糸井

古賀さんは、本が１００万部が売れたあとに、
今どのような思いで仕事をしてるんですか？

古賀

自分の中に、
「俺の話を聞け」というのが僕は本当になくて。
それよりも、
「この素晴らしい人の話を聞いてください！」
という思いがとても強いんですよ。

糸井

はい、とてもわかります。

古賀

ただ、昔から１００万部も売れれば
さすがにもうちょっと偉そうに世の中にいろいろ
発信したりする活動をやりたくなるだろうと
思っていたんですよ。

糸井

１００万部も売れればね（笑）。

古賀

そうですよね（笑）。
躊躇なくできるようになるかと思っていたら、
全くできないんですよね。

糸井

そうですか。

古賀

インタビューや対談を本にするときに、
その人の生き方だったり、何かしらの技術とかを
より強く伝わる方法を積み重ねてきているので、
その方法について、私が大きな声で
言いたくなるだろうなとは
思っていたんですけど、まったくなくて。

糸井

うん、うん。

古賀

今の私がやっていることは、
これまでと大きく変わらずに、
世間が興味がある人だったり、
好きになる人を、
探しまわって、
「大きな声で言ってください」と
マイクを渡していますね。

糸井

今も変わらずにライターとして仕事をしている、と。

古賀

糸井さんは、
吉本さんだったり、矢沢永吉さんだったり、
糸井さんの中のヒーローのような人達がいて、
出版のお手伝いとかをされていたわけじゃないですか。
そのときの糸井さんの気持ちは、
自分自身が前に出るというよりも、
この人の声を聞いてくれという思いでしたか？

糸井

僕の本は、とっても驚いたよとか、
とってもいいと思ったよとか、
そういう間接的な話法で作っているんですよ。
だから、自分を前に出す必要はまったくなくて。

古賀

あー、なるほど。

糸井

最近だと、うちで売ってる海苔とかそうなんですけど、
美味しいものを作ってるのに、
「あんまり買ってもらえないから作るのやめようと
思ってるんですよね。」という人に、
「俺が売るから、ちょっと作ってよ。」って（笑）。

古賀

そうですよね、うんうん（笑）。

糸井

古賀さんも、そういう仕事をしていますよね。

古賀

１０年前とかは、自分がやりたいと言っても、
なかなか実現しなかったりとか、
お願いされる仕事しかできない時期というのがあって。
でも、最近はいろいろな出版社さんとも知り合って、
やりたいと言ったらやりたい企画ができる状態に
なったんですね。

糸井

やりたいことができる場所を作れたんですね。

古賀

そういった意味では、糸井さんも場所作りしていますよね。

糸井

そうですね、最近は場所作りをしてます。

古賀

『ほぼ日』のコンテンツとして、
こんな面白い人がいるから対談をしたり、
紹介したい人をTOBICHIでイベントを開催をしたりだとか、
そういった場所作りですよね。
それが、僕が今やりたいことと重なる部分があるんですね。

糸井

はい、はい。

古賀

『ほぼ日』の中で、
『今日のダーリン』という
大きなコンテンツはありますけど、
糸井さんが前に出る場所ではないじゃないですか。
それよりも
「こんな面白い人がいるんだけど、
みなさんどうですか？」というような場所に
なっていますよね。
自分は目立たずに、面白い人を伝えたいという姿勢は、
昔から一貫しているのですか？

糸井

「糸井さんは目立ちたいとは思いますか？」と聞かれたら、
「ものすごくありますよ」とは言いますね。
言うけれど、どういう風に目立ちたいかと聞かれたら、
「いや、いいかも、やっぱりいらないかも」と
なっちゃうんだけど（笑）。
浅いところでは目立ちたがりなんですけど、
ちょっと深いところにいくと、
急にどうでもよくなってしまいますね。

古賀

なぜそのような気持ちになったんですか？

糸井

単純に目立ってもあまり意味がないということに
気がついたからですかね。

古賀

そうですか、そういうものですか。

糸井

ガツガツと目立とうとしなくても、
とある業界で面白いことはやれるんだなと
感じたんですよね。

古賀

たしかにそうですね。
糸井さんの今やりたいところとは
そういった方向性なんですかね？

糸井

僕が今、やりたいことは
個人で目立つことではないんですよ。
たとえばの話ですけれど、
ナイアガラの滝とかピラミッドを見たときって、
「大きいなー、来てよかったなー」と
思うじゃないですか（笑）。

古賀

そうですね（笑）。
私も実際にナイアガラの滝を見たときには
実際に大きいなーと思いました（笑）。

糸井

目立とうとしていなくても、
来てよかったなと思えてもらえるじゃないですか。
そういうところを目指していて、
チームとして動いていると、
チーム全体が「良かったね」と褒めてもらえますよね。
それが、自分のこと以上に嬉しいですよね。
古賀さんも最近そういうことがあったんですよね？

古賀

そうですね、会社の部下が制作した本が
１０万部売れたんですよ。
そのときは、とても嬉しかったですね。

糸井

嬉しいと思いますよ。
人が喜んでくれることこそが自分の嬉しいことですと、
綺麗事として言葉にすると、ちょっと通じにくいんだけど。
でも、たとえば、
イチゴをお母さんが食べずに
子どもに食べさせてあげるみたいな、
そういう経験をすればするほど、
人の喜ぶことを考えつきやすくなりますよね。
そういうことを、目指しています。

古賀

いい目標ですね。

（つづきます）