんですよ。
松尾さんはお好きですか?
松尾 あんまり読んだことないんです。
糸井 でも、全く読んでないわけじゃないですよね?
松尾 『人間失格』ぐらいかな。

糸井 大人になってから太宰治読むって、
ものすごい面白いですよ。
今言ったような危なっかしさが、
全部てんこ盛りになってますからね。
さっきの、『メリーに首ったけ』の
監督みたいな人って、時々いますよね、
あっちこっちにね。
ジャッカス』は、どうですか。
松尾 『ジャッカス』は、
好きなのと嫌いなのがあります。
糸井 全部は好きじゃない?
松尾 ちょっと汚すぎるのは。
糸井 汚すぎるのは勘弁してくれと。
あれの成り立ちは、
一方ではスケボー関係の人たちですよね。
で、一方ではスタントマンですよね。
どっちも、動きを見せる人から、
あのアイディアが生まれて。
で、それが、MTVから出て行ったっていう、
その成り立ちが、すごい面白いなと思って。
芝居やってる人でも何でもなくて、
芝居の端っこにあるスタントと、
スケボーっていう、いわば何だろう、
サブカルチャーの運動部みたいなやつらでしょ。
それが、自分たちを賭けてやると
ああなるんだっていうのが、
系統図が面白いなと思って。
松尾 面白いですね。それがまた、
笑いに行き着いてるのが面白いですね。
糸井 そうですね。そうですね。
獲物は笑いでしたね。
で、あの中にもちっちゃい人とか。
松尾 あと、極端にでぶな人とか。
糸井 そう、そう、そう。
だいたいでかいやつがちっちゃいやつを
追いかけてますよね。あれは大人計画に
ちょっと通じるものもないことないね。
劇団の活動とかって、やっぱり面白いのは、
All OKってことじゃないですか。
「おまえの役はあるぞ」っていう感じ。
そういうのが、僕らは観てて憧れますね。
競争して、2番目まではOK、っていうんじゃなく、
16番目のやつにも、「おまえの役はある」。
そういうのが、一種の新しい組織論として
知りたいところなんですよね。
昔、松尾さんに1回会った時に、
今でも覚えてるんだけど、
「自分の好きなことやりたいって言って、
 やめていくやつがいるんですよね」って、
あれがおかしくてさ。
「え? 劇団は自分の好きなところじゃ
 なかったのか」って、あれは名台詞です。
松尾 そうですね。
「このままじゃ、自分の好きな時間が
 持てないんでやめます」って(笑)。
何の時間だったんだよ、今まで。

糸井 あれは、今でもそういうようなことは
あるんでしょうかね?
松尾 さすがにいないと思いますけど。
糸井 昔はやっぱりそういう人は多かった?
松尾 昔はまあ、本当に烏合の衆でしたからね。
糸井 でも、今、あらゆる会社で
あの台詞はあると思うんですよ。
おそらく、あらゆる会社で。
松尾 いや、多分ね、僕らの当時でも
そいつは新しいやつだったと思いますよ。
一同 (笑)

糸井 本当の本当は、そういうやつばっかりでも
成り立つような仕事の仕方があれば、
一番いいんでしょうけど。
だって、やっぱり面倒くせぇなと思いながらも、
目覚まし時計かけてるっていうこと自体が、
本当は無理なこととも言えるんで。
「台詞覚えなきゃならないんですか」
って訊かれたら、
「覚えなきゃなんないんだよ」って
説明しなきゃなんないわけで、
大変なことなんですけど(笑)。
松尾さん自身は、我慢するとかっていう
気持ちはなかったんですか。
結構大変なことやってたと思うんだけど。
松尾 うーん・・・・、それは僕、
好きで始めたことですからね。
やらされてやってるんだったらともかく。
ただ、やっぱりどんどん年とともに、
台詞を覚えるのが面倒くさくなっちゃって。
どうやったら、台詞をうまく覚えないで
言えるかっていうことをね、
研究してるんですけど(笑)。
糸井 すると、この間、ラリってるような台詞は
そういう研究の一部ですか。
松尾 そうですね。
どこまで人が聞き取れない台詞を言って、
場を持たせることが出来るか。
糸井 ものすごく持ってましたね(笑)。
ていうことは、あれ、
その都度やっぱり微妙に違う?
松尾 もうでたらめです。
糸井 いいですねぇ。
やれったって、出来ないですよ、なかなか。
松尾 それはやっぱり研究の成果です。

