最初に断っておくと、
この章では「コピー論」を語りたいわけではなく、
知らない方もいらっしゃると思うので、
「コピーライターとは何か」について
少し触れておきたいと思う。
コピーライター養成講座に通った半年間で、
ぼくは本当にたくさんのことを学んだ。
まず、講座に通うと「コピーライター」という職業を
勘違いしていたことに気づかされる。
広告に関心のない人にとって、コピーライターは、
「広告にうまい文章をのせる仕事」という
イメージがあるかもしれない。
実際に、ぼくのまわりにも、
そう思っている友人や家族がいた。
講座で学び、実務も経験した今、ぼくが思うのは、
「モノやサービスと消費者の接点をつくる仕事」
なのではないかということ。
もちろん、これは自分のオリジナルな考え方ではなく、
いろいろな人から影響を受けてたどりついたものだ。
「クライアントが主張したいこと」ではなく、
「消費者が知りたいこと」を書く。
その結果、
消費者にとって他人事だったモノやサービスが
自分事となって、購買意欲が生まれ、
イメージや売上のアップにつながっていく。
そういった広告としての目的を果たしながら、
人の心を動かすこともできるのが、
コピーライターなのだと思う。
実際にぼくが心を動かされた広告を
ここでいくつかご紹介したい。
最後の一撃は、切ない。
ゲームソフト「ワンダと巨像」
(コピーライター:不明)
悲しくて壮大な物語や世界観と相まって、
CMを観てすぐに引きこまれた。
少女を蘇らせるためだけに戦う主人公。
ゆっくりと地面に横たわっていく巨像。
エンディングも含め、まさにこれ以上ない表現。
文字通り、一撃でやられたコピーだった。
「母が笑う」を、私がもらう。
自分のことは後回しで、いつも家族のことばかり。
心配したり、気づかったり。
そんなあなたの照れた笑顔を見たいのです。
産んでくれて、ありがとう。思ってくれて、ありがとう。
叱ってくれて、ありがとう。
今さら言えない数々の「ありがとう」を精一杯贈ります。
5月の、その日。
いちばんしあわせなのは、
母さん、あなたのはにかんだ笑顔を見る私です。東武百貨店 母の日キャンペーン
(コピーライター:斉藤賢司さん)
脳科学的に言うと、
プレゼントをもらう側より、あげる側のほうが、
幸福度が高いというデータがある。
あげたつもりでも、実はもらっていた。
そういう視点でプレゼントをおくるのも
いいものだと思った。
結婚しなくても幸せになれるこの時代に、
私は、あなたと結婚したいのです。結婚情報誌「ゼクシィ」
(コピーライター:不明)
本来ならば「みんな結婚しよう!」と言いたいところだけれど、
「結婚」という価値観を押し付けることなく、
「結婚したい人」と「独身でいたい人」、
どちらの生き方も肯定しているところが魅力的だった。
レコーダーのCMカット機能。YouTube広告のスキップボタン。
営業時代によく目にした「セールスお断り」というシール。
これらが示すとおり、広告というものは、
基本的に拒絶されがちなものだ。
それにも関わらず、
このように人の心を動かす広告が生まれていることに、
ぼくはすごく勇気づけられるし、
こういう仕事をしなければと気が引き締まる。
(つづきます)