怪・その21
「おかえり」


単身赴任だった父が、突然倒れ
意識不明のまま40日後他界しました。

納骨を終えて数日後
実家の母から

「お父さんが帰って来た」

と電話がありました。

母は一階の玄関に近い部屋で寝ていたのですが
最近、毎晩母が眠りにつくと
玄関の鍵をそっと開け、
二階の父の寝室へと
階段を登る音が聞こえるそうです。

それは、生前に父が朝早い母を起こさないように
静かに帰宅する足音と同じだと言うのです。

父の隣の寝室だった兄も、
同じ足音を毎晩聞いていました。

その週末、ひさしぶりに実家に帰った私は
子供の頃と同じように父の寝室で寝ました。


真夜中にふと目が覚めた時、

ギシッ、ギシッと
階段を登る音が聞こえました。

不思議と怖くもなく、
ああこれか、と落ち着いて聞いていました。

ゆっくり階段を登る足音が止み
すぅっとふすまが開きました。

「お父さん、おかえり」

呟いたところで私は寝てしまったようです。


翌朝、母にそれを話すと、

「知ってる。
 お父さんの足音がしたから、
 おまえが二階にいるよ、って声をかけたのよ」。

それ以来、足音はしなくなったそうです。


淋しい幼少期を過ごし
家族の温もりを人一倍求めていた父でした。

生きていれば、毎日抱きしめて
「おかえり」を言ってあげたい。

この気持ちが父に届いていればいいなと、
10年以上たった今も思います。

(kyon)
この話、こわかった! ほかのひとにも読ませたい。
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2011-08-15-MON