ほぼ日刊イトイ新聞

インタビューとは何か。松家仁之さん篇

C・シルヴェスター編『THE INTERVIEW』
(1993年刊)によれば、
読みものとしての「インタビュー」は
「130年ほど前」に「発明された」。
でも「ひとびとの営み」としての
インタビューなら、もっと昔の大昔から、
行われていたはずです。
弟子が師に、夫が妻に、友だち同士で。
誰かの話を聞くのって、
どうしてあんなに、おもしろいんだろう。
インタビューって、いったい何だろう。
尊敬する先達に、教えていただきます。
メディアや文章に関わる人だけじゃなく、
誰にとっても、何かのヒントが
見つかったらいいなと思います。
なぜならインタビューって、
ふだん誰もが、やっていることだから。
不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

松家仁之さんプロフィール

松家仁之(まついえまさし)

小説家・編集者。1958年、東京生まれ。
編集者を経て、2012年、
長篇小説『火山のふもとで』を発表(読売文学賞受賞)。
『沈むフランシス』(2013年)、
『優雅なのかどうか、わからない』(2014年)、
『光の犬』(2017年、芸術選奨文部科学大臣賞、
河合隼雄物語賞受賞)のほか、
編著・共著に『新しい須賀敦子』『須賀敦子の手紙』
『ぼくの伯父さん』『伊丹十三選集』(全三巻)、
新潮クレスト・ブックス・アンソロジー
『美しい子ども』などがある。

05
星野道夫さんの、最後の興味。

──
もうひとり、松家さんに、
ぜひ、おうかがいしたい方がいて。
松家
ええ。
──
写真家の星野道夫さんなんですが。
松家
星野さん。はい。‥‥そうですね、
星野さんも
本当に優れたインタビューアです。
──
詳しく聞きたいです。
松家
星野さんが、自然写真家として
素晴らしい写真を残したのは
言うまでもないことですけれど、
ひょっとすると、
星野さん、
「自分は、写真家でなくてもいい」
と思っていたんじゃないか。
──
それは、どういう意味ですか?
松家
星野さんは、何よりもまず、
「ずーっとアラスカにいたかった」、
そういう人だったと思うんです。

自分は、アラスカの自然や、
そこに暮らす人々と、ともに生きていきたい。
つまり「写真を撮ること」も、
そのための口実というか手段みたいなもので、
そうこうしているうちに、
結果として、写真の腕を上げていった‥‥
そういう順番だったと思うんです。
──
へええ‥‥。
松家
星野さんが、ずっと追い求めていた
カリブーという野生動物は、
アラスカの原野を年に何百キロと移動します。

それも、ものすごい大群で。
──
はい、展覧会の映像で見ました。
松家
ただ、たしかに大群なんですけど、
それ以上にアラスカは広大だから、
星野さんといえども、
そう簡単にはめぐりあえない。

もちろん、
ヘリコプターをあちこち飛ばして、
無線で、あっちへ行った、
そっちへ行った、とやれば、
探せないわけではありませんけどね。
──
それをやるには、
ずいぶんとお金が必要でしょうね。
松家
だから星野さんは、アラスカの原野に、
ひとりでテントを張って、
ただ待つ、という方法を選ぶわけです。

一ヶ月くらいは、平気で待つ。
──
ひゃあ。原野に、ひとりで。
松家
待っている時間も、星野さんには、
宝物のような経験だったんです。

で、そんな星野さんへ向かって、
ある日、地平線の彼方から、
カリブーの大群がやってくるのが、
ちいさく見えはじめた。
──
ついに。
松家
おお、これはすごいと思って、
星野さんはその大群を待ちかまえて、
カメラを準備するわけです。

いよいよ近づいてきたというときに、
撮りはじめるんですけど‥‥。
──
念願の、カリブーの群れを。
松家
でも、その群れのまっただなかに
のみこまれようとする瞬間、
星野さん、撮るのを止めるんです。
──
ああ‥‥。
松家
この光景、この音、このにおい。

追い求めてきたカリブーの群れを、
自分の五感を全開にして、
全身で受け止めて、記憶したいと、
カメラを置いてしまうんです。
──
絶好のシャッターチャンスなのに。
松家
逃してしまう。みすみすね。
──
夢中でシャッターを切った、
という話はよく聞きますが、その真逆。
松家
ぼくには、今の話が、
いかにも星野さんらしいなと思える。

星野さんにとっての「写真」って、
もちろん大切なものなんだけど、
それがすべてではなかったんです。
──
そうなんですね‥‥。
松家
つまり
「写真」と「経験」のどっちを選ぶ‥‥
となったら「経験」を選ぶ人だった。
──
経験。写真以外の「経験」というのは、
具体的には‥‥。
松家
たぶん、ひとつには、
アラスカの「物語」を自分の耳で聞いて集め、
それを文章にして残すことです。

星野さんが
フェアバンクスにご自宅を建てて、
もう「旅人」じゃなく、
アラスカに住むと決めたころには、
たくさんの友人ができていました。
──
ええ。
松家
70歳、80歳になるネイティブの老人、
アメリカ本土からやって来て、
アラスカに住み着いた白人たち‥‥。

