もくじ
第1回あの日、僕だけが見た世界。 2017-10-17-Tue
第2回ここにいてもいいんだって。 2017-10-17-Tue
第3回「楽しめ」という言葉の力。 2017-10-17-Tue
第4回人生の裾野ってさ。 2017-10-17-Tue
第5回手をつないでいたいんだ。 2017-10-17-Tue

88年生まれ、神奈川県の山の中で育つ。
5歳の娘をもつママさん編集者。月刊誌で、巻頭グラビアを担当。元鉄道員。

筆が止まったとき頭に思い浮かぶ言葉は、「やってみなはれ」。

重い荷物と、ともに歩いていく。

重い荷物と、ともに歩いていく。

担当・榎本 悠

第2回 ここにいてもいいんだって。

糸井
質問を受けるっていうのをやってみましょうか。
燃え殻
いや、これ手挙げるの大変ですよね(笑)。
糸井
質問のある方、手を挙げてみてください。いないですね(笑)。じゃ、もうベストセラー作家に振るしかないね。お願いします。『嫌われる勇気』の古賀さんです。必ずね、この役引き受けてくれるの。

燃え殻
僕、古賀さん一番尊敬してます。
糸井
もう神かってぐらいね。
燃え殻
神です。
古賀
燃え殻さんの取ってある手帳というのは、もうこれ要らねえやって引っ越しのたびに捨てようと思う機会はなかったんですか。ぼくは同じように手帳とかノートとか書きためて、引っ越しのたびに捨てちゃうんですよ。なんかリセットしたくなって。

燃え殻
僕、物を捨てることとか、人と縁が切れることがすごく下手なんです。そこに展示してありますけど、集めたチラシだったり資料は、何だろう。自分ですらガラクタだと思うんですよ。思うんですけど、こういうものを自分の手元に置いて、何度も何度も読み返してないと安心しないというか。そういうのをリセットすると今までの自分と離れちゃった気がして、荷物がなくなった気がして、一歩前に出るのが怖くなっちゃう。
糸井
うん。
燃え殻
「荷物はもう軽いほうがいいよ」って言う人もいますけど、荷物が重くないとだめなんです。そういうものを持ってないと、たぶん僕は前に進めないから、絶対一生捨てないと思う。
糸井
それはそういう個性なんですかね。
燃え殻
そうかもしれない。
糸井
小説のタイトルも、捨てられないって書いてありますよね。『ボクたちはみんな大人になれなかった』。こども心を捨てられないお父さんとかもいますよね。ぼくなんか、捨てるゲームの痛みが好きなんですよ。好みなんですよね。だから、捨てたくない。で、ずるずる引きずりたいっていう自分が、捨てざるを得なくなって捨てられたときに、「ああ、捨てちゃったけど、とくに大丈夫だったな」みたいなことを涙とともに味わうのが好きですね。
燃え殻
へえー。じゃあ、けっこう捨てるんですね。
糸井
捨てますよ。捨てざるを得ないから捨てるのと、それから、やけになって部屋ごと捨てるとか。

燃え殻
ええー?
糸井
でも、何の差し支えもないです。
燃え殻
僕も本当は何の差し支えもないとわかってるんです。
糸井
それは、あるとしたら寂しさですよね。本とかモノとかは、よっぽどじゃないと実は結果的に要らなかったっていうことにわりとなります。だから、燃え殻さんみたいな人がいると、ますますぼくは男らしくなっちゃって、「捨てなさい」とか言うけど、根は同じです。
燃え殻
寂しさを感じちゃう?
糸井
その寂しさが好きなんだと思うんだよね。そのキュンしてるときの自分のこう、実在感?
燃え殻
「生きてるー」みたいな。
糸井
うんうん。
燃え殻
ぼく、山藤章二の似顔絵塾っていうのにずっと出してたんです、似顔絵を。
糸井
それで入選したの?
燃え殻
20回以上載ってます、『週刊朝日』の裏側に。僕、今でも持ってますよ、全部。
糸井
‥‥知らなかった。何回ぐらい載ったの?
燃え殻
いや、もう本当に二十何回。一時期はすごく載って。で、1年間でよかったやつを最後、選ぶんですよね。山藤章二さんとかナンシー関さんとか松本人志さんとかの審査風景みたいのに僕のがあって。結果はダメだったんですけど、そういう人たちが選んでくれているとこに自分のものがあるっていうのが‥‥。

糸井
ああ、それはすごい。
燃え殻
エクレア工場でバイトしてたりとかそのへんの頃だったんで、「生きてる」っていうか、自分は価値がある人間なんじゃないかってこう‥‥。
糸井
ただ落ちてる石ころじゃないぞと。
燃え殻
そう(笑)。
糸井
ちょっと面白い形をしてるぞと。
燃え殻
俺は面白い、どこか面白いんだって思って似顔絵を出してました。そう思わなかったら、たぶんやってられなかった。
糸井
あなたの語りは、いつも人の思い出を掘り起こすね。いま思い出したことがあるんだけど。
燃え殻
いやあ。

糸井
『ブレーン』という雑誌があって。
燃え殻
ああ、はい、ありますね。
糸井
『ブレーン』という雑誌にぼくが原稿書いたとかの話じゃなくて、『ブレーン』に当時、コピーライターの養成講座の先生だったヤマカワさんという人が原稿を書いてる中に、「若手のコピーライターのI君が」って書いてあった。その「I君が」っていうだけで、これ俺なんだっていって、跳び上がるほどうれしかった。それで買った、それ。
燃え殻
わかる。わかる。
糸井
だから、そんなんだよね。その「いてもいいんだ」感て。

(つづきます)

第3回 「楽しめ」という言葉の力。