- 清水
- これ社長室なの?
- 糸井
- うん。でも、ほとんどミーティングルームだね。
- 清水
- あ、そうなってるんだ。ふーん。
- 糸井
- ぼくの入ったミーティングはここで行われるみたいなことが多い。
- 清水
- ふーん。
- 糸井
- で、行く場所がないときはここにいれば。
- 清水
- なんとか(笑)。
- 糸井
- うん。でも、それを知ってて訪ねてくるとか(笑)。
- 清水
- いいね、重厚感がなくて(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 清水
-
風通しよさそう。
もう70人になったって?
- 糸井
- 70なん人。
- 清水
- バイト入れると100人になるってこと?
- 糸井
- そうだね。今度、社員旅行行くんだけど。
- 清水
- 100人で?
- 糸井
- 100人以上。
- 清水
- どうやるの? 幹事大変ですね。
- 糸井
- そういうの、なんとかなるの、うちは。だって旅のしおりとか、もう1冊の単行本みたいになってるらしいよ。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 本当に(笑)。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
-
バカだから‥‥
仕事をする労力と同じものを遊びにかけるから、逆にいうと仕事の練習にもなるんで。
- 清水
- そういうものなんですか。
- 糸井
- うんうん。あなただってさ、テレビで(瀬戸内)寂聴さんが何か言ってるのを見てて、いいなあと思ってるのは、仕事か遊びかわかんないでしょう?(笑)
- 清水
- 仕事じゃないね、そうだね(笑)。
- 糸井
- いけるなあと(笑)。
- 清水
- おいしいなあと(笑)。
- 糸井
- おいしいなって食べてるわけだから(笑)、多分同じようなことで。
- 糸井
- 今考えてるのは、ここにひとつ棚を作ろうって。ぬいぐるみを置く棚。来世に残したいようなぬいぐるみがあるんですよ。
- 清水
- あれとか?
- 糸井
- これはまた違うジャンル。
- 清水
- あれは「おれ、ゴリラ」じゃないんですか。
- 糸井
- 「おれ、ゴリラ」の復刻版ですね。
- 清水
- ああ、へぇー。
- 糸井
- 明治のチョコレートを買って申し込んで。
- 清水
- 私、あれ持ってて、めっちゃかわいがった。大事にした。
- 糸井
- ああ、そう。
- 清水
- うん。うれしかった、あれ。
- 糸井
- え、持ってたんですか、あれを。
- 清水
- 持ってたの。なんでかっていうと、親が清水屋商店という商売してたので、明治の人が来てくれて、なんか特別なルートで。
- 糸井
- そうでしょう。あれを持ってるのはエリートですよ。
- 清水
- オッホッホッホッホ。
- 糸井
-
いや、本当に(笑)。
「おれ、ゴリラ。おれ、けいしん。」っていう。
- 清水
- おれ何?
- 糸井
- 「おれ、景品」
- 清水
- あ、そうでしたっけ。
- 糸井
- うん。「おれ、ゴリラ。おれ、景品。」っていうコピーで。
- 清水
- すごーい。
- 糸井
- で、その当時、歌奴っていった三遊亭圓歌がナレーションで。
- 清水
- あ、「山のあな、あな」の方?
- 糸井
- そうそう。あの人が「おれ、ゴリラ」。
- 清水
- いい声だもんね。
- 糸井
- うん。「おれ、けいしん」って言ってたんです(笑)。
- 清水
- あ、江戸っ子(笑)。
- 糸井
- で、そのコピーを書いたのが、誰あろう土屋耕一さんというぼくのあこがれの人で。
- 清水
- ああ!あれ土屋耕一さんなの?
- 糸井
-
そう。そのコピーと、ゴリラをプレゼントするってことと。その全部が、なんて面白いことしてるんだろうと思って。
そのゴリラはぼくの憧れのものだったんだけど、当時、これは石坂浩二さんにもらったの。
- 清水
- え、なんで?
- 糸井
- 石坂さんちに行ったら、あって。
- 清水
- なんで石坂さん?
- 糸井
-
石坂さんが結婚したばっかりぐらいだったんですよ。浅丘ルリ子さんと。で、「じゃ、原宿のあの交差点のとこで待ってろよ」とか言って、ポルシェのオープンカーでさ。
「やあ!」って、パジャマの上にコート着た石坂浩二が。
- 清水
- もう、都会人!
- 糸井
- そうそうそう。
- 清水
- マネできないね、それは。
- 糸井
- で、俺を乗せて、マンションに行って、そこでもう、ごはんは作ってくれるし、どこか痛いって言うとあんましてくれるし、みたいな。
- 清水
- なんでそんなにかわいがられたの?
