- 糸井
- 「こう見えてますよ」って。そこには尊敬が入ってる場合と、そうでもない場合がある(笑)。
- 清水
-
おいし過ぎる場合がね(笑)。
「必ずウケる、この人」っていうの、何なんだろう。別に桃井さんのことは強調してないんだけど、普通にやっててもすごいウケるのよね。あれと、男の人がやる矢沢永吉さん。すごくおかしいね。不思議ね、あれ。
憧れがどんなに強くても、そうじゃない人でも、なんかおかしい。
- 糸井
- それは、幼稚園に行く子どものいるお母さんが、自分の子どものハンカチにクマとかウサギとか目印に描くじゃない。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- あの、パンダだね。
- 清水
- 何それ(笑)。
- 糸井
- 目印に描くだけなんだけど、パンダはものすごくパンダじゃない(笑)。ネコとクマと描いてもそんなにわかんないじゃない。
- 清水
- うんうん、なるほど。
- 糸井
- でも、パンダは、超パンダじゃない(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- で、永ちゃんって、超パンダなんだと思う。
- 清水
- ああ、なるほど。同じ動物界でも。
- 糸井
- 桃井かおりも(笑)。
- 清水
- 桃井さんも超パンダなんだ(笑)。人が集まるしね。
- 糸井
- そう。
- 清水
- そうか。だから、おかしいのかな。
- 糸井
- だってさ、どう言ったらいいんだ。永ちゃんの面白さって、とんでもないよ、やっぱり。
- 清水
- 面白さってふたつあるけど、笑うほうと深みのほう。
- 糸井
- 結局それね、ひとつのものだよ。
- 清水
- あ、そう?
- 糸井
- うん。つまりね、永ちゃんね、二じゃないんだよ、大もとは。
- 清水
- ふーん。
- 糸井
- ひょうきんな子だったらしいんだ、やっぱり。
- 清水
- え? 『成りあがり』読むと違うけど(笑)。
- 糸井
- だから、ちょっとかいつまんでるんだよ、あれは(笑)。
- 清水
- 書いた人が言うんだから間違いないか(笑)。
- 糸井
-
永ちゃんはなんかね、おかしい子なの。ひょうきんな子なの。
で、ひょうきんな子が「二の線」もレパートリーに入ってるんだよ。だから、できるんです。
- 清水
- そうかな。じゃ、笑っても全然平気なのね。
- 糸井
- いや、そこのあたりは、あまりにも本物なんで(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
-
俺ね、今年また永ちゃんのこと、もっとものすごく好きになったんだ。
去年の暮れに急に電話があって。
- 清水
- そう。
- 糸井
-
何かのときにひょいとね、思い出したかのようにかけてくるんだけど。
なんでその電話かけたかっていうと、昔うちで作った『Say Hello!』っていう犬が生まれた本があって。
「それを今、ずっとあったんだけど見たら、糸井、おっもしろいことしてるねえ」(モノマネ)。
- 清水
- (笑)。すごいうれしいですね。
- 糸井
-
「いいよ。そういうところがいいよ」(モノマネ)
何年前の本だよ(笑)。もうさ、14、5年前の本を今見て、電話したくなったって(笑)。
- 清水
- へぇー、少年っぽいですね。
- 糸井
-
で、それが素直に出てきて。
「思えばおまえのやってることは、そういうことが多くて、俺にはそういう優しさとかってのが、ないのね」(モノマネ)。
- 清水
- そんなことないですよね、きっと。
- 糸井
-
そう。で、「それは違うよ。同じもののこっちから見てるか、あっちから見てるかの違いだけで、俺は永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」って言うと、
「そうかな。うれしいよ、それは」(モノマネ)。
- 清水
- へぇー、ずいぶん‥‥
- 糸井
- いいでしょ?
- 清水
- うん。
- 糸井
-
だから、どう言えばいいんだろう。
永ちゃんはボスの役割をしてるボスのときと、ときにはしもべの役割をしたり、ただの劣等生の役割をしたり、全部してるんです。
- 清水
- そうか。
- 糸井
-
それを大体全部、俺は見てるんで。ああ、あの世界ではもうトップ中のトップみたいになっちゃった、別格みたいになっちゃったけど、相変わらず同じだなと思って。
また今年、じーっと見てようかなと。
- 清水
- 何で知り合ったんですか、最初。
- 糸井
- 最初は、『成りあがり』を作るために知り合った。
- 清水
- あ、本ありきで?
