もくじ
第1回行き場のない想いを抱え、直島へ 2017-05-16-Tue
第2回お願いだから、もう一度 2017-05-16-Tue
第3回遠く離れた土地で、いい湯だな、を感じる 2017-05-16-Tue
第4回もう、どこでも大丈夫、という気持ち 2017-05-16-Tue
第5回余談。まだまだ、愛にはほど遠い 2017-05-16-Tue

ライターと編集をしています。Twitterは、@osono__na7。

初恋の猫を探しに

初恋の猫を探しに

担当・園田菜々

第2回 お願いだから、もう一度

新幹線に乗り、新横浜から岡山駅へ、
快速マリンライナーに乗り、岡山駅から香川県の高松へ、
高松港からフェリーで直島の宮浦港へ。

家から片道約6時間、
やっとのことで直島に着き、
果たしてどうやって探そうか、と考える。
あれから2年経っても、無計画なのに変わりはなかった。

手がかりは、当時撮った写真だけだ。
具体的な場所は覚えていなかった。

仕方ないので、とりあえずは勘で歩き出す。
フェリー乗り場から、そう離れていなかったはずだ。

少し歩くと、すぐに見覚えのある風景があった。
そうだそうだ、この用水路の橋の上で、
猫が後ろをついてきていたのに気づいたのだ。

消火栓、ここだ。

慌てて写真を見返すと、確かにここだった。

猫の代わりに、だいぶ年季の入った立て看板がある。
猫の気配はまったくしないが、とりあえず私の勘は間違っていなかったようだ。

少し奥に進んでいくと、
あ、
と気づく。

この赤い車、見覚えがある!

確かにあの猫と出会った場所であった。

猫の代わりにかえるがいる。
ナウマン象の看板もなくなっていた。

ギャラリーの中に足を踏み入れる。
当時あった、わらでできたナウマン象はなくなり、
その場所には、たくさんのかえるがいた。

「ナウマン象は、撤去しちゃったんですか」
ギャラリーのひとに聞いてみた。

「ちょうどね、昨年末くらいに解体しちゃったんですよ。
解体したあとのわらは、ご近所に全部配っちゃってね……」

今はかえる推しだそうだ。

「ちなみに、この写真の猫って見覚えありませんか」

笑われたら嫌だな、なんて不安を感じつつ、
恐る恐るiPhoneの画面から写真を見せた。

予想外にも、ギャラリーのひとは真剣に思い出そうとしてくれた。

「うちはね、料理も出しているから猫は飼わないのよ。
野良猫か、飼い猫かわからないけど、
しょっちゅうこうやって敷地に入ってくることはあるのよね……」

なるほど、そういえば猫と遊んでいるとき、
島のひとが遠くから猫に名前を呼びかけていたような気もする。
もしかしたら飼い猫かもしれない。

「もし飼い猫だとしたら、お向かいの住んでるお宅の猫ちゃんかもしれない」

到着早々、有力な情報を得て思わずガッツポーズをする。
お礼を言って、店をでる。
しかし、喜んだのもつかの間、
一般のお宅にいきなり突撃することに不安になる。

そもそも何て言おう。

「お宅の猫見せてください」

……うーん、それ以外ないな。

恐る恐る、お向かいの家のインターホンを鳴らす。

ピンポーン。

……。

少し待って、もう一度鳴らす。

ピンポーン。

……。

どうやら不在のようだった。

がっかり半分、安堵半分、とりあえず一旦は諦めることにする。
そもそも飼い猫だったとしてもその家にいるとは限らないのだ。
もう少し聞き込み調査をしてみてもいいかもしれない。

近くに喫茶店があり、
猫について聞くついでに、少し休憩することにした。

ゆったりとしたBGMの流れる中、
美味しいコーヒーを飲み、
お店をやっている夫妻の素敵な笑顔に癒され、
肩の力が抜けていくのを感じる。

どうやら、島に着いてからずっと、
ちょっと緊張していたらしい、とそのとき初めて気づく。

「すみません、実は2年前に出会ったこの猫を探しにきたんです……」

お会計時に奥さんに聞くと、写真をまじまじと見ながら申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさいね、もともと島の人間ではあるんですけど、
島に戻ってこの店を始めたのは今年の4月に入ってからなんですよ」

ずいぶんと新しいお店だったらしい。

「それに、こうやって住んでると、なかなか意識しなくなるでしょ。
ふと気づいたときに路上で猫が歩いていることはあるんだけど、
どこの猫までかは……」

そのあと、奥にいた旦那さんに「猫を探しに来たらしいんだけど!」と声をかけて、
色々と思い出そうとしてくれた。
どうせ失笑されるに違いないと思っていただけに、
ここまで親身になって考えてくれるひとがいる、
ただそれだけで、無性に嬉しくなった。

「とにかく目をこらして、いろんなところを探してごらん。
意外と、細い道なんかにいたりするから」

奥さんに言われた通り、とにかくいろんなところを探すことにした。
日が照る中、暑くなってパーカーを脱ぎ、Tシャツ1枚になる。

観光客がアートスポットを目指して歩き回る中、
私は、いるかもわからない猫を探して歩き回っていた。

知らず知らずのうちに、
脳内で、山崎まさよしの「One more time,One more chance」が流れていた。

いつでも捜しているよ

どっかに君の姿を

こんなとこにいるはずもないのに……

何時間歩いても、あの猫どころか、そもそも猫一匹見当たらない。
気がついたらもう、日が暮れかけていた。

第3回 遠く離れた土地で、いい湯だな、を感じる