もくじ
第1回母の練習を見に行く。 2017-12-05-Tue
第2回はじめての音楽雑談。 2017-12-05-Tue
第3回「生きる」について考えた。 2017-12-05-Tue
第4回趣味を持つということ。 2017-12-05-Tue
第5回歌うって、たのしい。 2017-12-05-Tue

ふだんは、銀行で営業をしてます。人に道を聞かれることが多くて、シャッターを頼まれることも多いです。「はい、チーズ!」というのが、ちょっとはずかしいです。

お母さんが歌う理由。

お母さんが歌う理由。

担当・中村 駿作

第3回 「生きる」について考えた。

 

ぼく
大きな話になってしまうけど、
なんでみんな歌うんだろう?
あぁ~。
やっぱり歌うってことはその人にとって、青春がずーっと続
いているってことなんじゃないかと思うね。
いろんな音楽を、いままで聴いて生きてきてるからね。
ぼく
それは、音楽をやってこなかった人にとっても?
うん。
歌ってやっぱり、人生が重なっていったものを表現していく
ものだと思う。だから歌ったり、聴いたりしながら、人生を
辿っているというか。
ぼく
なるほど。
歌うことって、年齢を重ねるごとに音楽表現に深みが出てく
ると思うねん。
ぼく
深みって、難しいなぁ。
たとえば、『川の流れのように』を20代の人がどれだけう
まく歌っても、60代の還暦をすぎた人が、人生を振り返っ
て歌ったものにはかなわない。
それが、わたしたちがいまも音楽を続けている理由なのかも
しれない。
ぼく
ぼくの『川の流れのように』と、
お父さんの『川の流れのように』じゃ違うってことか。
まぁ、お父さんはまだ還暦とちがうけどね(笑)。
ぼく
そっかそっか(笑)。
お母さんもずっと音楽をやってて。若いときは高音がきれい
に出せたとかで喜んでいたけど、いまはそうじゃなくて。
どれだけ想いをのせて歌うことができるかを考えてやってる。
ぼく
その‥‥、良い話にしよう思ったら、
さっき話に出てきた施設でのボランティア活動とかが、
自分たちにとって大切だからやっているとか言えるんだけど。
でも、お母さんたちが歌う理由って、話を聞いてるとそれだ
けじゃないよね。
そうやね。
それが目的で音楽を続けているってことじゃないよ。
ぼく
じゃあさ、なんでその中でボランティアをやろうって、
みんなが同じところを向けたんだろう?
あぁ~、うん。
きっかけは、知り合いの看護をしている人に頼まれたからな
んやけど。音楽を楽しんでもらいたい人達に向けて、聴いて
もらえる歌を作ろうよってみんなで思えたことが、ボランテ
ィアをはじめるきっかけになったね。
ぼく
へぇ~。
その中で、やっぱりヘタな歌を持っていけないって話になっ
て。みんなが、もっとうまくなろうという気持ちになれた。
ぼく
「歌ってあげる」じゃなくて、
「聴いてもらう」という気持ちかな。
そう。それは絶対大切。
ボランティアとして、何かを与えに行ってるんじゃなくて。
実は、人生の先輩から、わたしたちが何かをもらったなって
「ありがとう」という気持ちで帰ってくるんよ。
 


 

ぼく
それは、なんでそういう気持ちになるん?
おじいちゃんおばあちゃんがね、はじめは
「なんか見たことない人たちがきたな」って感じなんだけど、
聴いてくれてるうちに表情とかが変わってくるねん。
ぼく
何かを感じ取ってくれてるんかなぁ。
自分の人生とかを、振り返ってくれたのかどうか分からない
けど。泣いて聴いてくれる。それも毎回。
ありがとうありがとうって言ってくれてさ。
これからの人生をどう進んでいくか、もっとしっかり考えな
さいよって言われている気がした。
ぼく
聴いてくれている姿をみて、感じることがあるんやね。
戦後70年の節目にうまれた『いのちのリレー』という曲が
あるんだけど。戦争を経験してきた人たちの前で歌う機会が
あってさ。
ぼく
うんうん。
その曲は、沖縄で生まれたもので。命は続いていくって
ことを伝える曲なんやけど。
それを聴いてくれたお客さんが、号泣されて。
たぶん‥‥、きっとその人たちにとって戦争っていうのは、
すごく大きな辛いもので、でもそれも自分の人生で。
ぼく
いろんな感情が弾けてしまったんだろうね。きっと。
歌う前に、言葉にしようってことになったの。
あまりしないけど、MCってやつかな。
「みなさんがいて、今ぼくたちがここにいる」って伝えて。
ぼく
それがきっと、伝わったんだろうね。
だと嬉しいね。
 
がん患者さんの病棟にいったこともある。
そこには余命を数か月と宣告された人たちがいて、
その人たちの前で歌った。
あのときは、本当に選曲に悩んだなぁ。
ぼく
何を歌えばいいのか、悩んでしまうね。
病院の人に言われたことは、きわめて非日常を感じられ
るように、とにかく楽しくやってくださいってことだった。
ぼく
非日常かぁ‥‥。
歌の最中に、もしかしたら急変される人もいるかもしれま
せんと言われてさ。そんなことがあっても、粛々とつづけ
てくださいって言われた。
そんな話をきいて、最初はえぇって思ってしまったなぁ。
ぼく
抱えきれるかどうか、不安になるよね。
でも、やろうと思った。やらなきゃって思えた。
ぼく
うん。
会場となった部屋に、ベッドごと運ばれてくる人もいてね。
たとえば、目もあいていない人たちもいる。でもさ、歌っ
ていくうちに、目をあけてくれて、足でリズムをとったり、
手を動かしてくれたりするねん。
ありがとうって手を振ってくれてさ。
ぼく
すごい。音楽が届いてる。
ひとりのおじさんがね、
ぜんぶの曲が終わった時に『ふるさと』を歌ってくれって言
ったの。リクエストしてくれた。
ぼく
うさぎおいしかの山、やね。
うん。それを最後に歌った。
ボロボロ泣いてくださってね。
 
お母さんたちはそれまで、
そういう人たちって余命を宣告された生活の中で、
身の回りのこともある程度整理して、いろんなことを心の中
で覚悟した人たちと勝手に思っていた。
でも、音楽を聴いて泣いてくれた姿をみて、
そんなこと周りが決めてだけだと気づいて。
あらためて、生きるってことを考えさせてもらった。
ぼく
そっかぁ。そうやんなぁ。
音楽ってやっぱり日頃思っていることが弾けるものなんだと、
最近はよく思うなぁ。
 

(つづきます)

第4回 趣味を持つということ。