答えを出さないという選択肢
担当・安藤菜々子

第3回 楽しむという選択肢
- 燃え殻
-
ぼく、我慢して人前に出るということを
今までやってこなくて。
どこか自分の中で欠損してると思ってたんですよ。
例えば人の法事で話すとかが少しずつ増えてきて。
これは慣れないといけないと思った。
- 糸井
-
(笑)いや、いいよ、別に。
- 燃え殻
-
これはもう新人レスラーの、夏のカーニバルみたいな。
8試合連続で先輩に当たるみたいな。
それをやってるつもりなんです。
- 糸井
-
ああ、そうね。
自分の練習としてはあるのかもしれないね。
- 燃え殻
-
自分としてそこに足りてないものを感じてたんで、
あ、これはいい機会だと思って。
何か見えるのかなあなんて思いながら
お話させていただいたりとかしてたんですけど。
人前で話すということ自体が苦手なんです。
サラリーマンだったらよくプレゼンとかがある
人もいるじゃないですか。
それもないサラリーマンだったんです、ぼくは。
- 糸井
-
対談じゃなくてしゃべるのはOKですか。
- 燃え殻
-
うちの社内ミーティングみたいのがあるんです。
それで話をするのも苦手でした。
- 糸井
-
それは苦手かどうかで言えば、ぼくも同じですよ。
- 燃え殻
-
ああ、そうですか?
- 糸井
-
うん、本当同じだと思うな。
ものすごく社内ミーティングしてるけど、
得意かっていったら、得意じゃないね。苦手だね。
- 燃え殻
-
今でも苦手だなと思います?
- 糸井
-
思いますね。
- 燃え殻
-
へぇー。
- 糸井
-
思います、思います。
俺はそこに線を引いて「こっち側に行かない」
というふうにしないように通気性をよくして、
こっち側の場所に少しずつ入ってきたんだと思う。
それは、主に社長になったからだと思う。
元はフリーじゃないですか、ぼくも。
だから、あんまり人にこうあってほしいだとかって
言う筋合いはないぐらいに思ってたから。
- 燃え殻
-
毎週やってても、その日の朝とか緊張するんですか。
- 糸井
-
緊張はしないけど。
そのとき永ちゃんが出てきて、
「矢沢、楽しめ」って俺に声かけるんですよ。
- 燃え殻
-
糸井さん、心の中に永ちゃんを飼ってる?
- 糸井
-
飼ってる。明らかに俺は心の中に永ちゃんがいる。
もうレストランの社長みたいなもんよ。
「矢沢さんのおかげでここまで来たんすよね」。

- 燃え殻
-
そういうピンチのときだったりとか、
永ちゃんが語りかけてくれる?
- 糸井
-
それはまた別のシチュエーションで、
永ちゃんが「俺もステージの前はドキドキする」
って話を真面目にしてるわけよ。
- 燃え殻
-
へぇー。
- 糸井
-
「それは当たり前だよ」みたいな感じで。
で、洗面所とか前の日のお風呂とかで鏡に向かって、
「おまえならできる」って言い聞かせるって。
で、さあ始まるときっていうのはまた別で、
負けねえぞと思わなきゃなんないんだよ。
だから、「頑張れ、矢沢。おまえ、よくやってるなあ」とか。
で、ある段階まで行ったら今度は、
戦いじゃなくて、「楽しめ」って言うようになった。
「楽しめ」って言葉、俺は何度も原稿にも書いたけど、
その言葉の持ってる意味って、多分ものすごくてさ。
勝ちも負けも失敗も成功もなくさ、「楽しめ」。
- 燃え殻
-
ああ、でも、そうかもしれない。
- 糸井
-
嫌に決まってることだらけだよ、苦手だったことは。
でも、その「楽しめ」を俺が覚えてたおかげで、
どれだけしのいだか。「そうだ、楽しむんだ」。
- 燃え殻
-
「楽しむんだ」っていう。
- 糸井
-
主体は自分で。
自分のやることとしてどうしたいんだっていうのを
問いかけてるのが「楽しめ」ですよね。
「こんなコンサート、誰がやるつったんだ。俺だよ。
だったら、俺が嫌ならやめればいいじゃないか。
なんでやるんだよ。自分が楽しいからだろ?
