- 糸井
- 『モテキ』という映画を撮影していたのも震災の時期で、
大根監督とお話したときに、
『モテキ』という映画を公開するのは、
やっぱり大変なことだったと思うんですよね。
でも、公開すると決めるしかないわけですよ。 - 古賀
- あの時期は、どうしても自粛ムードのようなものが
ありましたからね。 - 糸井
- あの時期に、
被災地の物語をみんなが次々と作り出しても、
何の意味もないと思っていたんですよね。 - 古賀
- たしかに、その物語を作り出すことが、
誰のためにやっているのか、
わからなくなってしまいますよね。 - 糸井
- 震災の時期には、
自分のライターだとか編集者という
肩書きを起点にして考えることを
なるべくやめようと思ったんですよ。
個人としてどうするべきかというのを、
とにかく先に考えようと思ったんです。 - 古賀
- うん、うん。
- 糸井
- 僕はだから、
豚汁を配る場所で列をまっすぐにするとか、
その発送の延長線上で何ができるかというのを、
できる限り考えたかったんですよね。
でも、ずっと悩んでいました。
わからなかったから。 - 古賀
- 震災に関わるということを決めたときに、
慈善事業とか、世間的に良くみえるということは、
いい面と悪い面があるじゃないですか。
糸井さんや、ほぼ日の活動を見ていると、
そこを上手くコントロールしているというか、
たくさんの道がある中で、
正しい道を選んでいるような感じがするんですよね。

- 糸井
- こういう考えになった理由は、
やっぱり吉本隆明さんなんですよね。 - 古賀
- 吉本さんですか。
- 糸井
- 吉本さんは、僕にとって、
手の届かないぐらい遠くにいる先輩なんですね。
でも、その先輩は、
手が届く場所にいつもいてくれるんですよ。 - 古賀
- いい関係性ですね。
- 糸井
- 吉本さんは、前々から、
いいことをやっているときは悪いことをやっていると思え、
悪いことをやっているときはいいことをやっていると思え、
というぐらいに、
まったく逆に考えて生きていこうと思っていたんですね。 - 古賀
- そういう考えをお持ちだったんですね。
- 糸井
- でも、こういう言い方をすると
ファンの方に怒られるかもしれないけど、
吉本さんも、偽物なんですよ。
そうなろうとしたから、そうなっているんですよね。 - 古賀
- はい、はい。

- 糸井
- たとえばの話ですけど、
知名度がある人たちは、
何かのチケットをもらったりしますけれど、
吉本さんは、
列に並んで、電話でチケットを予約したりして、
入場料を払って見るのが基本だという考えを
しっかりとお持ちだったんですね。
その姿勢が基本なので、
そこは列に横入りした方がいいことを
できるかもしれなくても、
それをしないという思いで行動をされていたんですよ。 - 古賀
- 守るべきところは、しっかりと守っていたんですね。
- 糸井
- でも、吉本さんの奥さんは、
「うちの旦那は偽物だ」と言うんですよ。 - 古賀
- あー、そうですか(笑)。
- 糸井
- 奥さんいわく、
旦那のお父さんは、本物だった。
うちの旦那さんはいい旦那さんだけど、
そうなろうとしてなっているから、
偽物なんですとおっしゃっていましたね。 - 古賀
- なろうとしてなっているから、偽物と。
- 糸井
- でも、俺、今更本物にはなれないからさ(笑)。
- 一同
- (笑)

- 糸井
- だから、吉本さんの方法しかないんですよね。
本物になろうとして、
本当のことを言う偽物になるしか。
それが、震災関連をまとめるときに、
うまくいった理由が、
ほぼ日の乗組員がそのことを理解して動けた気がするね。
不思議なぐらい、通じたよね。 - 乗組員
- だから、糸井さんはこうしていこうという
コンセプトを述べたりはあまりせずに、
いつもの感じで、みんなが動けていたと思います。 - 糸井
- 姿勢については、
これからも間違わないんじゃないかなって思います。
間違わないぞということでもありますね。 - 古賀
- そうですね、確かに。
- 糸井
- だから、これからもしも、
僕がいい気になって
姿勢を間違えてたら言ってくださいね(笑)。 - 古賀
- わかりました(笑)。
(つづきます)