怪・その3
「父の友人」


帰省して友人たちと呑み会をしている最中、
父危篤の知らせが母から入りました。
それは父がもう何年間も
入退院を繰り返していた頃でした。

病室で父の顔を見てから猛烈に喉が渇いたので、
自動販売機で何か買おうと病室を出ました。

自販機は1階の階段近くにしか設置されておらず、
その場所以外は真っ暗。
いかにも何か出そうだな‥‥と思いつつ
ペットボトルのお茶を買い、振り向いたところ、

自販機と自販機の間の隙間に、
車いすに乗った寝間着姿のお爺さんがいるのです。

夜中の1時過ぎ、
1人で降りてきたには
不自然だなと思ってよく見ると、
顔がのっぺらぼう。
そのお爺さんは動かずっじっとしていました。

それでも喉が渇いて渇いて仕方がなかったのと、
なぜか怖い気持ちが湧いてこなかったので
その場で少しお茶を飲んでから
エレベーターへ向かいました。

怖くないと、感じたのは
「あの人、どこかで見たことがある‥‥」と
思ったからです。
病室に戻り、父の顔を見ながら、
いったいどこで見かけた人だろうと考えていました。

思いついたのは、以前父が入院した時に
同室だったFさんというお爺さんでした。
何故か父にとても親切で、
私が子供を連れて見舞いに行くと
プリンを差し入れしてくれたり、
椅子を運んでくれたりしていた人。
Fさんは半年ほど前に既に亡くなっていました。

父も翌朝、息を引き取りました。

もしかしたからFさんは、入院友達だった父を
迎えに来てくれていたのかもしれないと思います。

(S)
この話、こわかった! ほかのひとにも読ませたい。
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2011-08-01-MON