もう１個、質問していいですか？

はい。

最初の曲の「御機嫌如何」の、
この歌詞の女の人は、
強がり、っていうことなんでしょうか。

別れた女ですよね。

でもこの人は「あなたを忘れました」って。

わざわざ言うんですよね。

「女は意外と立ち直れるものなのでしょう」
と言いながら、
泣き過ぎて血を吐いたりしてます。
やっぱりこの人は強がりなわけですよね？
かな？

強がれっていう歌詞もよく出てきますね。
「寂しさを人に言うな」みたいな。
強がってなんぼよみたいなところは、
あるかもしれないね。

ちょっとね、好きなんです、わたし。これ。

忘れてないんだけど、
忘れたって言おうみたいな。

「悪女」の主人公もそうですね。

そうですね。
忘れられるわけないじゃないか、
が前提か。

ああ。

ていうか、ものすごく
別れるというテーマが多いですよね、
やっぱりね。

自分の感情を全部、人に出して
「慰めてー！」って言うのは簡単だけども、
そこでぐっと堪える最後の壁１枚を
自分で持つのがカッコいいよっていう感じ。
ああ、やっぱそっちの方が
カッコいいなって、
わたしは思うんです。
だから「御機嫌如何」は好きなんですね。

名曲ですよね。コンサートの最初の、
ご挨拶代わりの軽い感じで始まりながら。

じつは、ジャブ。

びっくりしちゃう、
御機嫌如何ーって、
お嬢様系かしらって思ったら、
泣き過ぎて血を吐いてって。

それでも水を飲むって。
「そうよ日々の暮らしは
　心とは別にゆく」ですよ。

すごいね。

あやさん、歌詞付きで観てたから
尚のこと、深く刺さってますよね。

たけいさんに、絶対字幕ありで
観た方がいいよって言われて。

好き好きもあるけど、
初めて観るんだったら、
歌詞を合わせて読んでほしいなあと。

この、合わせ技で楽しんでもらいたいですね。

みゆきさんの表情と表現と歌詞と。

このＤＶＤ、5.1チャンネルセットで
大音量で聴くとまたいいですよ。

5.1、いい、やっぱり？

いいなあ。それは羨ましい。

よこさとさんから、
中島みゆきをもうちょっと掘り下げて
聴いてみようかなと思う人に、
このアルバムを聴いたらいいよって
お奨めはありますか？

ああ、聞きたい、聞きたい。

入門。

入門ですか、

これを聴いたらどう？　って。

ぼくはね、やっぱり初期の頃が好きなので、
えっとね、ちょっとこの３枚かな、
まず『寒水魚』。

ああ！

あと、『生きていてもいいですか』と、
『愛してると云ってくれ』。
『寒水魚』は、入り口として
すごくいいと思ってます。
「悪女」が入ってますし、
「捨てるほどの愛でいいから」
って歌があるんですけど。

いいですよねえ。

これがね、素晴らしいんですよ、
自分のことなんか全然振り向いてくれない、
好きな相手がいて、片思いなんですけど、
その人が誰かのことを思う気持ちの
その余ってる、ほんのちょっとの
捨てるぐらいの気持ちでいいから
自分にくださいっていうふうに歌ってる歌で。

せつない（笑）。

これは素晴らしい。で、その後、
ラストに「歌姫」があって。
「歌姫」ってみゆきさん、
自分のことじゃないですかね。

そうですよね。

これがきれいなんですよ。
すごくきれいなアルバムで、
最初の１枚にはいいでしょうね。

みゆきさんが30歳ぐらいのときの
アルバムですよね。

うん、1982年だから、そうですね。

「歌姫」はぼくもすごく好きで、
あとから歌い直してもいますよね。
「握りこぶしの中にあるように見せた夢を
　もう二年　もう十年　忘れすてるまで」
ですよねえ‥‥。
ああ、聴きたくなってきました。

