- ぼく
-
大きな話になってしまうけど、
なんでみんな歌うんだろう?
- 母
-
あぁ~。
やっぱり歌うってことはその人にとって、青春がずーっと続
いているってことなんじゃないかと思うね。
いろんな音楽を、いままで聴いて生きてきてるからね。
- ぼく
- それは、音楽をやってこなかった人にとっても?
- 母
-
うん。
歌ってやっぱり、人生が重なっていったものを表現していく
ものだと思う。だから歌ったり、聴いたりしながら、人生を
辿っているというか。
- ぼく
- なるほど。
- 母
-
歌うことって、年齢を重ねるごとに音楽表現に深みが出てく
ると思うねん。
- ぼく
- 深みって、難しいなぁ。
- 母
-
たとえば、『川の流れのように』を20代の人がどれだけう
まく歌っても、60代の還暦をすぎた人が、人生を振り返っ
て歌ったものにはかなわない。
それが、わたしたちがいまも音楽を続けている理由なのかも
しれない。
- ぼく
-
ぼくの『川の流れのように』と、
お父さんの『川の流れのように』じゃ違うってことか。
- 母
- まぁ、お父さんはまだ還暦とちがうけどね(笑)。
- ぼく
- そっかそっか(笑)。
- 母
-
お母さんもずっと音楽をやってて。若いときは高音がきれい
に出せたとかで喜んでいたけど、いまはそうじゃなくて。
どれだけ想いをのせて歌うことができるかを考えてやってる。
- ぼく
-
その‥‥、良い話にしよう思ったら、
さっき話に出てきた施設でのボランティア活動とかが、
自分たちにとって大切だからやっているとか言えるんだけど。
でも、お母さんたちが歌う理由って、話を聞いてるとそれだ
けじゃないよね。
- 母
-
そうやね。
それが目的で音楽を続けているってことじゃないよ。
- ぼく
-
じゃあさ、なんでその中でボランティアをやろうって、
みんなが同じところを向けたんだろう?
- 母
-
あぁ~、うん。
きっかけは、知り合いの看護をしている人に頼まれたからな
んやけど。音楽を楽しんでもらいたい人達に向けて、聴いて
もらえる歌を作ろうよってみんなで思えたことが、ボランテ
ィアをはじめるきっかけになったね。
- ぼく
- へぇ~。
- 母
-
その中で、やっぱりヘタな歌を持っていけないって話になっ
て。みんなが、もっとうまくなろうという気持ちになれた。
- ぼく
-
「歌ってあげる」じゃなくて、
「聴いてもらう」という気持ちかな。
- 母
-
そう。それは絶対大切。
ボランティアとして、何かを与えに行ってるんじゃなくて。
実は、人生の先輩から、わたしたちが何かをもらったなって
「ありがとう」という気持ちで帰ってくるんよ。

- ぼく
- それは、なんでそういう気持ちになるん?
- 母
-
おじいちゃんおばあちゃんがね、はじめは
「なんか見たことない人たちがきたな」って感じなんだけど、
聴いてくれてるうちに表情とかが変わってくるねん。
- ぼく
- 何かを感じ取ってくれてるんかなぁ。
- 母
-
自分の人生とかを、振り返ってくれたのかどうか分からない
けど。泣いて聴いてくれる。それも毎回。
ありがとうありがとうって言ってくれてさ。
これからの人生をどう進んでいくか、もっとしっかり考えな
さいよって言われている気がした。
- ぼく
- 聴いてくれている姿をみて、感じることがあるんやね。
- 母
-
戦後70年の節目にうまれた『いのちのリレー』という曲が
あるんだけど。戦争を経験してきた人たちの前で歌う機会が
あってさ。
- ぼく
- うんうん。
- 母
-
その曲は、沖縄で生まれたもので。命は続いていくって
ことを伝える曲なんやけど。
それを聴いてくれたお客さんが、号泣されて。
たぶん‥‥、きっとその人たちにとって戦争っていうのは、
すごく大きな辛いもので、でもそれも自分の人生で。
- ぼく
- いろんな感情が弾けてしまったんだろうね。きっと。
- 母
-
歌う前に、言葉にしようってことになったの。
あまりしないけど、MCってやつかな。
「みなさんがいて、今ぼくたちがここにいる」って伝えて。
- ぼく
- それがきっと、伝わったんだろうね。
- 母
-
だと嬉しいね。
がん患者さんの病棟にいったこともある。
そこには余命を数か月と宣告された人たちがいて、
その人たちの前で歌った。
あのときは、本当に選曲に悩んだなぁ。
- ぼく
- 何を歌えばいいのか、悩んでしまうね。
- 母
-
病院の人に言われたことは、きわめて非日常を感じられ
るように、とにかく楽しくやってくださいってことだった。
- ぼく
- 非日常かぁ‥‥。
- 母
-
歌の最中に、もしかしたら急変される人もいるかもしれま
せんと言われてさ。そんなことがあっても、粛々とつづけ
てくださいって言われた。
そんな話をきいて、最初はえぇって思ってしまったなぁ。
- ぼく
- 抱えきれるかどうか、不安になるよね。
- 母
- でも、やろうと思った。やらなきゃって思えた。
- ぼく
- うん。
- 母
-
会場となった部屋に、ベッドごと運ばれてくる人もいてね。
たとえば、目もあいていない人たちもいる。でもさ、歌っ
ていくうちに、目をあけてくれて、足でリズムをとったり、
手を動かしてくれたりするねん。
ありがとうって手を振ってくれてさ。
- ぼく
- すごい。音楽が届いてる。
- 母
-
ひとりのおじさんがね、
ぜんぶの曲が終わった時に『ふるさと』を歌ってくれって言
ったの。リクエストしてくれた。
- ぼく
- うさぎおいしかの山、やね。
- 母
-
うん。それを最後に歌った。
ボロボロ泣いてくださってね。
お母さんたちはそれまで、
そういう人たちって余命を宣告された生活の中で、
身の回りのこともある程度整理して、いろんなことを心の中
で覚悟した人たちと勝手に思っていた。
でも、音楽を聴いて泣いてくれた姿をみて、
そんなこと周りが決めてだけだと気づいて。
あらためて、生きるってことを考えさせてもらった。
- ぼく
- そっかぁ。そうやんなぁ。
- 母
-
音楽ってやっぱり日頃思っていることが弾けるものなんだと、
最近はよく思うなぁ。
(つづきます)