- 三木
- あの‥‥ここに通っていた頃の私って覚えていますか?
- 先生
-
よく覚えているよ。
山口佳世子だろ、三木佳世子になる前は。
で、お前が三木に変わったときの事情は知らなかったけど、
「苗字変わったんだね、新しい気持ちになって頑張れよ」
って言ったのを覚えているよ。
あのー 国籍のことはずっと後になって聞いたからね。
- 三木
-
そうでしたね。高校生の時に両親が離婚して。
そしてその頃はまだ、自分の出自については
誰にも言っていなかったので‥‥。
- 先生
- えーと、失礼だけど、佳世子は今何歳?
- 三木
-
35歳です。
そして、私の母が加藤先生より4つ上なんですよ。
先生とほぼ同じ時代で差別をされてきて、
だから私には在日だってことは絶対言うなって。
在日だと普通に会社には就職できないから、
将来は弁護士とか医者とかの資格を取りなさいって。
「もし資格が取れなかったら、
日本社会では、まともに生きていけない」
っていう風にずっと言われてて。
だから、自分の未来といっても
自由に描けなかったし、
すごく窮屈な思いの中で塾に通ってたんですよね。
- 先生
- 朝鮮高校出身の子で、弁護士やってる子がいるよ。
- 三木
- そうなんですね。
- 先生
-
しかも朴(パク)っていう本名で通しているから。
名刺を渡すと、クライアントの中には
「日本人じゃないのかよ」
「日本人の弁護士に変えてくれよ」とかさ。
そのくせ、うまく事案を解決したらもう、
手のひらを返したように、
「パク先生で本当に良かったです」みたいな。
未だにこういうのあるわけだよ。
- 三木
-
私、NHKを受けたとき、正直に、
在日韓国人だってことを言って入ったんです。
だから、マイノリティーの人たちの声を拾いたいって言って。
でも、実際に入ってから先輩とかに、
「仕事をする上で国籍を出すと、
外国籍の職員がいることに
苦情が来ることもあるから言わないほうがいい」
って言われてしまって。
それで、ディレクターになってからの10何年間は、
言わずに生きてきたんですけど。
隠しているのももう嫌だなというのがあって。
- 先生
- そうか。
- 三木
-
自分の出自について外に言うようになったのも、
NHKを目指すようになったのも、
実は、先生の言葉がきっかけだったんです。
何か世の中に言いたいことがあったら、
言える立場にならないといけないって、仰ってましたよね。
- 先生
-
そう、そのためには、力を付けなきゃいけないと。
「優しさは力の中にある」
うん、私の名言だよ。
力なき優しさは単なる同情に過ぎない。
しかもそれは時に、人を傷つけることもある。
だから人のことを本当に思いやる気持ち、
優しさがあったら、自分に何らかの力を付けないと。
そのために勉強するんだよって。
- 三木
-
それが強く残っていて、だから頑張ろうと思って。
自分が頑張って力をつけて、伝えられる人になろうと。
力をつけて伝えられる人になったはずなのに、
自分のことを言えなくなった。
それは、私の中で矛盾を抱えて生きるようで、
辛いことだったんですよね。
- 先生
-
人間は、人のために何か一生懸命努力する時に、
一番力を発揮できる。
これを『走れメロス理論』って名付けたんだけど(笑)。
親友のためだったら全力に走って
いろんな敵と戦っても、どんな困難があっても、
親友の命を救いにいくという。
自分のためだと思うと、つい自分に甘えてしまうから。
自分のためよりも人のため。
人のために力になろうと思うと、
自分に何らかの力がなきゃいけないんで。
それが本当の優しさだよって、言ったよね。
- 三木
-
ですよね。
「ウイニング受験英語」だから英語を教えてるんだけど、
先生が本当に子供達に伝えていきたいと思ってるのって、
こう‥‥どう生きるか?みたいなことですよね。
- 先生
-
塾の名前に受験英語って付けたのは、半分アンチテーゼなの。
わざと受験英語って付けたの。それは私の一つの隠れ蓑で。
受験英語を教えて、それ身につけさせるためには、
心から耕していかなきゃいけないじゃない。
でもあえて、受験英語と名乗っている。
- 三木
- そうだったんだ!
- 先生
-
英語は英語だけやっていても出来るようにならないし。
吸収力を上げてやらないと。
吸収力がないと、何を教えても吸収できないから。
- 三木
-
私もなんか、英語もそうだけど、
先生に色々と教えてもらった別のことが、今も残ってます。
- 先生
- うん、そうだね。
(続きます)