カメラに乗って旅をしてきた。操上和美さんと糸井重里の、いい時間。

第04回 カメラに乗って。

糸井
さっき言った「ほぼ日」の写真連載
濱田祐史さんという若い写真家が
「コンセプトって言葉が
 写真にとっては、ちょっとじゃまだ」
って言ってたんです。
操上
ええ。
糸井
ぼくの場合は写真じゃないんですけど、
若いころから
「コンセプトが大事」って言われて
「そうなんだけど、じゃまでもあるなあ」
って、ずっと思ってたんです。

操上さんは、どう思いますか?
操上
うん、じゃまですよね。

だって大事なのは
本能だとか、生理だとか、肉体だとか、
感覚的な刺激。写真家の場合はね。
糸井
とくにそうだってことですか?
操上
広告をつくる場合は
はじめに「コンセプトらしきもの」を
設定しておく必要があるけど、
つくっていく過程では直感がすべて。

身体で感じたことなんかを
いちいち何だかんだ考えてたら、
前に進まないからね。
糸井
つまり「考えが先だ」って「考え」は、
ひとつの幻想だったのかもしれないと。
操上
うん、現実は目の前だから、
バーッといかないとさ。
写真
糸井
ロバート・キャパの写真を見て
「カメラがあれば、どこへでも行ける」
と思ったときの操上さんは
カメラが、まるで「乗り物」みたいに
見えていたと思うんですよ。
操上
そうかもしれない。
糸井
操上さんには、そのころからずーっと、
「旅」というイメージが
ついてまわっているような気がします。

「カメラが、俺を乗っけて、
 どこかへ連れて行ってくれる」って。
操上
うん、いいですよね、カメラがあると。
ほんと、どこへでも行けるから(笑)。
糸井
もし、カメラなければ‥‥。
操上
行かないかもしれないなあ。
糸井
操上さんは
「いいなあ」って感じたものの写真を
撮ってるんですか?
操上
そうですね。直感で!
糸井
シャッターの「カシャッ、カシャッ」って、
じゃあ、
「いいな、いいな」って言ってるんですね。
操上
そうだね。
「たまらないね、この場所は」みたいな。

「街並がいいなあ」とか、
「人間がいいなあ」とか、
「空気がいいなあ」とか、
「光がいいなあ」とか‥‥そんな感じで。
糸井
「イヤだねぇ」っていうシャッターの音も、
あるんですか?(笑)
操上
うーん、イヤだイヤだと言いながら、
シャッターを押す?

まあ、イヤなもの自体が
おもしろかったりする場合はあるよ。
糸井
「イヤだ」という「いい」。
写真
操上
「イヤだ」って存在が俺を挑発してきて、
「いいね、いいね」と(笑)。
糸井
操上さん、
「潰れた空き缶」ばっかり撮ってるときが
あったじゃないですか。
操上
ええ、ありました。
糸井
あれも「いいなあ」だったんですね。
操上
うん、なんか魅かれるんだよね。
糸井
ずいぶんたくさん
撮ってらっしゃいましたもんね(笑)。
操上
いまだに好きなんですよ、錆びたもの。

錆びるとか、腐るとか、朽ちるとか、
その途中段階にあるもの、とか。
それもひとつの「旅」って気がして。
糸井
なるほど。
操上
そいつの命の終わりに向かう旅みたいな、
そういう瞬間を感じられるもの。

人間だって、いつか死んでしまうまでは、
やっぱり「旅」じゃないですか。
糸井
うん、うん。
操上
そこらへんにある「空き缶」が
潰れて、腐って、錆びて、
いつしかボロボロに朽ち果てていく
そのプロセスが、
なんとも愛おしいなあと思うんです。

で、その「愛おしさ」が、
シャッターを切らせるんだな。
糸井
「はじめから完成しているもの」
なんて、ないですもんね。
操上
進行形だよ、常に。
糸井
操上さんは、それを記録してる。
操上
そう、愛おしいなと。
糸井
「俺は、見たぞ」と。
操上
で、気に入ったら、拾って帰ってる。
糸井
そうなんですか(笑)。
操上
拾ってきた空き缶やらが溜まったら
スタジオに入って、
自分の光を当てて、もう一回、見る。

奥の方にしまいこんであったものは、
時間が経って、
ボロボロになってるんだけど
そのボロボロに、大事に光を当てて‥‥
それが、おもしろいんだよね。
写真
糸井
奥さんはいやがらないですか?
操上
ぜんぜん。
糸井
あ、そうですか。
操上
うん。
糸井
あ、溜め込んでるのは
ご自宅以外のところってことですか?
操上
家だよ。
糸井
本当?
操上
本当。
糸井
それで、よく嫌がられないですね。
だって、他人にとってはゴミですよね?
操上
そうだよ。
だから「俺のゴミに触るな」って(笑)。

<続きます>