- 糸井
- いい人なのよ、あの人。
- 清水
- 本当にいい方ですよね。
- 糸井
- いい人なの。
- 清水
- 私と光浦(靖子)さんが4、5年前にサイン会か何かやってたときに、「あれ石坂浩二さんじゃない?」って見たら、普通にお客さんとして立ってて(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 清水
- 「見に来たんだよ」って。なんてフットワーク軽いんだと思ってビックリしちゃった。
- 糸井
-
うん。俺の知ってる中でも、「いい人番付」に絶対いる人だよ。
彼からしてみれば、自分が遊び相手を探してるときに、ちょっと相手になってくれる若いやつがいたら、迎えになんて行って当たり前だよ、みたいな感じなんだよ。
- 清水
- そうなんだ(笑)。すごい。その頃の糸井さんの仕事って何?
- 糸井
- コピーライターだったの。
- 清水
- もう?
- 糸井
-
そう。養成講座を出たばっかりで、ちっちゃい会社に入って。
そこがたまたま少し大きめの仕事を取ってこられたんで、俺しかやる人いないんでやってたら、なんか石坂さんと馬が合ったというか面白がってもらって、その頃はけっこうそういうことを付き合ってもらってたんです。
- 清水
- へぇー、ラッキーでしたね。
- 糸井
-
うん。
確か、手持ちのお金がないっていうときに、「じゃ、ぼく、買っとくから」「あとで返すから」って返してないのがあるよ、多分。
- 清水
- あっちは覚えてるよ、きっと。
- 糸井
- 覚えてないと思う。
- 清水
- そうかな。
- 糸井
-
うん。でも、それの何倍もお世話になってますよね、本当に。
ごはんを作るとか、まったく厭わないからね。
- 清水
- あ、ごめん、お金貸したのは?
- 糸井
- お金貸したのぼくなの。
- 清水
- あ、じゃあ、覚えてない、覚えてない(笑)。
- 糸井
- 2000円ぐらい(笑)。
- 清水
- 不思議ね。ちっちゃいお金でも覚えてるんだね(笑)。
- 糸井
- 何ていうんだろう、「そんなことしていいのかな」みたいな気持ちがあったんで、覚えてるの。
- 清水
- ふーん。
- 糸井
- あと、「スターってお金持って持ってないんだ」と思った(笑)。
- 清水
- そんなわけない(笑)。
- 糸井
- いらないんだよ、多分。マネージャーとかといることが多いから。
- 清水
- あ、そうかそうか。お財布なんかいらないのかもね。
- 糸井
-
うん。で、まあ、なんせ屈託のない人だったから、俺はすごく楽で。
で、ゴリラはそのときに、「あ、憧れの!」って言って。当時、石坂さんは明治製菓のコマーシャルに出てたから持ってたの。
- 清水
- なるほどね。
- 糸井
- 「そんなに気に入ったんだったら、持っていっていいよ」って言ってくれて、ゴリラ抱いて帰ってきた。
- 清水
- 二十歳過ぎた人がぬいぐるみもらったんだ(笑)。
- 糸井
- ぬいぐるみは、なんか好きでさ。
- 清水
- へぇー。意外とメルヘンっぽいとこありますもんね、糸井さん。女の子っぽいというか(笑)。
- 糸井
- 女の子っぽいと言われてることを、男もしちゃいけないのかなって気持ちがある。
- 清水
- 今の風潮だ(笑)。
- 糸井
- そうかな?