晩年の星野さんは、
彼らアラスカに住む人たちの物語を、
聞いて、集めて、本のかたちで残したい、
そう思っていたと思う。
──
物語、ですか。
松家
そう、このアラスカというきびしい、
しかし豊かな土地で、
人々はどのように生きてきたか、
そこでは、
たとえば、夜、薪ストーブの前で、
どんな物語が語られてきたのか。
──
星野さんのいらした当時でさえ、
「失われつつある」という肌感覚が、
あったんでしょうか。
松家
はっきりあったと思います。

あるとき、星野さんと
デナリ国立公園へ行ったことがあって、
キャンプデナリという山小屋で、
幾晩か、過ごしたことがあるんです。
──
はい。
松家
そのとき星野さん、こう言ってました。

とにかく、自分はこれから、
アラスカを生き抜いてきた老人たちに、
会って話を聞いておきたい。
今、自分が話を聞いておかなければ、
彼らのなかに記憶された物語は、
その人がいなくなってしまったとき、
永遠に失われてしまうからって。
──
なるほど。
松家
人がひとり亡くなるっていうことは、
図書館がひとつ、
焼け落ちることと同じだと思うとも、
星野さん、おっしゃってました。

そんな動機をもとに書かれたのが、
『ノーザンライツ』という本です。
──
遺作ですね。
松家
あの、アラスカ核実験場計画に反対した
ふたりの女性パイロット、
シリア・ハンターとジニー・ウッドが、
冬の悪天候のなか、どんなふうに
中古の軽飛行機でアラスカに飛んできて、
アラスカに住むようになり、
その後、仲間たちとどのように
核実験計画の白紙撤回を手にしたのか、
ふたりの家に通い詰めて、
徹底的にインタビューして書いた作品。

アラスカに住む人たちの思いを描いた、
大変な作品だと思います。
──
読むと、
アラスカへの愛情にあふれてますよね。
松家
星野さんは、
『ノーザンライツ』を完成させることなく、
取材先でクマの事故に遭って亡くなります。

星野さんはもっと、アラスカの人々の話を
聞きたかったはずなんです。
とりわけ、ネイティブの古老たちの物語を。
──
はい。
松家
彼らひとりひとりのポートレイトを
大判カメラで撮影しようとも準備していて、
一部、写真が残っているんです。
──
そうなんですね。

でも、アラスカの人たちの話を聞いて残す、
というところに、
最終的な興味がたどり着いていたんですか。
松家
写真家と思われている星野さんにとっても、
「人そのもの」が大事だった。

彼らの語る唯一無二の物語、
それらに触れるインタビューという方法が、
おもしろかったんだと思います。
──
なるほど。
松家
星野さんの本を読んでいると、
ネイティブの古老とか、
自然のなかで暮らすことをあえて選んだ
白人たちとか、
これほど魅力的な人物に、
どうしてあんなに次々会えたんだろうと、
不思議に思うことがあって。
──
たしかに。
松家
亡くなったあとで、
アラスカに取材に行ってわかったことが
ひとつあるんです。

星野さんが学んだアラスカ大学には
映像人類学という専攻があって、
そこの先生は、フィールドに出ていって、
ネイティブの村の祭りや狩猟などを
撮影し記録するという研究をしています。
──
ええ。
松家
その先生に会ってお話をうかがうと、
星野さんは在学中に何度も
先生に「取材」されて、
この村、あの村にはどんな人たちが
暮らしているか、どんな狩猟があるか、
といったことを聞いていたらしい。

先生は惜しみなく、星野さんに、
そういったことを伝えているんですね。
──
へえ‥‥。
松家
つまり、星野さんは、先生たちから、
「それなら、どこどこへ行けば、
 こういう人がいるから、
 その人に話を聞いてごらん」
というような情報を得ていたらしい。

星野さんって人に好かれる人だから、
人から人へと紹介されていくんです。
このことも、
いいインタビューにつながる要素だと
言っていいと思います。
──
聞く人の魅力って、あるんでしょうね。
松家
こうした一連のことを、星野さんご自身が
「インタビュー」という言葉で
とらえていたかどうかは別にして、
わたしの目からみると、
星野さんという人は、
インタビューの本質というものを
理解していたんだなあと、改めて思います。

<つづきます>

2019-02-25-MON

『伊丹十三選集』刊行記念
「伊丹十三と猫」
をTOBICHIで開催します!

松家仁之さんが第1巻を編集なさった
岩波書店『伊丹十三選集』が、
第3巻の刊行をもって、完結しました。
(第2巻は建築家の中村好文さん、
第3巻は伊丹十三さんのご次男、
伊丹万平さんによる編です)

Amazonでのおもとめは、こちら

これを記念して、
TOBICHIの「すてきな四畳間」にて、
「伊丹十三と猫」を開催します。
期日は、2月22日の金曜日、
「ニャーニャーニャーの日」から。
伊丹さんと猫にまつわる展示をしつつ、
『伊丹十三選集』はもちろん、
伊丹十三記念館オリジナルグッズや、
今回だけの記念グッズなど、
お買いものも楽しんでいただけます。
くわしくは、
催しの特設サイトでご確認ください。