場をつくりたいふたり。 燃え殻×糸井重里
担当・テリー
第4回 作品と商品のあいだを揺れ動くハムレット
- 燃え殻
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いま、小説があんまり売れないっていう前提のもと、
さらに自分は無名っていうところで、
もう二重苦みたいな感じがあって。
そこで、内容を売れてる作家さんのを参考にしても、
難しいし大変だから、
みなさんがスマホに使っている時間を
小説のほうに引きずり込みたいっていうのがあって。
で、できる限り栞を使わないで、サーッと読める言葉と、
少し自分を突き放してサービスしたいっていう‥‥。
- 糸井
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サービスしたい、うん。
- 燃え殻
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文章を読んでるときのリズム感ってあると思ってて、
リズム感のために書いてあることを変えてもいいと思って。
小説家の方からしたら、「なに言ってんの?」って
話になっちゃうかもしれないですけど。
いっき読みできるようなものにしたいなって。
YouTubeで聴いてる音楽と、この小説と、
異種格闘技戦をしなければ、
みんな多分読んでくれないという気持ちがありました。

- 糸井
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書きたいこと書いてるんだけど、それに陰影をつけたり
補助線ひいたり一部消しちゃったりっていうのは、
作曲する人が「メロディー、こうじゃないな」というのと
同じだから。直されたりとか新人のときにはするけど、
そういうやりとりはあったんですか?
- 燃え殻
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ありました。女性の編集の方だったんで、
男としてはアリな表現を、
「女性は読んだときに嫌悪感があります」ってものは、
バッサリ捨てました。たとえば、小説の主人公が
ラブホテルに泊まるんですけど、むかし同じとこに
一緒に泊まった女の子のことを思い出すんです。
そしたら、「20年経って同じラブホテルに行ってる男、
引くんですけど」って編集者に言われて(笑)。
- 糸井
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いま本を作るっていうのは、
作品を出すことと商品を出すことの二重の意味があって。
「女子が引くなら引けよ」が作品。
「女子が引くんで、きれいにしましょう」が商品。
- 燃え殻
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ああ、すごい言わなきゃよかったみたいな。
わあ、いろんなとこから怒られるかもしれない。
新潮社の人が来たらどうしよう(笑)。
- 糸井
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でも、もっと言えば、
推理小説のなかで書いてる恋愛なんていうのは、
推理小説である理由なんかなかったりするわけで。
推理小説のようになってないと
興味がなくなっちゃうと困るから、
人を殺してみたりするわけでしょ?
それは、商品性を高めているじゃないですか。
だって、ドストエフスキーだって殺人とか混ぜて、
「来週はどうなるんでしょうね」って(笑)。
- 燃え殻
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『少年ジャンプ』的な。
- 糸井
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商品性をまるまる否定するわけにはいかないし、
「そこで女性が引いちゃうなら、これはやめとこうか」
っていっても伝わるものが出したいんだったら、
バランスの問題だから。
- 燃え殻
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だから、ゴールデン街の朝とか、
ラブホの朝か夜かわからないところの部分で、
ぼくはすごく気持ちよかったんで、
いろんな人たちと共有したかったんですね。
そうなったときに、他の部分は
それを補強するものなんです。だとしたら、
「多くの人に読まれる道はこっちなんじゃないか」って
出されたものは、「じゃ、そっちの道で考えます」って
もう、どんどんやっていたというか。