一同 (笑)
糸井 人生賭けて。
松尾 でも、その研究してるところは
人には見せられないですね。
一所懸命やってるんですけど。
こんなに一所懸命やってることが、
こんなに人に見せられないとは。
糸井 やっぱり練習は要りますよね、あれ。
松尾 要ります。
糸井 要りますよね?
で、人が見たらどう思うかは別として、
本人としてはものすごいちゃんとやらないと、
出来ないですよね?
松尾 ええ。
糸井 はあ~。
松尾 だから、1日中、
家の椅子に座って、でたらめな
フランス語を復唱してるんです。
糸井 その、ヒントになる、
降りてくるものっていう材料が
熟成していくわけでしょ?
松尾 まあ、実際口にもしますし。
糸井 なるほどね。耳から聞くわけだ。
自分で口からしたものを。

松尾 そうです、そうです。
糸井 「いいぞ」って。
松尾 こう言ったらフランス語っぽく聞こえるかなとか。
僕、どう考えても、
昔のタモリさんの芸がすごい好きで。
糸井 いや、分かる、分かる。
タモリさんは一発で出来てたみたいね。
あんまり練習してなかったみたい。
松尾 耳が相当よかったんだと思いますよ。
糸井 「俺はやっぱり自信がある」って言いますよね。
普通の人とは違いますよね。
松尾 違います。僕だって、そもそも子どもの頃、
芸人になりたくて。
芸人か漫画家になりたかったんです。
で、どっちかなっていうのを迷ってる時に、
タモリさんが現れて、
「あ、この人には勝てない」と思って、
芸人はやめたんですよね。
糸井 どっちでもなかったんですね、結局はね。
松尾 まあ、そうですね。
糸井 漫画家に近いんですかね。
それは僕、人のこと言えない。
僕も漫画家になりたかったんです。
漫画家になりたいっていうタイプの仕事を、
思えば、今も、してますね。
漫画家を分解して、ある形にすれば、
僕の形になりますね。
松尾 なんかもう完全に一人の中で世界作ったものを
発信していくわけじゃないですか。
だから、置き換えが効くなっていう感じが
するんですけど。
シナリオライターとか、
そういう分化したものじゃないですもんね。
糸井 台詞で展開を作っていくっていう意味では、
劇と漫画はもう全くそっくりですしね。
僕もいつまで経っても、書き言葉じゃなくて、
しゃべり言葉の形を取って
表現してるっていうところは、
変わってないですね、そこから。
松尾 ああ、そうか、そうか。
糸井 書き言葉の振りをしている時は、
逆にちょっとパロディですね。
だから、書き言葉の形を取ってる時、
「私」って書いてましたからね、自分のことを。
それはもう、パロディですね。
松尾 そう考えると、糸井さんの文章は
ほとんど独白に近い感じですもんね。

糸井 で、どこかのオヤジの
真似をしたようなことを言って
茶化してみたりしてるだけで。
そんなことを繰り返してるだけですね。
そういう意味ではフキダシの中に書ける。
松尾 ああ~、そうか、そうか。
コピーとかもそうですもんね。
糸井 コピーもそうですね。
コピーもそうじゃない書き方はあって、
それはそれでやるんですけど。
でも、追認して欲しいんですよ、
自分で出した言葉なんだけど、
相手の口から聞いてみたい、
っていうところがあって。
その意味では、完全にフキダシですよね。
松尾さんの構成、そういえばそうだ、本当に。
大道具の作り方なんかも、
絵で描いてる感じしますね。あの絵ですよね。
松尾 実際僕が描いて渡すことは多いです。
糸井 こんなにでかく作れるかな、
みたいに心配なものも
でかく作ったりしますよね?
松尾 (笑)そういうこともあるかもしれない。
糸井 大道具や作り物のチームも
素人から始まってるんですか。
松尾 あの人たちはプロの集団です。
でも初期は自分たちで作ってましたね。
手作業ですね。
糸井 どこかからほかの人たちの手を
借りられるようになっていった?
松尾 最初、横の繋がりが全くなかったから、
誰に頼んでいいかも分かんないんですよ。
で、公演を打つごとに手伝ってくれる人が増えて、
そうしたら、まあ、プロの人も
だんだん付いてくれるようになって。
やっぱりプロの人が付いてくれたら、
こんなにやることに広がりが
出来るんだっていうことが分かって
よかったです。

  つづきます。
2008-10-16-THU