糸井

おれは、それはなかったなあ。

清水

あ、ないの？

糸井

漫画描いたりして、回覧板みたいに回すようなことでしょう？

清水

そうそう。

糸井

それは少し、してるんです。
してるんだけど・・・・
・・・・つかめなかった。お客さんが。

一同

（笑）

清水

あはははは。
芸人だったら、ダメな言葉だね（笑）。

糸井

あぁ、でも今考えてみれば、女の子のほうが見てくれてた。

清水

確かに、どんな現場に行っても
女の人のお客さんって多いですよね。
落語行っても、吉本行っても・・・

糸井

男は勝ち負けをつい考えちゃうからさ。
認めるのは得意じゃないね。

清水

そうかもねぇ。
男の人って、面白い男の人に嫉妬するっていいますもんね。

糸井

なるほどねぇ。

清水

うん。

糸井

小学校のときとか、
自分よりももっと、
しょうもないことを言っておかしいやつがいた。

清水

あはははははは。
へぇー。

糸井

だから、憧れてた。
そういうことをやってみたいものだなあと思って。

清水

クラスの中に、やっぱり面白い人っていた？

糸井

いたいた。

清水

さんまさんみたいな感じね？

糸井

そうだね。
修学旅行でガイドさんがマイクを回すと、
そいつが取ったら、もう絶対面白いみたいな。

清水

「任せた。」みたいなね（笑）。

糸井

そうそう。
このあいだ文章でも書いたんだけど、
おれがエレキギターを買って練習しているときに、
勉強も音楽も何一つ・・・ってやつが、
タンタカタンタン～♪って弾きはじめちゃったのを見て、
「何だったんだ・・・おれは。」って思った。（笑）

清水

あはははは。
「おれ、あいつに負けてんだ・・・」っていう（笑）。

糸井

負けてるどころじゃなくて、
「おれが登れない山の頂上で、あいつは逆立ちしてるよ」
って思った。

清水

価値観がもうひっくり返ったんだね。

糸井

そう。よく親とかが言う、
「何でも基礎をしっかりしておけば、何とでもなるんだから。」
っていうのを聞いて、
おれ、一時期バイエルとか習ったんだから。
ピアノ教室も行ったよ。嫌でやめたけど。

清水

あはははははは。

糸井

そういう基礎の積み重ねの延長線上に、
「ビートルズが弾ける私」が作られると思ったら大間違いで。
そいつは「ちょっと貸してみ？」ってギターを持って、
急に『ミッシェル』を歌いだしたんですよ。

清水

うんうん。

糸井

だから、そういう、
自分の価値観の延長線上にあった夢を
今日の明日で叶えちゃっている人とか見ちゃったわけで。
あれは今の自分に影響を与えていますね。

清水

そっかあ。
「自分は大したものじゃないんだ」っていう感じね。
　
確かに、芸能の世界は
習うものじゃないっていうのが
あるのかもしれませんね。
なぜかできる人って多いですもんね。

糸井

うん、でしょう？
　
その「基礎が必要」だっていうのと、
「やりゃいいんだよ」っていうのについて
どう思ってる？

清水

どうなんだろう・・・。

糸井

弾き語りモノマネは
今日の明日じゃあできないよね、

清水

ああ、そうかもね。
それはやっぱり私が、
１０代の頃に矢野さんにすごい感銘を受けたから。
悔しかったんでしょうね、きっと。
「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな。
頭おかしい（笑）。

糸井

いやいや。

清水

それなのに、なんか、できないっていうのがわかって。

糸井

でもその心って、大事かもね。
何ていうの、不遜な？（笑）。

清水

ははははは。
何という自信なんですかね（笑）。

糸井

（笑）。

清水

でも、今でも、練習してて
もうちょっと頑張ったら矢野顕子になれるんじゃないか
と思ってる自分がいるの。
基本ができてないだけで、もう少しやればとか、
そういう変な希望みたいなのがあるんですよね。

糸井

矢野顕子にあって、清水ミチコにないものは何なの？

清水

それは、音感。

糸井

音感、ああ。指の動きとかではなくて。

清水

あ、指の動きももちろん。ピアノから何から、音楽性。

糸井

でも、二人は同じ道にいて、
「矢野顕子が振り向いたら後ろに清水ミチコがいた」
ぐらいのとこにいるわけだ。

清水

いない、いない、いない、
全然レベルが違う。

糸井

でも、「道の遠くに見える」
っていうぐらいにはいるんじゃない？　　
だって、ピアノ２台くっつけて
セッションしてたじゃないですか。

清水

あれも、矢野さんは一筆書きでササッと書いているんだけど、
私はその一筆書きを綿密にコピーして、頭の中に入れて、
さも「今弾きました」みたいなふりをしているだけで。
それはやっぱりすぐにわかりますよ。全然違う。

糸井

思えば、それもさっきのことと同じで、
「あなたのやってることはこう見えてますよ」
っていうことだよね。

清水

あ、そうですね（笑）。
それだったら、うれしいね。

（つづきます・・・）