カメラに乗って旅をしてきた。操上和美さんと糸井重里の、いい時間。

第05回 建築雑誌ばかり眺めていた。

糸井
あの、操上さんの
「しょうもないカッコいい伝説」(笑)って
いくつも、あるじゃないですか。
操上
うん?
糸井
たとえば、ほら、どこかロケへ行ったら
「ホテルの部屋を
 自分の部屋にしちゃう」みたいな。

あれって、自分ちから
わざわざ、いろいろ持ってくんですか?
操上
持っていかないよ。
糸井
じゃ、どうやって「自分の部屋」に?
操上
気に入らないドアには
俺の好きなジャケットをぶら下げて、
部屋には
タワーレコードで買ってきた
好きなレコジャケをバーっとならべて、
預けっぱなしにしてる
ターンテーブルを部屋に持ち込んで、
好きな音楽を聴きながら、
好きな本、
たとえば田村隆一の
『青いライオンと金色のウイスキー』とか
好きな詩集を、何冊か置いておく。

そうすると、部屋に入ってきた人が
「操さん、
 自分の部屋にしてるね」って。
ほら、今みたいにロケが短くないから。
写真
糸井
昔は、遠いところに、長くいた。
操上
まあ、今は、そうじゃないですけどね。

着いたらすぐに現場へ向かい、
チェックとミーティング、
次の日から
撮影に入れるように準備しているし、
終わったらすぐ帰ってしまう。
糸井
前は、ひと月くらいいたんですか?
操上
ひと月はいないけど、
少なくとも
10日から2週間くらいはいたよ。

打ち合わせをしたり、
モデルのオーディションしたり、
ロケハンして撮影許可を取ったり、
いろいろやることがるから
日数も、たくさんかかったんです。
糸井
そうでしょうね。
操上
だから、自分の車も借りて置いてありました。

毎晩、みんなで一緒に行動するのって
面倒くさいんですよね。
車があれば
ひとりでバーッとどっかへ行けるから。
糸井
へえ。
操上
最初のころは誰かと相部屋だったけど。
1970年代。
糸井
ドルが「360円」とかの時代。
操上
いびきのうるさいやつと相部屋だと、
まったく寝られないわけ。

たたき起こしてやろうかなとも
思うんだけど、やっぱりかわいそうだからさ。
シーツ引っぱがして、
バスルーム行って、包まって寝てたりしてた。
糸井
操上さんが(笑)。
操上
それでも結局、一睡もできずに‥‥。
糸井
「風呂場」ですもんね、そこ(笑)。
写真
操上
うん、次の日、朝飯を食いながら
「お前、熟睡してたな。
 俺なんかまったく寝てないんだぞ、ゆうべ」
って言ったら、クライアントが
「じゃあ、別に部屋を取りましょうか」って。

それからようやく、
別々の部屋を取ってもらうようになったんだ。
糸井
こうやって、あとから語る話としては
おもしろく聞けるけど、
でも、当時は、イヤだったでしょう?
操上
もう、イヤで、というか大変でしたね。
糸井
操(くり)さんって、
自分のなかの「世界観」みたいなものごと
動きまわってるイメージがある。
操上
そう?
糸井
だって、旅先なら旅先で、
「操さんのいる場所」は「操さんの場所」に
なるじゃないですか。
操上
うん‥‥そうかな。
糸井
なってますよ(笑)。
操上
ロケハンのときに
アンティーク屋から変なものを買ってきて
部屋に並べたりすると
だんだん「自分の場所」になってくるんだ。

好きな音楽もかかってるしさ、
そういうのって、ちょっと楽しいじゃない。
糸井
東京にいるときと
ロケ先にいるときと、同じ感じですよね。
操上
そういう感覚って、大事だと思うんだよ。

それに、撮影のときにセットを組んだり、
デザイナーに説明したりするとき、
そういうことしてると役に立つんだよね。
ふだんから
空間をつくるってことを、やってるとさ。
糸井
あ、そうでしょうね。
操上
次はこういう雰囲気にしたいなあとか
イメージも湧いてくるし、
誰かの提案に対してNGも出せるしね。
糸井
操さんの「いいなあのモノサシ」が
あるってことですね。
操上
俺、遅れてこの業界に入ったでしょ。

そのとき、勉強だと思って
建築雑誌をメチャクチャ読んだんだ。
糸井
へぇ。
操上
なんで建築雑誌だったのかは
いまとなってはよくわからないんだけど
『新建築』とか『近代建築』とか
そんなのばっかり読んでた。

たぶん、そのころって、
「インテリア」だとか「空間」だとかに
何か新しいものを
感じていた時代だったんだと思う。
写真
糸井
なるほど。
操上
これから写真を撮るんだったら、
空間に対するセンスが必要になってくる。

そう思って、どれだけ読んだか。
糸井
ファッション誌は?
操上
まったく読まなかった。
糸井
そうなんですか。

でも、操上さんには
「ファッションじゃなく建築、美術」
って気配はずっと感じてたかも。
操上
そうだね、建築雑誌とか、美術雑誌。

若いころは
そんなのばっかり、眺めてましたね。

<続きます>