怪・その1
「トンネルのうわさ」


僕たちはみな、免許取り立てで、
車の運転もまだ不確かなころ、
裕福な友人が買ったばかりの新車で
ドライブに出かけました。

わいわいがやがや、特に目的もなく
夜の町から郊外、
夜景の見える高台へ向かいました。

誰かが
「某トンネルでは、
 交通事故で亡くなった方の怨霊が残っている。
 トンネルの途中で、
 走っている車の屋根に
 どーんと音がしてなにか落ちてくるが、
 後で確かめても、何もそこにはない」
といううわさ話をはじめました。

ならば、真偽を確かめようと、
その某トンネルへ向かったのです。

もうすでに夜中でしたので、
すれ違う車も、後続車もまったくありません。

僕たちは、そのトンネルに入りました。
かなり長いトンネルです。

何も変わったことはありません。
突然、運転していた友達が、
ブレーキをかけてトンネルの中で停車して、
ライトを消しました。

みんなは
「気持ち悪い事、せんといて!」と騒ぐばかり。
でも、何も起こりません。

しばらくすると、後続車のライトが
バックミラーに映ったので、
友人は発車しました。

すると、後続車がパッシングしながら、
クラクションをずっと鳴らして追ってきます。

トンネルを抜けて、路肩に車を止め

「いらんことするから、後ろの車、怒ってる。
 からまれたらどうするねん」

と話していると、後続車も車を止めて、
運転手が降りてきました。

怖い顔をして僕らの車の窓を叩きます。
しぶしぶ窓を開けて、謝ろうとすると、
その運転手は

「屋根に誰かがしがみついていたけど、
 いったいなんなんだ?

 振り落としてはないとおもう、
 だれか乗せてたのか?」

と青い顔をして僕らに訴えかけます。

もちろん、屋根には誰も乗せてはいません。
うわさのようにどーんという音もしませんでした。
けれども、なにがが
僕たちの乗った車の屋根に
しがみついていたようです。

その後、僕らの誰かが病気になったとか、
その車が事故したとか、
不吉不幸な事は起こりませんでした。
それでも思い出すたび僕らは背筋が凍るのです。

(F)
この話、こわかった! ほかのひとにも読ませたい。
もどる もう、やめておく 次の話も読んでみる
2011-08-01-MON