もくじ
第1回どこかで見たことのある風景。 2017-12-05-Tue
第2回一人一人を大切に描く。 2017-12-05-Tue
第3回たたずまい。 2017-12-05-Tue
第4回楽しいときも、つらいときも。 2017-12-05-Tue
第5回カオリさんのワークショップ 2017-12-05-Tue

編集者。普段は紙の雑誌をつくっていますがWebコンテンツ勉強中です!

フィギュア作家・タカハシカオリさんの世界</br>アニマルで描くヒューマン

フィギュア作家・タカハシカオリさんの世界
アニマルで描くヒューマン

担当・上條

第2回 一人一人を大切に描く。

― 
『ぼくのおとうさんのはなし』読ませていただいたんですけど。
カオリ
はい。
― 
この主人公のブルドック。
名前が「タカハシ」ってことは、
やっぱり、ご自身「タカハシカオリさん」がモデルなんですか。

カオリ
いえ、タカハシは「私」ってわけではないです。
ほかのキャラクターにも、確固たるモデルはいないですね。
― 
モデル、いないんですね。
カオリ
私の妄想です(笑)。
― 
細かいエピソードにリアリティがあるから、
これはだれかの実体験なのかなと思ったんです。
たとえば、七五三のときに着物を着るのを嫌がって洋服を着た、とか。
ただ「七五三をしました」でもいいところを、
その子の考え方とか行動の癖みたいなのが出てますよね。
カオリ
ああ、そのできごとは、私の弟の話ですね!
でも、このキャラクターのモデルが弟ってわけではないです。
いつも家族とか友達とか、
いろんな人から聞いたエピソードを覚えておいて、
それをストーリーの中で出していってる感じです。
― 
特定の誰かじゃなくて、
いろんな人の要素が集まってるってことですか。
カオリ
そうです。
いろんな人から聞いた話を集めていて、
もう誰が話してくれたことなのかっていうのも
忘れちゃってたりするんですけど。
エピソードだけじゃなくて、
口癖とか、しぐさとか、
いろんなものを人からもらってる気がします。
― 
じゃあ普段から、人のことをよく見てるんですか?
カオリ
昔はよく、人間観察してましたね。
今はそんなに「観察」って感じじゃないけど、
人のしぐさとか、表情に目がいくというか。
友だちと話してても、
ちょっとした口癖とか、しゃべり方とかに
「おっ」と思うことがあって。
その一端が心に残ってたら作品に使わせてもらったりします。
― 
その、自分の癖とかを使われた友だちが、
作品を見て、
「これは自分のことだ!」って気づくことはありますか?
カオリ
たぶん、あんまり気づかないと思います。
それをそのまま使うというよりは、
一旦自分の中で消化して、組み直してから出してるので。
― 
そういう細かい描写があるから、リアルなんですね。
私が実際にこういう経験したわけじゃないけど、
いかにも「ありそう」な……。
カオリ
はい。
― 
このお話って、全体通しても
そんなに劇的な事件が起きるわけじゃないじゃないですか。
カオリ
そうですね。
タカハシが生まれて、幼少期があって、学生時代があって、
就職して、結婚、子育て……。
― 
でもそれが自分とか、家族とか、友だちの話に重なってきて、
ああ、確かに、こういう時間っていいよなあって思ったり。
それがすごく心地よかったです。
カオリ
ありがとうございます。
― 
タカハシ以外のキャラクターも気になります。
みんな個性的で。
カオリ
そうですね。
今のところは、タカハシと、
その親友のミゾグチがメインなんですけど、
本当はほかの子たちのストーリーも
もっと増やしていきたいです。
― 
ウシのミゾグチもいいですよね。
カオリ
タカハシは、けっこうドジっ子なんですよね。
あ、でもやるときはやる子なんですけど。
だからその分、親友のミゾグチは、
ちょっとクールなキャラクターにしてます。

