新幹線に乗り、新横浜から岡山駅へ、
快速マリンライナーに乗り、岡山駅から香川県の高松へ、
高松港からフェリーで直島の宮浦港へ。
家から片道約6時間、
やっとのことで直島に着き、
果たしてどうやって探そうか、と考える。
あれから2年経っても、無計画なのに変わりはなかった。
手がかりは、当時撮った写真だけだ。
具体的な場所は覚えていなかった。
仕方ないので、とりあえずは勘で歩き出す。
フェリー乗り場から、そう離れていなかったはずだ。
少し歩くと、すぐに見覚えのある風景があった。
そうだそうだ、この用水路の橋の上で、
猫が後ろをついてきていたのに気づいたのだ。
消火栓、ここだ。

慌てて写真を見返すと、確かにここだった。

猫の代わりに、だいぶ年季の入った立て看板がある。
猫の気配はまったくしないが、とりあえず私の勘は間違っていなかったようだ。
少し奥に進んでいくと、
あ、
と気づく。
この赤い車、見覚えがある!


確かにあの猫と出会った場所であった。

猫の代わりにかえるがいる。
ナウマン象の看板もなくなっていた。
ギャラリーの中に足を踏み入れる。
当時あった、わらでできたナウマン象はなくなり、
その場所には、たくさんのかえるがいた。

「ナウマン象は、撤去しちゃったんですか」
ギャラリーのひとに聞いてみた。
「ちょうどね、昨年末くらいに解体しちゃったんですよ。
解体したあとのわらは、ご近所に全部配っちゃってね……」
今はかえる推しだそうだ。
「ちなみに、この写真の猫って見覚えありませんか」
笑われたら嫌だな、なんて不安を感じつつ、
恐る恐るiPhoneの画面から写真を見せた。
予想外にも、ギャラリーのひとは真剣に思い出そうとしてくれた。
「うちはね、料理も出しているから猫は飼わないのよ。
野良猫か、飼い猫かわからないけど、
しょっちゅうこうやって敷地に入ってくることはあるのよね……」
なるほど、そういえば猫と遊んでいるとき、
島のひとが遠くから猫に名前を呼びかけていたような気もする。
もしかしたら飼い猫かもしれない。
「もし飼い猫だとしたら、お向かいの住んでるお宅の猫ちゃんかもしれない」
到着早々、有力な情報を得て思わずガッツポーズをする。
お礼を言って、店をでる。
しかし、喜んだのもつかの間、
一般のお宅にいきなり突撃することに不安になる。
そもそも何て言おう。
「お宅の猫見せてください」
……うーん、それ以外ないな。
恐る恐る、お向かいの家のインターホンを鳴らす。
ピンポーン。
……。
少し待って、もう一度鳴らす。
ピンポーン。
……。
どうやら不在のようだった。
がっかり半分、安堵半分、とりあえず一旦は諦めることにする。
そもそも飼い猫だったとしてもその家にいるとは限らないのだ。
もう少し聞き込み調査をしてみてもいいかもしれない。
近くに喫茶店があり、
猫について聞くついでに、少し休憩することにした。

ゆったりとしたBGMの流れる中、
美味しいコーヒーを飲み、
お店をやっている夫妻の素敵な笑顔に癒され、
肩の力が抜けていくのを感じる。

どうやら、島に着いてからずっと、
ちょっと緊張していたらしい、とそのとき初めて気づく。
「すみません、実は2年前に出会ったこの猫を探しにきたんです……」
お会計時に奥さんに聞くと、写真をまじまじと見ながら申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさいね、もともと島の人間ではあるんですけど、
島に戻ってこの店を始めたのは今年の4月に入ってからなんですよ」
ずいぶんと新しいお店だったらしい。
「それに、こうやって住んでると、なかなか意識しなくなるでしょ。
ふと気づいたときに路上で猫が歩いていることはあるんだけど、
どこの猫までかは……」
そのあと、奥にいた旦那さんに「猫を探しに来たらしいんだけど!」と声をかけて、
色々と思い出そうとしてくれた。
どうせ失笑されるに違いないと思っていただけに、
ここまで親身になって考えてくれるひとがいる、
ただそれだけで、無性に嬉しくなった。
「とにかく目をこらして、いろんなところを探してごらん。
意外と、細い道なんかにいたりするから」
奥さんに言われた通り、とにかくいろんなところを探すことにした。
日が照る中、暑くなってパーカーを脱ぎ、Tシャツ1枚になる。
観光客がアートスポットを目指して歩き回る中、
私は、いるかもわからない猫を探して歩き回っていた。
知らず知らずのうちに、
脳内で、山崎まさよしの「One more time,One more chance」が流れていた。

いつでも捜しているよ

どっかに君の姿を

こんなとこにいるはずもないのに……

何時間歩いても、あの猫どころか、そもそも猫一匹見当たらない。
気がついたらもう、日が暮れかけていた。
