- 糸井
- ちょっと暑いですね。
- 燃え殻
-
暑いですね。
上着、脱ぎましょうか。
- 糸井
-
この丈の服を着てる人、ぼくわりと好きなんです。
ちょっとブリティッシュでしょう?

- 燃え殻
- 最近、学んで。こういうのを着ようと思って。
- 糸井
- 着てたじゃない、前から。
- 燃え殻
- そうですか?(笑)
- 糸井
-
いいなと思った景色があったときって、
すぐに書くんですか、それとも、
覚えてるんですか。
- 燃え殻
-
最近はすぐ書くようにしてます。
高校生とか中学生の頃は
チラシとか切り抜きをファイルしていて。
小説に出てきた「横尾忠則展」を観に行ったときも‥‥
- 糸井
-
俺、行ったよ、そこ。
いい展覧会だったね。
- 燃え殻
-
よかったですよね。
なんかそのとき、チラシを集めなきゃと思ったんです。
それで、広告の専門学校に行ってたときも、
神保町で古雑誌を買って、
いろんな人のコピーをファイルしたり。
- 糸井
- あぁ。何の資料かわからないけど。
- 燃え殻
-
いつ役に立つかなんてわからないけれど、
ただ集めとかないと、って思って。
すぐに役に立つとか、こうなりたいなっていう
努力じゃない努力をすごいしてたんですね。
- 糸井
-
俺もちょっとしてたな。
例えば、これはマヌケだなと思うんだけど、
何かの映画で、
瓶に入った金魚を売りに来るっていうシーンを観て、
金魚を瓶に入れて飼ったことがある。
- 燃え殻
- それは、まねて?
- 糸井
- まねて。
- 燃え殻
- ‥‥。
- 糸井
- 軽蔑したような目で‥‥。
- 燃え殻
- 軽蔑してない!軽蔑してないよ!(笑)
- 糸井
- じゃあ何(笑)。
- 燃え殻
-
へぇ、って(笑)。
や、でも、すごいわかります。

- 糸井
-
例えば長い丈の服にしても、
誰かが着てるのをいいと思ったんですよね?
- 燃え殻
- そうです。
- 糸井
-
だから、自分がまず、その長い丈の服を着てなくても、
「長い丈の服はうまくいくとカッコいいぞ」っていう心が
自分の脳内には、あるわけですよね。
- 燃え殻
- そうそうそう(笑)。
- 糸井
-
で、売ってたんで、
「俺、ダメかな?」「着ちゃおうかな?」
ってことですよね。
- 燃え殻
- そうです、そうです、そうです(笑)。
- 糸井
-
だから、他人がやってることとか、
よその人が表現したことも、
もうすでに自分の物語なんですよね。
- 燃え殻
-
そうだと思います。
だから、コラージュのようにいろいろなものを集めてて、
「俺しか知らないんじゃないか、教えなきゃ!」
みたいに思って、友達に言ったりとかしてましたね。
- 糸井
- それ、友達にもそういうやつがいた?
- 燃え殻
- あんまり、ないかな‥‥。
- 糸井
-
それはもうなんか、
表現者としての運命ですかねぇ。
- 燃え殻
-
いや、ぼくの周りがみんな
「へぇ」なんつって聞いてくれて。
すごいいい人だったんだと思います。
- 糸井
-
聞いてもらうって、
人間にとってものすごくうれしいことですよね。
- 燃え殻
- すごいドーパミンが出ますよね。
- 糸井
-
よく考えると、ブルースミュージシャンが
歌ってるのはそういうことだよね。
俺んちの嫁がまた俺を
ろくでなしって言いやがったぁ、みたいな。
- 燃え殻
-
聞いてるほうも、
ちょっと自分とシンクロする部分を見つけちゃうのかな。
俺のことを歌ってるんだって。
- 糸井
-
うん(笑)。
燃え殻さんの小説なんか、けっこうそうですよね。
- 燃え殻
- ああ、そうかもしれないですね。
- 糸井
-
ぼくが、燃え殻さんの小説の帯に
「リズム&ブルースのとても長い曲を
聴いているみたいだ。」と書いたのは、
そんな気持ちなんです。
- 燃え殻
- あぁ‥‥。

- 糸井
-
若いときに、『ドック・オブ・ベイ』って歌が大好きで。
ずっと聴いてられないかなと思ったことがあって。
- 燃え殻
- あぁ、すげぇわかる。
- 糸井
-
ぼくがスナックでバイトしてたときに
お店のジュークボックスで
誰かがその曲をかけてくれるとうれしいんです。
- 燃え殻
-
あぁー、なるほど。
わかる!
- 糸井
-
歌詞をちょっと知ってる程度だけど、
ずっと聞いてたいって気持ちがあったんです。
だから、「リズム&ブルースのとても長い曲を
聴いているみたいだ。」っていうのは、
若い頃のぼくが、この小説を
ものすごく褒めてるつもりなの。
- 燃え殻
- いやー、すごくうれしかったです。
- 糸井
- 勝手に言うとね(笑)。
(つづきます)