- 糸井
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あの、『ララランド』の中で、
主人公の男の子と親しかったんだけど、
ヒットソング作れるようになっちゃった
黒人の子が出てくるじゃない。
- 燃え殻
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本当に言いづらいけど、ぼく、観てない。
- 糸井
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観たら面白いと思うけど。主人公は作品で思い悩んで、
ブレイクスルーできない。そしたら、盛り上げる曲を
作れるようになっちゃったヤツが大当たりしてる。
で、主人公のこと認めてるから、
「俺のバンドに入れよ」って。
生活が安定しないと作品どころじゃないから、
キーボード弾くわってバンド入るの。
で、サウンドトラックのCDで、
主人公の弾く曲のあとに盛り上げる曲が流れて、
「ちょっと嫌だ」って気持ちになるのよ。で、同時に、
「悪くないんじゃないの?」って気持ちにもなる。
それが、CDを順番に聞いてる人のなかに毎回起こるの。
観たらいいよ、きっと。
- 燃え殻
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あ、観ます。
- 糸井
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やっぱり、世の中の物事は、
作品と商品のあいだを揺れ動くハムレットなんじゃないの?
聞いてる人の中でも、その作品と商品の、
あるいは「みんなに伝わるか」と「自分が気持ちいいか」
みたいなのは、あるんじゃないでしょうかね。
- 燃え殻
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ありますね、絶対。難しいですけど、
バランスがいいと、嬉しいなぁぐらいですよね。
- 糸井
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バランスを良くする方法というのを
一生懸命コツがあるかと思って探すと、
実はバランスを崩すんだと思う。
近くを見てると倒れるというか。
オートバイ乗ります?
- 燃え殻
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乗らないです。
- 糸井
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オートバイの練習で一本道というのがあるんです。
そこで、車輪の先を見てる人は必ず脱輪するんです。
車輪を見ずにまっすぐ前を見ると、自然にまっすぐ行くの。
近くで一生懸命考えれば脱輪しないわけでは、絶対ないんで。
それと、バランスをちゃんととるためには、
入れ物の大きさを変えちゃうというか。
1個しか入らないとバランスとれないけど、
100個入れてると安定するみたいな。
なんか、年上の人からの話みたいになっちゃった。
- 燃え殻
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いやいや、年上じゃないですか(笑)。
すごいためになります。
- 糸井
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でも、答えはそこじゃなくてさ。
いま取材をいっぱい受けてるのも、
ウソばっかりついてるのも含めて、
1個ずつの重みなんで。トータルにしたら、
「あそこでああいうことを言えたからいいか」とか、
あの人と会ったあとでまた違う話をしたとか、
「90年代の空気を」っていうのを読んだ人が
もうちょっと良いことをかぶせてくれるとか。
- 燃え殻
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そうですね。あと、ウソって簡単に言っちゃうけど、
もしかしたら気づきなのかもしれないし。
ああ、そういうことを求められていたのかって。
ぼくは受注体質なので、仕事が。
- 糸井
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受注体質(笑)。

- 燃え殻
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だから、そうお客さんが思うんだったら、
そうしたいなって。
ぼく、好きな映画とかテレビ番組って少ないんですけど、
観たあと自分語りをしたくなるっていう共通点があって。
で、『イトイ式』という番組で、すごいなと思ったのが、
糸井さんが答えを出さなかったこと。そうすると、
「糸井重里はこう言ったけど、俺はこう思うな」って。
そういう自分語りをしたくなるようなものが、
自分でもつくれたら、とてもうれしいというか。
- 糸井
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うん。ぼくがよく言うのは、
自分がいちばん好きなのは「場を作ること」。
いろんな人がそこに来ると自分らしくなれるとか、
あるいは、人の話がどんどん聞けるようになるとか。
だから、ぼく自身が作ったものが褒められるのは、
瞬間的には嬉しいんだけど、
それより作った場で出てきた人が褒められてるほうが、
嬉しいんですよね(笑)。
- 燃え殻
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それは、すごいわかります。
大槻ケンヂさんに会ったときに、
「大槻さんが小説を書いていたあと、
ぼくは小説を書きました」みたいな、
「めんどくさいファンだ」って言ったんです。
で、大槻さんが、「それは嬉しいよ。
めんどくさいけど嬉しい」と言ってくれて。
ぼくも、そういうことが1つでもできたら、
「なんかよくやったな、自分」って思いますけどね。