- 糸井
- ありきで知り合った。
- 清水
- へぇー。で、どんどん好きになってったんだ。
- 糸井
-
キャロルとか見てたから、カッコいいなあと思ってて。カッコいいっていうのと面白いなっていうのは、当時からだったのよ。
だって、今さらハンブルク時代のビートルズのコピーバンドやってるみたいに思えたから。
- 清水
- あ、そうなんだ。あのロックンロールの形態が?
- 糸井
- うん。70年代のビートルズってどんどん高度なほうに行ってるのに、永ちゃんは革ジャンにリーゼントで。
- 清水
- 50年代か。
- 糸井
- キャロルはオリジナルも、その昔のロックンロールを真似してるみたいなことやってたから。でも、それがいいじゃんっていうのを言いにくいのよ。学生はみんなインテリのふりしてるから。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- だって、山下達郎さんとか細野(晴臣)さんだとかはさ、向こうの知らないようなバンドのことを知っててさ、みたいなことをどんどんやってるときに「♪きゃわいい〜」ってやってるわけでしょ?
- 清水
- (笑)。そうね。
- 糸井
- で、それもやっぱり女の人たちが飛びついたんで、ぼくらはあとから追っかけたんですよね。
- 清水
-
ああいうブームってほら、本当は脈々とあるじゃないですか。
ああいう不良が好きっていうの。さすがにないのかな、今の若い子は。
- 糸井
- 若くて不良っぽいっていう人がモテるのは脈々とあると思うよ。読書クラブのやつよりサッカー部のやつのほうがモテますよ。
- 清水
- そうだね、そりゃ(笑)。
- 糸井
- それとか、私につれないっていうのがかえってよかったり。モテない人は、つれないどころかね、大サービスしてるのに「しつこい」って言われたり(笑)。
- 清水
-
不条理よね(笑)。
永ちゃんにあって糸井さんにないものっていうと何だと思いますか。「三の線」って言ったら、また怒られる(笑)。
- 糸井
- いや、三のところは一緒にしてもいいと思ってますよ、ぼくは。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 永ちゃんにあってねえ、うーん‥‥量的にものすごく多いんだけど、責任感じゃないかな。
- 清水
- へぇー。それこそ、社長としても?
- 糸井
-
学んでますよ、ぼくは。永ちゃんから学んでますよ(笑)。
やるべきだっていったときに、どのくらい本気になれるかとか‥‥でもね、そこだけでいうと、そういう人はいっぱいいるからなあ‥‥。
あ、生まれつきボスザルとして生まれたサルと、そうでもないサル。
- 清水
- そうか。成りあがり、そっちだったんだ(笑)。
- 糸井
- そうでもないサルが、「ボス、すげえっすぅ!」「ちょっと書いときます!」みたいな(笑)。
- 清水
- サル山にいそうですもんね(笑)。
- 糸井
- チンパンジーの戦争のドキュメンタリーっていうのがあって、ボス争いがあるんだよ。で、クーデター起こそうとして失敗したやつが結局追い払われて、隣の山からずーっと様子を見てて。
- 清水
- かわいそう!
- 糸井
- 面白いだろ? メスたちはボスのそばについて、「ノミ取ります、ノミ取りますよ」みたいなのとか。
- 清水
- いやだ(笑)。
- 糸井
- 長老みたいなのも、「ああ、この方が偉いのは、私はよくわかっている」みたいに(笑)。
- 清水
- (笑)。あ、そう。
- 糸井
-
そういうドキュメンタリーがあって。
そのボスっていうのを何で決めるんだろうって思わない?
- 清水
- うんうんうん。
- 糸井
- そしたら、喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
- 喧嘩じゃないの?
- 糸井
- 喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
- 喧嘩以外に何かあるの?
