もくじ
第1回「なんでこの本を書いたんですか?」 2017-10-17-Tue
第2回ミスマッチな音楽と所在のなさ 2017-10-17-Tue
第3回小説のヒットとブルースミュージック 2017-10-17-Tue
第4回作品と商品のあいだを揺れ動くハムレット 2017-10-17-Tue
第5回いったん保留にしたから、生きてこれた 2017-10-17-Tue

都内の大学生です。本と服と世界史と日本のロックバンドが好きです。つらいとき、メイトーのなめらかプリンをドラッグのようにキメます。

場をつくりたいふたり。 燃え殻×糸井重里

場をつくりたいふたり。 燃え殻×糸井重里

担当・テリー

第2回 ミスマッチな音楽と所在のなさ

糸井
今日は手帳のイベントなんで、「書く」って話を
いずれしようと思ったら、いま、まさしくその話になって。
思って終わりにするのはもったいないような気がして、
書くっていうとこにいくじゃないですか。
で、思った時にすぐ書くとは限らないんだけど、
覚えとこうと思うだけで、なんかいいですよね。
燃え殻
そうですね。
糸井
その、「思うだけじゃなくて書きたい」ってところが、
なんだろうねって話を、してみましょうか(笑)。
燃え殻
しましょうか。

糸井
「やせ蛙負けるな一茶これにあり」って俳句あるけど、
まず「やせ蛙」っていう見方をしたのが嬉しい。
自分で蛙に、やせてるか太ってるかって思わないで、
ただ蛙だったとこに、「やせ蛙」って言っただけで、
いいなって(笑)。で、「負けるな」っていうのは、
どっちが応援されてるのかわからないけれど、
やせた蛙を見たことを形にしたら嬉しくなるみたいな。
だから、何かを書いてみるっていう嬉しさと、
いま燃え殻さんがゴールデン街で横になって、
やせ蛙を見つけたみたいな(笑)。
燃え殻
うん。ぼくだけが見てる景色‥‥。
糸井
そうそう。
燃え殻
それを切り取れた喜びみたいなものだったりとか。
あと、それで言うと、手帳とかが仕事をしていて。
21冊全部とってあるんですよ。
デスクに全部置いておくと邪魔なんですけど、
6、7冊は常に置いてて。それを、ちょっと時間が
できたとき読み返すのが、自分の安定剤というか。
それは日記ではないので、予定がまず書いてあります。
糸井
書いてあるね、うんうん。
燃え殻
ぼくは、テレビの裏方の仕事を主にやってるので、
納期がこうで、次はこの仕事がこのぐらいの納期で、
この打ち合わせがあるって書いてあるんです。
糸井
必要だからね、そこはね。
燃え殻
はい、必要なんです。そこにもう1つ、
たとえばその人につぎ会ったとき忘れないために、
ヒゲが特徴だったとか似顔絵が描いてあったりとか。
あと、その日たまたま食った天丼屋が美味くて。
でも、その天丼屋多分忘れるなって思って、
お店の箸袋を貼ってあったり。
結局10年以上行ってないんですけど。
糸井
行くかもしれないっていうのが、なんていうか、
自分の人生にちょっとレリーフされるんだよね。
で、行かなくてもレリーフって残るし。その感じと、
燃え殻さんの文章を書くってことがすごく密接で(笑)。
燃え殻
すごく近い気がして。
糸井
これは俺しか思わないかもしれないってことが、
みんなにうなずかれないでいたときって、
「悔しい」じゃなくて「嬉しい」ですよね。
燃え殻
すごく嬉しい。
糸井
ゴールデン街で酒飲んでそのまま寝ちゃって、
起きたときのお天気なんていうのは、
多分うなずける人は同じことを経験してないけど、
けっこういると思うんです。
で、発見したのは「俺」なんです、明らかに。
だけど、同時に、それが通じるって言う。
燃え殻
そうですね。
「経験してないけどわかる」ってとこが嬉しいし。
あと手帳の話でいくと、見返したときに、
当時の自分の悩みだったりとか嬉しかったことが、
「超ラッキー」って、王冠が描いてあるんです。
糸井
王冠(笑)。
燃え殻
どんだけ嬉しかったんだよって(笑)。
でも、嬉しかったことも嫌なことも、
たいしたことじゃないんです。
これだけ嫌だって思ってたその人と、いま、
それこそゴールデン街に酒飲みに行ったりするんです。
糸井
いいじゃないですか。
燃え殻
いや、でも、そのときは
「この人に来週また会わなければいけない。嫌すぎる。
死にたい」と書いてあるんです。
糸井
そうか。会うために行ってたゴールデン街に、
いまは用事がなくても行けるんだ。
燃え殻
そうそうそう、行ける、行ける。なんかその、
悩みだったり関係性がどんどん変わっていく様が見えて、
手帳を読み返すんですよね。

糸井
手帳に書いてないけど、自然に乗っかっちゃうのが
音楽でしょう?これのときに、この音楽みたいな。
それ、実は流れてますよね。
燃え殻
そうですね。音楽も共有できるじゃないですか。
だから、小説を書いたとき、ところどころ音楽を
挟んでいったんですよ。それは、自分自身がそこで
この音楽かかってたら嬉しいなっていうのと、
ここでこの音楽かかってたらマヌケだなっていう、
その両方で音楽が必要だったんで。
そうすると、読んでくれている人が、
共鳴してくれるんじゃないかって思ったんですよね。
糸井
音楽って、耳をふさげないから、
暴力的に流れてくるじゃないですか。
聞きたくなくても。そこまで含めて思い出って、
あとで考えると嬉しいですよね。
燃え殻
そうなんですよ。なんなんだろう。
糸井
景色みたいなものだね。
燃え殻
そうですね。景色に1つ重ねていって、
共感度とか振動が深まるような気がして。
この小説、同僚と最後別れるシーンがあるんですけど、
映画やドラマなら、やっぱり悲しい音楽が流れてほしい。
そこでAKBの新曲が流れるっていうところを、
ぼくは入れたかったんですよ。
糸井
いいミスマッチですよね。自分が主役の舞台じゃないのが
世の中だっていうの表すのに、外れた音楽を流すのは
すごくいいですね。自分のための世の中じゃないとこに、
いさせてもらってる感じ。燃え殻さんの小説の中に
いっぱい出てくるのは、それですよね。

燃え殻
そうですね。所在なしみたいなところに、
ぼくはずっと生きてるような気がします。
会社じたいも、社会の数に入ってない感じがしてた。
こういう銀座とか来ても、すごいみんな洒落てて。
落ち着かなくて便秘になります(笑)。
でも、どこにも居場所がない感じで生きてて、
居場所がないっていう共通言語の人と‥‥。
糸井
会いたいよね。
その感じは、みんな、あるんじゃないですか?
燃え殻
みんな、感じてるんですかね。
糸井
さっきの「90年代の空気を書きたかった」みたいに、
自分の中でとりあえずこの言葉で納得しとこうってとこに
自分を置いてて、そこは今日は考えないことにしようって、
考えないことがたまっていってるんじゃないですか?
それよりは、この商品を明日どう売るかとか。
燃え殻
あぁ、そっちのほうを。
糸井
これやらないと怒られるよなってことを
先にしますから、大体。
第3回 小説のヒットとブルースミュージック