場をつくりたいふたり。 燃え殻×糸井重里
担当・テリー
第2回 ミスマッチな音楽と所在のなさ
- 糸井
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今日は手帳のイベントなんで、「書く」って話を
いずれしようと思ったら、いま、まさしくその話になって。
思って終わりにするのはもったいないような気がして、
書くっていうとこにいくじゃないですか。
で、思った時にすぐ書くとは限らないんだけど、
覚えとこうと思うだけで、なんかいいですよね。
- 燃え殻
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そうですね。
- 糸井
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その、「思うだけじゃなくて書きたい」ってところが、
なんだろうねって話を、してみましょうか(笑)。
- 燃え殻
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しましょうか。

- 糸井
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「やせ蛙負けるな一茶これにあり」って俳句あるけど、
まず「やせ蛙」っていう見方をしたのが嬉しい。
自分で蛙に、やせてるか太ってるかって思わないで、
ただ蛙だったとこに、「やせ蛙」って言っただけで、
いいなって(笑)。で、「負けるな」っていうのは、
どっちが応援されてるのかわからないけれど、
やせた蛙を見たことを形にしたら嬉しくなるみたいな。
だから、何かを書いてみるっていう嬉しさと、
いま燃え殻さんがゴールデン街で横になって、
やせ蛙を見つけたみたいな(笑)。
- 燃え殻
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うん。ぼくだけが見てる景色‥‥。
- 糸井
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そうそう。
- 燃え殻
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それを切り取れた喜びみたいなものだったりとか。
あと、それで言うと、手帳とかが仕事をしていて。
21冊全部とってあるんですよ。
デスクに全部置いておくと邪魔なんですけど、
6、7冊は常に置いてて。それを、ちょっと時間が
できたとき読み返すのが、自分の安定剤というか。
それは日記ではないので、予定がまず書いてあります。
- 糸井
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書いてあるね、うんうん。
- 燃え殻
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ぼくは、テレビの裏方の仕事を主にやってるので、
納期がこうで、次はこの仕事がこのぐらいの納期で、
この打ち合わせがあるって書いてあるんです。
- 糸井
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必要だからね、そこはね。
- 燃え殻
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はい、必要なんです。そこにもう1つ、
たとえばその人につぎ会ったとき忘れないために、
ヒゲが特徴だったとか似顔絵が描いてあったりとか。
あと、その日たまたま食った天丼屋が美味くて。
でも、その天丼屋多分忘れるなって思って、
お店の箸袋を貼ってあったり。
結局10年以上行ってないんですけど。
- 糸井
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行くかもしれないっていうのが、なんていうか、
自分の人生にちょっとレリーフされるんだよね。
で、行かなくてもレリーフって残るし。その感じと、
燃え殻さんの文章を書くってことがすごく密接で(笑)。
- 燃え殻
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すごく近い気がして。
- 糸井
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これは俺しか思わないかもしれないってことが、
みんなにうなずかれないでいたときって、
「悔しい」じゃなくて「嬉しい」ですよね。
- 燃え殻
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すごく嬉しい。
- 糸井
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ゴールデン街で酒飲んでそのまま寝ちゃって、
起きたときのお天気なんていうのは、
多分うなずける人は同じことを経験してないけど、
けっこういると思うんです。
で、発見したのは「俺」なんです、明らかに。
だけど、同時に、それが通じるって言う。
- 燃え殻
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そうですね。
「経験してないけどわかる」ってとこが嬉しいし。
あと手帳の話でいくと、見返したときに、
当時の自分の悩みだったりとか嬉しかったことが、
「超ラッキー」って、王冠が描いてあるんです。
- 糸井
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王冠(笑)。
- 燃え殻
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どんだけ嬉しかったんだよって(笑)。
でも、嬉しかったことも嫌なことも、
たいしたことじゃないんです。
これだけ嫌だって思ってたその人と、いま、
それこそゴールデン街に酒飲みに行ったりするんです。
- 糸井
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いいじゃないですか。
- 燃え殻
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いや、でも、そのときは
「この人に来週また会わなければいけない。嫌すぎる。
死にたい」と書いてあるんです。
- 糸井
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そうか。会うために行ってたゴールデン街に、
いまは用事がなくても行けるんだ。
- 燃え殻
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そうそうそう、行ける、行ける。なんかその、
悩みだったり関係性がどんどん変わっていく様が見えて、
手帳を読み返すんですよね。

- 糸井
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手帳に書いてないけど、自然に乗っかっちゃうのが
音楽でしょう?これのときに、この音楽みたいな。
それ、実は流れてますよね。
- 燃え殻
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そうですね。音楽も共有できるじゃないですか。
だから、小説を書いたとき、ところどころ音楽を
挟んでいったんですよ。それは、自分自身がそこで
この音楽かかってたら嬉しいなっていうのと、
ここでこの音楽かかってたらマヌケだなっていう、
その両方で音楽が必要だったんで。
そうすると、読んでくれている人が、
共鳴してくれるんじゃないかって思ったんですよね。
- 糸井
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音楽って、耳をふさげないから、
暴力的に流れてくるじゃないですか。
聞きたくなくても。そこまで含めて思い出って、
あとで考えると嬉しいですよね。
- 燃え殻
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そうなんですよ。なんなんだろう。
- 糸井
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景色みたいなものだね。
- 燃え殻
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そうですね。景色に1つ重ねていって、
共感度とか振動が深まるような気がして。
この小説、同僚と最後別れるシーンがあるんですけど、
映画やドラマなら、やっぱり悲しい音楽が流れてほしい。
そこでAKBの新曲が流れるっていうところを、
ぼくは入れたかったんですよ。
- 糸井
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いいミスマッチですよね。自分が主役の舞台じゃないのが
世の中だっていうの表すのに、外れた音楽を流すのは
すごくいいですね。自分のための世の中じゃないとこに、
いさせてもらってる感じ。燃え殻さんの小説の中に
いっぱい出てくるのは、それですよね。

- 燃え殻
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そうですね。所在なしみたいなところに、
ぼくはずっと生きてるような気がします。
会社じたいも、社会の数に入ってない感じがしてた。
こういう銀座とか来ても、すごいみんな洒落てて。
落ち着かなくて便秘になります(笑)。
でも、どこにも居場所がない感じで生きてて、
居場所がないっていう共通言語の人と‥‥。
- 糸井
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会いたいよね。
その感じは、みんな、あるんじゃないですか?
- 燃え殻
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みんな、感じてるんですかね。
- 糸井
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さっきの「90年代の空気を書きたかった」みたいに、
自分の中でとりあえずこの言葉で納得しとこうってとこに
自分を置いてて、そこは今日は考えないことにしようって、
考えないことがたまっていってるんじゃないですか?
それよりは、この商品を明日どう売るかとか。
- 燃え殻
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あぁ、そっちのほうを。
- 糸井
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これやらないと怒られるよなってことを
先にしますから、大体。