糸井

知り合いにさ、お天気の話をするだけなのに、悲しそうに暗そうに言う人がいるんだよ。

燃え殻

僕じゃないですよね？

糸井

違う違う。その人はね、いつでも文句言うの、何かに。「暑いわ」とか。

燃え殻

（笑）。ああ、情感たっぷりにお天気話って嫌だな。

糸井

心からね、ネガティブなことにまとめるの、その日を。だから、「いや、暑くない」とか俺けっこう言う（笑）。

燃え殻

心が通わないほうがいいこともあるってことですね。

糸井

ほとんどの時間、通わないほうがいいんじゃないの？
通うにしても等価交換的な。10円分渡して10円分ね、みたいな。小銭のやりとり。

燃え殻

小銭のやりとりぐらいがちょうどいい距離感なのかな。

糸井

例えば、俺が「まあ、これで温かいものでも食べて」って手に100円を握らせてね。そしたら、そのまま受け取っても、お互いにギャグになるじゃないですか。これが6800円ぐらいを渡しただけで、「何、どうしたんですか」ってなりますよね。

燃え殻

それで「温かいもの食べて」って言ったら、ちょっと‥‥。

糸井

ちょっと、なんか自分がどう見られたんだろうとかさ、この人なんかへんなことするなとかさ、気持ち悪いですよね。だから、100円玉の流通ですよ、やっぱり基本は。

燃え殻

日常というか、コミュニケーションというか。

糸井

うん。そのときに、偶然その100円が、「何この100円！」っていうときがあるとうれしいですよね。取っとこうって。

燃え殻

うん。ここで100円くれるのかっていうのもありますよね。

糸井

ありますね（笑）。「ああ、もらっちゃおう」とかね。

燃え殻

「え、本当に？　ありがとう」ってなりますよね。

糸井

うん、あると思う。10円でもあるよ、それはね。

燃え殻

ある。

糸井

そういうことが楽しいの。

燃え殻

ああ、本当にそうかもしれない。

糸井

だから、それ以上は心に立ち入っちゃうんだよ、相手の。そんなことしないでほしいっていう。

燃え殻

考えさせちゃう。

糸井

そうですね。だから、たぶん、燃え殻さんがちょっと小さいエッセイみたいなツイッターをするときとか、あれ100円とか10円の話なんだけど、その100円が「なんで磨いたの、そんなに」みたいなときがあると人はうれしいんですよね。電車に乗ってたらどうのこうの。で、「なんで」って言って、その「なんで」のところにちょっと怒ってんのかなとか、淋しいのかなとか、あれは楽しいですよね。

燃え殻

そうですね。

糸井

古賀さんが犬のこと書いてるときとかってさ、なんかもう１円玉みたいじゃない。かわいい（笑）。おやつくれるのかなみたいな。俺もそうなんで。それは、なんかあってほしいよね。

燃え殻

そういうことが常に練習じゃないけど、あいだに入ってないと。

糸井

古賀さんは多分、書くことがない日も毎日書くっていうのを自分に課してきたから、1円玉とか使えるようになったんじゃない？　

燃え殻

うんうん。

糸井

このあいだ、イケちゃんというカメラマンの写真展があって対談したの。で、しゃべったら、ああ、ちゃんと考えたんだってことが、ポロッポロッといいのがいっぱい出てくるんだよ、けっこう。普段そんな話しないけど、「考えたんだね」って言うと、当たり前に考えたことだから、素直に「ええ」って言うんだよね。

燃え殻

ああ。

糸井

燃え殻さんは、その考えた節があるっていうのがもう小説になったりエッセイになったりしてるわけだから。

燃え殻

そうなんですよ。考えてるっていうことを出してるというか。

糸井

そうだよね（笑）。

燃え殻

はい。悩みとかも常にそうですよね。悩みが解消しないと、また今度新しく枝葉が分かれて、もう増えていくことが、いいか悪いかもわからないんですけどね。でも、先には進んだ。ずっと同じことを考えてるっていうよりは、精神衛生上いいかな、ぐらいの話なのかなあ。

糸井

知り合いでね、五十肩の痛みが痛風で意識されなくなった人がいて。

燃え殻

（笑）。

糸井

痛風は何にも勝るんだね。「五十肩どうしたの？」って（笑）。悩みもちょっとそういうとこあるよね。

燃え殻

本当にあります（笑）。

糸井

で、なんか温泉入って麻雀したら治ってたみたいなね。

燃え殻

悩みは悩みで消すみたいのありますよ、本当に。それなんじゃないかな。やっぱりずっと悩んでると病みますからね。

糸井

そんなに悩むんだ。

燃え殻

うん‥‥。

糸井

タイプ的に。

燃え殻

タイプ的に。解消法としては、ほかのことを悩むというか。「お前、同じことばっかり悩んでて、つまんねえよ」って自分で言うんですよ。「もっと何か面白いことないの？」って。面白いことって、悩みですよ。

糸井

ああ、面白い悩み。

燃え殻

「新しい悩みが欲しいなあ」みたいな。あのね、面倒くさくしちゃったほうがいいってときあるんです。

糸井

面倒くさくないと、することが見つからないのかね。

燃え殻

うーん。そういう人にはやっぱり手元にね、悩みを置くことをおすすめしますね。そうするとね、それに集中しなきゃいけないんでね。それはおすすめですね。僕、そうしてます。

ぼくはお酒飲むんで、お酒とか飲むと、とくに言いがちなんです。「やっぱり人生ってさ」とか（笑）。なんとなくこう、いい具合になってくるっていうか、「仕事ってさ」なんて言うんですけど、やっぱり「来週の納期ってさ」って言わないじゃないですか、やっぱりお酒飲んでると（笑）。

糸井

うんうん、言わない、言わない。

燃え殻

やっぱり来週の納期とかの話をしてると、いいですよね。いろいろ本当の意味で解決します。本当に前に進みますね。

糸井

その「来週の納期」の積み重ねが、「人生ってさ」の裾野だもんね。

燃え殻

そうです。

糸井

まさしくね。

燃え殻

答えなんか要らないときって多いと思うんですよ、僕、人生で。

糸井

ご飯食べるとかさ。

燃え殻

そう。お腹いっぱいになると、けっこう解決したりしません？

糸井

あと、歩く。

燃え殻

ああ、歩くもあるかもしれない。歩くとアイディア出ますしね。

糸井

アイディアも出るし、あと、これじゃないなっていうところに行きそうになってる問題が忘れられますね。ぼくはもうね、万歩計売りたいですね。古いですか、万歩計は。

燃え殻

古いですね、古いですね（笑）。

糸井

でも、歩くって本当にいいんだよね。

（つづきます）