もくじ
第1回一年ぶりに着てみたスーツ 2019-03-19-Tue
第2回スーツに着られていた日々 2019-03-19-Tue
第3回スーツ姿を引き立たせるもの 2019-03-19-Tue
第4回はじめてのフルオーダースーツ 2019-03-19-Tue
第5回僕とスーツのこれから 2019-03-19-Tue

1991年生まれの関西人。東京で4年ほど人事の仕事をしたのち、
今は島根県の離島で暮らしています。得意料理はだし巻き卵。

スーツが似合う男になりたくて

スーツが似合う男になりたくて

担当・山野靖暁

第2回 スーツに着られていた日々

東京で社会人として働きはじめる直前、
僕はグレーのスーツを一着買った。
就職活動のときは黒か、紺のスーツを着る
という暗黙のルールがあったから、
グレーのスーツというのは僕にとって
あこがれの新境地であった。

大人っぽさを出そうと、
少し濃いめのグレーを選び、
コシノヒロコの、ドット柄のネクタイを
スーツに合わせ、当時22歳の僕は、
意気揚々と入社式に繰り出した。


(写真:当時買ったグレーのスーツ)

しかし、入社早々僕は
「スーツの着こなしが、だらしない」
と、先輩に一喝されてしまった。

まさか予想もしない展開だったが、
要は、サイズ感が合っていないという
きわめて単純なミスだった。

僕は165センチ、55キロという細身で
肩幅もそれほどないが、手が長いという
「テナガザル」のような体型だったから、
スーツの丈は合わせたつもりでも、
どうしても、肩まわりがスーツに
「着られている」ように見えてしまうのだ。

お恥ずかしながら、当時の僕には、
スーツをオーダーするという概念がなかった。

今となっては、自分の身体にフィットする
スーツや服を選ぶことが何より大事だと思うが、
当時の僕にとっては、見た目がオシャレで
かっこいいものを選びたい、あわよくば
モテたいという気持ちで、頭は一杯だった。

入社早々、スーツを買い替える
お金の余裕もなかったので、
僕は少し大きめの濃いグレーのスーツと
リクルートスーツのローテーションで
スーツに着られながら社会人生活を
スタートすることになってしまった。

しかし僕は虎視眈々と、次のスーツを
どうするか、考えはじめていた。

***

そして、夏、秋と社会人生活は
目まぐるしく過ぎてゆき、
はじめてまとまったボーナスが
入った社会人一年目の冬だったと思うが、
僕は、日本橋の高島屋のフェアか何かで、
はじめてスーツをオーダーでつくった。

生地を選び、採寸をしてもらうという
いわゆる「イージーオーダー」だった。

当時は、金融機関の方とお仕事を
することが多くなっていたこともあり、
あえてシンプルな紺色の生地をえらび、
少しキルト感のある素材にすることで
オシャレ感を残そうと試みた。

首まわり、肩、ウエストなど
店員さんに丁寧に採寸をしてもらい、
自分の身体にフィットするスーツを
はじめてつくってもらった。

そしてスーツに「着られる」という日々を
僕は、なんとか卒業することができた。
オーダーしたスーツが届き、それを着て出社する
ときの心踊る気持ちと言ったら、この上ない。

先輩から「スーツ買ったんだね」
「落ち着いたかんじの生地でいいね」
と言われたときなんかは、
「そうなんです」と澄ました顔をしながら、
その一言待ってましたよ!と言わんばかりに、
ひそかに嬉しさをかみしめた。

着こなしが、だらしないなんて
もう言わせないぜ、とも思っていた。

そんなスーツの影響もあったのか、
たいして仕事もできないのに、当時の僕は
社会人も板についてきたなあ、なんて思っていた。

しかし、社外のパートナーさんや、
大手の証券会社さんとお仕事をする機会が
増えた社会人二年目の春、僕はあきらかに、
スーツの着こなしが違う、ある一人の
ビジネスマンと出会った。

僕の高島屋のオーダースーツが
けっして、わるいわけじゃない。
でも彼と僕では明らかに何かが違うのだ。

「あんな風にスーツを着こなしてみたい・・・」

この出会いをきっかけに、
僕はスーツへのさらなる探究に
はまっていくことになる。

(つづきます)

第3回 スーツ姿を引き立たせるもの