答えを出さないという選択肢
担当・安藤菜々子
第４回 商品と作品のバランス
- 糸井
-
小説を書いたとき、編集の方に直されたり
はしたんですか。
- 燃え殻
-
あ、ありました。
- 糸井
-
それはどうでした？
- 燃え殻
-
女性の編集の方だったんですが、
男としてはアリっていう表現を、
「女性は読んだときに嫌悪感があります」
っていうものに関しては、バッサリ捨てました。
例えば主人公がラブホテルに泊まってるときに
昔同じホテルに泊まった好きだった女の子を
思い出すという場面で、
「20年ぐらい経って同じラブホテルに行ってる男、
引くんですけど」って言われて。
- 糸井
-
ああ、なるほど、なるほど。
でも、しょうがないじゃん、ねえ。
- 燃え殻
-
「いや、別に行ったりとかすると思うんですけど」
「いや、女性引きますから、そういうの」。
それで六本木のシティホテルみたいなホテルに
行くことに変えたりとか。
- 糸井
-
多分、今、本を作るっていうのは、
作品を出すことと商品を出すということと
二重の意味があって。
「引くなら引けよ」っていうのが作品じゃないですか。
- 燃え殻
-
ああ。
- 糸井
-
「女子が引くんです」
「あ、そうですね。それ汚れに見えますもんね」。
と言って拭くのが商品じゃないですか。
- 燃え殻
-
わあ、いろんなところから怒られるかもしれない。
- 糸井
-
でも、推理小説の中で描いてる恋愛なんていうのは、
推理小説である理由なんかなかったりするわけで。
興味がなくなっちゃうと困るから、
人を殺して理由を入れたりするわけでしょ？
で、それは商品性を高めてるじゃないですか。
ドストエフスキーだってそれこそ殺人とか交ぜて、
来週はどうなるんでしょうねって。
「ドストエフスキーです！
来週はどうなるんでしょう」って。
- 燃え殻
-
「ジャンプ」的な。
- 糸井
-
だから、その商品性みたいなものというのを
丸々否定するわけにはいかないし。
引いちゃうならやめといて伝わるものが出したい
というなら、もう、バランスの問題だから。
- 燃え殻
-
そうですね。
ゴールデン街の朝だったりとか、
ラブホテルのその朝か夜かわからない場面が
ぼくとしては気持ちよくて。
それをいろんな人たちと共有したいとなったときに、
ほかの部分はそれを補強するものなんですよね。
だから
「多くの人に読まれる道っていうのは
こっちなんじゃないですか？」という提案には、
「じゃ、そっちの道で考えます」っていう形で
どんどん吸収していった。
- 糸井
-
例えば、「糸井さん、成長についてどう思うんですか」
みたいな話をされたとして。
普段成長が目的としてなくても、
成長、嫌じゃないんですって言わなきゃならない。
一方で実際にそう思ってた部分もあるし、
どこに自分の軸を置くのかっていうのはありますよね。
やっぱり世の中の物事は、
作品と商品の間を揺れ動くハムレットなんじゃない？
作品か商品か。
あるいはみんなに伝わるか、自分が気持ちいいか。
みたいな。
それはあるんじゃないでしょうかね。
- 燃え殻
-
ああ、ありますね、絶対。
それが難しいですけど、バランスがいいと、
うれしいなぐらいですよね。
- 糸井
-
そうですね。
バランスをよくする方法というのを
一生懸命コツがあるかと思って探すと、
実はバランスを壊すんだと思う。
- 燃え殻
-
ああ、そうだと思う。
- 糸井
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だから、近くを見てると倒れるというか。
- 燃え殻
-
はいはいはい。
- 糸井
-
オートバイ乗ります？
- 燃え殻
-
乗らない。
- 糸井
-
オートバイの練習で、一本道というのがあるんです。
その一本道をずーっとオートバイで行って、
トンと普通に下りればいいだけなんだけど、
脱輪しないように車輪の先を見てる人は、
必ず脱輪するんです。
車輪なんか見ずにまっすぐ前を見ればいいんです。
すると、自然にまっすぐ行くの。
あとは、入れ物の大きさを変えちゃうというか。
何でも放り込めば、
自然にバランスをとらざるを得ないんで。
１個しかない玉だとバランス取れないけど、
百個入ると安定するじゃないですか。
みたいなことを考えるようになった。
なんかこう、年上の人からのお話みたいだな。
- 燃え殻
-
(笑)。いやいや、年上じゃないですか。
いや、すごいためになる。そうですね。
- 糸井
-
だから、今いっぱい取材受けて、
ウソばっかりついてるのも含めて、玉1個ずつなんで。
トータルにしたら、
あそこでああいうことを言えたからいいかとか、
あの人と会って、あのあとでまた違う話をしたとか、
結局別の人が、何かまたかぶせてくれるとか。
- 燃え殻
-
そうですね。
あと、そのウソがだんだん自分の中で
板についてくるというのもあって。
それはウソって簡単に言っちゃうけど、
もしかして気づきなのかもしれないし。
「ああ、そういうことを求められてたのか」って。
ぼくは受注体質なので、仕事が。
- 糸井
-
受注体質。
- 燃え殻
-
だから、
あ、そうお客さんが思うんだったら、
そうしたいな、そういうものを作りたいなって。
そういうものが作れたんだったら、
それでいいじゃないかって。思うんですよね。
で、その感想もそうだとしたら、
それでいいじゃないっていうふうに思うんですね。
今、ほぼ日さんで、
小説に感想をもらってるコーナーで・・・・。
- 糸井
-
あ、あれ面白いねえ。
- 燃え殻
-
その一つ一つを見るとやっぱり、
途中から自分の話になったりとか、
最終的に悩み相談みたいになってたり。
でも、そういうものを発動するっていうのは、
とっても、ああ、よかったと思って。
ぼく自身が大好きな小説とか、映画とか、
すごい少ないんですよ。
でもその中に共通してることって、
やっぱりそのあとに自分語りをしたくなること。
ぼく、糸井さんに初めてあったときに、
「糸井さんにはいっぱい代表作も代表曲もあるけど、
ぼくは『イトイ式』という番組で
糸井さんのことが大好きになりました」
って言いましたけど、
あの『イトイ式』っていう番組がすごかったのは、
やっぱり糸井さんが答え出さなかったという。
そうすると、終わったあとに、
糸井重里はこういったけど、俺はこう思うとか、
やっぱりそういう自分語りをしたくなる。
そういったものが自分としてもできたのならば、
とてもうれしいというか。
- 糸井
-
できてますよね。
- 燃え殻
-
だとうれしいです。
