場をつくりたいふたり。 燃え殻×糸井重里
担当・テリー
第3回 小説のヒットとブルースミュージック
- 糸井
-
ぼく、いま小説を全く読まないんです。
なんだろう‥‥スケートしてる人で、
羽生くんは大会に出てる人で、イナバウアーの人‥‥。
- 燃え殻
-
荒川静香さん。
- 糸井
-
荒川静香さんとか、このあいだやめた真央ちゃんって、
もう大会に出ていないのに、体型くずしたりしないで、
アイスショーに出るんです。で、あれが、
そこが主戦場の人とそうじゃない人の違いで。
でも、踊ったり滑ったりするのは同じじゃないですか。
ぼくは多分、大会にまだ出てるつもりなんだと思う。
仕事においては。
- 燃え殻
-
ああ。
- 糸井
-
しょうがないんですよ。くるくる4回転の練習を
飽きもせずにやるっていうのは、
ぼくと従業員一同とお客様のために、
もう毎日くるくる回ってるんですよ。
- 燃え殻
-
コケたりとかしながら。
- 糸井
-
うん、氷かたいし、冷たいし。
で、小説読むっていうのはそれじゃなくて、
「ぼく」なんですよ。だから、どっち優先ってなると、
どうしてもやんなきゃなんないこと先にやるから、
くるくる回るの練習しちゃうんですね。

- 燃え殻
-
じゃ、小説売れるのは大変ですね。
- 糸井
-
だから、そんなに一生懸命大会に出ていない人が
小説を読んでくれると思う。
小説読んでることで自慢したい人とかも。あと、
自分で書く人も「燃え殻? なにそれ」って読むと思う。
- 燃え殻
-
嫌な感じですね。
- 糸井
-
(笑)。いちばんああだこうだ言うのは、目に見えない、
同じ文学の世界の人だけですから。
ぼくが読むのは、楽しみのために読んでるから。
自分の役割じゃない魂で読んでるから贅沢ですよ。
燃え殻さんの小説読んだ時は、楽しかったですよね。
- 燃え殻
-
ありがとうございます。
- 糸井
-
楽しかったのは、やっぱりページをめくるごとに、
俺のことも言っていいんだなって。
あと、だるい挑発してくるわけです。
燃え殻さんがひじ枕して、
「糸井さん、どうですかぁ?」って言ってる感じが。
- 燃え殻
-
(笑)。
- 糸井
-
そうすると、よぎるものがあったりして、
「俺と世代が違うから、違うんだけどね」とか
しゃべってるわけです、読みながら。だから、
黙読してるときって声帯が動いてるって話もあるけど、
同じように、読んでるときって書いてるんですよね。
- 燃え殻
-
ああ、なるほど。
- 糸井
-
ぼく自身は連載で読んでるときのほうが、
その楽しみは多かった。脈絡がもっとなかったから(笑)。
そのほうが自分が泥んこになれるんですよね。
- 燃え殻
-
ああ‥‥。
- 糸井
-
でも、そうやって羽生くんが、
4回転をしてなきゃならない時間に、
燃え殻くんとお茶を飲んでるみたいな時間が、
その小説を読むって時間だから。
すごいお互いにリッチですよね。
- 燃え殻
-
そういう時間になるのは、嬉しいですね。
- 糸井
-
だから、俺は正直言って、そんなにそこに
人が群がると思わなくて。田中泰延は
「思ったより売れないと思うんだよね」って言ったの。
というのは、処女作だと10万部売れると思うんです。
宝くじ買うとき、1等の可能性もあると思うみたいな。
- 燃え殻
-
すごいヘンな話をしていますね。
- 糸井
-
「3000円当たれば」って宝くじ買う人はいなくて、
みんな一生懸命買う。そこで、1等だったらどうしようって
ニヤニヤしながら、「本当は3000円なんだよね」って
言って買うから、「2万当たり」って言われただけで、
「1億はだめでしたか」ってなるんだよ。
で、1億のハズレがもうわかっちゃうと、
「当たっても数百万か」とかさぁ、
「もしかしたら3000円か」とか思うから、
1回ちょっと落ち込むんです(笑)。
その時期にみんなで会いましょうっていう。
- 燃え殻
-
そう、糸井さんが残念会を開いてくれると(笑)。
- 糸井
-
日程的に、ずいぶんあとになっちゃったんだよね。
発売記念の日に集まろうと言ってたんだけど、
半月後とか1ヶ月後とか‥‥。そしたら売れてたの。
- 燃え殻
-
本当ありがたい。なんで売れたんですかね?
- 糸井
-
そこはだから、思ったよりみんな、ああいうものを
出してなかったんじゃないの?って(笑)。
自分ではどう思います?
- 燃え殻
-
うーん、なんか半々かと。糸井さんが言ったみたいに、
発売したらいろんな人が買ってくれるんじゃないかって
気持ちと、まだらでも本当にあったことが入ってるので、
自分の人生ってそんなに人の気配がなかったのに
多くの人が買ってくれる要素がないなって思っていて。
「いいのができた」「これはダメかもしれない」って
繰り返してるのが、正直なところのような気がしますね。