- 糸井
- 教えましょう。パフォーマンスなのよ。
- 清水
- ウソ(笑)。
- 糸井
- まず、「ボス、いずれ挑戦しますからね」みたいな目で見たりするとこから始まってて、「おまえの最近のその目つきは目に余る」「おまえ!」なんてやると、すごすごっと逃げたりを繰り返すわけ、そのクーデター前は。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
-
で、あるとき「俺の仲間もいるんですよね」みたいに仲間を連れてきて、「いつまでもボスと呼んでると思ったら大間違いですよ」みたいにグッと来ると、ボスが、「おい、目に物見せてやる!」ってバーンとかかっていくの。
そうすると、1回ふにゃふにゃっとなるんだけど、追っかけっこになるんだよ。
- 清水
- うんうんうん。
- 糸井
- で、たとえば川のそばに行くと、石とか持って、川に向かってバッシャバシャ投げるんだよ。
- 清水
- 関係ないのに。
- 糸井
- 何の関係もない(笑)。
- 清水
- すごいね。
- 糸井
- で、ボスのほうも、ガーッ、バシャバシャって投げるんだ(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- で、木があると木をつかんで、ざわざわ、ざわわざわわ!やるのよ。
- 清水
- 祭りだ。
- 糸井
- そう。ボスも、ざわわざわわって。
- 清水
- 「ざわわ」やめてください(笑)。
- 糸井
-
そうだね(笑)。
ひっくり返ったり、水しぶきあげたり、もう自分が嵐になるわけ。で、結局のところ、それで、すごすごと負けたほうが引き下がるの。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
- 清水
- やろうと思ったらこれだけできるよっていう。
- 糸井
-
パフォーマンス(笑)。
それを見てからますます、永ちゃんのステージとか見てると、これは、もうできない。
いろんなね、大人数の人がひれ伏すようなチンパンジーたちはいるよ、芸能の世界にだってね。人数でいったらこの人はこれだけ集めるとか、あるよ。でも、やっぱり永ちゃんのそのボスザル感は、すごいよね。
- 清水
-
ユーミンさんが1回、何かのインタビューで、どうして矢沢永吉さんは自分の毎日のようにやるパフォーマンスに飽きてないのか知りたいみたいな、それは皮肉じゃなくてね、本当に知りたいみたいなこと言ってたけど、どうなさってると思います?
いつもどこ行っても満員でワー、満員でワー、じゃないですか。で、どういうバンドも、それにちょっと飽きる。
- 糸井
- 「それは矢沢が真面目だから」(モノマネ)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 「矢沢、手は抜かない」(モノマネ)。
- 清水
- やめてもらっていいですか(笑)。
- 糸井
- 多分そういうことだと思うよ。
- 清水
- 好きなんですね。
- 糸井
-
手を抜けないんだよ、多分。
で、抜いたらどうなるか。矢沢じゃなくなるって。だから、矢沢は矢沢を全うするんですよ。
- 清水
- そうか。それはみんなのためでもあるし。
- 糸井
-
うん。さっき「責任」って言ったのはそういうようなことで、それのちっちゃいやつはみんなが持ってるわけです。
たとえば清水さんの最初の武道館って、大勢が集まって。
- 清水
- あ、そうです、そうです。
- 糸井
- あのときに、「私がぐずぐずしてらんない」っていうの、なくはないですよね?
- 清水
- そうそうそう(笑)。
- 糸井
- 俺、それぐらいのときに、ああ、清水さんもボスになったんだと思ったよ。
- 清水
- え、本当?
- 糸井
- うん。つまり、立候補しないのにボスになった人って一番いいなと思ったよ。
- 清水
- 本当に?
