もくじ
第1回今日から私はパリピです。 2017-05-16-Tue
第2回ひとりは悪だけど、真実かな? 2017-05-16-Tue
第3回浮きたくないなら、いざ、パリピに。 2017-05-16-Tue
第4回パリピになれていたかもしれなかった。 2017-05-16-Tue

東京に住んでいる、年中花粉症の18歳。先日高校生を終えました。最近の悩みは、もらった卒業アルバムの個人写真の写りが、なぜか私だけすごく悪く見えることです。たぶん、みんなそれぞれ、自分の写りが悪いと思っています。

パリピを目指したぼっちの話

パリピを目指したぼっちの話

担当・スガネガス

私は迷走していた。
ああ、この自由課題、何を書こう。
人生経験も少なく、友達の少ない私は、
そもそものテーマが見つからない。

ぼっちだし、私。

そんなことをお話ししていたら、

「一期生に『ひとり』と向き合って、
本にまでしている人がいるよ」

とほぼ日の塾で教えて頂いた。
是非お会いしたいとお願いし、
なんと人生で初取材を敢行することになった。

お相手はフリーライターの朝井麻由美さん。
取材、というよりも、
お話をするという形でとお願いし、
ゆっくりひとりと向き合う。

‥‥はずが、正反対の「パリピを目指す」ことに。
大学生になりたての18歳が、
ひとりでいることと現代のひとの繋がりについて、
取材を経た上でぼちぼちと考えます。

プロフィール
スガネガスさんのプロフィール
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第1回 今日から私はパリピです。

5月2日

ゴールデンウイークの幕が開けつつある午前10時。
行楽地の片隅にある、ファストフード店のカウンターで、
スマートフォンとにらめっこをする。
ツイッターの代わり映えのしないタイムラインを
見つめながら、オレンジジュースを喉に入れた。
ここ一ヶ月、喉の調子があまり良くない。
季節はずれのインフルエンザを完治したはいいものの、
咳が止まらないのである。

オレンジジュースが、喉にしみる。

そういえば私、昨日の朝もこうして、
同じファストフード店の別店舗で
オレンジジュースを飲んでいたか。
お店に入って頼むもの、この店ならオレンジジュース。
あのファミレスならペペロンチーノ。
このうどん屋さんは絶対肉うどんに温玉のせ。
いつも決めているし、
新しく挑戦しようともしない。
新商品なんてもってのほかだ。
私は、あの店のアレが好き。それでいいや。
だって食べてみて失敗したら、怖いでしょう?
好きなものを好きなときに、好きなだけ食べる。

なんでも食べられる人は少し羨ましいなと思う。
好きなものは多い方が、絶対にいい。
その方が人生は楽しそうだ。
羨ましいのだけれど、好き嫌いの激しい私には、
嫌いをできるだけ増やしたくないと思う。
ただでさえ嫌いな食べ物は多いのに、
特に「一般的に人が好んで食べるとされるもの」が
嫌いなのに、

「これ食べられないなんて、もったいない」

そう言ってくる人がいる。
羨ましいんだよ、私は。
それをおいしく食べることの出来るあなたが、
私はほんとうに、羨ましいの。

ぴこんと、スマートフォンが音を鳴らした。

《○○さんにフォローされました》

私の食わず嫌いは昔からだ。食べ物に限らない。
本だって同じ作者のものばかりで、
似たような服ばかり増えていき、
同じアーティストの曲をリピートする。

人付き合いも、嫌いだ。
狭く深く、気を許した人だけと会う。
大人数でわいわいガヤガヤするよりも、
ひとりでカラオケで絶叫していた方が
ずっと有意義な時間を過ごせるに決まっている。

ひとりは、好きだ。
それは間違いないし、ひとりも楽しい。
自由に使える、私だけの世界。
私ワールド全開で、私がルールになれる。
そんなひとりの時間が、大好きだ。

それでもわからないことに、
パリピは群れるのである。
買ったアイスを写真に撮り、SNSに載せる時間。
なんて無駄なんだろう。
溶けるよ。早く食べようよ。

「ちょっと待って、この場所暗いなあ‥‥」

ねえ溶けるってば、それ必要?
だから溶けるんだって。
自分のアイスだけ撮ればいいじゃん。
私のアイスまで一緒に撮影する意味ってある?
ねえ?ねえ?ねえ?ねえ!
翌日タイムラインをのぞくと、そのアイスの投稿には、
16件のいいね!があった。

大嫌いだ。

群れて写真ばかり撮って
用事もないのにお店でだらだら話して。
電話かメールでいいじゃん!と思うのだ。
私は、こういう人たちが嫌いだ。
でもその人たちは、SNSで語る。

いつものメンバーでごはん~!!
やっぱりみんな最高すぎ

彼らにとってそれは最高なのだ。
大好物なのだ。

便宜上、ここから先、
「僕たち私たち、仲間がいて人生超楽しいです!」
という彼らを、【パリピ】と定義付ける。
パーリーピーポー、略してパリピ。
キャッキャと友人を引き連れ遊ぶ彼らのことだ。
夜な夜なお酒を飲み、パーティーをしている人ではない。
SNS栄えする写真の撮影スポットを探し、
最近流行のご飯屋さんに行列を作り、
毎日が超充実してます!と叫ぶ彼らを、
ここでは【パリピ】と呼ぶことにする。

私はパリピの味をまだ知らない。
今のところ、ただ甘いだけですぐ飽きそうな
お菓子くらいにしか見えていない。

また、ぴこんと音が鳴る。

《○○さんにフォローされました》

大学進学と同時に、
ツイッターのリアル用アカウント
(リアル=実際の友人と関わりを持つための
SNSアカウント。略称は【リアアカ】)
は消してしまったというのに。
苦手なパリピとおさらばすると決めたのに。
パリピがちょっと羨ましくなってしまっていた。
少しだけかじってみたい気持ちになっていた。

「じゃあ、いっそのことパリピになれば?」

思いもよらぬ言葉が降り注いできた。
私があの大嫌いなパリピに?
わざわざ繁華街に出て高いお金で
カラフルなお菓子を買ったり、
パンケーキの行列に並んだりするの?
このゴールデンウイーク、
私にパリピをしてみろと。

どうやら「やらない」という選択肢は、
残されていないようである。
ならば作ってしまおうではないか、
ツイッターのリアルアカウントを。
そこそこ届きはじめる、
フォロワー増加のお知らせ。
私は、パリピになれるのか。

パリピになるべく第一歩を、
半歩かもしれないけれども、
無理矢理背中を押されて踏み出してしまった。

(つづきます)

第2回 ひとりは悪だけど、真実かな?