燃え殻さんと糸井さんの対談
担当・ポニ子
第3回 伝えなきゃいけないことは1つもない
- 燃え殻
-
以前、トークショーみたいのがあって
ぼく、新潮社の編集の人に、始まる前に、
「ああ、嫌だ」みたいなことを言ってて、
そしたら
「いいんですよ。動いてるの見たいだけなんですから」
って言われたんですよね。
- 糸井
-
ああ。なるほど。
- 燃え殻
-
また別のときは映画監督の大根さんが
対談相手だったんですけど、
「いいこと言わなくていいよ」って言ってくれたんです。
その前って、1段上がったとこで話すマイクまで
ついてるんで、何かこう、名言じゃないですけど
1ついいことを言わないといけないんじゃないかな
って思ってて、それで嫌だったんです。

- 糸井
-
うん、よくわかります。
- 燃え殻
-
でも、「そんなことは誰も期待していない。
いいのよ。上がりなさい」って言われて上がって。
そうしたらできたんですよね。
- 糸井
-
とくに対談は、
相手がなんとかしてくれるってことは大いにあるから。
1人で講演をしろって話じゃないから。
- 燃え殻
-
ああ、そうですねえ。
- 糸井
-
だから、何でもいいのよ。
とくに新人の立場で対談だったら、もうノー問題。
これからも、だから、100受けても大丈夫。
相手が「いいこと言わなきゃタイプ」の人だったりすると
面倒くさいから断ればいい。

- 燃え殻
-
ああ、なるほど。
- 糸井
-
見分ける方法はあんまりないけど、勘でわかると思うよ。
例えば本出してたりして、
その本の宣伝が目的で出てくるような人とかね。
つまり、商業活動として対談しに来る人は、
自分がそこで舞台でいいことを言って売り込むのが仕事だから。
大根さんとかだったら、
そんな心配はないよ、何も(笑)。
- 燃え殻
-
そうですね。
そういうほうが面白いっていうふうに
糸井さん思ってるんですよね。
だって、このあいだの銀座ロフトでの対談も
「10分前に来てくれ」だったじゃないですか。
- 糸井
-
うんうん。
- 燃え殻
-
はい。10分前に入ってくれればいいだったんですけど、
それでもう何もなく、ドーン、行こうじゃないですか。
で、そのほうが、まあ、それでいいじゃないかって。
- 糸井
-
うん。
このことだけは伝えなきゃみたいなことは1つもないから。
- 燃え殻
-
ああ(笑)、そうか。
- 糸井
-
あるとぼくはできなくなっちゃうんです。
このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。
- 燃え殻
-
「これだけは言ってくださいね」みたいな。
- 糸井
-
もしそういうことがあるんだったら、
もう時間区切って、急に言ってくださいみたいにしたほうが。
で、そこのギクシャクした言い方にもしなったら、
「ギクシャクしてますね」って言って(笑)
また違う話をしたいんですよね。
- 燃え殻
-
このあいだですけど、テレビに出たんです。
そしたら、「途中でこれを言ってください」って
1個だけ質問があるんです、ぼくが言う質問っていうのが。
「でも、これだけなんで。あとはこっちで全部巻き取るんで、
これだけ言ってくださいね」っていう質問があるんです。
でも、それがすごい気になっちゃって。

- 糸井
-
大変だよね、うん。
- 燃え殻
-
ずーっとそれのこと考えてるんですよ。
- 糸井
-
俺もそうだよ。
- 燃え殻
-
それが1個入っちゃうことによって、
全部ダメになっちゃうんですよ。
- 糸井
-
わかる。もうまったくそう。
- 燃え殻
-
「自由にやってください。
こっちが全部質問しますから。
でも、それだけはお願いしますね。
きっかけは出します」。
もうそのきっかけ、ずーっと見てました、ぼく。
- 糸井
-
だから、テレビは今もう、
それの山になっちゃってて。
だから、この話でこの時間をまとめるみたいな前提でやるから、
もうできてるんですよね、始まる前から。
だから、台本の通りに進んで、
今考えついたかのように進むっていうのが大体だから、
用意して行ってることをしゃべってるし。
それは確実に面白さにはなるわけですよ、望んだ。
でも、なんかそこで失われるものについてね、嫌なんですよね。

- 燃え殻
-
もう、求めてる答えがあるんですよね。
- 糸井
-
ある。
で、要するに、こうするとこうなるんですよねっていう
コツと結果みたいになってるんです。
- 燃え殻
-
ああ、なるほど、でも、そうかもしれない。
ぼく、スマホで今回小説を書いたっていうことで、
それで何度か受けた取材で、
答えが決まってるのがあったんですよね。
シートが来たんです。それにぼくの答えが書いてあったんです。
違うこと言ってもいいと。
ただ、一応答えは用意してきましたっていうのがあって、
「スマホで書いたことによって、
スマホ世代の人たちに読まれる小説になりました」って
書いてあったんです。で、
流れの中で話してて、ちょっとそれがやっぱり…

- 糸井
-
引っかかる(笑)。
- 燃え殻
-
引っかかる(笑)。
- 糸井
-
引っかかるよね。
- 燃え殻
-
引っかかる自分というのがいて、
ワードが使えなかったりとか
あと移動の時間とか普通に仕事してるので
移動の時間とかに書くことが一番効率がよかったんですよね。
- 糸井
-
うんうん、実は(笑)。
- 燃え殻
-
実は。で、日比谷線の中だったりとか
そういうことも出てくる小説だったので
日比谷線の中で書いてると都合がいいんですよ。
で、書いているっていう話だったんですけど
ちょっとそれにスマホ世代の(笑)の人たちを
意識して書いたぼくっていうのも入れてる自分、
フレーバーのように入れてる自分がいて‥‥
- 糸井
-
マーケティングだよね(笑)。
- 燃え殻
-
うっすらとその答えに沿わせたんですよ。
- 糸井
-
ああ、ああ。ちょっと重いよねえ。
- 燃え殻
-
それが仕上がってくると、
そこが強調されて出てきたりとかする。
- 糸井
-
そうだね。他人が言ったら、
「えー?」って思うことを自分が言わなきゃいけないんだよね。
- 燃え殻
-
そう。そう。
- 糸井
-
(笑)。それは昔、『11PM』って番組があって、
「原宿のことだったらもうね、
何でもぼくは糸井ちゃんに聞くんだよ。
ね。もう『原宿ちゃん』と呼んでるからね」
みたいなことを愛川欽也さんに言われて、違うって思って。
原宿のことをぼくは別に何も知らないし
ただそこで仕事してて、
そのへんで生活してるだけだから知らないんだけど、
そんなこと言う必要もないから、
もうヘラヘラしてるしかないんだけど、
これはいかんと思って、
そういう番組は行かないことにしようと思ったね。
なんか流行について知ってる人みたいな立場で
しゃべらされるのは、よくないと思って。
- 燃え殻
-
ああ、そういうご意見番みたいな。

- 糸井
-
ご意見番的なね。
だから、そののちにはね、「広告だったら何でも知ってる」に
だんだんなりがちなんだけど、
「そこはぼくはよく知らないですけどね」とか言えるんでね。
自分の得意なことに持っていけるんで、
なんとかできたけど、流行とか若者の生態みたいなところで、
若いからってそれに詳しいって思われるのは、
そうじゃない人に、別の人に
追い抜かれるためにいるみたいなものだから。
俺は俺で、だから、それはマーケティングといえば
マーケティングですよね。
そんなところで消費されたくないと思ったから、
あ、それは行かないと思った。で、決めましたね。
(つづきます)