もくじ
第1回ぼくだけが見ている景色 2017-10-17-Tue
第2回俺のリズム&ブルース 2017-10-17-Tue
第3回日本寛容党 2017-10-17-Tue
第4回得ること、捨てること 2017-10-17-Tue
第5回保留して、生きる。 2017-10-17-Tue

とや さとる・1989年生まれのデザイナー。テレビ、音楽、インターネットが好きです。

燃え殻さんと、書くにまつわるお話を。

燃え殻さんと、書くにまつわるお話を。

担当・戸谷 慧

第3回 日本寛容党

糸井
小説を出版するにあたって、出版社の方に
直されたりとかっていうのはあったんですか。
燃え殻
女性の編集の方だったんで、
「女性が読んだときに嫌悪感があります」
って言われたものに関しては、バッサリ捨てました。
糸井
多分、今、本を作るっていうのは、
作品を出すっていうことと
商品を出すということの、二重の意味があって。
燃え殻
はい。
糸井
女子が引くなら引くで、引けよっていうのが
作品じゃないですか。
でも、「女子が引くんです」って言われたときに、
「あ、そうですね、汚れに見えますもんね」
って拭くのが商品じゃないですか。
燃え殻
ああ、すげえ、言わなきゃよかったかもしれない(笑)。

糸井
でも、もっと言えば、
推理小説の中で描いてる恋愛なんていうのは、
興味がなくなっちゃうと困るから、
入れてることもあるわけでしょ?
それは商品性を高めてるじゃないですか。
燃え殻
そうですね。
糸井
その商品性を丸々否定するわけにはいかないし、
女性が引いちゃうのを、
やめとこうかっていって捨てても
伝わるものが出したいんだったら、
バランスの問題だから。
燃え殻
うん。
糸井
ぼくはそれは、全然かまわないとは思うんですよね。
やっぱり世の中の物事は、
作品と商品の間を揺れ動くハムレットなんじゃないの?
燃え殻
ああー。
糸井
だからその、作品か商品か、
あるいは、
みんなに伝わるか、自分が気持ちいいか、
みたいなことはあるんじゃないでしょうかね。
燃え殻
ああ、ありますね、絶対。
難しいですけど、
バランスがいいとうれしいな、ぐらいですよね。
糸井
バランスをよくするコツというのを一生懸命探すと、
実はバランスを壊すんだと思う。
燃え殻
ああ、そうだと思う。
糸井
だから、オートバイに乗るときに
一生懸命車輪の近くを見るよりも、
まっすぐ前を見るだけの方が倒れないのと同じでね。
燃え殻
うん。
糸井
あとは、バランスをちゃんととるために
いれものの大きさを変えちゃうっていうか。
玉入れのカゴの中に
玉が2個しかないと、バランスとれないけど、
100個入ると、安定するじゃないですか。
燃え殻
ああ。
糸井
なんでもありって、みんな受け入れちゃえば
自然とバランスが取れるんじゃないかな。
なんか、年上の人からの話
みたいになっちゃったけど(笑)。
燃え殻
いやいや、年上じゃないですか(笑)。
でも、すごいためになる。そうですね。
糸井
答えはそっちかぁ、っていうことってあってさ。

燃え殻
だから、取材でついているウソも、
お客さんにそういうことを求められてたのかっていう
気づきなのかもしれないし、
そういうものが作れたんだったら、
それでいいじゃないかって思うんですよね。
糸井
うん。
燃え殻
今、「ほぼ日」さんで
ぼくの小説の感想を送ってもらう企画をさせてもらってて、
ひとつひとつを見るとやっぱり、
途中から自分の話になったりとか、
悩み相談みたいになっちゃって。
糸井
そうですね。
燃え殻
でも、そういうものを送ってもらえるっていうのは、
とってもよかったと思って。
糸井
うん。
燃え殻
ぼく自身が大好きな小説とか、映画に共通してることって、
観たあとに自分語りをしたくなるってことで。
そういったものが自分としてもできたのならば、
とても、うれしいというか。
糸井
あの小説は、それができてますよね。
ぼくが一番好きなのは場を作ることなんだけど。
燃え殻
はい。
糸井
ぼく自身が作ったものが褒められるというのは、
瞬間的にはうれしいんだけど、
それよりは、作った場で出てきた人が褒められてるほうが
うれしいんですよね。
燃え殻
あ、それはすごいわかりますね。
糸井
例えば昔やってた「ヘンタイよいこ新聞」って連載の中で、
「かわいいものとは何か」ってお題に、
「お父さんが股引で家の中を歩いてるのは
妖精のようでかわいいと思います」という投稿があって。
燃え殻
はぁはぁ。
糸井
お父さんの股引に「かわいい」を持ってくる人が
その場にいるってだけで、ちょっとジーンと来ますよね。
燃え殻
その場を大切にしとこうかって。
糸井
うん。
で、今の若い子はなんでも「かわいい」で済ませる
って批判があったときに、
「かわいい」の中にはそこまで含まれるんだ
ってことをぼくは知ってるから、
「かわいい」で表現する人たちに対して、
ものすごく温かいんです。
燃え殻
寛大な気持ちになれる(笑)。
糸井
ぼくがそれを拾って出すことで、
世の中の「かわいい」の許容量が変わるじゃないですか。
それはものすごい嬉しいことだし。
燃え殻
うんうん。
糸井
「コロッケ」ってお題で、一番いい位を取ったやつが、
「落としても食える」。
会場
(笑)

糸井
すごいでしょう(笑)。
燃え殻
あぁ、すごいですね。時代を超えましたね。
糸井
コロッケの表面のバラつきがないと
落としたら食えないですよね。
みたらし団子なんかじゃダメで。
燃え殻
なるほど。
糸井
で、拾いたくなる何かがあって。
「食える」っていうときに、
「食いたいからこそ」って感じが、
落ちてるのを拾う運動の中に全部入ってるじゃないですか。
燃え殻
あー。
糸井
これはもう永遠にぼくの頭の中に‥‥
燃え殻
インプットされてるんですね。
糸井
そう。
ここの会場に来た人もコロッケを見たときに、
「そうだよな、落としても食える」(笑)。
会場
(笑)
糸井
「3秒ルール」という発明もさ、
なんとか拾う側の弁護人になりたかったからですよね。
ああいう人間をぼくは、増やしていきたい(笑)。
燃え殻
(笑)
糸井
それが寛容‥‥
燃え殻
ってことなんではないかと(笑)。
糸井
日本寛容党。
燃え殻
糸井さん、今日、何の話でしたっけ。
大丈夫ですか。
やっぱり、打ち合わせした方がよかったですか(笑)。
糸井
寛容になりたまえ。
燃え殻
はい(笑)。

(つづきます)

第4回 得ること、捨てること