- 清水
- そうでしょう。
- 糸井
- 前に「ダ・ヴィンチ」って雑誌で、編集長だった横里(隆)さんと一緒に本を選ぶ仕事を毎月やってたんですよ。なんかね、彼は女の子とか、オシャレみたいなものを選ぶんだよ。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- 「どうして選んだかっていうとね」って説明することになってたんだけど、「いや、かわいいなと思って」ってまず言うの(笑)。
- 清水
- 正直だね(笑)。
- 糸井
-
うん。で、その正直さがすごく気持ちいいわけ。
で、こっちが「まあねえ」って言ったら、こうこう、こういうことで、「なんか女の子っていいなと思って」って言うんです。
- 清水
- 羨ましかったんだ(笑)。
- 糸井
- それを素直に言える横里さんに対して、俺はすごく尊敬して、あのくらいのところまで行こうと思ったの(笑)。
- 清水
- ほう。いつかそんな日があったんだ、ちゃんと。
- 糸井
- うん。
- 清水
- そのぐらいに行こうと(笑)。
- 糸井
- そうだね。
- 清水
- うちの弟(清水イチロウさん)も、「俺のメンタルは、ほとんど女の子に近い」って言ってた。
- 糸井
- ああ‥‥。あの弟は傑作だよね(笑)。
- 清水
- 面白い(笑)。
- 糸井
- 面白いよね(笑)。
- 清水
- うん。
- 糸井
- うちの会社の人たちが、「ほぼ日の人たちは、ほぼ日がとてもよくできているようなことでも、相手の人がちょっと何かいいこと言うと、『え、それどうやるの? 教えて』ってすごく素直に聞く」って、よその人に言われるって。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- で、「なかなかないんですよ、普通の会社は。うちのほうがすごいって言いたいから」って。
- 清水
- ああ、そうかも。
- 糸井
- って聞いて、ああ、それはいい。俺はそうだし、「教えて」ってタイプだから。だから、なんかそういうのが会社に乗り移ってるのはいいことだなと思ってさ。
- 清水
- 似てくるんですよね、人間って不思議と。
- 糸井
- 似てくるんだろうね。
- 清水
- うん。じゃ、ほぼ日の男の人も、かわいいものが好きな人が多いかも。
- 糸井
- ああ、そうかもしれないね。こだわりがないよね。逆に言うと、「ラグビーに行こうぜ」と言ったら、女性もスッと乗るよね。
- 清水
- へぇー。好奇心が強いのかな。
- 糸井
- 何なんだろうね。男女の色分けがないんじゃないかな。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- 多分ね。あ、それは男の色気がなくなってんじゃないのかね。
- ほぼ日
- ないですね(笑)。
- ほぼ日
- ないです。
- 糸井
- それ、ダメじゃん。
- 清水
- (笑)。
- 糸井
- 社外で男の色気を出してる可能性もなくは‥‥
- 清水
- そんなことできるの? オンオフみたいなの。
- ほぼ日
- そんな器用なことできないです(笑)。
- 糸井
- サンドイッチなんかでも2段重ねのやつ、ガーッと食うとか。
- 清水
- それが男か。イメージが(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 清水
- このあいだテレビ見てたら、平成の若い人の生き方ってやつで、シェアハウスみたいなのありますよね。糸井さん、そんなこともできそうですね。私はもう、絶対無理だけど。
- 糸井
- 今ではできるかもしれないけど、昔ならできる人に対して偏見を持ってたね、きっと。「ダメだ、できちゃ」って思ってたね(笑)。
- 清水
- 恥ずかしがれよって(笑)。
- 糸井
- うん。
- 清水
- そうかも。
- 糸井
- だって俺、男子高だもん。
- 清水
- 男子高っていうのは‥‥
- 糸井
- 男だけがいる高校だもん。
- 清水
- そんなに関係する? やっぱり10代の3年間って。
- 糸井
- うん、するよ。女の人はもう何というか、神様だもん。
- 清水
- 憧れなんだ。
- 糸井
- 憧れだもん。
- 清水
- へぇー。でも、うちの弟もそうだけど、上に姉ちゃんがいる人って、けっこう女の人に対しての諦めがはじめからあるから、あんまり高望みしないって言ってたけど。
- 糸井
- そんなに自己分析できてるってだけですごいね、あの弟(笑)。
- 清水
- 諦めとはなんだ、諦めとは(笑)。
- 糸井
- いやいや、その弟の方のお姉さんって具体的には知らないんですけどね、どんな人かね(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 案外屈託のない方なんでしょうね(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 清水さんがほぼ日で、子どものこととか書いてた時代があったじゃないですか(『清水ミチコの試供品無料進呈(秘密厳守)』)。あのときに、いつもいいなあと思ってて。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- ぼく「修業したつもりのない人がこんな文章を書けるっていうことに、もっとおののいてください」って社内で言ったことがありますよ。
- 清水
- 本当?
- 糸井
- うん。言っては悪いですけど、文章の修業をしたつもりは全然ないわけだから。
- 清水
- わあ、うれしい。頑張ろう。
- 糸井
- ご本人は、文章は何だと思ってんの?
- 清水
- 文章は、ブログなんかはやっぱり、寝る前にこういうふうだったってことを書くとスッキリして寝られるので。トイレみたいな感じですかね。
- 糸井
- 何も思わないで生きてたら、書く段になって書けないじゃないですか。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- だから、たとえばアシスタントの子が気が利くなあって思ったから、そのこと書けるわけじゃない?
