母は、料理上手です。
家庭の主婦ですが、お店がひらけそうなぐらい、
美味しいし、見た目もきれいなんです。
家族が集まる日のごちそうはもちろん、
毎日の父の晩酌のおともだって、
小料理屋で出てくるような感じ。
小中高とつくってもらったお弁当も、
よく友だちにうらやましがられたものでした。
はやりのキャラ弁みたいにすごく凝っているとか
パーティー料理みたいにきらきら飾られているとか、
そういうわけではない、
ふつうの家庭料理だけれど、なにか違う。
そんな母の料理を食べて育ってきたので、
美味しいものに対して貪欲な食いしんぼうに育ちましたが、
料理をつくることに対してはどうもコンプレックスが‥‥。
わたしは実家の台所にはあまり足を踏み入れません。
これまで両親に料理をふるまうということが
数えるほどしかありません。
ほかのことで親孝行すればいいや! と思いながらも
してあげたい、という気持ちをなんとなく持て余したまま
だいぶ大人になってしまいました。
どうも実家の台所は居づらいのです。
うろうろしてると邪魔扱いされるし。
手伝おうか? と言っても、10回中9回ぐらいは
「いいから、自分のことをしなさい」
と言われます。
ほぼ日の塾への参加が決まったときから
最後に取り組むコンテンツのテーマとしてわたしは
「料理」を真っ先に思い浮かべていました。
実家で、自分がつくった料理を食べてもらいたい。
それだけでコンテンツになるかどうか
まだわからないけれど、
このチャンスに、一歩を踏み出したい。
企画趣旨を説明したら、母は協力を快諾してくれました。
ゴールデンウィークの連休を利用して計画実行です。
* * *
何をつくるか。
献立については、これだ、というものがありました。
じつは、一人暮らしを始めるとき、
母が持たせてくれたレシピがあります。
あれから早10年。
実は、まだそのレシピで作ったことがないのです‥‥
自分でも料理をしないことはないのですが、
自分のためだけにつくるのは、
麺類とかどんぶりとか簡単なものばかり。
一人暮らしといっても
実家とはすぐに行き来できる距離なこともあって、
そのレシピの料理はつくらないまま
いまに至ります。
それにしてもいったいどうなるんだろう。
ふだんも、聞けば料理を教えてくれますが
どちらかというと、教えたい! というタイプではなく、
料理しているところあんまりじっと見ないで!
と言うタイプ。
でも本当のところはどうなんだろう。
もっと娘に家で料理をしてほしいと思っているんだろうか。
そのあたりの本音も聞いてみたいな、という目的も秘めつつ。
* * *
そして5月。やってきましたゴールデンウィーク。
実家に着いて、
夕方、台所に立つ前から、さりげなくインタビューを開始。
母が乾燥機から取り出してきた洗濯物を
手に取ってたたみながら切り出します。
- 娘
- 料理をするのは好きなんだよね?
- 母
-
うん、まあ、好きだけど‥‥。
でもだんだん息切れしてくるけどね。
昔みたいにはつくれなくなったし‥‥。
- 娘
- そうなの?
- 母
- そうだよ。
- 娘
-
結婚する前から料理はしていたの?
どうやっていまみたいに上手になったの?
- 母
-
おばあちゃん(*母の母)も上手だったけどね。
土曜日とか、休みの日の食事を
わたしが作ることになってた。
- 娘
-
家族の分をつくってたんだ。すごいね。
でもわたしにはそういうことさせなかったんだね。
- 母
-
お父さん(*母の父)は毎日家にいる仕事だったから、
ごはんも毎食作らなきゃいけないのが大変で、
やってほしかったんだろうね。
パパ(*わたしの父)は外で仕事してるから、
わたしは家族の分を作らなくていい
のんびりできるときもあったから。
- 娘
-
洗濯物たたみとかはわたしがやっても止めないし、
どんどん手伝ってって感じだと思うけど、
料理はなんか違うよね。
- 母
- そうかなあ。そうかもね。
- 娘
- それって、なんで?
- 母
- うーん、洗濯物たたみは簡単だから?
- 娘
- そ、そうかな?
- 母
-
学校とか会社で疲れているだろうから
家はそれを癒す場にしてほしいと思っているのかな。
あと、家事は自分の仕事として、
人に頼りたくない気持ちがあるのかなあ。
たしかに、家事を父やわたしに分担させるということが
あまりない母ですが、でも、「料理」に関しては
もっと他と違う何かがあると思うんだよなあ、
と娘は釈然としないままです。
実際に料理をつくりながら、もっと聞いてみるしかない。
さて、今回つくるメニューはこの3品。
にんじんのグラッセ
ポテトドフィーヌ
ハンバーグ
次回から、いよいよ料理を始めます!
(つづきます。)