- ―
- 『ぼくのおとうさんのはなし』読ませていただいたんですけど。
- カオリ
- はい。
- ―
-
この主人公のブルドック。
名前が「タカハシ」ってことは、
やっぱり、ご自身「タカハシカオリさん」がモデルなんですか。

- カオリ
-
いえ、タカハシは「私」ってわけではないです。
ほかのキャラクターにも、確固たるモデルはいないですね。
- ―
- モデル、いないんですね。
- カオリ
- 私の妄想です(笑)。
- ―
-
細かいエピソードにリアリティがあるから、
これはだれかの実体験なのかなと思ったんです。
たとえば、七五三のときに着物を着るのを嫌がって洋服を着た、とか。
ただ「七五三をしました」でもいいところを、
その子の考え方とか行動の癖みたいなのが出てますよね。
- カオリ
-
ああ、そのできごとは、私の弟の話ですね!
でも、このキャラクターのモデルが弟ってわけではないです。
いつも家族とか友達とか、
いろんな人から聞いたエピソードを覚えておいて、
それをストーリーの中で出していってる感じです。
- ―
-
特定の誰かじゃなくて、
いろんな人の要素が集まってるってことですか。
- カオリ
-
そうです。
いろんな人から聞いた話を集めていて、
もう誰が話してくれたことなのかっていうのも
忘れちゃってたりするんですけど。
エピソードだけじゃなくて、
口癖とか、しぐさとか、
いろんなものを人からもらってる気がします。
- ―
- じゃあ普段から、人のことをよく見てるんですか?
- カオリ
-
昔はよく、人間観察してましたね。
今はそんなに「観察」って感じじゃないけど、
人のしぐさとか、表情に目がいくというか。
友だちと話してても、
ちょっとした口癖とか、しゃべり方とかに
「おっ」と思うことがあって。
その一端が心に残ってたら作品に使わせてもらったりします。
- ―
-
その、自分の癖とかを使われた友だちが、
作品を見て、
「これは自分のことだ!」って気づくことはありますか?
- カオリ
-
たぶん、あんまり気づかないと思います。
それをそのまま使うというよりは、
一旦自分の中で消化して、組み直してから出してるので。
- ―
-
そういう細かい描写があるから、リアルなんですね。
私が実際にこういう経験したわけじゃないけど、
いかにも「ありそう」な……。
- カオリ
- はい。
- ―
-
このお話って、全体通しても
そんなに劇的な事件が起きるわけじゃないじゃないですか。
- カオリ
-
そうですね。
タカハシが生まれて、幼少期があって、学生時代があって、
就職して、結婚、子育て……。
- ―
-
でもそれが自分とか、家族とか、友だちの話に重なってきて、
ああ、確かに、こういう時間っていいよなあって思ったり。
それがすごく心地よかったです。
- カオリ
- ありがとうございます。
- ―
-
タカハシ以外のキャラクターも気になります。
みんな個性的で。
- カオリ
-
そうですね。
今のところは、タカハシと、
その親友のミゾグチがメインなんですけど、
本当はほかの子たちのストーリーも
もっと増やしていきたいです。
- ―
- ウシのミゾグチもいいですよね。
- カオリ
-
タカハシは、けっこうドジっ子なんですよね。
あ、でもやるときはやる子なんですけど。
だからその分、親友のミゾグチは、
ちょっとクールなキャラクターにしてます。

- ―
- 女の子にもてるんですよね。
- カオリ
-
そうです。
でも実は、苦労人なんですよ。
幼い頃に両親が離婚しているので、
生みの親と育ての親が違うんです。
お父さんは六本木ヒルズで
IT系のベンチャー企業の社長をやってて。
- ―
- おお、社長の息子なんですね。
- カオリ
-
だから、もともとは小学校から大学までエスカレーター式の、
いわゆるおぼっちゃんが行く学校に通ってたんです。
でもやっぱり「自分の道は自分で決めたい」
ってお父さんに宣言して、
高校は自分で決めて、都立高校を受験したんです。
- ―
- へー、すごい。かっこいいヤツですね。
- カオリ
-
そうなんです。
ミゾグチは料理もうまいんですよ。
子どもの頃からお母さんの手伝いをしてたので。
- ―
- 料理男子でもあるんですね。
- カオリ
-
あとこの子、
オタマジャクシのツグジっていうんですけど。
- ―
- ツグジ。

