- 燃え殻
- 1年前の渋谷ロフト‥‥。
- 糸井
- 1年前。
- 燃え殻
- あのロフトでのイベント(田中泰延・古賀史健・糸井重里・「ほぼ日」永田泰大とのトークイベント「書くについての公開雑談。」)、あのとき僕、人前で話すってことが人生初だったんです。
- 糸井
- ‥‥ちょっといいなあ。何だ、何だ、何だ(笑)
- 燃え殻
- それが人生初で、そこに糸井重里がいて。あのとき、またそうそうたる変わった方‥‥。
- 糸井
- ああ。
- 燃え殻
- が、いらっしゃって。
- 糸井
- (笑)。
- 燃え殻
- 緊張したー。その1年前のやつを見たとき、あ、少し慣れたかもしれないと思ったんです。

- 糸井
- いっくらでもやってるじゃない、もう人前で。
- 燃え殻
- ここ2ヶ月ぐらいです。
- 糸井
- あ、それは変化かもしれない。
- 燃え殻
- これは新人レスラーの、あるじゃないですか、夏のカーニバルみたいな。8試合連続で先輩に当たるみたいな。それをやってるつもりなんです。
- 糸井
- ああ、そうね。自分の練習としてはあるのかもしれないね。
- 燃え殻
- うん。何かこう自分としてそこにものすごい足りてないものを感じてたんで、あ、これはいい機会だと思って。何か見えるのかなあなんて思いながら、ぼんやりといつもお話をさせていただいたりしてたんですけど。人前で話すということ自体が苦手なんです。苦手だったんです。
- 糸井
- ええ。
- 燃え殻
- 僕は普段こもって作業するから、プレゼンとかそういうのもないサラリーマンだったんです。普通の友達とかに聞くと、まあ、あるじゃないですか。そういうことをしてるって聞くと、どうにもこうにも自分に足りてないと思って、そういうことを少しやろうって。

- 糸井
- 対談じゃなくてしゃべるのはOKですか。
- 燃え殻
- うちの社内ミーテイングみたいなところで話をするのも苦手でした。
- 糸井
- それは苦手かどうかで言えば、ぼくも本当に同じですよ。
- 燃え殻
-
ああ、そうですか?
今でも苦手だなと思います?
- 糸井
- 思います、思います。だから、燃え殻さん風に言うと、俺はそこのところを線を引いて、双方向というか、通気性をよくして、こっち側の場所に少しずつ入ってきたんだと思う。
- 燃え殻
- うん。
- 糸井
- それは、やっぱり社長になったからかな。社長という名前は、まあ、ものすごく大きいと思う。部長というのがあったとしたらどうかわかんないけど、フリーじゃないですか、ぼくも。だから、あんまり人にこうあってほしいだとかっていう筋合いはないぐらいに思ってたから。だから、ダメダメですよね、そこのところはね。弱いです。
- 燃え殻
- でも、それ毎週やってて、その日の朝とか緊張するんですか?
- 糸井
- 緊張はしないけど、そのとき永ちゃんが出てくるわけですよ。永ちゃんが出てきて、「矢沢、楽しめ」って俺に声かけるんです。
- 燃え殻
- 糸井さん、心の中に永ちゃんを飼ってる?
- 糸井
- 飼ってる。明らかに俺は心の中に永ちゃんがいる。もうレストランの社長みたいなもんよ。「矢沢さんのおかげでここまで来たんすよね」みたいな(笑)。

- 燃え殻
- 入ってる。
- 糸井
- 入ってる、入ってる。
- 燃え殻
- それが一番ピンチのときだったり、自分がウッてなったときに、永ちゃんが語りかけてくれたり、曲が流れたりするんですか。
- 糸井
- そんなふうにはなんない。今の話で言うと、永ちゃんが、「俺もステージの前はドキドキする」って話を真面目にしてるわけよ(笑)、俺と話してて。
- 燃え殻
- へぇー。
- 糸井
- で、「それは当たり前だよ」みたいな感じで。もっと若いときだったら、もっと気が小さいから、ドキドキするわけだよ、きっと。で、洗面所とか前の日のお風呂とか、鏡に向かって、「できる。おまえならできる」って言い聞かせるって。
- 燃え殻
- ええ。
- 糸井
- そうだろうなと思ったの。永ちゃんね、ウソはつかないのよ。で、さあ始まるときっていうのはまた別で、やっぱりえらいことだと思うけど、負けねえぞと思わなきゃなんないんだよ。だから、鏡に向かって「おまえならやれる」ていう。「頑張れ、矢沢。おまえ、よくやってるなあ」とか、終わってから、「よくやったよ、永ちゃん」みたいな。

- 燃え殻
- 語りかけて。
- 糸井
- うん。で、それはわりとわかるじゃないですか。ある段階まで行ったら今度は、戦いじゃなくて、「楽しめ」って言うようになったっていうわけだよ。「矢沢、楽しめ、OK」。そうしたらダーッと、一番多いときだと8万人とかいるわけじゃない。そのときに、「楽しめ」って言葉、俺は何度も原稿にも書いたけど、その言葉の持ってる意味って、たぶんものすごくてさ。勝ちも負けも失敗も成功もなくさ、「楽しめ」、「おお、そうかい」って出てくるんだって。
- 燃え殻
- ああ、でも、そうかもしれない。
- 糸井
- ものすごいそれはうれしくなっちゃうわけで、嫌に決まってるなんてことだらけだよ、苦手だったことはね。でも、その「楽しめ」を俺が覚えてたおかげで、どれだけしのいできたか。別に永ちゃんの曲が聞こえてくるわけじゃないよ(笑)。「そうだ、楽しむんだ」。
- 燃え殻
- 「楽しむんだ」っていう。
- 糸井
- そう。楽しみにしてくれている人と俺が楽しめばいいんだって。
(つづきます)
