もくじ
第1回ぼくだけが見ている景色 2017-10-17-Tue
第2回俺のリズム&ブルース 2017-10-17-Tue
第3回日本寛容党 2017-10-17-Tue
第4回得ること、捨てること 2017-10-17-Tue
第5回保留して、生きる。 2017-10-17-Tue

とや さとる・1989年生まれのデザイナー。テレビ、音楽、インターネットが好きです。

燃え殻さんと、書くにまつわるお話を。

燃え殻さんと、書くにまつわるお話を。

担当・戸谷 慧

第2回 俺のリズム&ブルース

糸井
ちょっと暑いですね。
燃え殻
暑いですね。
上着、脱ぎましょうか。
糸井
この丈の服を着てる人、ぼくわりと好きなんです。
ちょっとブリティッシュでしょう?

燃え殻
最近、学んで。こういうのを着ようと思って。
糸井
着てたじゃない、前から。
燃え殻
そうですか?(笑)
糸井
いいなと思った景色があったときって、
すぐに書くんですか、それとも、
覚えてるんですか。
燃え殻
最近はすぐ書くようにしてます。
高校生とか中学生の頃は
チラシとか切り抜きをファイルしていて。
小説に出てきた「横尾忠則展」を観に行ったときも‥‥
糸井
俺、行ったよ、そこ。
いい展覧会だったね。
燃え殻
よかったですよね。
なんかそのとき、チラシを集めなきゃと思ったんです。
それで、広告の専門学校に行ってたときも、
神保町で古雑誌を買って、
いろんな人のコピーをファイルしたり。
糸井
あぁ。何の資料かわからないけど。
燃え殻
いつ役に立つかなんてわからないけれど、
ただ集めとかないと、って思って。
すぐに役に立つとか、こうなりたいなっていう
努力じゃない努力をすごいしてたんですね。
糸井
俺もちょっとしてたな。
例えば、これはマヌケだなと思うんだけど、
何かの映画で、
瓶に入った金魚を売りに来るっていうシーンを観て、
金魚を瓶に入れて飼ったことがある。
燃え殻
それは、まねて?
糸井
まねて。
燃え殻
‥‥。
糸井
軽蔑したような目で‥‥。
燃え殻
軽蔑してない!軽蔑してないよ!(笑)
糸井
じゃあ何(笑)。
燃え殻
へぇ、って(笑)。
や、でも、すごいわかります。

糸井
例えば長い丈の服にしても、
誰かが着てるのをいいと思ったんですよね?
燃え殻
そうです。
糸井
だから、自分がまず、その長い丈の服を着てなくても、
「長い丈の服はうまくいくとカッコいいぞ」っていう心が
自分の脳内には、あるわけですよね。
燃え殻
そうそうそう(笑)。
糸井
で、売ってたんで、
「俺、ダメかな?」「着ちゃおうかな?」
ってことですよね。
燃え殻
そうです、そうです、そうです(笑)。
糸井
だから、他人がやってることとか、
よその人が表現したことも、
もうすでに自分の物語なんですよね。
燃え殻
そうだと思います。
だから、コラージュのようにいろいろなものを集めてて、
「俺しか知らないんじゃないか、教えなきゃ!」
みたいに思って、友達に言ったりとかしてましたね。
糸井
それ、友達にもそういうやつがいた?
燃え殻
あんまり、ないかな‥‥。
糸井
それはもうなんか、
表現者としての運命ですかねぇ。
燃え殻
いや、ぼくの周りがみんな
「へぇ」なんつって聞いてくれて。
すごいいい人だったんだと思います。
糸井
聞いてもらうって、
人間にとってものすごくうれしいことですよね。
燃え殻
すごいドーパミンが出ますよね。
糸井
よく考えると、ブルースミュージシャンが
歌ってるのはそういうことだよね。
俺んちの嫁がまた俺を
ろくでなしって言いやがったぁ、みたいな。
燃え殻
聞いてるほうも、
ちょっと自分とシンクロする部分を見つけちゃうのかな。
俺のことを歌ってるんだって。
糸井
うん(笑)。
燃え殻さんの小説なんか、けっこうそうですよね。
燃え殻
ああ、そうかもしれないですね。
糸井
ぼくが、燃え殻さんの小説の帯に
「リズム&ブルースのとても長い曲を
聴いているみたいだ。」と書いたのは、
そんな気持ちなんです。
燃え殻
あぁ‥‥。

糸井
若いときに、『ドック・オブ・ベイ』って歌が大好きで。
ずっと聴いてられないかなと思ったことがあって。
燃え殻
あぁ、すげぇわかる。
糸井
ぼくがスナックでバイトしてたときに
お店のジュークボックスで
誰かがその曲をかけてくれるとうれしいんです。
燃え殻
あぁー、なるほど。
わかる!
糸井
歌詞をちょっと知ってる程度だけど、
ずっと聞いてたいって気持ちがあったんです。
だから、「リズム&ブルースのとても長い曲を
聴いているみたいだ。」っていうのは、
若い頃のぼくが、この小説を
ものすごく褒めてるつもりなの。
燃え殻
いやー、すごくうれしかったです。
糸井
勝手に言うとね(笑)。

(つづきます)

第3回 日本寛容党