- 清水
- うん。
- 糸井
- 思ってる分量は多いよね。
- 清水
-
うん、きっと多いと思う。
高校のときにもう自分の面白ノートというのがあって。それにやっぱり真面目なエッセイ欄があって、それを「今回も書きましたけど、どう? 読む?」みたいな感じで回してて。読んだ人が笑ってると、もうすごい幸せみたいな。
- 糸井
- ああ。ちょっと話聞いてると似てるんですよね。生い立ちというか成り立ちが、さくらももこさんに。
- 清水
- そう?
- 糸井
- 思わない?
- 清水
- ああ、でも、ちょっとそうかな。
- 糸井
- 思ってることを別に人に言うわけじゃないけど、あいつがこうしたな、こうしたな、あ、おかしいことしてるなあって見てて(笑)。
- 清水
- あとで、ちまちまと(笑)。
- 糸井
- 頭とんがらせたりなんかしながら描いて。
- 清水
- で、本人幸せっていうね。
- 糸井
- そう。で、いっくらでも描けるって言ってたもん、さくらさん。
- 清水
- ああ、そう。
- 糸井
- 「ネタが尽きるってことは私にはないんじゃないか」って。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- 今の清水さんの話も、周りの人が面白がるみたいなのが原点だね。
- 清水
- あ、そうですね、うん。
- 糸井
- 俺は、それはなかったんだよなあ。
- 清水
- あ、ないの?
- 糸井
- 漫画描いたりして回覧板的に回すみたいなことでしょう?
- 清水
- そうそうそう。
- 糸井
- それは少しはしてるんです。してるんだけど‥‥つかめなかった、お客さんが(笑)。
- 清水
- 芸人だったらダメな言葉だね(笑)。
- 糸井
-
(笑)。せいぜいが何人かで。結局、女の子のほうが見てくれてた。男には案外ダメだった。
男は勝ち負けをさ、つい考えちゃうからさ、認めるの得意じゃないね。
- 清水
- そうかもね。男って面白い男の人に嫉妬するっていいますもんね、今でも。
- 糸井
- なるほどね。小学校のときとかは、自分じゃないやつがもっとおかしかった。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- だから憧れてた。そういうことをやってみたいものだなと思って。
- 清水
- クラスの中にやっぱり面白い人っていた?
- 糸井
-
いた。いた。
修学旅行でガイドさんがマイク回すと、そいつはもう絶対面白いみたいな。
- 清水
- 任せた、みたいな(笑)。
- 糸井
- うん。で、それは思えばね、姉ちゃんがいた。
- 清水
- あ、そう。関係あるのかね、やっぱり。
- 糸井
- そいつんちに行くとね、姉ちゃんが『平凡』とか『明星』みたいなの取ってて、貸本屋から借りて返さない漫画とかいっぱいあったりね。
- 清水
- 大丈夫なの?(笑)
- 糸井
- 悪い、ちょっと悪い。
- 清水
- 貸本から借りて返さないってことは、借金が溜まっていくってことでしょ?
- 糸井
- そうだと思うよ。返しそびれたものが毎日、延滞金が溜まっていくので‥‥ぼくはそのことで夜も眠れない思いをしたんだけど、
- 清水
- こわーい。そしてなんとやさしい(笑)。
- 糸井
- もう取り返しがつかないって、布団をかぶって泣いてたんです。
- 清水
- こんなのいるんだろうね、今の世界も(笑)。
- 糸井
- それが小学校の5年生ぐらいです(笑)。
- 清水
- 早い(笑)。
- 糸井
- どうしたらいいんだろうと思ってたのに、そいつんちに行ったら、貸本屋のハンコが押してある漫画がもうじゃんじゃんあるのよ。で、俺が今まで泣いてたのは何だったんだろうって。
- 清水
- へぇー。でかいのかな、人間が。
- 糸井
- 全然わかんない。つまりルールに対する、こう(笑)‥‥。
- 清水
- 外国人が来た、ペリーが(笑)。
- 糸井
- そうかもしれない(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- これ、全部清水さんから聞かれてるな、知らないうちに。
- 清水
- 私、でも、もっと聞きたいこといっぱいあった、もともと。
- 糸井
-
え、そう?
清水さんの話を聞くだけじゃ、お互いしょうがないから、ぼくのところに質問が来たら、それはそれでしょうがないっていう、ね。しょうがないっていうか、まあ別に‥‥
- 清水
- しょうがないとは何ですか(笑)。
- 糸井
- いや、ぼくもね、清水さんについては、言ったり聞いたりしてみたかったのよ。
(つづきます)