- 糸井
-
絶対量みたいなものがあるんだよ。
人に影響を与えるってことは
量×質になっちゃうけど、量としてあるんだよ。
このあいだ、ぼくの田舎の前橋の人と話してたら、
「ここにブルゾンちえみが来て1万人来た」って。
地方都市にブルゾンちえみが来たら、1万人集まる。
でも、「燃え殻です」といっても、まぁ。
- 燃え殻
-
まぁ、2人ぐらい(笑)。
- 糸井
-
だから、いっぱ売るってことは、
そういう事件になってないとダメなんで。
この宝くじは、事件になるかならないかの前に
いるわけだから。そこ突き破って出ていったら、
文学界の嵐とかね。
- 燃え殻
-
飲み込めない話(笑)。
- 糸井
-
嵐。櫻井翔さんとか、そういう風になる。
河島英五さんとかじゃなくて。
河島英五さん、知らないですよね。
- 燃え殻
-
(笑)。知らないです。
- 糸井
-
でも、嵐と河島英五さんを比べる人いないから(笑)。
じゃあ、また戻しますけど、
いいなと思ってスケッチするみたいに覚えてるって、
すぐに書くんですか?それとも覚えてるんですか?
- 燃え殻
-
正直両方ですけど、最近はすぐに書くようにしてます。
ロフトのそこで、ぼくがいままで集めたファイルを
展示させていただいてて。恥ずかしいんですけど(笑)。
小説に出てきた横尾忠則展、ラフォーレのチラシとか。
- 糸井
-
俺、行ったよ。あれ、いい展覧会だったね。
- 燃え殻
-
よかったですよね。で、なんかそのとき、
それを集めなきゃと思ったんです。
広告の専門学校に行ってたんで、
糸井重里になりたいと思って(笑)。
いろんな人のコピーを切ってファイルしてるのを、
「資料集め」とか言ってて。でも、その資料って、
いつか自分に役立つであろう資料で、課題とかでもない。
- 糸井
-
イチローがバッティングセンターに通ってたみたいな。
- 燃え殻
-
そうですか?(笑) あ、でも、そうかもしれない。
今日の展示のために集めてたのかもしれないけど(笑)。
でも、それは小説のために集めてたのかもしれないけど、
そんなことのために集めてなかった、もっと言うと。
- 糸井
-
ただ、集めた。
- 燃え殻
-
ただ集めてた。それは、これは何か持っておきたい、
自分として大切で、いつか何かになるんじゃないかって、
淡い宝くじみたいなこと思いながらやっていて。
すぐに役立つとか、こうなりたいって努力じゃない努力を、
すごいしてたんですね。
- 糸井
-
それは、みんなするのかなぁ。俺もちょっとしてたな。
- 燃え殻
-
してました?
- 糸井
-
映画とか小説とかの影響受けたりしてね。
『小さな恋のメロディー』って映画があって。
そこでいちばんよく覚えてるのは、
瓶に入った金魚がヒモでぶら下がってるんです。
そういうの売りにくる人がいるんです。
で、瓶に金魚を飼ったね、俺。
- 燃え殻
-
それを真似て?
- 糸井
-
真似て。‥‥そんな、軽蔑したような目で。
- 燃え殻
-
軽蔑してないですよ(笑)。
いや、でも、すごいわかります。

- 糸井
-
だから、他人のやってることとか、
よその人が表現したことも、
もうすでに自分の物語なんですよね。
- 燃え殻
-
そうだと思います。
だから、コラージュのようにいろいろ集めてて、
それは俺しか知らないんじゃないか、教えなきゃって。
友達に言ったりとかしてましたからね。
そういうことのためにも集めたのかなあ。
- 糸井
-
それ友達にもそういうヤツいた?
その話、聞く側になったことある?
- 燃え殻
-
あんまりないですね。
- 糸井
-
それはもうなんか、表現者としての運命ですかね?
- 燃え殻
-
いや、みんないい人だったと思うんです、まわりが。
- 糸井
-
聞いてもらうって、人間にとってすごく嬉しいですよね。
CRAZY KEN BANDの
「俺の話を聞け! 2分だけでもいい」って歌詞があって。
「貸した金の事など」もういいから、話を聞けって(笑)。
でも、よく考えると、
ブルースミュージシャンが歌ってるのはそういうことだよ。
- 燃え殻
-
聞いてるほうとしては心地いいのかな。
自分ともシンクロする部分というのを見つけちゃう。
- 糸井
-
だから、ブルースミュージシャンがやってきたことを、
いま繰り返してるのかな。
燃え殻さんの小説なんか、けっこうそうですよね。
- 燃え殻
-
そうかもしれない。
- 糸井
-
ぼくはこの小説の帯で「ずっと長いリズム&ブルースが
流れているような気がする」と言ったのは、
そんな気持ちなんです。リズム&ブルースというと、
いまの若い人はもっとリズムを強調されたので考えるけど、
ぼくは歌の時代だったので。オーティス・レディングの
「ドック・オブ・ベイ」みたいな、
ああいうのを読んでるみたいな気がしたの。
この表現は、ぼくにとって、
若い自分がこの小説をものすごく褒めてるつもりなの。
- 燃え殻
-
いやー、すごく嬉しかったです。
- 糸井
-
自分にとってのそういう歌みたいなのがあって、誰か歌ってくれててっていうね。