そして『生きていてもいいですか』が、
『寒水魚』の真逆で、
「うらみ・ます」から始まるやつです。

はい、はい、はい。

♪うらみーまーす♪

♪うらみーまーす♪

♪うらみーまーす♪

おじさん３人が‥‥

ちょっとこわいよね‥‥

やばいっすよね‥‥

「うらみ・ます」は
最後まで恨み続けるんですか？

「うらみ・ます」はそうです。
あんたが死ぬまで恨みます。

はあー。じゃもうずっと救いようがなく。

なく。

その人を恨み続けるんですか。

死ぬまで。

そうなんです。

えー。

これはだから
すごい濃いアルバムなんですよ。
その後、
「エレーン」ていうのが入ってて、
舞台がどこの国か
よく分かんないですけど、
別の国から出稼ぎに来てる
さげすまれている娼婦がいて、
その人が死ぬんですよね。
１人で、病気か何かになって。
で、その人の部屋に子供が入って、
引き出しか何か開けて遊んでたら、
その中にその人が故郷に送るために
貯めてたわずかな小銭が見つかる。
その娼婦をさげすんでた人々は、
彼女の孤独を知るっていうような
歌詞なんです。
で、その彼女が幸せな窓を、
幸せへの窓を覗いて行くっていうシーンが
歌われてるんですよ。
これはね、もうすっごい歌で、
暗ーいんですよね。
「うらみ・ます」から始まって
「エレーン」があって。
だから『寒水魚』が
白みゆきさんだとしたら、
『生きていてもいいですか』は
黒みゆきさんです。
「元気ですか」から「怜子」とか
このへんもどっちかっていうと、
人が持つ、何かネガティブな感情、
嫉妬してしまったりとか、
誰かを恨んでしまったり
とかっていうようなものを
ちゃんと歌うんですよね。
そんなの歌う人、いないじゃないですか。

「怜子」は昔の男の気持ちで、
別れて君はきれいになったねと、
女は恋をすると
こんなに変わるんだねっていう歌？

ん、男の気持ちというよりも、
女の子が自分のその女友達を
歌ってるんじゃないかなと思う。
ぼくは女の子だと思ったよ。

♪怜子　いい女になったね♪
ぼく、男目線で見てました。

私、歌い手は女の人だと思ってた。

ほんと？

女の人ですよね。

男だと思ってた、ぼく。
間違ってた。

や、分かんないですよ。

何かぼくのイメージの
シチュエーションとしては、
共通の好きな男の人がいたんですよ。

そうそうそうそうそう。

三角関係までいかないんだけど。

そうそうそうそうそう。

あー。

そうかも。
「惚れられると」だもんね。
その友達のほうに、
彼は、惚れちゃったんだ。

で、その人と怜子が付き合うようになって。
そういう歌だと思ってました。

ぼくは女々しい男の歌だなぁと（笑）、
自分がふがいないばっかりに別れて、
新しい男は、自分の友だちでもあるやつで、
そいつが彼女をキレイにするくらい
すごいやつだったということもショックで、
いちゃいちゃしてるふたりを見ちゃって
いじいじしてるんだなあと。
未練たっぷりなうえに、
負けっぱなしじゃないかって。

（笑）でもそういうふうに嫉妬とか、
ちょっと何か、何だろう、暗いところって
やっぱり、
誰でも心の中にあるじゃないですか。
そこを言ってくれるっていうのは、
いいですよね。
「そういうもんだよ」っていう。

そうなんですよ。
だからね、みゆきさんのアルバムを聴くと
いつも感じるのは、
世の中って哀しみに
満ちてるんだなっていうこと。
それを実感するんですよ。

や、うん。

幸せだったりとか、優しいことだったりとか、
何かこう気づかいとか、
そういうものはいっぱいありますけど、
でもベースは、人は死ぬし、孤独だし。

そうですね、そうですね。

憎みもするしっていうので、
悲しいことや辛いことで
世の中溢れてるんだっていうのを
教えてもらえる気がして。
それって、すごい厳しい話なんですけど、
それがね、確認できると楽になるんです。

うん、うん。

で、それだけに終わらなくて、
その中に仄かな希望とか、
優しくあることみたいなことを
感じさせてくれる歌詞とかも多いんで、
だからいいんですよね。

そうですね。

だから人の本当の部分に
ちゃんと向き合って表現されてますよね。

じっさいにね、
哀しいだけじゃないじゃないですか。

そうそうそう。

哀しさと面白さがないまぜになって
人生だから、
そこも全部入ってますよね。

うん。