うれしいんだろ?じゃ、楽しもうよ」っていう順番。
あ、今、なんかすごく俺、大人としていいこと‥‥
- 燃え殻
-
大人としていいこと。
- 糸井
-
「そう言ったって、楽しめるなんてもんじゃない」
って思いながらタクシーで移動してるときに、
でも、楽しめっていう選択肢はあるんだって
思えるだけで変わると思うよ。
- 燃え殻
-
こないだトークショーみたいなのがあって、
始まる前まで「ああ、嫌だ」みたいなことを
編集の人に言ってたんです。
そしたら
「いいんですよ。
動いてるの見たいだけなんですから」
って言われたんですよね。
- 糸井
-
ああ。なるほど。
- 燃え殻
-
「行ってください」って言われて、ああ、そうかと。
また別のときは映画監督の大根さんが、
「いいこと言わなくていいよ」
って言ってくれたんです。
で、それこそ二人で話してて、
そのまま「それでさ」って感じで登ってった。
そのままでいいじゃないかっていう感じで。
それまでは、
何か1ついいことを言わないとって思ってて、
それで嫌だったんです。それが思いつかないから。
- 糸井
-
うん、よくわかります。
- 燃え殻
-
でも、
「そんなことは誰も期待していない。いいのよ」
って言われて上がって、
大根さんも「それでさ」ぐらいの話から始まって。
そうしたらできたんですよね。
- 糸井
-
とくに対談は、
相手がなんとかしてくれるってことは大いにあるから。
1人で講演をしろって話じゃないから。
- 燃え殻
-
ああ、そうですねえ。
- 糸井
-
だから、例えばの話、ご飯粒がついてたら、
「ご飯粒」って言ってくれるじゃない。
- 燃え殻
-
そうですね。
- 糸井
-
だから、何でもいいのよ。
相手が「いいこと言わなきゃタイプ」の人
だったりすると面倒くさいから、断ればいい。
- 燃え殻
-
ああ、なるほど。
- 糸井
-
見分ける方法はあんまりないけど、勘でわかると思う。
例えば本出してたりして、
その本の宣伝が目的で出てくるような人とかね。
つまり、商業活動として対談しに来る人は、
自分がそこで舞台でいいことを言って売り込むのが
仕事だから。
大根さんとかだったら、そんな心配はない、何も。
- 燃え殻
-
何もない。
- 糸井
-
ただ、ただ「会って話そう」だよ。
- 燃え殻
-
そうですね。
そういうほうが面白いっていうふうに
糸井さんも思ってるんですよね。
だって、このあいだの対談も
「10分前に来てくれ」だったじゃないですか。
- 糸井
-
うん。
このことだけは伝えなきゃみたいなことは
1つもないから。
- 燃え殻
-
(笑)。ああ、そうか。
- 糸井
-
あるとぼくはできなくなっちゃうんです。
このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。
- 燃え殻
-
このあいだ、テレビに出たんですけど、
「途中でこれを質問してください。
あとは全部巻き取るんで、これだけ言ってくださいね」
っていう質問があったんです。
それがすごい気になっちゃって。
- 糸井
-
大変だよね、うん。
- 燃え殻
-
ずーっとそれのこと考えてるんですよ。
- 糸井
-
俺もまったくそう。
テレビは今もう、それの山になっちゃってて。
この話でこの時間をまとめるみたいな前提でやるから、
もうできてるんですよね、始まる前から。
台本の通りに進んで、
確実な面白さにはなるわけですよ、望んだ通りの。
でも、なんかそこで失われるものについてね、
嫌なんですよね。
- 燃え殻
-
もう、答えがあることによってですよね。