- 糸井
-
小説を出版するにあたって、出版社の方に
直されたりとかっていうのはあったんですか。
- 燃え殻
-
女性の編集の方だったんで、
「女性が読んだときに嫌悪感があります」
って言われたものに関しては、バッサリ捨てました。
- 糸井
-
多分、今、本を作るっていうのは、
作品を出すっていうことと
商品を出すということの、二重の意味があって。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
-
女子が引くなら引くで、引けよっていうのが
作品じゃないですか。
でも、「女子が引くんです」って言われたときに、
「あ、そうですね、汚れに見えますもんね」
って拭くのが商品じゃないですか。
- 燃え殻
- ああ、すげえ、言わなきゃよかったかもしれない(笑)。

- 糸井
-
でも、もっと言えば、
推理小説の中で描いてる恋愛なんていうのは、
興味がなくなっちゃうと困るから、
入れてることもあるわけでしょ?
それは商品性を高めてるじゃないですか。
- 燃え殻
- そうですね。
- 糸井
-
その商品性を丸々否定するわけにはいかないし、
女性が引いちゃうのを、
やめとこうかっていって捨てても
伝わるものが出したいんだったら、
バランスの問題だから。
- 燃え殻
- うん。
- 糸井
-
ぼくはそれは、全然かまわないとは思うんですよね。
やっぱり世の中の物事は、
作品と商品の間を揺れ動くハムレットなんじゃないの?
- 燃え殻
- ああー。
- 糸井
-
だからその、作品か商品か、
あるいは、
みんなに伝わるか、自分が気持ちいいか、
みたいなことはあるんじゃないでしょうかね。
- 燃え殻
-
ああ、ありますね、絶対。
難しいですけど、
バランスがいいとうれしいな、ぐらいですよね。
- 糸井
-
バランスをよくするコツというのを一生懸命探すと、
実はバランスを壊すんだと思う。
- 燃え殻
- ああ、そうだと思う。
- 糸井
-
だから、オートバイに乗るときに
一生懸命車輪の近くを見るよりも、
まっすぐ前を見るだけの方が倒れないのと同じでね。
- 燃え殻
- うん。
- 糸井
-
あとは、バランスをちゃんととるために
いれものの大きさを変えちゃうっていうか。
玉入れのカゴの中に
玉が2個しかないと、バランスとれないけど、
100個入ると、安定するじゃないですか。
- 燃え殻
- ああ。
- 糸井
-
なんでもありって、みんな受け入れちゃえば
自然とバランスが取れるんじゃないかな。
なんか、年上の人からの話
みたいになっちゃったけど(笑)。
- 燃え殻
-
いやいや、年上じゃないですか(笑)。
でも、すごいためになる。そうですね。
- 糸井
- 答えはそっちかぁ、っていうことってあってさ。

- 燃え殻
-
だから、取材でついているウソも、
お客さんにそういうことを求められてたのかっていう
気づきなのかもしれないし、
そういうものが作れたんだったら、
それでいいじゃないかって思うんですよね。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
-
今、「ほぼ日」さんで
ぼくの小説の感想を送ってもらう企画をさせてもらってて、
ひとつひとつを見るとやっぱり、
途中から自分の話になったりとか、
悩み相談みたいになっちゃって。
- 糸井
- そうですね。
- 燃え殻
-
でも、そういうものを送ってもらえるっていうのは、
とってもよかったと思って。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
-
ぼく自身が大好きな小説とか、映画に共通してることって、
観たあとに自分語りをしたくなるってことで。
そういったものが自分としてもできたのならば、
とても、うれしいというか。
- 糸井
-
あの小説は、それができてますよね。
ぼくが一番好きなのは場を作ることなんだけど。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
-
ぼく自身が作ったものが褒められるというのは、
瞬間的にはうれしいんだけど、
それよりは、作った場で出てきた人が褒められてるほうが
うれしいんですよね。
- 燃え殻
- あ、それはすごいわかりますね。
- 糸井
-
例えば昔やってた「ヘンタイよいこ新聞」って連載の中で、
「かわいいものとは何か」ってお題に、
「お父さんが股引で家の中を歩いてるのは
妖精のようでかわいいと思います」という投稿があって。
- 燃え殻
- はぁはぁ。
- 糸井
-
お父さんの股引に「かわいい」を持ってくる人が
その場にいるってだけで、ちょっとジーンと来ますよね。
- 燃え殻
- その場を大切にしとこうかって。
- 糸井
-
うん。
で、今の若い子はなんでも「かわいい」で済ませる
って批判があったときに、
「かわいい」の中にはそこまで含まれるんだ
ってことをぼくは知ってるから、
「かわいい」で表現する人たちに対して、
ものすごく温かいんです。
- 燃え殻
- 寛大な気持ちになれる(笑)。
- 糸井
-
ぼくがそれを拾って出すことで、
世の中の「かわいい」の許容量が変わるじゃないですか。
それはものすごい嬉しいことだし。
- 燃え殻
- うんうん。
- 糸井
-
「コロッケ」ってお題で、一番いい位を取ったやつが、
「落としても食える」。
- 会場
- (笑)

- 糸井
- すごいでしょう(笑)。
- 燃え殻
- あぁ、すごいですね。時代を超えましたね。
- 糸井
-
コロッケの表面のバラつきがないと
落としたら食えないですよね。
みたらし団子なんかじゃダメで。
- 燃え殻
- なるほど。
- 糸井
-
で、拾いたくなる何かがあって。
「食える」っていうときに、
「食いたいからこそ」って感じが、
落ちてるのを拾う運動の中に全部入ってるじゃないですか。
- 燃え殻
- あー。
- 糸井
- これはもう永遠にぼくの頭の中に‥‥
- 燃え殻
- インプットされてるんですね。
- 糸井
-
そう。
ここの会場に来た人もコロッケを見たときに、
「そうだよな、落としても食える」(笑)。
- 会場
- (笑)
- 糸井
-
「3秒ルール」という発明もさ、
なんとか拾う側の弁護人になりたかったからですよね。
ああいう人間をぼくは、増やしていきたい(笑)。
- 燃え殻
- (笑)
- 糸井
- それが寛容‥‥
- 燃え殻
- ってことなんではないかと(笑)。
- 糸井
- 日本寛容党。
- 燃え殻
-
糸井さん、今日、何の話でしたっけ。
大丈夫ですか。
やっぱり、打ち合わせした方がよかったですか(笑)。
- 糸井
- 寛容になりたまえ。
- 燃え殻
- はい(笑)。
(つづきます)
