もくじ
第1回その場をなんとかキープしたい 2017-10-17-Tue
第2回訴えたいことがないと書いちゃだめですか 2017-10-17-Tue
第3回楽しむという選択肢 2017-10-17-Tue
第4回商品と作品のバランス 2017-10-17-Tue
第5回一旦保留にしようぜ 2017-10-17-Tue

エクセルが武器な会社員3年目。
インテリアで家の居心地をよくすることと、仕事帰りに銭湯にいくことが好きです。
銭湯では足りずレンタカーで温泉まで走って行くこともあります。
最近黙々と山に登ることにもハマり始めました。

答えを出さないという選択肢

答えを出さないという選択肢

担当・安藤菜々子

第3回 楽しむという選択肢

燃え殻
ぼく、我慢して人前に出るということを
今までやってこなくて。
どこか自分の中で欠損してると思ってたんですよ。
 
例えば人の法事で話すとかが少しずつ増えてきて。
これは慣れないといけないと思った。
糸井
(笑)いや、いいよ、別に。
燃え殻
これはもう新人レスラーの、夏のカーニバルみたいな。
8試合連続で先輩に当たるみたいな。
それをやってるつもりなんです。
糸井
ああ、そうね。
自分の練習としてはあるのかもしれないね。
燃え殻
自分としてそこに足りてないものを感じてたんで、
あ、これはいい機会だと思って。
何か見えるのかなあなんて思いながら
お話させていただいたりとかしてたんですけど。
人前で話すということ自体が苦手なんです。
 
サラリーマンだったらよくプレゼンとかがある
人もいるじゃないですか。
それもないサラリーマンだったんです、ぼくは。
糸井
対談じゃなくてしゃべるのはOKですか。
燃え殻
うちの社内ミーティングみたいのがあるんです。
それで話をするのも苦手でした。
糸井
それは苦手かどうかで言えば、ぼくも同じですよ。
燃え殻
ああ、そうですか?
糸井
うん、本当同じだと思うな。
ものすごく社内ミーティングしてるけど、
得意かっていったら、得意じゃないね。苦手だね。
燃え殻
今でも苦手だなと思います?
糸井
思いますね。
燃え殻
へぇー。
糸井
思います、思います。
俺はそこに線を引いて「こっち側に行かない」
というふうにしないように通気性をよくして、
こっち側の場所に少しずつ入ってきたんだと思う。
それは、主に社長になったからだと思う。
 
元はフリーじゃないですか、ぼくも。
だから、あんまり人にこうあってほしいだとかって
言う筋合いはないぐらいに思ってたから。
燃え殻
毎週やってても、その日の朝とか緊張するんですか。
糸井
緊張はしないけど。
そのとき永ちゃんが出てきて、
「矢沢、楽しめ」って俺に声かけるんですよ。
燃え殻
糸井さん、心の中に永ちゃんを飼ってる?
糸井
飼ってる。明らかに俺は心の中に永ちゃんがいる。
もうレストランの社長みたいなもんよ。
「矢沢さんのおかげでここまで来たんすよね」。

燃え殻
そういうピンチのときだったりとか、
永ちゃんが語りかけてくれる? 
糸井
それはまた別のシチュエーションで、
永ちゃんが「俺もステージの前はドキドキする」
って話を真面目にしてるわけよ。
燃え殻
へぇー。
糸井
「それは当たり前だよ」みたいな感じで。
で、洗面所とか前の日のお風呂とかで鏡に向かって、
「おまえならできる」って言い聞かせるって。
 
で、さあ始まるときっていうのはまた別で、
負けねえぞと思わなきゃなんないんだよ。
だから、「頑張れ、矢沢。おまえ、よくやってるなあ」とか。
 
で、ある段階まで行ったら今度は、
戦いじゃなくて、「楽しめ」って言うようになった。
「楽しめ」って言葉、俺は何度も原稿にも書いたけど、
その言葉の持ってる意味って、多分ものすごくてさ。
勝ちも負けも失敗も成功もなくさ、「楽しめ」。
燃え殻
ああ、でも、そうかもしれない。
糸井
嫌に決まってることだらけだよ、苦手だったことは。
でも、その「楽しめ」を俺が覚えてたおかげで、
どれだけしのいだか。「そうだ、楽しむんだ」。
燃え殻
「楽しむんだ」っていう。
糸井
主体は自分で。
自分のやることとしてどうしたいんだっていうのを
問いかけてるのが「楽しめ」ですよね。
 
