もくじ
第0回プロローグ 2017-05-16-Tue
第1回参考にしている植物たち 2017-05-16-Tue
第2回布糸植物(ふししょくぶつ) 2017-05-16-Tue
第3回季節を巡る植物 2017-05-16-Tue
第4回虫食いの葉も 味がある 2017-05-16-Tue
第5回自分が作ったものは 見届けたい 2017-05-16-Tue

京都・かもがわの近くに住んでいます。
普段は糸の専門店で情報を発信したりデザインの仕事をしたりしています。

布から生まれる植物の飾り

布から生まれる植物の飾り

担当・サク

第5回 自分が作ったものは 見届けたい

「作る作品を通して、うまく伝えられてるかはわからないけ
ど、少しは自分の感じてること見てくれる人に伝わってるか
な、と思う事はある。それが会社で出来なかった、1番やり
たかったことだと思う。」

この時、はつみちゃんは少し言葉を考えながら、
でもはっきりとした口調で言った。
彼女は、飾り作家として活動する前、8年ほど、アパレルの
会社でドレスのパターン(服を作るための型紙を作る仕事)
やデザインの仕事をしていた。

「会社で働いてた時に1番もやもやしたのは、作ったものが
数字でしか見てもらえなかったこと。自分が携わることが
全て数字化されて、どういう経緯でこのドレスが廃棄になっ
たのか。10着しか売れなかったらすぐ廃棄されたり、何100
着って売れると似たようなの作るとか。売れたから似たよう
なものを作るっていう考え方もよくわからなかった。」

そして言葉に出しまったから一気に言おう、という感じで
続けて言う。

「どんな人がこのドレスいいと思ってくれたのか、わからな
いから苦労することもあって。お客さんがドレスを試着する
のを選ぶ、プランナーみたいな仕事にも時々行ってて、その
時にお客さんと喋ってたら、直接声が聞ける場所にいるほう
がいいなと思った。一緒にドレスを選んで、喜んで帰って
もらったら単純に嬉しいし、今日1日いい仕事できたなって
思えたから、数字だけで指示されて動く、みたいなのが
どんどん出来なくなって。会社の組織に入ったら作れる
範囲って制限されるから、ほんとはこのレースを使った方が
絶対かわいいのに、予算的に無理だからって諦めたり。
売れてるデザイナーさんはそういうのもうまくやってたり
するんだけど、わたしには向いてなかった。
せっかくもの作るんだったら、自分が作ったものがどうなっ
たか見届けたいし、今ほんとまさにそうで、自分でやってた
らここだけは外せないってところは、少々徹夜してでも、
自分の思ういいものが出来るんだったらそれでいいかって
思っちゃう。大変だけどね」。

と笑いながら言った。
そう思うと今、やりたいことが出来て、本当に楽しいんだろ
うなぁ。そう聞くと、

「うん、楽しい、忙しいけど。売れてくれててありがたい
けど、手が追いついてなくて。人に頼むのも得意じゃない
のと、最後まで見届けたいのもあるから、全部自分で‥‥。
まぁ、箱詰め作業とかは、誰かにしてもらいたいけど 笑」。

ちなみにわたしは、1度だけ展示のお手伝いをさせてもらっ
たことがあって、「買ってもらったものを箱に詰める時は、
こんな風に包んでね」という指示がものすごく細かくてびっ
くりしたことがある。そのことを思いだして、手が追い付か
ないのもわかるなと思った。

「1日8時間以上する仕事は本来はだめって言う話をしてた
ことがあって、わたし完全にアウトなんだけどみたいな 笑。
でもやっぱりやりたくなっちゃうじゃん。
だからやめれないの。」

こうしてインタビューと会話の間のような話をたっぶり終え
て、話の内容を振り返った時に、ふと私が好きな1冊の本の
ことを思いだした。
園芸家である、柳 宗民の「雑草ノオト」。
この本、はつみちゃんなら知ってそうだなと思って
「今、ふと思ったんだけど、はつみちゃんのものづくりは、
ちょっと『雑草ノオト』に似てる」。

と言ったら、はつみちゃんはきょとんとした顔で私を見た後、
「これのこと?」とカバンから本を取り出す。
(い、いつも持ち歩いてるのかな‥‥。)

このふと思ったことが一致した瞬間、なぜわたしは彼女の
作るものが好きなのか、魅力的に思うのかが、ぴたっと一致
して、それで全て腑に落ちた。
柳 宗民の「雑草ノオト」は図鑑のように片方のページに
きれいな挿絵があって、もう片方のページにはその植物の
解説が書かれてある。この本を読んだ時、身近にある雑草
(野花)が特別に思えて、普段見ている道に咲いてる花を
見つけたり探しにいったりしたことを思いだした。
彼女が見せてくれた押し花の資料やノート、1つひとつ解説
してくれる話を聞きながら、本を読んだ時と同じような
気持ちになっていたことに気づいた。

そしてこの日のインタビューの夜、はつみちゃんは1通の
メールを送ってくれた。

「今日のこと思い返してたら、ちゃんと伝えられてなかった
と思ったことがあったよ!
植物により目を向けることになったのは、植物の話を教えて
くれた人に『雑草ノオト』をもらったのがきっかけで、
知ってるようで知らなかったこと、当たり前にあった身近な
草花に改めて目を向けるようになって、出かけるときは雑草
ノオトを持ち歩くようになって、それからはじめての展示が
シャツと飾りの2人展だったと思う。今があるのはその
きっかけが大きいかな」。

こんなにぴったり同じようなことを思っていたなんて‥‥。
(そしてやっぱりいつも本を持ち歩いてるんですね。)

インタビューというものが、果たしてこういう形式なのか
どうかはわからないけれど、もうそれ以上にこの日、
たくさんの実りあることを知ることができてしまった。

フィリテマテリラの次の展示は静岡なので、わたしの住む
京都からは少し遠いけれど、やっぱりどうにかして行きたい。
少し見ない間にどんどん変わって行く彼女の作品や展示を
これからも見たいと思った。

この課題に取り組むまで、取材やインタビューってどうやっ
てするんだろうと、悩んでいた自分に言いたい。
「取材は、とっても楽しい。」
それはたとえ仲のいい友達でも、会った事のない人でも。
その人のこと(や作るもの)が本当に好きで、ほんの少し
自分に動き出す勇気があれば。

(おしまいです)


協力:filithematerira

このコンテンツで紹介したfilithematerira 
6月に展示が開催されます。
「古草」
静岡 sora 6/23 fri—29 thu
緑が生い茂るなかで
静かに枯れたたずむ古い草花