燃え殻さんと糸井さんの対談
担当・ポニ子
第6回 会社を辞めない理由
- 糸井
-
一応、通り一遍なことなんだけど、会社は辞めないですか。
- 燃え殻
-
絶対に辞めないです。
今、いろいろな自分が雑誌に出たりとかすることを
うちの社員とか、若手の子とかが見てくれてる。
それが一番面白いというか、うれしいというか。

- 糸井
-
ああ。
- 燃え殻
-
ぼく自身が、自分が社会の数に入っていなかったみたいな感じが
猛烈にあって、それどうにかしなきゃいけない。
でも、そこから今の会社に入って、
そしたら、今度はいろいろなテレビ局だったり
制作会社の人たちから、
「おまえのところは数に入っていない」
って説明をいろんな言葉でされるわけですよ。
これをどうやってこの会社を世の中で
認めてもらえるにはどうしたらいいだろうって
多分、社長も一緒にいろいろと考えながらやってきて
で、やっといろいろなことで
何度か社会に認めてもらうことが会社であって
「そこにいていい」みたいなことが起きて
その喜びというのがあるんですよね。
その中の延長線上に
ぼくは最初は全然そんなこと思っていなかったんですけど
小説を書いてこうなったときに
喜んでくれたのが社長だったんですよ。
それが何につながるかとかじゃなくて
喜んでくれたんです。
- 糸井
-
仲間が。
- 燃え殻
-
そうですね。
- 糸井
-
うんうんうん。
- 燃え殻
-
それこそ自分と血縁関係もなく
関係のないところでぼくはアルバイトで
入ったような人間がいろいろやってきて
最終的に今こう一緒に働いてて
喜んでくれたんですよね。
ある意味、親より喜んでくれて。
それが一番うれしかったかなあ。

- 糸井
-
その答えはすごくいいですね。
耳にいいですね。
- 燃え殻
-
あ、そうですか。
- 糸井
-
うん。いや、聞いててうれしい気がしますね。
なんだか。何でしょうね。
- 燃え殻
-
でも、本音ですね。本音。
- 糸井
-
そうすると、そのいわゆる「次の作品は?」って
いうのと「会社辞めないんですか」というのは
まったく正反対の質問なんだけど
それは、何か書くってことはやめないんですか。

- 燃え殻
-
受注があったことに対して
全力で取り組むっていうことをずっとやってきていて
これは、恥ずかしさもあって言ってることなんですけど
うちの若手にもそれ同じこと言ってるんです。
それが小説だろうが
お客さんからの企画だろうが
美術制作のフリップ1枚だろうが
本当に一緒で、全力で取り組んで
できれば喜んでもらいたいっていう。
小説のときもそうだったんですよね。
全然見たことがない人が喜ぶには
どうしたらいいんだろうってことばっか考えてましたね。
だから、自分がこういうことを訴えたいとか
正直なかったんです。
- 糸井
-
子どもがまだ小さいときに、
寝かしつけるのにデタラメな話をしてたことがあって。
で、主人公を子ども本人にしてあげたり、
してあげなかったりいろいろして、
出まかせにいろんなこと言ってるとウケるんですよね。
なんか似てますよね。
- 燃え殻
-
似てる。
- 糸井
-
ね(笑)。
- 燃え殻
-
本当にそうだと思う。
- 糸井
-
子どもがいるわけじゃないけど、
誰かが喜んで聞いてるんだったら、
さあ、その喜んでる人に向かって何かを、
そのあとどうしようかなって思いながら
一緒に手をつないでたいみたいな。。

- 燃え殻
-
ぼくはもう、それだけですね。
仕事ではないところから始めていたので
それを純度を増したいっていうふうに思っていたんですよね。
せっかくそれが流通するものだとしたら
これは関わった人も含めて
みんなが喜ぶにはどうしたらいいだろうと思いましたし
いろいろなノイズがないほうがいいなとか、
多くの人が喜んでほしいなっていうことっていうのは
何なんだろうみたいなことを探すのが楽しかったし
自分の作品だったら、物語だったら
どんな残酷にもできるじゃないですか。
- 糸井
-
うん、そうですね。
- 燃え殻
-
で、もしかしてツイッターもそうかもしれなくて
どんだけ残酷にも使える。
- 糸井
-
自分のハンコを必ず押すもんね、ツイッターとかってね。
- 燃え殻
-
はい。
その人を驚かせるとか、
その人を悲しませるとかってある意味簡単というか
狂気的なことをすればいいんですけど
面白がらせるってけっこう大変だぞって思って。
- 糸井
-
そうだよね。
- 燃え殻
-
あと、安心させるとかね。
- 糸井
-
浮かない気持ちでいるもんね、人って案外普段はね。
それを浮かせる、ウキウキさせるっていうのは、
実は力仕事ですよね、案外ね。
- 燃え殻
-
その人が今どんな状態かってわからないじゃないですか。
- 糸井
-
わかんない。そうだ。
- 燃え殻
-
だから、どんな状態かはわからないから、
まあ、自分自身がそんな明るい人間じゃないんで
ぼくがこれぐらいに思えば、
ほとんどの人だったらもうちょっと
自分にそれこそ調子が出てるだろうから‥‥

- 糸井
-
調子が出る(笑)。
- 燃え殻
-
うん。もっとみんな喜んでくれるんじゃないかなって思って。
俺がこのぐらい喜んでるんだから、
けっこうみんな喜んでくれるんじゃないかなっていう
自分の物差しというか自分のハードルが低くて
これはモノを作るのには向いてるんじゃないかなっていうふうに
自分では思ってるんですよね。
(終わります)