「こんなコンサート、誰がやるつったんだ。俺だよ。
だったら、俺が嫌ならやめればいいじゃないか。
なんでやるんだよ。自分が楽しいからだろ?
うれしいんだろ?じゃ、楽しもうよ」っていう順番。
 
あ、今、なんかすごく俺、大人としていいこと‥‥
燃え殻
大人としていいこと。
糸井
「そう言ったって、楽しめるなんてもんじゃない」
って思いながらタクシーで移動してるときに、
でも、楽しめっていう選択肢はあるんだって
思えるだけで変わると思うよ。
燃え殻
こないだトークショーみたいなのがあって、
始まる前まで「ああ、嫌だ」みたいなことを
編集の人に言ってたんです。
 
そしたら
「いいんですよ。
動いてるの見たいだけなんですから」
って言われたんですよね。
糸井
ああ。なるほど。
燃え殻
「行ってください」って言われて、ああ、そうかと。
 
また別のときは映画監督の大根さんが、
「いいこと言わなくていいよ」
って言ってくれたんです。
で、それこそ二人で話してて、
そのまま「それでさ」って感じで登ってった。
そのままでいいじゃないかっていう感じで。
 
それまでは、
何か1ついいことを言わないとって思ってて、
それで嫌だったんです。それが思いつかないから。
糸井
うん、よくわかります。
燃え殻
でも、
「そんなことは誰も期待していない。いいのよ」
って言われて上がって、
大根さんも「それでさ」ぐらいの話から始まって。
そうしたらできたんですよね。
糸井
とくに対談は、
相手がなんとかしてくれるってことは大いにあるから。
1人で講演をしろって話じゃないから。
燃え殻
ああ、そうですねえ。
糸井
だから、例えばの話、ご飯粒がついてたら、
「ご飯粒」って言ってくれるじゃない。
燃え殻
そうですね。
糸井
だから、何でもいいのよ。
相手が「いいこと言わなきゃタイプ」の人
だったりすると面倒くさいから、断ればいい。
燃え殻
ああ、なるほど。
糸井
見分ける方法はあんまりないけど、勘でわかると思う。
例えば本出してたりして、
その本の宣伝が目的で出てくるような人とかね。
 
つまり、商業活動として対談しに来る人は、
自分がそこで舞台でいいことを言って売り込むのが
仕事だから。
大根さんとかだったら、そんな心配はない、何も。
燃え殻
何もない。
糸井
ただ、ただ「会って話そう」だよ。
燃え殻
そうですね。
 
そういうほうが面白いっていうふうに
糸井さんも思ってるんですよね。
だって、このあいだの対談も
「10分前に来てくれ」だったじゃないですか。
糸井
うん。
このことだけは伝えなきゃみたいなことは
1つもないから。
燃え殻
(笑)。ああ、そうか。
糸井
あるとぼくはできなくなっちゃうんです。
このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。
燃え殻
このあいだ、テレビに出たんですけど、
「途中でこれを質問してください。
あとは全部巻き取るんで、これだけ言ってくださいね」
っていう質問があったんです。
それがすごい気になっちゃって。
糸井
大変だよね、うん。
燃え殻
ずーっとそれのこと考えてるんですよ。
糸井
俺もまったくそう。
 
テレビは今もう、それの山になっちゃってて。
この話でこの時間をまとめるみたいな前提でやるから、
もうできてるんですよね、始まる前から。
 
台本の通りに進んで、
確実な面白さにはなるわけですよ、望んだ通りの。
でも、なんかそこで失われるものについてね、
嫌なんですよね。
燃え殻
もう、答えがあることによってですよね。
第4回 商品と作品のバランス