- カオリ
-
ハギワラツグジです。
幼ななじみなんですけど、
大人になった姿がこれです。

- ―
-
カエルになってる(笑)。
そうか。大人になったから。
- カオリ
-
ツグジは早くに結婚して、今は双子のパパなんです。
仕事は公務員。
- ―
- あ、けっこうしっかりした仕事についてるんですね(笑)。
- カオリ
-
そうですね。
こっちのカメレオンのイイジマは、
今、食品会社で営業やってます。
- ―
-
営業のイイジマ。
名前とか職業だけ聞くと、本当に「普通」ですね。
- カオリ
-
顔が動物なだけで、
それ以外は本当に普通の人間ですね。
- ―
- みんなしっかり就職してるし。
- カオリ
- でもミゾグチが決まってないんですよねー。
- ―
- ミゾグチ、就職決まってないんですか。
- カオリ
-
さすらう人なんです。
いろんなところを旅していて。
でも、今はデザイナーの彼女がいるんですよ。
- ―
-
やっぱりもてるんですね(笑)。
……それにしても、前にお話ししたときも思ったんですけど、
カオリさんは本当に、自分の友だちとか親戚のことを話すみたいに、
キャラクターのことをしゃべりますよね(笑)。
- カオリ
- (笑)
- ―
-
「タカハシが」「ミゾグチが」って話してると、
実在する人なんじゃないかって気がします。
- カオリ
-
この『ぼくのおとうさんのはなし』って、
もともとは「幼少期編」「学生時代編」
「社会人編」「子育て編」とかに分かれていて、
順番に展示をしていったのを、一冊の本にまとめたんです。
だから、展示を毎回見に来てくださってた人は
「え、タカハシこうなっちゃったんだ!」とか
「ツグジ大きくなったね~」みたいな反応をしてくれて(笑)。
「友だちの成長を見守ってるみたい」って
言ってくれるのがうれしいです(笑)。
- ―
- キャラクターの設定って最初から考えてあったんですか。
- カオリ
-
最初から考えていたこともあるし、
後から付け足されていった設定もありますね。
初めての個展で、
タカハシの友だちをいっぱいつくったんですよ。
そのときに一人一人の設定をある程度考えました。
そのときは文章もつけて展示したんですけど、
私は細かく考えたくなっちゃうタイプなので、
文章がかなり長くなっちゃって(笑)。
- ―
-
一人一人についてすごく考えてますよね。
こういう作風って昔からですか。
- カオリ
-
キャラクターの設定を考えるのは、昔から好きでしたね。
小さい頃は、レゴで遊ぶのが好きだったんですけど。
- ―
- レゴ。
- カオリ
-
あのレゴの、黄色い顔の人形あるでしょ、
あれに一つ一つ、キャラ設定を考えて遊んでました。
- ―
- ああ、私もやってました!
- カオリ
-
そうやって、キャラクターを決めて、
お話をつくる遊びって
誰でも通ってきたんじゃないですかね。
だから私が今やってることも、
それの延長線上にあるのかなって。
- ―
-
ほかに、ルーツというか、
影響を受けたものってありますか。
- カオリ
-
私、いくえみ綾先生の『潔く柔く』
っていう漫画が好きなんですけど。
- ―
- ああ、はい。
- カオリ
-
いろんなキャラクターが出てきて、
それぞれにちゃんとスポットを当てていて。
あのとき何があって、
それが後にこんな風に影響を与えたっていうのを、
一人一人、すごく繊細に描写してるんです。
それがいつも、心にぐっときて。
- ―
- そうですね。
- カオリ
-
結局、私たちの日常って、
自分一人でまわっているんじゃなくて、
周りにいろんな人がいるから成り立ってる。
だから私も、主人公だけじゃなくて、
その周りにいる人たちもちゃんと描きたい。
それぞれが主人公にとってどんな存在なのか、
その関係性を大切に描いていきたいと思っています。
(つづきます)