― 
女の子にもてるんですよね。
カオリ
そうです。
でも実は、苦労人なんですよ。
幼い頃に両親が離婚しているので、
生みの親と育ての親が違うんです。
お父さんは六本木ヒルズで
IT系のベンチャー企業の社長をやってて。
― 
おお、社長の息子なんですね。
カオリ
だから、もともとは小学校から大学までエスカレーター式の、
いわゆるおぼっちゃんが行く学校に通ってたんです。
でもやっぱり「自分の道は自分で決めたい」
ってお父さんに宣言して、
高校は自分で決めて、都立高校を受験したんです。
― 
へー、すごい。かっこいいヤツですね。
カオリ
そうなんです。
ミゾグチは料理もうまいんですよ。
子どもの頃からお母さんの手伝いをしてたので。
― 
料理男子でもあるんですね。
カオリ
あとこの子、
オタマジャクシのツグジっていうんですけど。
― 
ツグジ。

カオリ
ハギワラツグジです。
幼ななじみなんですけど、
大人になった姿がこれです。

― 
カエルになってる(笑)。
そうか。大人になったから。
カオリ
ツグジは早くに結婚して、今は双子のパパなんです。
仕事は公務員。
― 
あ、けっこうしっかりした仕事についてるんですね(笑)。
カオリ
そうですね。
こっちのカメレオンのイイジマは、
今、食品会社で営業やってます。
― 
営業のイイジマ。
名前とか職業だけ聞くと、本当に「普通」ですね。
カオリ
顔が動物なだけで、
それ以外は本当に普通の人間ですね。
― 
みんなしっかり就職してるし。
カオリ
でもミゾグチが決まってないんですよねー。
― 
ミゾグチ、就職決まってないんですか。
カオリ
さすらう人なんです。
いろんなところを旅していて。
でも、今はデザイナーの彼女がいるんですよ。
― 
やっぱりもてるんですね(笑)。
……それにしても、前にお話ししたときも思ったんですけど、
カオリさんは本当に、自分の友だちとか親戚のことを話すみたいに、
キャラクターのことをしゃべりますよね(笑)。
カオリ
(笑)
― 
「タカハシが」「ミゾグチが」って話してると、
実在する人なんじゃないかって気がします。
カオリ
この『ぼくのおとうさんのはなし』って、
もともとは「幼少期編」「学生時代編」
「社会人編」「子育て編」とかに分かれていて、
順番に展示をしていったのを、一冊の本にまとめたんです。
だから、展示を毎回見に来てくださってた人は
「え、タカハシこうなっちゃったんだ!」とか
「ツグジ大きくなったね~」みたいな反応をしてくれて(笑)。
「友だちの成長を見守ってるみたい」って
言ってくれるのがうれしいです(笑)。
― 
キャラクターの設定って最初から考えてあったんですか。
カオリ
最初から考えていたこともあるし、
後から付け足されていった設定もありますね。
初めての個展で、
タカハシの友だちをいっぱいつくったんですよ。
そのときに一人一人の設定をある程度考えました。
そのときは文章もつけて展示したんですけど、
私は細かく考えたくなっちゃうタイプなので、
文章がかなり長くなっちゃって(笑)。
― 
一人一人についてすごく考えてますよね。
こういう作風って昔からですか。
カオリ
キャラクターの設定を考えるのは、昔から好きでしたね。
小さい頃は、レゴで遊ぶのが好きだったんですけど。
― 
レゴ。
カオリ
あのレゴの、黄色い顔の人形あるでしょ、
あれに一つ一つ、キャラ設定を考えて遊んでました。
― 
ああ、私もやってました!
カオリ
そうやって、キャラクターを決めて、
お話をつくる遊びって
誰でも通ってきたんじゃないですかね。
だから私が今やってることも、
それの延長線上にあるのかなって。
― 
ほかに、ルーツというか、
影響を受けたものってありますか。
カオリ
私、いくえみ綾先生の『潔く柔く』
っていう漫画が好きなんですけど。
― 
ああ、はい。
カオリ
いろんなキャラクターが出てきて、
それぞれにちゃんとスポットを当てていて。
あのとき何があって、
それが後にこんな風に影響を与えたっていうのを、
一人一人、すごく繊細に描写してるんです。
それがいつも、心にぐっときて。
― 
そうですね。
カオリ
結局、私たちの日常って、
自分一人でまわっているんじゃなくて、
周りにいろんな人がいるから成り立ってる。
だから私も、主人公だけじゃなくて、
その周りにいる人たちもちゃんと描きたい。
それぞれが主人公にとってどんな存在なのか、
その関係性を大切に描いていきたいと思っています。

(つづきます)

第3回 たたずまい。