- 糸井
- 何ていうんだろう、利害関係なく集まってんじゃん。
- 清水
- ああ、そう、そう。よくわかりますね(笑)。
- 糸井
- 別に清水プロダクションに入ったわけでも何でもないのに人が集まってて、で、なんとなく「やったほうがいいかな」って言ったら、「そうじゃない?」って言うやつが周りにいた、みたいになってるでしょ。
- 清水
- うん、えらいもんでそうですね(笑)。
- 糸井
- その場所に立つのって、なかなか大変なことでさ。
- 清水
- 目指したらね、きっと大変だと思う。
- 糸井
- 目指したら大変なのに。
- 清水
- うん、運もよかった。
- 清水
- それと糸井さんが、お客さんってひとりを見たいんだ、と言ってくれて。そうかなと思ってひとりでやってみたら、やっぱりなんか、あ、これ、いただいたって感じがして(笑)。
- 糸井
- すごかったでしょう?(笑)
- 清水
- うん。快感でしたね。
- 糸井
- やっぱり、何だろうな、ここを私がちゃんとしないといけないみたいなのは、やっぱりちょっとずつはみんな持ってるんですよね。
- 清水
-
そうか。そういえばその武道館、このあいだ森山良子さんと一緒にやったんですけど、リハーサルスタジオに行って、うちのスタッフがエレベーターに乗ったら、「何階?」って言ってくれたのが永ちゃんで、めっちゃビックリしたって言ってた(笑)。
やっぱりいい人なんですね。3階だけど言えないみたいな、押させられない(笑)。そういう方なんですね。
- 糸井
-
そういう方なんです、うん。
だから、矢沢永吉としてできている、みんなが思ってるものを壊すのは自分であってはいけないって気持ちがあるっていうか。
- 清水
- そうか。
- 糸井
- みんなが思ってる矢沢永吉像と自分というのは、やっぱり離れてると思うよ。
- 清水
- そうでしょうね。
- 糸井
- それはイチローでも何でもみんなそうですよ、とんでもない人たちは。
- 清水
- そうか、マウンドに出るときは。
- 糸井
- うん。清水ミチコはどうなんですか。
- 清水
- 私、そのままかもしれない(笑)。できるだけそのままでいようと思うしね。
- 糸井
- 吹き出す人はそのままの人が多いね。
- 清水
- そうかも。だって、自分になるんだもんね、舞台上で(笑)。
- 糸井
- 自分で言ったことでプッて吹く人は、松本人志と(笑)‥‥。
- 清水
- ああ。そうか。
- 糸井
- その2人は吹くね、清水ミチコと(笑)。
- 清水
- 幸せ(笑)。
- 糸井
- ぼくは永ちゃんに対しては、ずっと絶対に下につこうっていう、もう決意のように持ってます。
- 清水
- 下のほうが気持ちいいんでしょうね。
- 糸井
-
もうすごく楽しいの、そのボスを見るのが。ボスザルを見るのが。だから、そういうふうに思わせてくれる人って、やっぱりそんなにいるもんじゃないんでね。
親しくすることもできるし、見上げることもできるしっていうのは、ありがたいことだよね。
- 清水
- 普通にしゃべることはできます? 糸井さん。お電話でも対面しても。
- 糸井
- それは普通。
- 清水
- ビビらずに?
- 糸井
- うん、それは普通。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- 俺は永ちゃんには、もう負けてる場所にいるからっていうのも言えるし。そこは楽ですよね。
- 清水
- そうか、立場をはっきりしとけば。
- 糸井
- うん。付き合いが若いときからだったっていうのがよかったかもしれないですね。
- 清水
- ああ、そうかそうか。
- 糸井
- 清水さんも、アッコちゃんと普通にやれるじゃないですか。
- 清水
- いや、そうでもないです、やっぱり(笑)。
- 糸井
- 本当?(笑)
- 清水
- 嫌われたくないっていうのがすごい強過ぎて、よく噛む。本当に(笑)。
- 糸井
- 本当に?(笑)
- 清水
- 普段もっと面白いんですけどねえって思いながら、こうやって自分を叩くんだけど、何も出てこない(笑)。
- 糸井
- かといって、即席で舞台をやるわけにもいかないか。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- 舞台を見せたことはあるんですか、矢野顕子に。
- 清水
- うんうん、見に来てくださったことはありましたね。
- 糸井
- ごはん食べながら舞台はやらないんですか(笑)。
- 清水
-
私? やらないよ。ディナーショーみたいなこと?
本人が食べるディナーショーって珍しいね(笑)。
- 糸井
- ごはん作って食べて、じゃあって(笑)。
- 清水
- すごいね、その勇気。
- 糸井
- でも、矢野顕子はそれができる人だよ。「じゃあピアノ弾くね」ができるよ。
- 清水
- 矢野さんがごはん食べるようにピアノ弾くからね。うん、そうかもね。あと、しゃべりながら弾けるでしょう?
- 糸井
- そうだね。
- 清水
- あれもすごいよね。どうなってんだろう。
(つづきます)